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郵政民営化スタート
〜既に顕在化している諸問題〜

青山貞一

掲載日:2007年10月5日


 
以下は、2007年10月2日、中国放送(本社広島市)の朝の生番組、「寺内優のおはようラジオ」(月曜〜金曜 朝7:00〜9:00)<パーソナリティの寺内は中国放送のアナウンサー>で青山貞一が話した内容をさらに拡充したものです。なお、郵政民営化については、2005年に以下の論文を執筆しております。

◆青山貞一:郵政民営化の本質的課題


 一昨年の衆議院議員選挙で日本中を争乱に巻き込んだ郵政民営化問題だが、この2007年10月1日より、民営事業がスタートした。

 郵政民営化では、従来の事業を窓口サービス、郵便、郵便貯金、簡易保険に分け、それぞれを別の株式会社している。民営化後、それぞれの会社は独立採算が厳しく問われることになっている。

 切り離された事業のうち、とくに郵便事業は単独で経営が成り立たつかどうかが危ぶまれている。また民営化された企業は当然のこととして、納税義務を負う。そのことから果たして郵便事業の経営が成り立つかどうかが課題となる。

 そもそも、書状、はがきなどはユニバーサル・サービスといい、万国共通のサービスである。国によっては財政面で政策的な補助が行われている。日本の場合、従来、他の貯金、保険の2事業との抱き合わせとなっていたことで、ユニバーサルサービスなど郵便事業が黒字経営となっていた。

 独立採算が厳しく問われた場合、過疎及び高齢化が進む地域にある簡易郵便局の存亡が憂慮される。

 今後、また、郵貯、簡保の350兆円に及ぶ資金が財政投融資などに流れ、日本型公共事業天国の一因となってきたが、今回の郵政民営化によって、それらの問題が解消されるのかどうかも、大きな争点のひとつとなっている。

 なぜなら、郵政民営化政策の目的は、350兆円に及ぶ資金が財政投融資などに周り、不要な公共事業が行われるもととなってきたことを解消すること、また350兆円を国債を下支えする原資となってきたことを解消すること、とともに民営化による納税義務により国のプライマリーバランスなど財政を健全化することがあったからだ。

 上記について私見を述べてみたい。


○郵便局の存亡

 窓口サービス、郵便、貯金、保険それぞれの独立採算化が原則となる。その結果、採算性が悪い郵便局は経営が成り立たなくなる可能性がある。

 閉鎖されたり、人員が削減され労働が強化となる可能性もある。郵便、貯金、保険の3つの業務によって、税金を投入することなく成り立っていた郵便局は、郵便だけとなることで極度に経営が悪化する可能性もあるはずだ。

 たとえば、郵便業務を兼務していた農協(JA)が本来業務に専念するとしてこのところ簡易郵便局から撤退する事態が相次いでいる。これらは過疎地域で顕著だ。過疎地では同時に高齢化も進んでおり、不安が広がっている。

 現在、わが国に郵便を取り扱う施設数は約2万4000局ある。そのうち約4300ヶ所が簡易郵便局である。

 10月1日より前の郵政公社の調査によれば、すでに全国で42道府県、310局が一時閉鎖となっているという。

 静岡県が38ヶ所で最多である。その他、愛知が20、新潟が19,岡山が16、長野が14と続く。144局は上述の理由で農協が郵便業務から撤退することによる閉鎖である。その他は受託していた個人が高齢化することにより廃業するものだ。

 9月上旬から下旬にかけ、長野,群馬にでかけた。長野県には合併後も80以上の市町村があり、南信地域などには数100から2000人程度の小さな町村が多数ある。また群馬も西部には六合村など超過疎で高齢化している村が多数ある。

 それらの町村で農協による事業撤退や高齢化によって簡易郵便局が閉鎖されると高齢者を中心に支障がでる。これらの中山間地において郵便のユニバーサルネットサービスを可能とするためには、おそらく県、町村の地域政策との連携、補完政策が不可欠となるはずだ。

 簡易郵便局の一時閉鎖は、2003年4月の郵政公社設立以降に見られるようになった。郵政公社は今年1月、年間委託費を約80万円増額し約240万円とした。だが簡易郵便局の閉鎖は歯止めがかからないようだ。

 郵便事業の民営化の先例国、ドイツでにもともと国内に約29,000あった郵便局は2005年の時点で約13,000、現在はさらに減少しているはずである。


○はがき、書状

 ユニバーサルサービスの中核である「はがき」、「書状」は当面、民営化前と同じでそれぞれ50円、80円とされている。

 ただ、「はがき」、「書状」などの料金設定が、従来の総務相による認可制から事前届け出制に変わる。改定が許可から届け出となれば変更は容易となるはずである。

 郵便事業の民営化を採用しているドイツでは、同じくユニバーサルサービスの一部である国際郵便料金の航空書状の最低料金が、官営(パブリックサービス)となっている日本(日本は10月1日より民営化)、米国、カナダの料金より約2倍高くなっている現実を示している。

