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燃料サーチャージは高すぎる!
国際線
収支分析「私論」
A成田→ロサンゼルス路線編

青山貞一
掲載月日:2008年11月16日


 ここでは、JALやANAの国際線の燃料サーチャージ額の妥当性を検討することを目的として、概括的にジャンボジェット機が成田からロサンゼルスまで片道運行する際の収支分析を試みる。

 航空会社から詳細な情報が開示されているわけではないので、以下の分析では、あくまで私的な収支分析であることを最初に断っておく。

 第二編はJALの成田→ロサンゼルス路線について分析する。


1.前提条件

 ここでは収支分析の前提として以下の諸条件をおくものとする。

1−1 路線

 @成田→ロンドンの片道巡航(第一編)
 A成田→ロサンゼルスの片道巡航(第二編) 

 参考:JALの国際巡航路線

1−2 航続距離

 @約10,200km(成田→ロンドン路線)出典:JAL

 A約6,700km(成田→ロサンゼルス路線) 出典:Google Earth



1−3 航空機


 ジャンボジェット(ボーイング747ー400)
出典:Wikipedia

 JALの747航空機、最新所有及びリース一覧
機 種 所有機 リースイン機 (合計)
Boeing747-400 36 1 37
Boeing747-400F(含 747-400BCF) 5 2 7
Boeing747-200/300 9 0 9
Boeing747-200F 3 1 4
 出典:JAL

1−4 乗客数

 いずれも片道とし乗客数が
 @350人、
 A300人、
 B250人
の3ケースを前提に収支計算を行う。

 以下に示す747−400には、エコノミー319座席、ビジネス64座席、ファースト14座席がある。この割合、座席数は航空会社により異なるが、ここでは以下を前提とした。

出典:ボーイング社

1−5 航空チケット料金

 HIS、オールウェーズ、eツアーなど、旅行代理店の実売価格を前提とした。これは格安チケット、エコノミーチケット、ビジネスチケットを調査し、平均的な実売価格を前提とした。

 具体例
 http://www1.tour.ne.jp/search/air/air_dtl.php/313225/2009/2/17/
 http://www1.tour.ne.jp/search/air/air_dtl.php/295361/2009/2/17/

1−6 燃料サーチャージ料金

 いずれも片道とし、
 @現状の3万3千円、
 A来年1月以降実施されるとされる片道2万1千円、
航空会社/行き先 2008年
9月30日発券分までの
燃油
2008年
10月1日発券分からの燃油
日本航空/北米・メキシコ・欧州・中東・オセアニア \28,000 \33,000
全日空/欧州・北米・中東 \28,000 \33,000
 B加えて片道1万円
の3ケースを想定する。

1−7 燃料価格と燃料費用

 以下は灯油の1ガロン(3.8リットル)当たりの価格は、この一年以下の図のように変化しているが、本収支分析ではJALが先に示した1バレル当たりの価格が何を指しているのか不明なため、JALがいうロンドン線の燃料使用量と価格をもとに燃料費用を用いている。

 なお、ロスは巡航距離で按分した燃料費用をもちいた。


出典:http://www.wtrg.com/daily/oilandgasspot.html

 以下は、先物原油価格の最新データ。ピークは2008年7月で147米ドルまでいったが、現在は58米ドル。

出典:http://www.wtrg.com/daily/oilandgasspot.html

1−8 為替レート

 1米ドル=100円

 以下は過去1年間の円米ドル為替レート。


出典:Yomiuri online


2.収入

2−1 燃料サーチャージ(片道)

@燃料サーチャージが3.3万円の場合
 
 350人×3.3万円=1155万円
 300人×3.3万円= 990万円
 250人×3.3万円= 825万円

A燃料サーチャージが2.1万円の場合
 
 350人×2.1万円= 735万円
 300人×2.1万円= 630万円
 250人×2.1万円= 525万円

B燃料サーチャージが1万円の場合
 
 350人× 1万円= 350万円
 300人× 1万円= 300万円
 250人× 1万円= 250万円

2−2 航空運賃(片道)

 前提:航空運賃は代理店等へのコミッションを除いた額


 国際航空運賃は過酷な安売り販売に曝されていることは否定しない。たとえば、成田−ロサンゼルス往復のJALのエコノミー航空運賃(往復)は、サーチャージ、空港利用税、保険などを除外したチケットは、時期にもよるが代理店で格安券を45000〜60000円で購入できる(以下のURL参照)。

 http://www1.tour.ne.jp/search/air/air_dtl.php/313225/2009/2/17/
 http://www1.tour.ne.jp/search/air/air_dtl.php/295361/2009/2/17/

