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長野県松本市旧安曇村
霞沢砂防ダム建設
現場見学会報告A

田口康夫
渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える会代表

10 September 2009 無断転載禁
初出:独立系メディア「今日のコラム」

                 

 いよいよ本題のダムサイト付近の説明になるが、写真10がダムサイトである。

 左(右岸)から入ってくる岩盤が中央に見えるが、この岩盤から4mをスリット開口部(川があるところ)とし、右側(左岸)にダム本体をつくる計画であるという。現場付近を見て驚いたことにダムから上10m、30mの範囲に写真11のような大崩れの箇所が3箇所ある。


写真10 ダムサイト


写真11ダムサイト付近の崩れ

 この崩れの大きさから考えるとこの砂防ダムは大きなゴーロ状滝となる可能性が大きく、こうなると環境に配慮したダムどころではなくなる。4m幅のスリットは詰まらないことを前提としているということだが、もし詰まったときのことを考えて、ここまでの工事用道路は維持するということだ。道路は写真12のように川の中にフトンカゴを設置し上に盛土すると言う。そうなると流れの蛇行が遮られ、流れの変化が得られなくなりイワナ環境(瀬と渕の存在)はますます悪くなってしまう。


写真12 河川敷中への工事用道路


写真12-1 渓岸壁のコケ

 次にダムサイトから上流側の狭窄部の方を報告する。先に書いたようにこの沢の最も美しい場所でもある狭窄部はおよそ500m続く(写真13〜21)。ダムが完成すれば堆砂の影響がこの部分まで出ることは免れない。


写真13 狭窄部の中、流れも強い

 狭窄部ができる理由は、ここの岩盤が他に比べ硬いため浸食が主に縦方向にだけ進むことによってできた場所である。あるいはこの周辺には梓川を通る断層帯が多数あり、その裂け目が川になったのかもしれない。

 川幅が最も狭い所は3m足らずほどで正にスリットダムのそれと同じ機能を持っていることが見て取れる。また写真12-1のように渓岸壁から水が滴れ落ちるため、コケや親水性の植物が繁茂し非常に美しい。長い年月によって自然の力によってできた景観はなんともいえない美しさを持っている。   

 この狭窄部の中に今回の梅雨による出水で新たに滝ができていた。できた滝の数は大小6、個くらい、写真14はその内の2個だがこの部分の一番上の滝までの落差合計は7〜8m前後、一番上の滝上流側は、砂防ダムと同じように大量の土砂を溜めている。


写真14 新しい滝、できたり壊れたりする

 写真15は渓岸の崩れによるせき止めで滝が連続し、その合計落差は30mほどある。写真16はその最上部を上流側から撮ったものであるが、倒木の所からいっきに落ち込んでいる。右側に1mほどの土砂堆積跡が見えるが、この様な跡が何段にもなっているのが分る。


写真15 渓岸の崩れによる滝


写真16 滝上、倒木箇所から落ち込む

 写真17の奥の方に1段の高さが1.5mほどの堆砂跡が2段見える。この現象は、写真16の滝壁(堤体)が現在の高さより高くせき止められ、水が溜まっていたことを現している。


写真17 奥の方に2段の堆砂跡が見える

 堆砂が2段になっているのは、せき止め壁が2度決壊したことを意味するか、上流からの土砂流出(土石流)が時間間隔を空けて出たことを意味する。いずれにしても去年まではこの部分には滝がなく左右の岸壁が迫っていたところであった。

 写真18は、写真17で見える段差堆砂の上での撮影であるが、一番下の滝からの高さを考えると20m前後の土砂が堆積していることになる。土砂量も数万立米の桁になると思うが、この様な天然の砂防ダム効果が現れる所が何箇所(写真14)もできている。


写真18 ダム化で堆積した土砂の上で

 写真19の様な渓岸壁も非常に高く、仮に何らかの詰まりによるダム化が起これば大きなダムと同じ機能を持つこととなる。ちなみにこの狭窄部が終わる所から上流は川幅が広がる。写真21は最上流狭窄部(ゴルジュ)の上流側で、手前には堆積土砂が見える。


写真19 渓岸壁の高さは非常に高い

 ここの形状(写真20)は正にスリットダムそのものの土砂を溜め調節する機能を持っている。またダム壁と同じ働きをするところの高さは30mを優に超え、その土砂調節機能は狭窄部の中のそれよりも1桁多いものになる。ダム建設現場の直ぐ上流に砂防ダム効果より遥かに多い土砂調節効果の機能を持った自然の場所があるということだ。


写真20 最後の狭窄部、最小幅4m足らず

 計画生産土砂量が流域面積に流出係数を掛けるような値は、土砂流出のモニタリングという検証過程を経ていない。単なる机上の数値でダム計画が進行しており、谷の形態などおかまいナシだ。この様な事実を持って考えると、今計画されている砂防ダムの無意味さと環境破壊の原因が全て人間の仕業であることが分ってもらえると思う。

 まだまだ沢山の美しい写真を見せたいのだが、それよりも暑苦しい下界を離れ、ジャブジャブと冷たい水に浸かりながら美しい渓流空間を堪能することを薦めたい。わずか1時間くらい歩けば美しい渓流景観が堪能できる素晴らしい立地条件を持つ場所である。松本市民のみなさん、岩肌を削り取る自然の妙技は万年の年月を要している。こんな場所を壊す愚行を止めることに理解と力を貸してもらいたい。