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米軍がキューバを不法占拠する
グアンタナモ基地内刑務所の今
青山貞一 (東京都市大学名誉教授)
2021年6月22日

 独立系メディア E-wave Tokyo 2021年6月22日 公開
 
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グアンタナモ湾刑務所
  (Guantanamo Bay detention camp, Guantánamo, G-Bay, Gitmo, GTMO)
とは 

 皆さんは、米軍がキューバの東端につくったグアンタナモ湾刑務所のことを覚えているだろうか?

 グアンタナモ湾刑務所は、キューバの東端にあるグァンタナモ米軍基地の一角に設置されている正式に言えば米軍南方軍グアンタナモ共同機動部隊運営の収容キャンプ(刑務所)である。

位置

 以下はグアンタナモ湾刑務所の位置を示している。キューバの東外れにある。


グアンタナモ湾刑務所の位置(米国・中南米カリブにおける位置)
出典:グーグルマップ


グアンタナモ湾刑務所の位置(島全体はキューバ島)
出典:グーグルマップ

 逆に接近してみると、以下のようになる。南端のカリブ海から少し陸側によったところにある。


グアンタナモ湾刑務所(グアンタナモ南側における刑務所の位置)
出典:グーグルマップ

 さらに接近してみたのが以下の衛星写真である。


グアンタナモ湾刑務所部分の拡大
出典:グーグルマップ

簡単な歴史

  グアンタナモ湾刑務所には、2002年にジョージ・W・ブッシュ政権時に設立され、アフガニスタン紛争およびイラク戦争の過程でアメリカ軍によってテロに関与しているか何らかの情報を持っていると疑われ強制連行ないし逮捕された数多くの人物が収容、監禁、拘禁されていた。

 だが、この刑務所は法の適正プロセスを規定したアメリカ合衆国憲法修正第5条や修正第14条に違反する違法な拘束であると批判を受けている。

 またキューバ政府は同基地の土地の返還を永年米国に求めている。


 つまり、現在、声高に中国に対し証拠不十分な「人権問題」を叫んでいる米国自身は、大量破壊兵器があるとしてイラク戦争を起こし、フセイン大統領まで刑死させたうえに、当初約800人、その後196人、さらに40人と20年間の間に収容人数は減ったものの合衆国憲法修正第5条や修正第14条に違反する違法な拘束を続けていたものであると批判を受けている事には変わりない。

残された40人の行方

、その40人だが、米国にある人権NGO、アムネスティ・インターナショナルの報告書によると、40人の拘留者のうち、正式に有罪判決を受けて刑に服しているのは1人だけであり、15人は無罪で投獄されたまま釈放される可能性がある。そして24人は起訴されずに法的に宙に浮いた状態にあるという。

 これこそ合衆国憲法修正第5条や修正第14条に違反


 つまり米国がしてきたことそのものが深刻な「人権侵害問題」なのである。

グアンタナモ湾刑務所内部の写真

 以下は、そのグアンタナモ湾刑務所内部で撮影された写真である。


飛行機でグァンタナモ基地刑務所へ輸送されている途中の収監者たち。
Source:Wikimedia Commons:  パブリック・ドメイン, リンクによる


Guantánamo Bay detention camp, United States detention facility, Cuba
Source: Britanica


US sends Guantanamo prisoners to UAE, 107 detainees now remain at controversial prison, 16.11.2015 
Source:aa.com


Pakistani family awaits return of oldest Guantanamo prisoner, US approved release of Saifullah Paracha, 73 , who was arrested in 2003
Source:aa.com


Guantánamo Bay: 14 years of injustice
Source::AMNESTY INTERNATIONAL UK


エックスレイ・キャンプに到着間際の収監者たち。2002年1月11日。
Source:Wikimedia Commons: パブリック・ドメイン, リンクによる


David Hicksが収監されていた独房。左上は読書室と言う名前の部屋
(ただし本は存在しない)。2006年11月
Source:Wikimedia Commons: パブリック・ドメイン, リンクによる


グァンタナモ基地刑務所の監視塔
Source:Wikimedia Commons:  パブリック・ドメイン, リンクによる

有限不実行のオバマは基地閉鎖を優先事項としたものの達成できず

 バラク・オバマ大統領(在任2009年〜2017年)は、同基地の閉鎖を優先事項の一つとしていた。

 しかし、オバマケアなど他の政策同様、在任期間中に目標を達成することができず、上述のように、かろうじて196人の被収容者を第三国に移送し、刑務所の一部を空にすることができただけで米軍南部軍の声明によると、現在、同刑務所には40人の囚人しか残っていないという。

 その理由れは米国がグアンタナモ基地の「囚人」を刑務所から他へ移送したためとされている。

 キューバの基地を不法占拠している米軍は、2つの「囲い」(収容施設)で囚人の内部移動を報告した。米軍南部司令部は日曜日、キューバのグアンタナモ湾にある海軍基地のいわゆるキャンプVII(テロリスト容疑者用)にいた囚人を、2004年に建設された最高のセキュリティをもった施設であるキャンプVに移したことを報告した。

 声明によると、米軍の南部司令部は今回の移送が「何事もなく」行われたことを示し、軍事刑務所の40人の「囚人」が2つの「囲い」(収容しせう)に分散されたことで、「効率と運用効果を高め、コストを削減できる」としている。

 しかし、これは単なる米国の軍事部門の「財政的理由」による決定であり、「安全保障や、JTF-GTMO(軍の専門用語では刑務所)の被拘禁者に安全で合法的、かつ人道的な対応と収容を提供するという任務」には影響しないという。
 
 バイデンはホワイトハウスの職員を指名して、連邦基金を使って39人の無実の囚人を外国に送り、唯一の有罪判決を受けた囚人(9.11の首謀者を自称するカリッド・シェイク・モハメッド)を米国内の警備の厳重な刑務所(ミシガン州のスタンディッシュという選択肢が検討されている)に送ることを含む、刑務所閉鎖計画を策定したが、この結果は上述のように実現していない。

ジョー・バイデンのグアンタナモ湾閉鎖計画(スペイン語からの翻訳)
 2021年2月13日|Germán Gorraiz López
 Source:teleSUR TV "BLOGteleSUR por Germán Gorraiz López ...