 日本   官営  110円(日本は従来の値)
 米国   官営  100円
(90セント: 1米ドル=111円で換算)
 カナダ  官営  144円
(1ドル45セント: 1カナダドル=99円で換算) 
 ドイツ   民営  208円
(1.53ユーロ: 1ユーロ=136円で換算)
 ドイツ   民営  279円
(1.7ユーロ)…2.5倍以上


○公共料金手数料


 郵便局が扱う各種手数料は、民営化に伴い手数料改定で印紙税が課せられる。公共料金振り込み手数料は現在の一律30円から、3万円以上の振り込みで240円(4倍)に、定額小為替の発行手数料も1枚10円が100円(10倍)になる。


○定額貯金、積み立て

 ゆうちょの貯金のうち、定額貯金、積立貯金など定期性がある貯金は独立行政法人が引き継ぎペイオフの払い戻しの政府保証を継続する。

 他方、通常貯金や通常貯蓄貯金などは、ゆうちょ銀行が新契約として継承するが政府保証は廃止される。

 利率だが、ゆうちょ銀行の金利は民間並に下がる。ゆうちょ銀行では、積み立て貯金、教育積立貯金、国際ボランティア貯金などが破棄される。


○新規事業参入

 350兆円になんなんとする郵貯、簡保の国民の貯蓄資金は、本来、民間に資金を回し地域経済を活性化することに意義があるはずだったが、結果として民業を圧迫する可能性もある。

  たとえば、
住宅ローンに郵貯銀行は参入を狙っている。今のところ地銀の警戒でうまくいっていないが、これが地銀や大手金融機関と提携して実現すれば、中小地銀は大きな痛手をこうむる。さらにカード分野でも同じ。三井住友VISAカードやJCBと手を組むとされている。さらに、保険分野でも、三井住友海上と連携する話がある。

 さらに
物流分野でも混乱は必至だろう。郵政株式会社は露骨なヤマト包囲網で収益が悪化するだろう。郵政株式会社は物流事業への進出を狙っているものの、その進出はコストの裏付け欠いているからである。

 そもそも、郵政株式会社が会社のビジネスモデルとしてているのがドイツ・ポストの民営化事業、
国際物流事業(DHL)だ。しかし、ドイツポストは航空機を200機以上有し、の有名な国際宅急便DHLを子会社としている。

 しかも、ドイツポストの国際物流事業は、世界各国の空港の利用を前提にどうにか成功したのである。インフラ整備のための膨大な投資が事業成功の前提となっている。

 そもそもDHLなどの国際小口物流業界に日本のEMSや日通の航空便が太刀打ちできるはずがないだろう。EMSや日通のペリカン便は、ドイツポストの1/20から1/100程度の経営規模しかもっていないからだ。

 果たして郵政株式会社がドイツポストと競合するところまでの投資、リスクを負えるかが問われる。


○金融市場の混乱の可能性

 膨大な預金残高を持つ「ゆうちょ銀行」の誕生で金融市場が混乱する懸念も出ている。 なにはともあれ24万人、時価総額は数兆円に達する巨大民間金融会社ができる! 混乱がないわけがない。

 株式会社化された持ち株会社「日本郵政」(西川善文社長)が1日発足し、郵政民営化の第一歩を踏み出した。

 完全民営化のゴールは10年後の2017年。それまでに傘下の金融2社は上場を果たし、民間企業として独り立ちを目指すという。

 もし郵貯、簡保が上場した場合、時価総額は5兆円に達するとの推測もある。その場合には、株式市場の波乱要因になるとの指摘もある。ただし、本当に上場に値する企業になれるかどうかについて市場は改革の動きを注視しているといえる。


○政府の累積債務問題

 これまで郵貯や簡保の資金が国債購入に充てられ、政府の累積債務の一因になっていた。ゆう貯や簡保の資金が国債購入に充てられる心配はなくなるのだろうか?

 わが国では、従来、年間20〜30兆円規模の財政投融資が行われていた。来年、2008年以降、批判が強かった財政投融資制度が完全に廃止される。

 空港,道路、ダムなどの関連機関は今後、資金を市場で調達することを義務付けられる。その意味で民営化後、いわゆる財政投融資を通じて不要な公共事業に資金が融資されることは減る。ただしこれはいわゆる出口論。

 郵貯、簡保が民営化された場合、郵政銀行が従来同様、いや従来以上に国の国債や各種起債を大量に買うこと、国家財政を借金で下支えすることにならないか。郵貯, 簡保が大規模に国債を購入することで国の借金財政を下支えし、結果として累積債務を増やす可能性はないとはいえない。 

 理由は、財務省資金運用部から国債や各種起債購入の依頼があった場合、断りきれるかという構造的な問題があるからだ。

 仮に郵貯、簡保が民営化、すなわち郵政銀行となった場合、一見、独立した私企業である郵政銀行の自主的判断で出口を選択することが可能になるように思える。

 たとえば、民営化された郵政銀行に霞ヶ関から天下った官僚と財務省理財局資金運用部の官僚との<官製談合>で、結局、今まで通り大量の国債、起債を買わされ、もとの木阿弥とならない保証はない。事実、道路公団民営化にからんで起きている橋梁談合はその例証である。まさに官製談合そのものではないか? 


