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三浦和義氏追悼:

〜本人訴訟マニュアル〜

青山貞一
掲載月日:2008年10月11日


 三浦和義氏は500件に及ぶマスコミを相手とした民事訴訟(不法行為による故意又は過失による権利侵害に対する損害賠償)を三浦氏自身が本人訴訟で拘置所で闘った経過をもとに執筆した「弁護士いらず〜本人訴訟必勝マニュアル」を著している。

三浦 和義
発行:太田出版
四六判 320ページ 並製
定価:1,700円+税 
ISBN978-4-7783-1086-8 C0032
奥付の初版発行年月:2007年08月
書店発売日:2007年08月09日

 なかでも、サンケイスポーツ相手に起こした民事訴訟の一部始終を40に及ぶ項目で書いた内容は、裁判の専門家も舌を巻くほどの詳細かつ正確なもので、今では市民団体などによる本人訴訟のマニュアルとなっている。


 この事件は、いわゆる「ロス疑惑」を報道したサンケイスポーツが「三浦動揺、初めて見せた弱気」「食事つかえがち、異常にノド乾く」などと紙面で報道したことに関し、三浦和義氏が「そういったことはまったくくない、事実に反することを書かれた 重大な名誉毀損だ」として東京拘置所にいながら訴えた事件で三浦氏が全面的勝利している

 以下は、弁護士による読後の感想(出典:福岡県弁護士会


弁護士いらず

著者:三浦和義、出版社:太田出版

 ロス疑惑で世間をひところ大いに騒がせ、しかし、予想と「期待」を裏切って無罪判決を見事に勝ち取った三浦和義氏が書いた本人訴訟をすすめる本です。内容はすごく真面目で、好感がもてます。

 三浦氏は「ロス疑惑」の報道について、本人訴訟と代理人をたてた訴訟をあわせて500件以上もマスコミ相手の裁判をやったそうです。そして、そのうち470件あまりの本人訴訟で、8割の勝訴率というから、偉いものです。

 東京拘置所に13年あまり勾留されていたあいだに100冊もの専門書を買って勉強して訴状を書き、準備書面でマスコミ報道が名誉毀損にあたることを主張して立証していきました。マスコミがありとあらゆるデマ報道をしていたのを見過ごせないと三浦氏は立ちあがったのです。

 三浦氏が報道被害者だったことは、この本を読むとよく分かります。8割の勝訴率をふまえて、三浦氏は裁判所はおおむね公平で信頼できるとしています。

 三浦氏は、勝訴判決や和解金によって合計して1億数千万円(2億円弱)を得たそうですが、コピー代1500万円、印紙・切手代500万円ほか、支払った弁護士費用とあわせて保険金返還訴訟で負けた判決で強制執行を受けて、今は無一文だということです。

 拘置所のなかでは月に3冊しか本を読めないという規則を、三浦氏が粘り強く抗議して月6冊に変えさせたというのには驚きました。たったそれだけを変えさせるまでに4ヶ月もかかっています。

 拘置所在監中の被告人が民事訴訟の法廷に出頭できるものか疑問に思っていましたが、本人尋問の多くは裁判所の法廷で実施されたようです。拘置所で尋問するという裁判所の決定に対して、三浦氏は異議申立をし、さらに忌避申立までしています。これまた、たいしたものです。

 裁判における主張は、理路整然と、終始一貫していることが大切だ、姑息な手段や立証は避けるべきで、堂々とした主張・姿を保つことが大切だという三浦氏の教えには弁護士としても大いに共感しました。弁護士が読んでも参考になる本です。