 ここでは代理店の手数料等を差し引いた後の航空会社の取り分として片道分の格安運賃を2万円、エコノミー5万円、ビジネスクラスを15万円とした。

@乗客が350人の場合
  250人× 2万円(格安、片道)    = 500万円
   70人× 5万円(エコノミー、片道)= 350万円
   30人×15万円(ビジネス、片道) = 450万円 
   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                       小計 1600万円

A乗客が300人の場合
  200人× 2万円(格安、片道)    = 400万円
   70人× 5万円(エコノミー、片道)= 350万円
   30人×15万円(ビジネス、片道) = 450万円 
   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                       小計 1500万円

B乗客が250人の場合
  180人× 2万円(格安、片道)    = 360万円
   50人× 5万円(エコノミー、片道)= 250万円
   20人×15万円(ビジネス、片道) = 300万円 
   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                       小計 1160万円


3.支出(成田→ロサンゼルス路線)

3−1 燃料費


 以下はJALの説明

A成田→ロサンゼルス

 東京から1万200キロの彼方にあるロンドンに、約13時間でお客さまと貨物を輸送するジャンボジェット機B747-400(エンジン4発)の総消費量は16万6,000リットル、200リットルドラム缶にして約830本、60リットル燃料タンクの普通乗用車であれば約2,800台分の燃油を消費する。

 ロサンゼルスについて距離の比で燃料の費用を換算すると、燃油価格が1バレル30米ドルの場合約340万円、これが80米ドルに跳ね上がると3倍弱の約920万円になる。

 東京からロサンゼルスまでの直線距離6,700キロの比で換算すると、1バレル30米ドルの場合約220万円、これが80米ドルに跳ね上がると3倍弱の約600万円になる。

http://www.jal.com/ja/corporate/claim/key12/index2.html

 参考:ジャンボ満タン時の航続距離14,815 km、巡航速度Mach(マッハ)
      0.855、913 km/h 、概算で連続巡航時間は16時間となる。

 ジェット燃料は、現在1ガロン=3.8リットルとしてジェット燃料費が1ガロンが2.2ドル程度である。仮に1ドルを100円とした場合、16万リットル×57.9=926万円、ロサンゼルスに換算すると約609万円となる。以下は最近までの燃料価格の推移。

 ※燃料費:ロンドン線の片道の燃料費  約926万円/片道
 ※燃料費:ロサンゼルス線の片道の燃料費  約609万円/片道


 
3-2 人件費

@パイロット人件費
 平均年収2000万円とし250日勤務として計算
 平均8万円×3人日=24万円

A客室乗務員人件費
 現在客室乗務員は派遣が多くなりかつてのような高収入は得られないが、ここでは敢えて3万円とする
http://www.bekkoame.ne.jp/~jcau/ca.pdf
 平均3万円×10人日=30万円

B整備及び貨物要員の人件費
 平均年収500万円とし250日勤務として計算。ただし年齢は35歳としている
 平均2万円×5人日=10万円

 ※人件費小計 64万円/日


3−3 旅費

 行き先でのホテル宿泊(定宿宿泊費+日当)

 2万円×13人=26万円
 ※宿泊費・日当合計 26万円/泊


3−4 顧客サービスとしての食費

 350人×0.3万円=105万円
 300人×0.3万円= 90万円
 250人×0.3万円= 75万円

 ※食費 (350人)105万円/日
       (300人) 90万円/日

       (250人) 75万円/日


3−5 ジャンボジェット機の1巡航当たりの損料

 ジャンボジェット(機体+エンジン)は1機約220億円とする。本来航空機器は買いきりでなく、リースだが、ここでは国際線のジャンボジェット機のライフサイクルの巡航回数を2万回と仮定した。

 220億円÷2万回=110万円/回

 ※機器損料合計 110万円/回


3−6 航空機整備費

 
ここでは航空機の整備費を1フライト当たり、機器損料の2割としている。

 ※航空機整備費 22万円/回


3−7 空港利用料(着陸料)


