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朝鮮半島情勢と世界情勢

ノーム・チョムスキー

出典:統一評論 2007年12月号 統一評論新社

掲載月日:2009年2月1日
独立系メディア「今日のコラム」

朝鮮半島状況の進展
Noam Chomsky,聞き手:鄭乙烈(2007年10月4日)


鄭:第二回南北首脳会談についてどう評価しますか。

Chomsky:最近、朝鮮半島で展開されているもろもろの出来事はたいへん肯定的で、重要な意義をもっています。とりわけ、今回の南北首脳会談の意義は和解と平和統一を志向するすべてのコリア人にとってのみ利益になるのではありません。

 コリア人の長い闘争と努力はあなたがたの利益になるのみならず、世界の平和と安全を増進するのにも大きく寄与するでしょう。したがってこれは、人類史的意義があると言えます。

 朝鮮半島状況の進展は、500年にわたる西欧の世界支配から植民地被支配諸国が、ついに真の意味での統合と独立へ歩み始めているという地球史的意義をもちます。

 したがって朝鮮半島における肯定的なニュースは、世界に真の平和と正義を打ちたてようとする地球上の他の努力にも、肯定的な影響をおよぼす出来事に違いありません。

 最近、朝鮮半島で起きているのと同様の動きは、こんにち実際に全地球的次元で起きています。

 5世紀にわたる欧米植民地主義者たちの、侵略と支配の典型的な統治手法だった分裂と解体の構図を克服し、団結と統合をへて独立に到る新たなパラダイム(思考方式)をつくりだしているのです。

 ほかの代表的な例が中南米だと思います。ベネズエラ、ボリビア、エクアドルをご覧なさい。5世紀目に初めておきている中南米での独立と統合の動きは、ベネズエラの場合、『上から下へ』の革命という性格を帯びています。

 その反面、ボリビア,エクアドルの場合は『下から上へ』の性格を帯びた、主に最底辺階層を成す原住民たちによる大衆的な社会変革運動が起きています。これらは特筆すべき出来事です。

 次の月曜日(10月8日)はコロンブスを顕彰するアメリカの公休日です。でもいったい何を顕彰し記念するというのですか?過去500年間、1億に近い原住民たちを大量虐殺した歴史を顕彰し記念するというのですか?

 過去500年におよぶ西欧の世界支配の歴史で、こんにち朝鮮半島をはじめ中南米、中東、アフリカ、アジアで起きている統合と独立をめざす大衆抵抗運動は、いまや押し戻すことのできない大勢になっています。統合は独立に到る前提です。

 朝鮮半島における非常に肯定的な変化は、統一国家へと進むために経なくてはならない、ほかの具体的な諸段階につながるでしょう。あなた方のたゆみない努力と抵抗と統一大業が進展していることを心からお祝いし、ともにお喜びします。

鄭:今回の首脳会談直前に妥協した六者会談の10.3合意は、朝米関係正常化の課題にも関連のあることだと言えます。六者会談の進展にともなって、ブッシュ政権任期内の朝米修交可能性が取りざたされています。朝米関係正常化についてどう見通されますか?

Chomsky:ほとんどのマスコミは、六者会談すなわち『北朝鮮の核問題』との認識をもっています。これは事実にたいする、欧米言論の典型的な悪意の歪曲です。六者会談の本質は『北朝鮮の核問題』というより『アメリカ問題』というのが正しいのです。

もちろん北朝鮮の核問題もあります。しかし北朝鮮の核問題の本質は何でしょうか

 大方のマスコミは口を閉ざしていますが、北朝鮮の核問題の本質は、アメリカの先制核攻撃戦略など対決的な対北朝鮮政策が生み出した、というところにあるのです。すなわち北朝鮮の核兵器は、アメリカの核の脅威にたいする抑止力として開発されたと見るべきです。

 1994年のジュネーブ基本合意書を破棄したのは、アメリカであって北朝鮮ではありません。

 2002年に北朝鮮を『悪の枢軸』と規定したのも、高濃縮ウラン問題を持ち出したのも、その基本目的はジュネーブ基本合意を破棄することでした。もちろん高濃縮ウラン問題は、後でアメリカ情報機関自体の調査によって、竜頭蛇尾に終わりました。

 2005年の9.19六者会談共同声明のときも同じでした。共同声明に署名したインクも乾かないうちに、アメリカはそれをひっくり返す事件を起こしました。いわゆるバンコ・デルタ・アジア(BDA)事件です。対北朝鮮金融制裁です。アメリカの対外関係史でくり返されてきたことです。

 9.19共同声明の核心的内容は非常に前進的で、朝鮮半島の非核化と東北アジアの平和と安全問題を恒久的に解決するのに、根本的に重要な諸問題を含んでいます。だがアメリカは、このような肯定的な動きにまたしてもブレーキをかけました。結局、問題の核心はアメリカだということでしょう。

 歴史がよく示しているではありませんか?約束を破り、義務を履行しないのはアメリカであって、よその国ではありません。これはブッシュ政権になっていっそう露骨になったと言えます。2002年と2005年に、アメリカは北朝鮮を軍事的にどうにかできると思っていました。それで対決的、攻撃的になりました。だが、イラク戦争の失敗など内外情勢が急激に不利になった後、やっとアメリカ政府は対話と妥協を基本とする外交的解決を選択したのでした。

