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自壊の道をひた走る大メディアE

〜時代錯誤の地デジ利権〜

青山貞一

掲載日:2008.12.25


 現在の地上波のアナログテレビ放送が近い将来、地上波デジタルテレビ放送に変わることになっている。

 この地デジは、2003年12月1日11時より東京都、名古屋市および大阪市の3大都市圏のNHK3局、民放16社から放送が開始され、2006年12月1日には全ての県庁所在地を含む一部の地域で放送が開始された。

 現在放送されている地上アナログテレビジョン放送は、「国策」によって、2011年7月24日までに放送を終了し、停波することになっている。

 だが、国策で進められてきた「地デジ」は、技術的に見れば完全に時代逆行な放送システムである。

 世界のテレビメディアは、CS(通信衛星)と光ファイバーを用いたものが圧倒的に主流となっている。CSと光ファイバー方式をとれば、300回線もの多チャンネルが実現するだけでなく、双方向で今日常的に使っているインターネットとも容易に融合できる。

 今、行われている「地デジ」は300回線どころか、今ある地上波アナログテレビと同じ局数しか局数ができないことになっている。

 では視聴者にとってこの「地デジ」は、何のメリットがあるのか?

 日本固有のこの「地デジ」では、チャンネルが増えるわけではない。せいぜい地上波で高画質化とワンセグテレビ放送*が実現する程度だ。視聴者は「地デジ」を見るために、2011年までに新たなチューナーやテレビ、アンテナを買い替えなければならない。

 *ワンセグ(1seg)
   日本では主に携帯機器を受信対象とする地上デジタル
   テレビジョン放送(地デジ)。「携帯電話・移動体端末向
   けの1セグメント部分受信サービス」を指す。

 さらに視聴者にとって「地デジ」が現状と比べマイナスとなるのは、BSデジタル放送同様の「B-CAS」カードが取り付けられる可能性が高いことだ。

 日本のデジタルテレビ放送は、なぜか暗号化されて搬送されており、「B-CAS」カードは、それをテレビとして映るようにする役割をもっている。簡単に言えば、2011年以降、日本のテレビ放送がすべてデジタル化されると、「B-CAS」カードなしで受信不可能となる可能性が大である。


「B-CAS」カード

 さらに、デジタル化に伴い、「B-CAS」に加え「コピーワンス」が付加される可能性が高い。「コピー禁止」の信号を地デジに加え、チューナーがそれを感知するとテレビ映像の複製を2回以上できなくさせるものだ。BSデジタルテレビ放送でもごく最近まで2回以上複写ができなかったが、これが「地デジ」にも適用されることになる。

 日本固有のこの「地デジ」システムは、世界のメディア関係者から疑問視されている。それどころか世界の笑いものになっている。世界中で地上波のテレビ放送を暗号化して搬送しているのは、日本だけである。

 視聴者にとってみれば、地上局数が増えず、複写も制限され、 しかも経済的負担が大幅に増える。画質が向上する代わりにプラスはない。もし、CS+光ファイバー方式をとれば、画質向上以外に局数が300局まで増え、双方向性が容易に実現する。アンテナを新たに付ける必要もなくなる。

....

 ではなぜ、一般視聴者にとってさしてメリットがなく、経済的負担がかかる「地デジ」が、国策で導入されたのか

 それは言うまでもなく、テレビ業界との間での利権である。地デジ化されても局数が増えないということは、現在のテレビネットワークの各種の権益が追認される。

 そしてテレビ業界の利権が維持されるのである。キー局を頂点に地方局を全面支配し、番組と広告主を実質独占している一大利権が「地デジ」の導入により維持されるのである。

 もし、CS+光ファイバー方式となれば、テレビのチャンネル数が現在の5−7局から一気に300局まで増える。その結果、従来、独占している広告主(スポンサー)との契約利権が激減することになる。これは、現在のBSデジタルを見れば明らかである。

 BSデジタルテレビでは、地上波アナログテレビのキー局が中心となって放送利権が追認されている。現状を追認させることにより、今までの既得権益を数社のテレビ企業が維持してきたのである。

 次の利権は、家電業界の利権である。2011年前に家電業界は、膨大なテレビの買い換え需要をもつ。安くなったとは言え、消費者、視聴者は、それなりに十分見えていたテレビから地デジ対応の高額のテレビやチューナー、デコーダー、アンテナに替えなければならい。それも全国津々浦々、全世帯でである。

....

