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敢然と東九州道の

路線変更に挑む農園主C

〜代替ルートを政策提言〜

青山貞一
東京都市大学名誉教授

掲載日:2008年1月17日

独立系メディア E-wave Tokyo
転載禁

青山貞一:敢然と東九州道の路線変更に挑む農園主
@道路局は現代の「関東軍」か H土地を売らないの仮処分を提起
A民営化で進む高速道 I現地住民集会開催
B地場産業と環境を破壊する高速道 J行訴第10準備書面
C代替ルートの政策提案 Kルート変更求め集会
D総事業費の比較 東九州道、事業認定事前差止訴訟提起
E岡本氏と櫻井よし子氏 L事業認定差止訴状
F国会で大いに議論を! M第一準備書面全文
G欺瞞に満ちた道路特定財源案 N国土交通省ヒヤリング
H土地を売らないの仮処分を提起 O国土交通省との直接交渉

 かつての日本一のみかん農園を所有・経営する岡本栄一さんは、東九州自動車道の路線に関し、国土交通省側の路線とは別の路線、すなわち代替路線(代替ルート)である<山すそ>ルートを以前から調査研究し、政策提案している。

 当初伺ったときは、単なるアイディアの域を出ないものと思ったが、次々に出される図面、積算資料、調査資料を見て、さらに岡本氏提案されているルートの要所に車で踏査するに及び<山すそ>ルートは単なる素人のアイディアではなく、岡本氏のライフワークであることが分かった。

 岡本氏は高速道路に係わる土木計画、構造設計、公共工事費用積算、見積書作成などを頭だけでなく、実務としてもかなりの程度マスターしているように見えた。事実、当該分野に勤務していたプロの技術者やコンサルタントに師事し多くの実務を学んでいる。


東九州道の当局の路線(赤線)と岡本氏が提案する代替路線(黄緑)
(ただし、上図は九州道が豊前市に入った直後の部分のみを示している)
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix

 ここで岡本氏が政策提言する東九州自動車道の豊前〜中津区間の代替路線、すなわち<山すそ>ルートを提案した経緯について話を聞こう。


          公共事業改革の端緒を開く
        〜当局ルートと<山すそルート>を比較して、
        当局ルートが採用できない理由を改めて〜

                          岡本栄一

1.建設コストが4割

(A)平成18年西日本高速道路株式会社は、当局ルートの事業費(延長28.3キロメートル)を1,030億円と公表しました。

(B)しかし、実際の暫定二車線の事業費は更に高いのです。

 会社の工事長は、平成18年7月に「債務返済機構の貸付金の限度額である1,235億円の満額を借りる」「差額の205億円は一般管理費、消費税、金利に使う」また、工務課長は「足らなければいくらでも借りる。」と述べたところからも明らかです。

 更に、豊前市役所都市開発課長は、平成18年6月、「高速道路用地は平成11年度に発表された元々の値段で買上げる。」と言いました。元々の値段とは事業費が1,520億円で、用地補償がそのうち258億円だった時の値段のことです。現在の事業費1,030億円の内の用地補償費は188億円であることから、その差額は70億円で、これも加えなければなりません。

 以上のことから、当局ルートの暫定二車線の本体工事の事業費は、1,030億円+205億円+70億円=1,305億円となります。

(C)ただし、この事業費は暫定二車線工事にかかるもので、いずれ残り二車線の追加工事をして四車線化しなければなりません。当局ルートの四車線化は、暫定二車線の事業費1,305億円のおよそ40パーセント上乗せが必要です。その結果、会社による本体工事の完成には1,827億円も必要となります。

(D)更に、この会社による事業費とは別に、地元自治体が付帯工事の3分の1くらいを負担します。当局ルートは、人家の多い平野を通るため、側道やカルバートで150億円かかる見通しです。

 そして、県によるアクセス道の新設やインターチェンジの負担金、サービスエリアの新設にも200億円は超すはずです。

(E)これらを合計すると、当局ルートの本当の総事業費は1,030億円ではなく実際は2,177億円にも達します。会社が公表している2.2倍額です。キロメートル当たり77億円で全国平均79億円とほぼ同じです。

(F)対する代替案の山すそルートはどうでしょうか。福岡県側を例にとりますと、人家の少ない低い山や谷を通すため用地、補償費が非常に安い、人家が少なければ付帯工事も少ない、地下に岩盤があるため基礎工事はほとんど要りませんし、土の運搬距離も短い。

