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山岡淳一郎のニッポンの崖っぷち:
衆議院総選挙、ここが争点編

いまこそ科学的根拠による
コロナ対策を(兪炳匡)!
 Part2

トランススクリプト・池田こみち (環境総合研究所顧問)
 独立系メディア E-wave Tokyo 2021年10月25日
 

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2.岸田内閣の今後のコロナ対策

司 会:このモデルはこれからの神奈川県にとって一つの武器となったわけだが、一方で、岸田内閣の今後のコロナ対策として、ワクチン接種(パスポート)と検査が陰性という証明でパッケージとして、商業施設の利用とか人が集まる場所に行けるということで、経済を回していこうと考え方をもっているようだが。

 分科会の尾身会長が9月の始めに出した資料「ワクチン接種が進む中で、日常生活はどのように変わりうるのか?」だが、このワクチン検査パッケージというものについてどう感じているか(図5)。


図5 ワクチン接種が進む中で日常生活はどのように変わりうるのか?
  ⇒Fig-5

兪教授:トータルで言えば「時期尚早」というのが私の結論です。全然準備が出来ていないと思う。二つの準備がある。ひとつは、ワクチンについて、少なくとも希望者は全員が打てるようにする、まだまだ打ちたくても打てない方が沢山いらっしゃるのでその点で準備不足であり時期尚早。

 二つ目はPCR検査をもっと充実させなければいけない。わかりやすく言えば、無症状の人がいつでもどこでも無料で、さらに匿名で(携帯電話番号くらい登録する必要があると思うが)受けられるようにしなければ時期尚早と考えている。 実際イギリスとかは、毎日100万人の検査をやっている。にもかかわらず、デルタの株が出てからは非常に感染者数が増えている。また、ワクチンを打ったところで、既にブレイクスルー感染が起きているので、イスラエルのように非常にワクチンの接種率が高いところで。

 例えば、ハーバード大学では95%以上の教職員がワクチンを打っていても、次々と感染者が出ると言うことなので、感染者が出ても見つけられるということが大事なので、ワクチン接種はできる限り100%に近づける、少なくとも希望者全員が打てるようにすること、プラスPCR検査の拡充が必要。

 ハーバード大学の検査ルールのように、ワクチンを受けていれば週1回、受けていなければ週2回、学生寮に住んでいる人は週三回の検査が義務になっている(図6)。これだけのPCR検査のキャパシティを準備した上で、こういったワクチン検査パッケージを検討すべきだと思います。


図6 米国ハーバード大学PCR検査ルール
  ⇒Fig-6

司 会:日本では一応ワクチンは無料で打てるが、特殊な事情で打てない人がいて、そういう人は、検査を受けて下さいといっても、PCR検査は無料ではなく、無症状の人が受けようとすると何万円もかかる。これはおかしいですね。

兪教授:そうですね。これは本当におかしい。そういう意味でほんとうに時期尚早だと思う。

司 会:同じように検査もインフラ化して無料で受けられるようにすべき、検査もワクチンも無料で受けられるというのがひとつのスタートラインになってその上で、どちらで証明するかという話になるべきということですね。

兪教授:そうですね。そうすべきです。

司 会:分科会の中の主要なメンバーの一人としていろいろ意見を述べている岡部信彦氏(川崎市健康安全研究所・所長)がいろいろなところでオピニオンリーダーとして発言しておられるが、その方が、Buzzfeed Japanというメディアで9月26日に公開されたインタビューを読んだ。その中でワクチン検査パッケージについて、「この検査はPCR検査かそれとも抗原検査か」という質問され、次のように答えている。

 「PCR検査とは限らない。インフルエンザ検査も症状を訴える人全員にやる必要はない。症状がないひとがインフルエンザで無いことを証明するために検査をするということには感染症を専門とする者としては、反対の立場。検査を受ける側もする側も、検査の精度や限界、症状との兼ね合いを理解していただくことは益々必要。あくまで病気の診断ではなく、検査の結果であるということを理解しておかないと、誤解やミスだと言うことになって仕舞う。PCRだけが検査ではないので、インフルエンザの迅速診断キットのようなものや、もっと簡便なものを使っても良いと思う。ただ、簡便である分、PCRに比べれば精度は落ちる。しかし、道具は常に最高のものがいいわけではなく、使い道によっては使い勝手のいいものを使うことで十分な場合がある。近所に買い物に行くのには自転車や原チャリで十分で、高級車やスポーツカーを持ち出す必要は無い。スクリーニング・篩い分け検査にはこの程度で十分だという意識がないといけない。だいたい簡便な検査ほど右と左を完全に分けられる道具ではないということを知っておくことが必要です。」
うか。

兪教授:いくつか問題があると思うが、そもそもPCR検査を最も重視するというのは、既に世界の潮流。未だに、岡部先生を含め日本の専門家はそれに抵抗している非常に数少ない研究グループだと思う。