 そういう意味で今日の状況、条件は過去のいかなるときよりも、良好だと言えます。終戦宣言、平和協定の締結、朝米関係正常化など朝鮮半島における根本問題を妥結できる可能性と機会がいつにもまして高いと言えます。

 六者会談で真に問われるべきは『北朝鮮の核問題』ではなく、『はたしてアメリカは信頼できるのか?』あるいは『アメリカが最後まで自らの約束を守れるだろうか?』ということでなくてはなりません。

 もっとも、アメリカが約束を守らないのは、クリントン政権のときも同じでした。彼らも1994年10月、ジュネーブ基本合意書に明記された約束を、そのとおりに守りませんでした。任期末になってやっと、武力で解決できないと分かり、対話と妥協に急旋回したのでした。

 去る9月末の六者会談再開直前、アメリカのマスコミに浮上した北朝鮮とシリアの核開発疑惑もまた同様です。今回は、ブッシュ政権全体ではなく、少数に転落したネオコン勢力の企みですが、2002年、2005年と同じように、問題を持ち出したタイミングが非常に疑わしいのです。

 順調に進もうとする六者会談を、またしても妨害しようとする新たな試みです。2005年の9.19共同声明のときと同じだと言えます。アメリカの主流マスコミすら、イスラエルの主張する『北朝鮮―シリア核コネクション』の真実性を疑っています。

 アメリカが選択の余地なく公言したとおりの道を行くなら、六者会談の前途はこれまでに比べて明るいと言えます。もちろん、まだ課題が山積しており、いかなる障害が飛び出すか分かりませんが、現在の六者構図の枠組みは過去の二者構図よりも、枠を壊すのが難しいです。

鄭:六者会談がめざす朝鮮半島非核化を経て、南北の平和統一と、それにもとづく東北アジア多者安保体制が本来の計画と期待どおりに完遂される場合、アメリカによる一極的形態の地球的支配秩序にいかなる形であれ、ひび割れ現象が生じると予想されます。

 すでに枠組みをもって進められているヨーロッパの統合―独立と似た枠組みをめざす東北アジア、そして中南米など全地球的規模の地域統合と独立の動きが加速され、拡大するにつれ、アメリカの世界支配構図は打撃をこうむると予想されますが、これについてどう思われますか?

Chomsky:良い質問です。その通りです。さっきも申しましたが、すでに地域統
合を基本にアメリカの一極支配から独立しようとする動きは、地球的規模で進ん
でいます。押しもどせない大勢です。

 それはまた、アメリカ市民の多数が願っていることでもあります。既成マスメ
ディアによって歪曲されてはいるものの、もはや隠し通せないのはアメリカ国民
の多数もまた、政府が軍事費を減らして教育と医療、住宅、健康、環境、社会保
障などの予算を増額するように要求しているという事実です。

アメリカが普通の国家になり、一国による一方主義が廃棄され、世界がより多極化・多様化されるとき、地球は今よりも住みよくなるでしょう。

 アメリカは依然として、欧州諸国に影響力を行使しています。彼らにたいして、時には脅迫もしながら一定の強制もしています。だが、中国の場合は違います。アメリカの脅迫は効き目がないようです。気にも留めない様子です。ひとつ、良い例をあげましょうか。

 2006年1月、サウジアラビアのアブドラ国王が中国を訪問した直後、胡錦濤中国国家主席がアメリカを訪問したときのことです。アメリカは、中国にたいする不満の遠まわしの表現として、国賓にたいする晩餐会を取り消しました。それは、中国にたいする冒涜であり、礼儀にはずれた行動でした。

 ですが、胡錦濤主席は顔色に表しませんでした。しかし外交的に上手に応酬しました。彼はアメリカ訪問を終えたのち、直ちにサウジの首都リヤドに飛びました。彼はそこできわめて丁重な国賓待遇と盛大な歓迎を受けました。アメリカの脅迫は平気だよ、というわけです。ご存知のように、サウジは中東におけるアメリカの古い同盟国であり、政治、経済、軍事戦略的にもっとも敏感な処といえます。ところが中国は、まさにそのサウジに入っていったのです。そして、眉ひとつ動かさずに自国の利害を貫徹したのです。

 近頃の国際関係は、まるでマフィア組織を思わせます。アメリカがマフィアのゴッドファーザーだとすれば、近頃は配下のマフィア組織が言うことを聞かなくなって、ゴッドファーザーがいらいらしているのです。ボスであるゴッドファーザーの力が弱くなっているということでしょう。

 とにかくアメリカ国民の多数は、アメリカが国際紛争に介入しないでくれと願っています。一種の中立国家の立場でしょう。そのかわり、紛争の解決は国連機関が責任をもってしなくてはならないというのです。

 いつかは、現在おこなわれている安保理常任理事国の拒否権制度も変更されるべきでしょう。朝鮮半島の平和統一、東北アジア他者安保体制、ヨーロッパ連合、中南米統合など地域統合を基礎として真の独立をめざす動きが、世界的に起きています。このような動きは日を追って、ますますアメリカの帝国的地位と秩序に朝鮮するであろうし、新たな未来世界の誕生を予告しています。