 コストのかかる高架橋は少なく、トンネルは無い。インターチェンジは国道に直結しているのでアクセス道はいりません。しかも、椎田道路を2.8キロメートルも転用できます。

 ちなみに、山すそルートは2車線完成型(片側1車線)で追加工事はありません。不要な工事も省きました。福岡県側に限れば、合計384億円で済み、キロメートル当たり約24億円です。当局ルートの3分の1です。この事業計画書も出来ています。

(G)大分県側について、

 大分県側は山が多く両ルート共に延長3,200メートルのトンネルエ事が必要です。しかし山すそルートは二車線なので、上・下車線2本ではなく1本のトンネルで済みます、高架橋は路面の面積換算で計算すると当局ルートの3分の1以下です、また、平野も避けているので用地、補償費、付帯工事がかかりません、ですから489億円で収まります。

 当局ルートの半額です。以上のことから、福岡県、大分県をあわせた事業費総額は873億円です、当局ルートの2,177億円の4割です。合計1,304億円の節約になります。

(H)ここで、更に付け加えるなら、高速道路の維持費があります、建設費が高いと維持費も比例して高くなります、そして45年後は道路の更新期にあたり、現在の建設費そのものも新たに加えることになります。

2.借金地獄を救うのは山すそルート

(A)1,300億円の国費負担増は無視できません。今、日本の国は借金地獄にあります。総額は国と地方併せて900兆円に達し、GNPの1年分を上回り、一人あたり700万円を超しています。

 O.E.C.D(経済協力開発機構)の統計によりますと、日本を除く先進6ヶ国の公共事業費総額は日本1ヶ国よりも少なかったことからも、その突出ぶりが伺われます。

 日本は、世界でも類を見ない高齢化社会に入ろうとしています。働けない人が多くなり今後は、福祉にまわすお金も増えてきます。後の世代に背負いきれない借金を残せません。だから国に余力が必要です。

(B)最大の課題は、ムダな支出を抑え、基礎体力をつけることです。そのためには、公共事業を再点検しなければなりません。

 日本最大の公共事業は、高速道路建設です。高速道で代替案を詳しく作り上げたのは、我々が最初でしょう。椎田宇佐線山すそルートを取り上げなければ、日本の公共事業の改革は有り得ないといえます。

(C)世界に冠たる日本経済も、財政について内実は、官僚と政治家によって蝕まれ、誰も責任を取ろうとしません。そして、民間の知恵は一つとして取り上げられず、圧殺されています。たとえ、それが正しい意見であっても、当局に逆らう者は全て悪としてしまう風潮があります。

(D)高速道路株式会社法第一条には、「高速道の新設を効率的に行うことによって、国民経済の発展に寄与することを目的とする」となっています。

 また、高速道路株式会社法の要綱と解説によれば、「民間にできることは民間に委ねる」の原則に基づいて、道路関係四公団で40兆円に上る有利子負債を45年以内に確実に返済し、「真に必要な道路をできるだけ少ない国民負担で建設することを目的として道路公団の民営化を行う」とあります。しかし民営化とは名ばかりで、内実は昔の公団と変わりはありません。(別紙7の1)真の民営化とは、民の意見を取り入れることにあります。

3.山すそルートが日本の道路政策を変える

(A)高速道の通行料金について

 有料道路である椎田道路の利用台数が一日あたり1.6万台もあります。しかし、料金所を通過している車は6千台のみです。残りの1万台はわずか400円の料金を払いたくないために料金所付近を迂回しています。

 ここで、福岡・大阪間を10トンのトラックで往復した場合の経費を見てみましょう。高速道路の通行料金は1キロメートル当たり36円です、往復1,200キロメートルで43,500円払わなければなりません。また、燃料は1リットル115円の軽油で3.5キロメートル走るので、39,000円です。このように、現在割高な燃料費よりも高速道路料金の方がもっと高いのです。

 日本の高速道料金は世界で最も高いのです。

 本来道路はただでなければならないのです。実際、地元の運送業者は「東九州道ができても使わない」「国道10号線が渋滞も無いので十分。」と言っているくらいです。料金を下げることが絶対必要です。