 さらに、今、PCR検査は非常に安くなっているので、優先してPCR検査以外をやるというのはなかなか正当化できないと思う。さらに言えば、日本の専門家は重要な研究の内容に言及していない。海外では必ず費用対効果分析でコストを考慮する。

司 会:確かに日本の場合、PCR検査とコストの関係はまったく議論されてこなかった。

兪教授:はい、そうですね。典型的な分析は、費用対効果分析というものがあり、費用というのはこの場合、PCR検査1回の費用、例えば5000円、この場合の効果というのは、PCR検査をすることによって確率的に何人かの陽性者が見つかり、それを隔離することによって今後の感染者の数が減る、それによって医療費が減る。そこが効果になりる(図7)。


図7 Yoo et al.,「新型コロナウィルスの無症状者に対するPCR検査の費用対
   便益分析」早稲田大学 現代政治経済研究所のワーキングペーパー
   (2020年10月)
  ⇒Fig-7

司 会;医療費に反映されることが効果である、ということになる。このグラフで、横軸が(検査の)感度で、縦軸が特異度となっているが。

兪教授:はい、感度(Sensitivity)というのは、検査の機能の一つを図る指標で、もし感染者が居る場合、正しく陽性として判断ができる、という感度を示している。100%に近いほど機能が高いということを示している。一方、縦軸の方は特異度(Specificity)で、ウィルスをもっていない真の陰性の人が陰性と判断される確率。これも100%の方が検査機能が高いということになる。ベストな検査は感度が100%、特異度が100%ということになる。これは、私のオリジナルの研究で、早稲田大学の現代政治経済研究所ワーキングペーパーとして公表したものだが、横軸が感度、縦軸が特異度とし、横軸は30~100%に設定している。

通常PCR検査の感度は70%以上と言われている。

 特異度についてはいろいろ批判されていてたとえ1%でもあると問題が有ると指摘されているが、さらに大事なのは、検査の場合、二つの要因(感度と特異度)が同時に動くわけだし、さらに検査も考慮しなければいけないので、組み合わせが重要となる。このグラフで赤い色のところにあれば、検査として経済的に正当化できるということになる。

 つまり、感度が100%あったとすれば、特異度は30%でも構わない。実際今、PCR検査の感度は70%ですから、ほぼ全部赤い色のところに含まれるので、特異度が30%でも全然問題ない。実際今、特異度が90とか95%でダメという話をしているが、このグラフを見れば、感度が70%だとすれば、特異度は30%あれば十分ということになる。

 PCR検査は99%という議論が去年まであったが、それは、マニュアルでやるような遅れた検査方式であれば、1%かもしれないが、実際は機械化されたPCR検査の場合、日本にはたくさん機械化されたPCR検査機会をつくれる企業があるので、それを使えば1%より遙かに低いです。0.01%以下ですね。仮に99%であったとしても、この研究に基づけば、90%でも十分です。90%であれば、感度30%でもいいことになる(図8)。


図8 Yoo et al.,「新型コロナウィルスの無症状者に対するPCR検査の費用対
   便益分析」早稲田大学 現代政治経済研究所のワーキングペーパー
   (2020年10月)
   図10.2次元感度分析:無症状者対象のPCR検査
 ⇒Fig-8

 検査費用が5000円より下がれば、赤い色の面積が増えてくる。こう言った分析が、抗原検査を使うか、PCR検査を使うか、PCRを2回やるか、どの検査をどう組み合わせるかといった検討を行うときには必ずやっている。世界中で政策を検討する人たちはこの分析が去年の春くらいに出版されたので必ずやっている。残念ながら日本には、費用対効果分析を政策に反映するという歴史がほとんどないので、それが今も瞑想している理由の一つだと思う。

司 会:PCR検査を沢山やるのはコストの無駄という人がいるがそれは間違いですね。

兪教授:そうですね。無駄だというなら1回PCR検査をやるごとにどれくらい無駄になるのかを示すべきだが、私の知る限りどれくらい無駄かという具体的な計算をした人は一人も居ない。

 私の研究では、PCR検査をやって赤い色のところにあれば、5000円以上の利益がある、すなわち、元が取れるということになる。PCR検査が無駄というなら、こういう計算結果を示すべき。もちろん、青い色の部分になるとやらない方がいいと言うことになるが、現実に、日本に今、こんな青色に入るような検査はひとつもない。
 コストが無駄だというのなら、こういう計算を出して欲しいのだが、政府の分
科会を含めて私の知る限り、誰もこういう分析をしていないし数値もだしていな
いので、早急に出してほしい。

 もうひとつ大事なのは、これも先ほどのグラフと同様に赤い色のなかにあれば、
5000円でPCR検査をしても社会全体として元が取れるというものである。縦軸が
感度なので、仮に100%だったとしても、サンプルを出してから結果が分かって
隔離するまでの日数が三日以上かかったら検査する意味が無い、ということを示
してる(図9)。


