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「泥棒に金庫番」と
「国が振り込め詐欺」
の社保庁事件


青山貞一
 
掲載日:2007.6.5


 行政法や行政訴訟の研究者の間で、よく「泥棒に金庫番をさせるようなものだ」という表現を使う。

 過日、国(総務省)を訴えているある差し止め請求で、東京地裁の判事は、まったく実質審議に入ることなく、原告にいきなり「却下」の判決を下した。判決本文で、裁判長は原告は地裁ではなく行政不服審査請求として、総務省所管の審議会に異議申し立てるべきであるとした。

 原告はもともと総務省がしてることが間違っていると考えるに至ったからこそ、東京地裁に司法救済を求めたのである。

 にもかかわらず、東京地裁は、この種の専門的な問題の審議は裁判所になじまない、として、総務省の審議会審査に行けと門前払いを原告に食らわしたのである。

 原告等は、これでは、まるで「泥棒に金庫番をさせているようなものだ」と怒った。

 行政と立法が癒着しているような事件では、国民はしかたなく司法、すなわち裁判に救いを求める。だが、その司法は、自分たちの本来の職務を放棄し、問題を起こした行政機関に異議を申し立てろと開き直ったのである。

 総務省がしたことが問題だ、違法だ、原告が言っているのに、裁判所はその総務省の審議会に行け言っているのである。総務省が問題なのに総務省の判断をあおげでは、まさに「泥棒に金庫番をさせるようなもの」である。

 しかし、今の日本はまさにあちこちに「泥棒に金庫番をさせる」ことが蔓延している。

 今回の社会保険庁の事件をよく見れば、まさに「泥棒に金庫番をさせ」てきたことがわかる。泥棒に金庫番をさせてはいけない。いくらなんでも泥棒に金庫番をさせれば、先(結論)は見えるのだ。

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 6月4日、同僚の池田こみちさんと車の中で社会保険庁事件について議論した際、池田さんが当該事件を指して「国が振り込め詐欺をしている」と言った。

 まさにその通りだ。今回の社会保険庁事件は、まさに「国が振り込め詐欺をしている」のと等価だ。

 国民年金は、日本国内に住所のある20歳以上60歳未満のすべての人が強制加入し、老齢・障害・死亡の保険事故に該当したときに基礎年金を支給する公的年金制度である。

 今回の5000万件が宙に浮いた事件を見ると、国が法律をバックに、国民に年金に強制加入を強要し、その上で国が国民の金を故意又は過失によって無くなすなど甚大な損害を与えていると言ってもよいだろう。

 すなわち、まさに「国が振り込め詐欺をしている」のである。悪質なのは法律によって強制加入、すなわち振り込めと言ってきたことだ。

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 ところで、年金に関連して「泥棒に金庫番をさせる」とか「国が振り込め詐欺をしている」ことの根源がどこにあるのだろうか。

 それは法律を根拠として、社会保険庁が年金の徴収と支払いの双方をひとり(一組織)でしてきたことにある。

 多くのまじめな国民や事業者は、法律に決められたことだからとして、年金の原資となる金を愚直に納めてきた。

 にもかかわらず、社会保険事務所や社会保険庁は、運用の名の下にトンデモナイ損失を出したり、数100億円もする保養施設を勝手に建設、運用し、大赤字を出すと、まさに二束三文で民間に勝手に払い下げた。

 そのあげくの果てに今回の大事件である。

 5000万件事件では、河野太郎衆議院議員が言うように、野党やマスメディアに少なからぬ誤解があるかも知れない。

 しかし、杜撰きわまりない実務と無責任きわまりない管理を見ていると、本当に「泥棒に金庫番をさせ」そして「国が振り込め詐欺をしている」と思わざるを得ない。そこにはチェック、クロスチェックの回路は皆無である。

 にもかかわらず、事件の張本人である社会保険庁の歴代の長官は3億円にのぼる退職金を得ていたと言うのだからあいた口がふさがらない。なにおかいわんやである!

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 仮に故意ではない場合でも過失であることは120%間違いない。となれば、国家賠償訴訟法を根拠に、数100万人いや数1000万人の国民が集団で損害賠償を国に請求することになる。

 政府や自民党はすぐさま年金はすべて保証する、と何ら原資のあてがないまま、また保証の前提を示すことなく、また原因を国民の前に明らかにすることなく、わずか4時間の審議で社会保険金保証法のような新法を強行採決した。しかし、あてのない選挙対策的な保証や補償ではひとたび失われた国の信用など回復できるわけがない。

 ここは現状を追認し、あらゆる利権をむさぼってきた政権与党が頭を冷やし、一端下野すべきと思う。

 それしか、国民の信頼を勝ちうる道はない。