○長期的展望

  10年後の平成29年には完全に民営化される。それまでの課題は何か?

 完全民営化の目標年は10年後の2017年である。民営化した各会社は上場を果たし、民間企業として独り立ちを目指すことになるが、本当に上場がかのうであろう? ひょっとして、マンモスのたとえの通り、自滅する可能性もある!

 上述したように、時価総額は5兆円に達するとの見方もあるが、株式市場の波乱要因になるとの指摘もある。ゆうちょ銀行が上場したら、株価的に割を食うのは地銀ではないかという見方が市場で有力だ。とくに、地方の市場を活用するという意味では、地域金融機関はゆうちょの脅威に直面するのではないか。上述したように、住宅ローン分野ではつばぜり合いがはじまっている。

 さらに郵政銀行の資金運用は今までとは異なり、「民間」であること、「自己責任」であることを理由に、大きなリスクを追うことになるだろう。

 たとえば今後、金利上昇局面に転ずるとなると、国際流通市場での価格暴落のリスクが一気に増大し、結果的に大きな評価損を抱え込むことになる。


 以下は参考資料


民営化の日本郵政が2010年度にも上場へ

株式市場の波乱要因にも
2007年 10月 1日 18:11 JST

 [東京 1日 ロイター] 
 株式会社化された持ち株会社「日本郵政」(西川善文社長)が1日発足し、郵政民営化の第一歩を踏み出した。完全民営化のゴールは10年後の2017年。それまでに傘下の金融2社は上場を果たし、民間企業として独り立ちを目指す。上場した場合、時価総額は数兆円に達すると見方もあり、株式市場の波乱要因になるとの指摘もある。上場に値する企業になれるかどうか。市場は改革の動きを注視している。

 ゆうちょ銀行の時価総額は数兆円、早ければ2010年度に上場へ

 日本郵政グループは、グループ本社の日本郵政の傘下に事業会社の「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」、郵便事業の「日本郵便」、3社の商品を販売したり取り次いだりするネットワーク会社「郵便局」の4事業会社がぶら下がる。従業員24万人、総資産は340兆円、郵便局のネットワークは2万4000カ所に上る。

 2007年度の当期利益見通しは、郵便業務が1050億円の赤字、郵便貯金業務が2900億円の黒字、簡易保険業務が1400の黒字だ。

 グループ最大の稼ぎ頭と目されるのが、総資産の3分の2を占めるゆうちょ銀行だ。国内最大金融グループの三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306.T: 株価, ニュース, レポート)の時価総額は約11兆円で、総資産は約187兆円、07年度の当期利益見通しは8000億円。これに対して、ゆうちょ銀は総資産222兆円で、08年度以降3000億円以上の当期利益を稼ぎ出す目標を掲げている。

 ある証券会社の金融法人担当者は、ゆうちょ銀行の時価総額について「ざっと数兆円。5兆円程度にはなるかもしれない。大手銀行と比べると、ゆうちょ銀行の収益力は低いが、なにせ規模が大きい。」と語る。

 ゆうちょ銀行が目指す上場時期は早ければ2010年度。政府の計画によれば、現在は「国有会社」となっている日本郵政グループの株式について、2017年までに日本郵政株式の3分の1程度を残して売却。金融子会社の2社は2010年度の上場後、17年までに株式売り出しを終え、グループからの離脱を目指すことになる。郵政民営化を監視する政府の「郵政民営化委員会」(田中直毅委員長)は、経営の透明性向上などのために市場への株式放出が必要だとしている。

 <株式市場の波乱要因になる可能性、地銀の株価に影響も>

 しかし、市場関係者の間では、ゆうちょ銀やかんぽ生命が上場に値する企業になるかどうかを疑問視する声が多い。あるファンドマネージャ―は「日本の株式市場で、銀行セクターに数兆円の資金を吸収できるだろうか」と語る。

 国営企業が民営化し、上場したケースとしては、旧電電公社や旧国鉄などの前例がある。「旧電電公社は、そもそも独占企業で、その技術力も評価されていた。旧国鉄も私鉄と比べるとネットワークの充実度が高かった。果たしてゆうちょ銀に独自性があるのか」と指摘する銀行アナリストもいる。すでに、オーバーバンキングと評価される銀行業界。独自のビジネスモデルも構築できていない上に、ガバナンスがずさんとの指摘も多く、ゆうちょ銀が株式市場というハードルを飛び越えられるかどうかは不透明だ。

 日本郵政グループの競争力のひとつと目されるのは、全国に張り巡らされた郵便局のネットワーク。ゆうちょ銀やかんぽ生命は、代理店契約を結ぶ郵便局ネットワークに投資商品や住宅ローンなどの金融商品を乗せて販売するのがひとつのビジネスモデルだ。すでに投信販売では大手地銀を上回る実績を上げている。

 「ゆうちょ銀行が上場したら、株価的に割を食うのは地銀ではないか」─―。こんな見方もマーケットでは浮上している。「地方のネットワークを活用するという意味では、ゆうちょの脅威に直面するのは地域金融機関だ」と、ある業界関係者は分析している。