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米国はウクライナに新たな
「ベルリンの壁」を築くべきではない。

グローバル・タイムズ社説
 Washington should not build a new
‘Berlin Wall’ in Ukraine:Global Times editorial

GT Editorial 3 March 2022

翻訳:池田こみち(環境総合研究所顧問)
独立系メディア E-wave Tokyo 2022年3月3日
 
US President Joe Biden. Photo: VCG

本文

 ジョー・バイデン米大統領は27日夜、就任後初の一般教書演説を行った。演説の冒頭から、センセーショナルな言葉を用いてウクライナ危機について米議員に訴え、複雑な歴史的背景を持つこの地域紛争を「民主主義と独裁の戦い」と定義した。

 バイデンは強い言葉でロシアを非難し、西側諸国がロシアに課している包括的な制裁と、ロシアに対する西側諸国の結束を強調した。1時間を超える演説の中で、バイデンが両党から拍手を受けたのはこの点だけだったと多くのメディアは指摘した。

 バイデンは演説の中で、ウクライナ国民をロシアに対する「強さの壁」と表現した。これは、冷戦時代の有名なベルリンの壁を容易に想起させる。私たちは疑問に思わざるを得ない。ワシントンはウクライナがその高い壁になることを望んでいるのだろうか?バイデンの語り口は伝染しやすく、特に米国議会の議員を前にしたときなど、米国や西欧の聴衆の好みに合っているように聞こえた。

 しかし、それは精査に耐えるものではなく、現在の危機の解決には何の役にも立たない。むしろ、このような語り口が世界を再び冷戦、あるいは大規模な熱戦に引きずり込むことになるというのは、かなり危険であり、高い警戒に値する。

 また、ウクライナ危機に対するワシントンの視点が明確に示されている。多元的な世界は、異なるイデオロギー間の対立に単純化される。ワシントンが勝利への決意を示せば示すほど、問題解決に不利になる。

 なぜなら、ワシントンが「満足しない」限り、国連などがいくら努力しても、紛争が軟着陸することは難しいということを意味している可能性が非常に高いからだ。しかし、1700万平方キロメートル以上、1億4000万人の人口を抱えるロシアを「世界の孤島」にすることは、アメリカにとって考えられないし、不可能である。もし、アメリカがそのような結果にこだわるなら、世界の分断と対立を実質的に深めることになる。

 もともとアメリカの大統領は、一般教書演説で仕事の成果や政策計画を議会に報告する。このような演説は、議員の支持を得るために、非常にパフォーマンス的であり、歴史的に特殊な時代には、対立を激化させる可能性が高くなる。

 例えば、「モンロー・ドクトリン」は非常に扇情的な一般教書演説の中で生成されたし、ロナルド・レーガン元大統領も一般教書演説の中で「悪のソ連帝国」に対する政策を闡明(せんめい)した。ウクライナ危機が世界の情勢に影響を及ぼし、それがまた国際的なパターンを変える分水嶺となるかどうかは、まだかなり不透明である。しかし、火曜日の一般教書演説は、かなり不穏なメッセージを放った。

 ウクライナ危機の後、大国間の格差は地域紛争の「高リスク地域」になりかねないという見方もある。大国間のあらゆる摩擦が、「相手を倒す」あるいは「生死をかけた戦い」を期待する完全なイデオロギー対立に発展するならば、世界は平和にはならないだろう。もしワシントンの「ウクライナ国民とともに」という主張が誠実であるならば、ロシア・ウクライナ紛争を「自由」と「独裁」の間の生死をかけた戦いに変えようとするのはやめてほしい。

 ウクライナを東西を隔てる壁にするのはともかく、火に油を注いで地域紛争を「我々」と「彼ら」の究極のゲームにするのはやめてほしい。ウクライナはユーラシアの架け橋であり、その国民はワシントンのイデオロギーと軍拡主義の犠牲になってはならないのである。

 しかし、パンデミックやインフレなど、経済や人々の暮らしに関わる話題が演説の大部分を占めた。この点では、世界中の人々が共通して追求していることである。現在の世界は平和とは程遠く、人類は多くの厳しい課題を抱えているが、平和と発展は時代のテーマである。

 私たちは、すべての国、特に大国や強国が、世界に対して責任ある態度をとり、平和と発展をめぐって、互いに反対方向に進むのではなく、半ば強制的にでも会うことができるようになることを望んでいる。