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異常な円安策動の影響と

日本の巨大製造業の非関税障壁


青山貞一

掲載月日:2013年6月29日
独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁

 94円まで高くなってはきましたが、ここ半年の急激な円安で大きな影響が私達の生活の周りで起きています。また便乗値上げも頻繁に起きています。以下、私のまわりで実感していることをまとめてみました。

 もっとも分かりやすいのはガソリン、灯油、軽油などの輸入ものです。もともと右肩上がりだった原油価格は、円安で一段と高騰しています。

 その延長では、海外航空券の燃料サーチャージがあります。最近出かけたイタリア往復の航空券は往復で4万円台後半でしたが、燃料サーチャージは7万円にもなっています。


日本におけるガソリン価格の推移

 当然現地のホテル代、B&B代、レンタカー代、食事代なども30%以上高くなっています。

 次はパソコン関連です。日本で売られている大部分のパソコン、とりわけ部品を集めてつくるBTOパソコンは、大部分の部品が輸入物です。Windows、インテルのCPU、ハードディスク、マザーボードなどほぼすべてが輸入物と言ってよいでしょう。

 これらが昨年末から上がり続け、現在昨年11月よりも20%〜35%も上がっています。それらの部品を使ったBTOパソコンは、昨年11月時点で5万円台前半だったものが、こぞって6万円台となりました。


日本におけるインテルの主力CPU i7 3770の過去10ヶ月の価格変化

 過日、風力発電の世界的メーカー、デンマークのVESTAS社主催のシンポジウムに出かけました。日本の場合、EUに比べてコストが3倍高いという発表が数名からありました。

 日本の関連メーカーや業者の談合問題やもともとのコストが高いという問題もありますが、VESTAS社の風力タービンなどを輸入すれば当然、昨年11月前より3−4割高くなります。

 さらに、環境総合研究所のように海外に業務をアウトソーシングしている場合には、当然のこととして原価が30%程度高くなり、円高差益で市民に安く分析を提供していたのが、非常に困難となります。

 VESTAS社シンポにパネリストとして参加されたホンダ自動車の企画室の方は、現在ホンダの自動車は現地生産、現地販売が基本となっており、圧倒的多くの工場と販売は海外に移っていると公言していました。

 日本では現在LNGなどの化石燃料の輸入価格の急激な高騰もあり、また上述のように風力発電機材の輸入価格のさらなる高騰などもあり、自民党政権は、原発再稼働のために円安誘導をしているのではなど、うがった見方もでてきています。


日本における天然ガス価格

 同様に、世界的巨大企業のトヨタ、ソニー、パナソニックなどは多国籍企業であり、もちろん円安メリットはあるとしても、逆に部品などを輸入する際は部品代が高くなると言う問題もあります。

 もとより、自国の通貨が高くなったからと言って、わざわざ人為的、強制的に通貨を安くさせるというのは、おかしなことです。しかも、その理由は巨大製造業企業のメリットばかりであり、世界一の原材料、エネルギー、食料などの輸入国である日本が円安誘導するのはどうみてもおかしいと言わざるを得ません。

 同志社大学の浜先生が以前から日本の円は、1ドル50円となってもおかしくないと言い続けていますが、巨大製造業のためだけに(とはいっても必ずしもそうなっていませんが)、円安を人為的に誘導するのはTPPなどとは別に、日本経済、とりわけ農業など一次産業、輸入型企業、サービス業を壊滅させることになります。

 すでに農業、酪農分野でも小麦価格が高騰しています。

 私見では、日本の鉄鋼、造船に絡む工業製品がいつになっても国際価格から遙かに高額であることこそ問題であると思っています。

 これはトヨタなどの自動車などではなく、たとえば造船会社、重工会社、鉄鋼会社などが製造している大型焼却炉、溶融炉などです。おおよそ海外における国際競争入札価格の2〜3倍も高くなっています。当然のこととして、前提条件、たとえば土地代とか付属設備などは同じ条件での比較です。

 以下を見てください。同じ三菱重工業が東京と台湾で建設した焼却炉の単価が日本では2〜3倍高いことが分かります。その三菱重工が洋上風力などでVESTASと業務提携するようなので、価格の高騰が懸念されます。


青山貞一、「廃棄物焼却主義」の実証的研究 〜財政面からのアプローチ〜
東京都市大学環境情報学部紀要 第五号

 理由は、日本の重工、鉄鋼、電気などの巨大企業が協会、業界などを拠点に、海外企業を参入させないためにの非関税障壁を造っていることにあります。これは公共事業分野で顕著です。

 今後、洋上風力などで日本の重工、鉄鋼、電気などの巨大企業が絡む場合、同じようなコスト高が起こる可能性が十分あります。

 日本の巨大製造業は、TPP以前に、このような非関税障壁を自ら撤廃することが重要でしょう。世界一多い公共事業費と世界一高い公共事業費が日本社会を疲弊させている現実も直視する必要があります。

 それにしても、すべてがよく言えば成熟、限界に来ている日本の加工貿易、製造業だけを対象にあらゆる国の経済、財政、金融政策が練られ実行されている今の政治状況は異常です。

 実感として、給与は増えず、雇用も増えないのに、あらゆる物価が上場しているのが今の日本といえます。さらに、国民にわずかな楽しみでもある海外旅行が高くなっているのも酷いものです。

 しかも、トヨタなど巨大企業は、すべからく税引き後の利益を内部留保しており、雇用は増えず、しかも給与もあがらない現実があります。日本の上場企業全体では200兆円もの内部留保があるとされています。世界で設けるだけ設け、日本では為替、税などで思い切り優遇されているのが実態ではないでしょうか?

 さらに、それらの巨大企業に期間限定ではありますが、法人税さらには配当株などへの減税を繰り返すこのところの政権迂遠にも大いに疑問を感じます。

 こんなことをしているから、アメリカなどからつけ込まれている実態を知るべきでしょう。