 人権団体から激しい批判の対象とされ、人間の尊厳に反する行為(睡眠不足、裸で冷たい部屋に監禁、過酷な尋問、自殺など)を告発するとともに、米国の納税者の負担(ニューヨーク・タイムズ紙によると2018年は5億4千万ドル)になっているグアンタナモ湾米軍基地収容所だが、果してバイデン大統領は、この刑務所をどうするのか?

 ジョージ・W・ブッシュ政権は、2005年末にニューヨーク・タイムズ紙の一連の報道で明らかにされた公式文書によると、ブッシュは「テロ」との戦いを正当化するために、米国愛国者法という法律を通じて、この国の主要な憲法上の保護(人身保護)を無効にすることを密かに決定した。

 また、ラムズフェルドが創設した防諜部門の自然な後継者である「タロン」と呼ばれる、疑わしいパターンを探すために世界中の電子メールや電話を監視する、高度に機密化された盗聴プログラムの存在が同紙によって明らかにされた。

 さらに、『ワシントン・ポスト』紙の調査によると、2002年以降、SSB(Strategic Support Bureau)が設立され、ラムズフェルド国防長官の命令のもと、法的な制限を受けずに秘密裏に活動していた。

 その活動の中には、アブグレイブ刑務所やグアンタナモ刑務所での人権侵害の血生臭いエピソードも含まれており、21世紀の現実(フィクションではない)のディストピア的以下参照)なパラダイムとして歴史に残ることになるだろう。

 注)「ディストピア」という言葉は、19世紀末にジョン・スチュアート・
  ミルによって作られたもので、トーマス・モアが理想的な場所や社
  会を指定するために使ったユートピアという言葉に対抗して、「理
  想的な社会の条件と拮抗する形で現実が起こる負のユートピア」
  となる。
  ディストピアは、反民主主義的なシステムで構築された閉鎖的ま
  たは閉所恐怖症的な環境であり、支配層のエリートは、物理的お
  よび仮想的な平面における現実のあらゆる領域に侵入する権利
  を自らに与えられていると信じており、さらには、国家の神聖な安
  全保障の名の下に、人々の不可侵性(人身保護)の原則を排除す
  ることもあり、これらはすべて、システムの後の全体主義的な傾向
  の徴候である。


 アメリカのイメージが大きく損なわれたことを受けて 2009年の就任後、オバマ大統領が最初に決断したことのひとつは、グアンタナモ海軍基地の刑務所を1年以内に閉鎖することを要求する大統領令に署名することだった。

 しかし、2期目に入っても彼のオバマ大統領のアドバイザーたちは、グアンタナモの「法的迷走」を終わらせるための法的メカニズムを模索していた。これは、ジョージ・W・ブッシュ大統領の不運な任期中に実権を握っていた、いわゆる「戦争委員会」(ラムズフェルド、ヘイデン、チェイニーの3人で結成されたトロイカの命令の下で働いていた選り抜きの法律家や顧問のグループのコードネーム)の法律的な巧みな工作による成果としての仮想空間である。

 一方、議会の多数派である共和党は、予想される刑務所の閉鎖を阻止しようと必死になって妨害活動を続け、アメリカ議会は共和党のラムズフェルド、ヘイデン、チェイニーの3議員による修正案を可決した。

 議会は、共和党のジャッキー・ワロルスキー下院議員が「アルカイダ関連のテログループがイエメンに根付くことによる伝染の可能性」を理由に、イエメン国籍の56人の拘束者を自国に移送するための資金配分を禁止する修正案を承認し、妨害政策を継続している。議会はまた、この事実上の宙ぶらりん状態にある囚人の米国領土への移送資金の制限を撤廃しようとする民主党の修正案を否決し、期待されていたグアンタナモの閉鎖を「正弦波」で延期することを支持した。

 NGOのアムネスティ・インターナショナルは、バイデン次期大統領に「この超法規的刑務所を閉鎖するという2009年の公約を引き継ぐように」と要請した。バイデンは、グアンタナモ軍事委員会のデイビス元主任検事という「貴重な人材」を頼りにしている。彼はChange.orgへの寄稿で、「もし他の国がグアンタナモの囚人を我々が扱っているように扱っていたら、我々はそれを徹底的に、そして正当に批判するだろう」と主張し、刑務所の閉鎖を推奨している。

 The New York Timesによると、10年以上も無期限拘留されている40人の囚人を維持するために、その維持費は2018年には約5億4千万円になるという。国防総省によれば「国家の安全に重大な危険を及ぼす」として釈放されず、証拠が不十分であったり、不適切な行為(拷問など)によって得られた証拠が無効であったりするために裁判も受けられないという、カフカのような捕虜として、2001年に米国議会で「無期限拘留」の地位が確立された。