 「地デジ」とはいえ、UHF帯の電波を使うテレビである。となれば電波法、放送法と無縁ではない。旧郵政省、現在の総務省の電波法に基づく「免許制度」が継続される。となると政府と政治がテレビ放送と密接に関係する。

 事実、日本では歴史的に時の政権が法と行政指導をたてにテレビメディアをコントロールしてきた。これによって、多分に日本の報道のあり方も左右されてきた。事実、政府や与党批判を自民党の広報組織が常時監視し、ことあるたびに、テレビ局にクレームを付けてきた。

 要約的に言えば、政権(与党)や政治(家)がテレビメディアの権益を優先、優遇することで、テレビメディア側も時の政権(与党)や政治(家)を支える構図、持ちつ持たれつの利権の構造である。

 日本のテレビメディアが与党、政府自民党にからきし弱いのは、ここに理由がある。もし、あるテレビ局やある番組が時の政権(与党)や政治(家)を権力監視的視点から徹底的にマスコミ本来の役割を果たせば、そのテレビ局はあらゆる場面で冷遇され、いじめられることは明らかだ。

 日本では憲法によって言論の自由が保証されているはずだが、それは時の政権(与党)や政治(家)のさじ加減次第であることをテレビメディアは熟知しており、結局、テレビメディアは、政権与党の横暴を看過することで、多くの権益を謳歌してきたのである。「地デジ」は間違いなく、その延長線上にある。

...

 「地デジ」を国の政策=国策として日本社会に導入させたのは、他ならぬかの小泉政権である。そして、小泉政権へのテレビメディアからの返答があの郵政民営化のシングルイッシューでたたかわれた総選挙での異常なメディアの小泉報道であるといえる。

 ところで、日本固有の「地デジ」を具体化するには、大きな技術的問題があった。
その問題を解決する名目で、政府は1800億円もの巨費を「地デジ」導入に投入したのである**。こうして、「政官業」一体となった「地デジ」利権が現実のものとなった。

 当然のことだが、このように巨額の国費を投入し、時代錯誤の地上デジタルテレビを国策で導入したことを批判するテレビ、新聞など大ディアはまったく存在しない。なぜなら、大メディア自身が利権のまっただなかにいるからである。

 だが、地デジによる巨大テレビメディアによる広告宣伝費独占の現状追認、既得権益確保も、広告宣伝費を出す企業があってのことである。その企業が金融危機以来、瀕死の重体にある。赤字となった巨大企業が、まっさきに削るのは広告宣伝費である。

 その広告宣伝費という利権のもととなるパイは間違いなく小さくなる。また若い世代は間違いなくテレビメディアや新聞から離れている。日本固有の利権に満ちた地デジやBS放送システムは、持続性もなく、生き残れる可能性も少ない。


**1800億円の税金投入の解説

 現在の(アナログ)テレビの放送は、VHF帯(90〜220MHz)で行われている。地上波デジタル放送では、これをUHF帯(470〜770MHz)に移すわけだが、一部の地域では既存のアナログUHF局の電波が密集しているため混信が起こりやすく、十分な周波数が空いていない。

 そこで、現在のアナログ放送局の周波数を変更して、デジタル放送のための周波数を空けるのがいわゆるアナアナ変換である。

 これは文字どおりアナログからアナログへの変換であって、本来のデジタル化には関係ない。このような無駄な作業に1800億円の国民負担と7年もの時間をかけることになった。

 こんな馬鹿げたテレビ放送システムは当然のこととして世界に類例がない。