 以下、サンケイスポーツ訴訟に関する40項目を三浦和義著の
「弁護士いらず〜本人訴訟必勝マニュアル」から以下に示す。

 なお、各項目の詳細は著書をご覧いただきたい。


<凡例>
●:獄中にいるので必要となった項目
:訴訟進行上のキーポイント

1 第一歩は内容証明郵便:
三浦氏が株式会社サンケイスポーツに当てた内容証明の全文

2 サンケイスポーツからの回答:
三浦氏の内容証明郵便に対する新聞社側の回答

3 裁判所への訴状提出

新聞社の冷たい対応を受け、いよいよ訴状を書く。
訴訟記録や参考書・前例を参考に論点を整理して書く。

4 司法記者クラブへの通知文:
三浦氏が新聞社に訴状を提出したことを社会的に
アピールするため司法記者クラブに書き送った通知文。

5 裁判所からの通知:
裁判所から三浦氏あての事務連絡

6 裁判所への事務連絡:
先の事務連絡を受け三浦氏が裁判所に送った連絡文

7 被告からの答弁書
三浦氏の訴状が裁判所経由で被告の新聞社に届けられ、
それに対し新聞社の弁護士が作成した答弁書が三浦氏
に送られてきた。

8 被告の答弁書への反論
被告側による全面反論への三浦氏の反論。論点に踏み込
み反論を書き裁判所に提出。

9 被告からの反論の到着
三浦氏の第一準備書面に対し再度、被告の代理人(弁護士)
から反論が到着。論点が反論の往復で深められる。

10 裁判所からの事務連絡:
書類の送達方法及びその他の事務手続きの連絡

11 三浦氏の第2準備書面:
裁判独特の用語や言い回しが色々と出て、くるがが、
辞典を横において読んで欲しい。

12 被告側の証人申請の書類:
被告側が自分の主張を裏付けるため証人を申請してきた。
新聞社の編集局の人。

13 裁判所への三浦氏からの問い合わせ:
裁判とは関係ないが、裁判の進行を緩めないための三浦氏の工夫。

14 裁判所への僕の問い合わせ:
その2 これも裁判所への事務問い合わせの文書 
不明のことが生じた時、三浦氏は裁判所へ問い合わせを出した。

15 三浦氏の第3回の準備書面:
準備書面のやりとりで論点が深まる。被告の主張に反論すべく、
慎重に考え反論を用意。

16 拘置所所長への出廷願い:
裁判所への出廷願いを拘置所長に出す。

17 裁判所への上申書:
東京拘置所が三浦氏の裁判所への出廷を認めなかったので、
その状況を裁判所に上申書として説明するために提出。

18 裁判所の決定文書到着:
拘置所の都合で三浦氏が裁判所に出廷出来ないことから
証拠調べの場所を東京拘置所内で行うことにしたい旨の内容。

●19 裁判所に対する僕の異議申立書:
東京拘置所で尋問を行うことになったが、三浦氏以外の本人訴訟
は東京地裁で開廷されたことに異議申し立てたもの。

20 裁判所からの事務連絡:
口頭弁論調書の交付を受けるための手続と費用を裁判所に聞いた
ことへの裁判所からの回答。

21 訴訟記録の謄本交付申立書:
裁判所に口頭弁論の謄本交付を申し立てるための文書。

22 裁判所への再度の異議申し立て:
裁判所決定に対する再度の異議申し立て。
裁判官忌避申し立てまで進むことになる。

23 裁判官忌避申し立て:
証人尋問を東京拘置所で行うという決定をした裁判官の
忌避を申し立て。裁判官を変えて欲しいという申し立て。

24 本人尋問の質問項目の一覧書:
三浦氏の本人尋問の際に裁判官が三浦氏に尋問して
欲しい内容を箇条書きにして提出した尋問事項書。

25 裁判官忌避についての裁判所の決定書:
裁判官忌避につき裁判所がそれを却下する判断。

26 三浦氏が裁判所に提出した裁判日程の要望:
三浦氏にとって都合のよい日程を要望。

27 三浦氏の第4回準備書面の提出
準備書面で被告側に釈明を求めていた(求釈明)が、釈明
されていないことについて再度、裁判所に求める。

28 裁判所より証人取り調べ期日の通知:
証人尋問が東京拘置所内で開かれることの通知。

●29 拘置所所長への出廷願い:
東京拘置所にいる三浦氏が拘置所内の取調室で開かれる
尋問に出廷るための拘置所所長への許可願い。

30 裁判所への事務手続の問合せ:
拘置所内で開かれた尋問記録の謄本を求めるため、
三浦氏が裁判所に問い合わせた事務連絡。

31 裁判所からの事務連絡:
問い合わせへの裁判所からの回答。

32 本人尋問調書
手続により三浦氏の手元に本人尋問調書が到着。

33 新聞記者の証人尋問記録
サンケイスポーツ新聞記者の証人尋問記録。
弁護士が最初に主尋問を行い、次に三浦氏自身が
反対尋問を行っている。

34 三浦氏の第5回準備書面:
これまでの準備書面のやりとり及び尋問内容を総括し、
三浦氏が自分の主張が正当であることを再確認する
準備書面を提出。

35 被告側の準備書面:
三浦氏の第5回準備書面を受け、被告代理人が自分
の正当性を主張するための準備書面を提出。

36 裁判所への最後の上申書:
拘置所により裁判所への出廷を不許可にされたことに
ついての裁判所に上申書を提出する。

37 三浦氏の最終準備書面:
被告側提出の準備書面への反論。被告側の不備及び
誤りを徹底的に指摘。

38 勝利判決:
三浦氏が訴状を書いてから1年10ヶ月、勝訴判決。

39 裁判所への問い合わせ文書:
三浦氏勝訴判決に対し被告が控訴したか否かを裁判所
に問い合わせた文書。

40 裁判所への問い合わせへの回答:
控訴期間中に被告側から控訴の申し立てがなく、三浦氏の
勝訴が確定したことの回答。