(B)それでは、椎田宇佐線が出来た場合、料金をいくらにすればいいのでしょうか。

 まず、現在の高速道料金です、普通車が1キロメートル当たり25円で大型車が36円です、大型車混入率にもよりますが平均28円としておきます。そして利用者の希望はどうか、マスコミなどの調査からみて現在の半額、あるいは3分の1のようです。

 ここでは物価水準も勘案し、その中間をとって40パーセント、つまり11円にしてみます。果たしてキロメートル当たり11円で椎田宇佐線は採算が合うのでしょうか。

(C)次に椎田宇佐線の交通量を推定します。当局が平成11年に発行した環境影響評価書の予測によると、一日あたり平均で22,300台としています。

 しかし、平成18年の西日本高速道路株式会社が予測した交通量は一日あたり10,300台と半分以下に減っています。おそらく、この10,300台も今後の高齢化による人口減少などの要因を過小評価しているはずです。

 例えば、1)自動車販売連合会の推定では2019年ごろから東九州の車の保有台数が減るとみている。

2)両ルート共に郊外型高速道であることから通勤や近距離利用はあまり見込めない。

3)宇佐別府道路の現在の交通量は一日当たり7,000台程度である。

 以上のことからも、通行料金がたとえ11円に下がっても60パーセント増の11,000台程度の交通量とみてもよいのではないでしょうか、1キロメートル当たり料金11円で、1日に11,000台が椎田宇佐線28.3キロメートルを通るとすると342万円です、これは45年間で562億円の収入です。

(D)次に当局ルートの建設費の返済です、現在の超低金利を除けば通常は6パーセントの金利といえます。

 総事業費2,177億円に長期金利6%をかけると利子だけで3,004億円になります。これに、元金2,177億円を加えると5,181億円です。当局の発表した事業費の5倍以上に膨れ上がります。料金収入の8倍以上の借金を戻さなければならないのです。

(E)西日本高速道路株式会社の運営は料金収入と債務返済機構からの借り入れによります。先ほどの562億円の料金収入では会社は大赤字。

 これでは、会社の事業とは言えません。公共事業に利益は必要ないが、効率が問題です。現在でも借金を借金で返す体質ですから、これがもっとひどくなります。借金で身動きできない会社に料金を下げるようなサービスは望めません。以上のとおり絶対に当局ルートは採用できません。

4.「コストの比較を1」

(A)当局ルートを推進しているのは利権をねらう各種業界や税金を使うことしか知らない役人ばかりです。

 当局ルートの内情を知ろうにも株式会社法は情報公開がありません。いま、急ぐごとは情報公開して両ルートの比較をすることです。そしてルートの選択によっては、1千億円を超す節約が出来る事実を表に出すことです。高齢化社会に入り国民の負担が増えだした現在、効率のよい高速道路を当然、国民は選ぶはずです。

 公共事業とは最少の国民負担で最大の利便性を国民に提供することです。山すそルートのコストが本当なら、これを国民は採用するでしょう。そして、山すそルートの実現は日本の公共事業改革の端緒になると思います。

(B)しかし、当局は本当のコストを明かさないまま本年度中に用地買収を始めると言い、準備をしています。

 これはまったくの暴挙であり一方的です。当局は我々に本当のコストを知らせるべきです。我々は長年にわたり代替案を練ってきて、そして代替案をもとに裁判に訴えました。しかし原告適格という、入り口論議で、まだコスト比較には、はいっていません。このままでは手遅れになり国民に損害をあたえることになります。あくまでも両ルートの比較を求めます。当局の用地買収は絶対に阻止しなければなりません。

(C)中津には自動車工場が進出していますが、東九州の発展にとって重要であり、応援が必要です、しかし自動車生産も労賃の安い国で勢いを増しています。例えば、インドでは2千ドルカー(20万円台の車)の生産計画が注目されています。車の価格破壊が始まり、製造コスト競争は日本の物流コストを直撃し、高速道路の料金の破壊となるでしょう。

 その点、東九州には中津港をはじめ大型港湾が連なり船による格段に安い物流があります、このような東九州の恵まれた条件を更に生かす高速道路を作ることこそ民問の使命です。

 山すそルートをとることによって、建設費が浮き、通行料金を下げられます。高速道路も船も、物流コストで東九州は世界的モデルとなることもできます。


つづく