 ジャンボジェット1機につき約100万円(1トン当たりの重量で利用料は決まる)。

 ただし、ここでは成田からロサンゼルスやロンドンに行くので、この費用は含めない。成田から海外に出て、成田に帰ってくる場合、一人一律2400円の空港利用料がかかるが、これは海外から成田に到着する場合の着陸料の一部を意味する。



4.収支分析(成田→ロサンゼルス路線) 

4−1  燃料サーチャージが片道3万3千円の場合

 @乗客が350人の場合
 収入合計 2455万円
 支出合計  931万円         
−−−−−−−−−−−−
        
1524万円/片道

 A乗客が300人の場合
 収入合計 2190万円
 支出合計  916万円
−−−−−−−−−−−−
        
1274万円/片道

 B乗客が250人の場合
 収入合計 1785万円
 支出合計  901万円
−−−−−−−−−−−−
          
884万円/片道

 いずれも収支は黒字である。

4−2  燃料サーチャージが片道2万1千円の場合

 @乗客が350人の場合
 収入合計 2035万円
 支出合計  931万円         
−−−−−−−−−−−−
        
1104万円/片道

 A乗客が300人の場合
 収入合計 1830万円
 支出合計  916万円
−−−−−−−−−−−−
         
914万円/片道

 B乗客が250人の場合
 収入合計 1385万円
 支出合計  901万円
−−−−−−−−−−−−
         
484万円/片道


4−3  燃料サーチャージが片道1万の場合

 @乗客が350人の場合
 収入合計 1650万円
 支出合計  931万円         
−−−−−−−−−−−−
         
719万円/片道

 A乗客が300人の場合
 収入合計 1500万円
 支出合計  916万円
−−−−−−−−−−−−
        
584万円/片道

 B乗客が250人の場合
 収入合計 1485万円
 支出合計  901万円
−−−−−−−−−−−−
         
584万円/片道


5.考察(成田→ロサンゼルス路線)

 上記の分析では、会社組織としての役員報酬、社員給与、チケッティング要員などの地上要員、管理費、固定費などは含まれていない。

 現状でJALやANAは燃料価格が激落しているにもかかわらず燃料サーチャージを3万3千円もとっており、シミュレーションでは乗客が250〜350名の場合、大幅な黒字となっている。このサーチャージは、燃料の費用がピークに達したときのものであるが、激落したの現在も据え置くことで、航空会社は巨額の利益をあげていることになる。成田ーロサンゼルス路線では、ロンドン路線以上比べると片道3万3千の燃料サーチャージによって暴利を得ていると言っても過言ではない。

 JAL,ANAは来年の1月以降、燃料サーチャージを片道2万1千円に下げると国土交通省に届け出た。片道2万1千円の場合、250〜350名のいずれの場合も約1100万円から約500万円黒字となっている。

 今後、燃料価格の下落が継続することが想定される。その場合には、ロサンゼルス路線では燃料サーチャージが片道1万円でも大幅な黒字が見込めるはずである

 上記の分析はあくまで1ドルを100円とした場合であって、1ドルが90円になれば乗客が200名以下でも黒字となる。実際、現状では1米ドル=94−96円となっている。

 JALやANAがロサンゼルス路線でも高額なサーチャージをとっているのは、きわめておかしい。なぜなら北米といってもニューヨークやマイアミまでの遠距離もある。

 ニューヨークなど北米でも西海岸より遠い路線では、巡航距離が大幅に多いが、ロサンゼルス路線ではその半分強の距離である。北米で一律の燃料サーチャージ設定自体がきわめておかしい。たとえば、ロサンゼルスでサーチャージを片道1万5千円とした場合にはニューヨーク路線では2万5千円とするなど、より距離にあわせて燃料サーチャージとすべきである。

 上記は筆者が過去の論考で何度も指摘してきたことだが、航空会社はまさにどんぶり勘定で一律3万3千円としてきた。

 そもそも燃料価格が激落し為替も円高となっているのに、JALやANAは国土交通省に10月1日以降もサーチャージ料の値上げを申請し、国土交通省は何ら行政指導をすることなく、値上げを認めている。

 このようなずさんな価格設定をしている限り、利用者は国際線の利用を抑制する。

 来年以降のサーチャージ値下げ申請に際しても、航空会社は経済不況で需要が下がっていることを理由としている。しかし、現実は燃料価格の下落、為替の円高を利用者が熟知しており、航空会社の現実をみずに燃料サーチャージをあげてきた体質にいやけをさしていることがあることを直視すべきである。