図9 Yoo et al.,「新型コロナウィルスの無症状者に対するPCR検査の費用対
   便益分析」早稲田大学 現代政治経済研究所のワーキングペーパー
   (2020年10月)
   図15.2次元感度分析:無症状者対象のPCR検査
 ⇒Fig-9

 例えば、地方の保健所とかキャパシティが足りなくなって東京都の検査に外注して結果が出るまでに三日かかり、そっから隔離するまでに更に時間がかかるとなると、検査をやる意味が無い。そういう議論をすべきだ。

 逆に言えば、PCRの感度と特異度だけでなくて、感度、特異度、コストとの組み合わせ、さらに言えば、検査結果が得られてから隔離までの日数が重要となる。仮に4日以上かかるとすれば、それまでに感染者が周りの人にウィルスを移しきってしまっていることになる。つまり、隔離するのが遅すぎるということだ。PCR検査をやる最大の目的は、隔離だから、隔離するまでに4日かかっていると既にその人は周りに移し終わっていることになる。

司 会:このようなコストとの分析は非常に重要だが、日本には、そうは言ってもアメリカの感染状況は良くなっていないじゃないか、と言う人が居る。むしろ日本の方が感染者は少ないじゃないか、ということから、必ずしもアメリカのCDCのやり方がいいとも言えないのではないかという人が居るが、それについてはどうか。

兪教授:はい、そのような議論は、今年の前半くらいまでは妥当であったと思うが、ところが今は、最も世界で感染状況が悪いアメリカに日本は近づきつつある。グラフを見ればわかるが(図10)、横軸が2020年の9月から2021年の9月までの約1年間で、赤の実践が日本で、一番上の緑の線がアメリカ。間の黄色い線が東京と大阪の平均値。紫がドイツ。2021年の5月くらいまでは、アメリカ、ヨーロッパは非常に高かったが、2021年7月以降、黄色の東京・大阪の平均値はドイツより遙かに高い数値となっている。日本全体の値もドイツより高い。それを見ると、限りなくアメリカに近づいているということになる。更に言えば、韓国と台湾をみると、かつては日本と同じ位だったが、それと比べると日本は明らかに悪化している。


図10 Fig.1 100万人当りの2週間累計感染者数 2020年9月~現在:
   2021年7月以降、日本、特異「東京・大阪(平均)」は、台湾・韓国・
   ドイツよりも悪化し、米国の水準に近い。
  ⇒Fig-10

 さらに、東京と大阪を別にしてみると、驚くべき数で、2021年5月の第4波の大阪を見ると、感染者の数はほぼアメリカと同じ水準になっている(図11)。またオリンピックが始まった7月以降、東京はほぼアメリカと同じ水準となっている。非常に悪い成績です。


図11 Fig.2 100万人当りの2週間累計感染者数 2020年9月~現在:
   2021年5月以降(第4波)の大阪は、米国とほぼ同水準
   2021年7月以降(第5波)の東京は、米国とほぼ同水準
  ⇒Fig-11

 これはもっと衝撃的で、死者の数だが、アメリカ(緑)は非常に多いが、インド(紫)も非常に多かった(図12)。そのインドより多いところがある。それが、青いカーブの大阪である。ということで、大阪は5月以降の第4波のとき、緑のアメリカより高く、紫のインドより高く、世界で最も最悪の部類だったのが大阪、ということを示している。オリンピック以降も東京はかなり高めになっていて、日本が欧米より感染者、死亡者が少ないというのは、今年の5月以降、特に東京大阪に関してはまったく当てはまらないということになる。


図12 Fig.4 100万人当りの2週間累計感染者数 2020年9月~現在:
   2021年5月以降(第4波)の大阪は、米国・インドよりも悪化し、
   世界最悪の水準に近かった
  ⇒Fig-12

司 会:これは衝撃的だ。大阪では5月の第4波で自宅放置状態の人がどんどん亡くなっていたあのときに、インドも超えていたんですね。

兪教授:あの当時、インドについてはかなり大きな記事になってアメリカでも話題になりニュースを読んでビックリしたが、インドの場合、治療薬もないし、医療器具(酸素ボンベ)もないということでかなり多くの病院が閉鎖したらしい。その結果多くの方が亡くなったということで、その時期、インドは世界中の注目を浴びていたがそのインドより沢山亡くなっていたのが大阪ということになる。

司 会:これはどういうことなのか。

兪教授:日本の場合、メディアに出なかっただけで、もっと言えば、日本の患者さんは皆さんおとなしいので、インドのように病院まで押しかけていかないので、(惨状が)可視化されない。そういう意味で、静かに自宅で亡くなった方が大勢いらっしゃる。なかなかこういう比較を出す人が居ないのでわからなかった。

司 会;見ている方も衝撃だと思うが、こういうことを一般のメディアも今までほとんど伝えていなかった。

兪教授:これは誰にでも手に入るデータなので、こういう比較は簡単に出来る筈なんですね。


Part3につづく