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長野県の審議会事情(4)
〜見る影もないゴミ条例案〜

青山貞一

2007年9月6日



 2007年9月5日、長野県議会の会議室で長野県環境審議会があった。

 池田こみちさんと一緒に東京から出席した。

 審議は、@鳥獣保護区特別保護地区再指定等について、A第5期諏訪湖水質保全計画の策定についてに引き続き、B廃棄物の適正処理の確保等に関する条例(案)骨子について報告を受けた後、審議した。審議会には林野庁、環境省、国土交通省からそれぞれ1,1,2名が特別委員として参加している。

 梶山弁護士、北村上智大教授そして青山が田中知事から依頼され3年かけ、また要綱案作成後、100回を超す説明会、報告会、シンポジウムなどを開催し、Two Wayのコミュニケーションを県民、市町村、事業者らに図ってきた条例案は昨年2月に県議会に田中知事から提出された。

 従来の条例案は以下。
従来の廃棄物の発生抑制等による良好な環境の確保に関する条例案

 しかし、当時、田中知事vs長野県議会議員は、おそらく史上最悪そして険悪な関係にあり、県議会は2回継続審議とした。さらに知事選で田中知事が落選したことを受け、県議会は、私たちの条例案を制定させる上で批判が強かった一般廃棄物系の条項をすべてはずし、2007年中に成立させるとしていた。

 9月5日の環境審議会ではじめて修正案の骨子概要が委員に示された。

 私たちが都合3年かけ、100以上の報告会、説明会、シンポジウムをしながら練り上げてきた条例案は、まさに「見る影もなく」矮小化」されていた。

 審議会開催前に6階の廃棄物対策課長のところに行ったところ、せっかく画期的な条例案をつくっていただきながら。。。と言い訳と詫びを繰り返していたが、実は、一般廃棄物をそぎ落としただけでなく、産廃についても「各県の平均的なものとさせていただきました」(課長談)と言われるように、矮小化されていた。

 県知事が代わったのだから仕方がないと言えば、それまでだが、審議会の議長(信大名誉教授)がいつになく、たとえ知事が代わってもこと環境政策は後退させてはならないと、いつになく、殊勝なことを言われた。

 たとえ元自民党衆議院議員で国家公安委員長をつとめた村井知事であっても、環境関連政策は後退させてはならないと思う。だが、私が委員となっているもう一つの委員会、すなわち公共事業評価監視委員会がらみで、知事が会見において脱「脱」ダムによって、すなわち浅川ダム事業計画を再開することで、今後10年は食えるはず、という趣旨の発言をしたことからみても、長野県政は環境保全や累積債務削減などの財政問題で、著しい政策後退をしていることは歴然としている。。

 審議会では、最後の議題として廃棄物条例骨子案が審議されました。冒頭、私は冒頭7点ほど質問し、その後、池田こみちさんはじめ数名の委員が批判的に質問した。

 昨年の長野県知事選で村井候補を全面支援した八十二銀行元頭取の茅野委員が、何と私の質問や意見をフォローするほど、新条例案の骨子は、も世界的に見て異常きわまりない日本のゴミ行政に、さらなる後退を余儀なくさせるものであると思える。

 今後、9月5日の審議内容をを勘案し、11月に県は要綱案を出すと言っている。

 以下は、梶山・北村・青山が条例案の目玉としてきた項目、内容が昨日だされた新条例案骨子でどうなったかを示す<比較>の概要である。

@一般廃棄物を対象とすること
  全面削除、すなわち一般廃棄物関係はすべて削除され、
  産廃だけが対象となっている

A発生抑制・資源化関連
  全面削除、知事は発生抑制などは別条例で対応すると
  言っているようだ。

B準廃棄物の新規制化
  木くずには触れているが、事実上全面削除である。

C不法投棄・違法操業等への適切な対処
  大幅に後退

D排出事業者に対する勧告、公表、命令
  「命令」が削がれるなど大幅な後退

E自社処理・解体工事に対する規制
  大幅に後退

F多量排出事業者の減量計画作成と遵守の義務の拡充
  大幅に後退

G土地所有者等の措置規定
  ほぼ残存。これはとくに軽井沢など別荘地対策で私たち
   が入れたもの

H廃棄物の発生抑制・資源化計画制度
  これは私たちの条例案の核心であるが、似て非なるものとなった。
  内容は大幅後退。計画策定委員会が全面削除されるなど骨が
  抜かれた。事業計画協議制度というものを提案している。
  それすら長野県が「住民同意」をやめることを前提としている。
  内容は、事業者からの事業計画の提出以降、説明会開催、
  意見書提出、公聴会(必要に応じ知事が開催)、事業計画協議
  の承認あるいは不承認の決定など、行政手続として残存(?)。
  ただし、いわゆる生活環境影響調査や規模にもよるが既存の
  アセス制度との関係は現時点では不明。

I環境モニタリング制度
  全面削除、K同様、ひとつの目玉。茅野委員が私の発言に
  ついてフォローしたのは、この部分      

J県民環境協議会
  全面削除、行政職員数が削減されているなかで、県民、市民が
  不法投棄や不適正処理を監視し、技術的法的学習、研修を受ける
  重要なものだったが、全面削除された。

K行政権限発動請求権
  全面削除、これは住民がいくら行政に電話、FAX、メール等で
  調査、立ち入りなどを依頼しても、なしのつぶてとなるのを
  辞めさせる措置。これも全面削除された。

L違法活動通報制度
  全面削除。これは一種の内部通報手続きで、阿部泰隆先生の
  考えを北村先生が条例に入れ込んだもの。これなど産廃問題
  では必須の者だったが、これも全面削除。

 私たちが練り上げた条例案には、ことごとく批判的な記事を出していた信濃毎日の記者が審議会を取材していた。しかし、インターネットで見る限り、記事はなかった。朝日新聞にもない。
 日本の行政法や廃棄物問題の専門家、研究者の多くが画期的な内容と評した条例案が見るも無惨な始末となっている。

 当時、私たちが3年かけ、100回以上説明会などをおこなった条例案を批判する記事は大小おそらく100以上あったはずだ。

 なのに、その現実にまったく触れない、県民に知らせない地元新聞の存在は何なんだろうか? これでは、情報操作による世論誘導のための広報紙(道具)と揶揄されても、仕方がないだろう。


 田中康夫知事が破天荒だったことは間違いないが、せっかく環境政策の長野県となるところが、政治的確執で上記のようになってしまったのは、どうみても残念である。

 せっかく、長野県が全国に誇れる画期的条例案をつくりながら、これでは全国平均レベルの条例案となってしまった。ただ、私たちが練り上げた条例案は、全国各地の自治体で生かされつつあることを報告しておきたい。