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電力会社の再稼働申請と

UPZ自治体の原子力防災計画


青山貞一

東京都市大学名誉教授、環境総合研究所顧問

掲載月日:2013年7月4日
独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁


 7月8日の新規制基準の施行を前に北海道、四国、九州、関西などの電力会社が原子力規制委員会に再稼働の申請をしました。申請が出てから原子力規制委員会の審査があるので、再稼働は最短でも年末になります。

 一方、従来、原発から約5kmのPAZ立地自治体及びその隣接自治体において策定されてきた原子力防災計画の対象を昨年秋、30km圏まで拡大しました。その結果、計画の策定を要する基礎自治体は約130に達することになりました。

 この計画は法定計画であるものの、今まで策定義務の無かった約130もの基礎自治体に、国が定める緊急時活動レベル(EAL)と運用上の介入レベル(OIL)に関連して、住民を待避、避難させること、また安定ヨウ素剤の摂取を行わせることなど、原発の再稼働及び事故に極めて重要な意味があります。

 福島では、計画策定がPAZに限られていたことに加え、SPEEDIが機能しなかったこなどから、多くの人々が不要な外部、内部被曝を受けたことは言うまでもありません。もっぱら、PAZ内にあっても、逃げる方向が分からず、主プリュームの方向に多くの人々が逃げたり、そこに待避したという、深刻な事態も発生したのです。

 これら法定計画であり同時に行政計画の策定を、昨年秋、国は全国約130カ所の自治体に道府県経由で義務づけを開始しました。しかし、当然のこととして数千から数万人規模の基礎自治体及びその職員には、従来、法的にもまた実務的にも原発事故に関連する外部被曝、内部被曝についての知識、技術、経験は皆無です。

 しかも、昨年秋に明らかになったように、規制委員会の原発事故時のシミュレーションは地形を考慮しておらず、しかも風向を間違えるなど稚拙なものでした。

 私はたまたま北海道の泊原発に関連し原発から30km圏(UPZ)に位置するニセコ町が策定する原子力防災計画の委員会の委員に町長から指名を受け、昨年10月から今年6月まで、合計5回に委員会に出席し意見を述べ、積極的に議論をしてきました。

 ニセコ町の場合、おそらく全国で唯一と思われる住民参加、そして有識者を交えた計画策定委員会となっており、公募で参加している2名の住民代表は毎回熱心に意見を出され議論にも加わっています。


ニセコ町原子力防災計画策定委員会
撮影:池田こみち


現在、委員長は副町長に替わっています。

 ※ニセコ町の原子力防災計画策定過程についての情報

 本来、この計画は市民が全面的に関与すべき計画であり、最終的に行政、市民が事故時にどう対応すべきかを示す計画です。

 しかし、昨年秋に国から急遽、義務づけられた計画の策定では、結果的に規制委員会→道府県経由で配布される防災計画や指針のマニュアル、テンプレートをもとに、原発立地関連単位の基礎自治体が集まり、協議会のようなものをつくるのが精一杯でした。しかも、大部分は非公開で行われたため、マスコミでのこの計画策定ついて記事は、ほとんど皆無に近かったと思います。

 かくして、この計画は、拙速にそれら市町村職員によって形式的、金太郎飴的に策定されて来たと行っても過言ではありません。もちろん、科学技術面、リスク論から見ても規制委員会のEAL, OILのレベルそのものの妥当性についても大いに疑義があります。

 また依然としてSPEDDIが事故時に本当に使用に耐えうるものかどうかも不明であり、モニタリング体制、事故時の通報連絡体制、それを市民にいかなる手段で伝えるか、またバスなどで避難する場合の道路の交通容量問題など、多くの問題が山積したままとなっています。

 私の環境総合研究所では、事故規模、地形、気象などを考慮した原発事故時3次元の流体シミュレーションを研究開発し、実際の現場に適用してもらうべく、いろいろなメディアを通じて情報発信に努めてきましたが、他の自治体ではどうみても事故時に住民がどちらに逃げればよいのか、についての情報もろくにないままでの計画策定となっています。
 
 以下はもし、事故が起きた場合の初期段階における広域シミュレーションの例です。計画策定にはニセコ町を中心とした範囲とし、グリッド(メッシュ)を小さくし、詳細が分かるようにしています。


図  泊原発事故時、北風、風速2m/s、大気安定度D


図  泊原発事故時、北北西、風速2m/s、大気安定度D


図4  泊原発事故時、西北西、風速2m/s、大気安定度D


図  泊原発事故時、西、風速2m/s、大気安定度D

 福島第一原発事故の原因究明、責任の所在、また安全基準の問題、本来具備すべき機器などの未整備、自治体の承諾などが不十分なまま、電力会社や経済界、自民党が原発再稼働を急ぐのは論外です。

 さらに、私が上で述べてきました万一に備える原子力防災計画が極めて付け焼き刃、しかも大部分の自治体が、いわばド素人の市町村職員だけで策定してた非現実的あるいはリアリティのない防災計画、具体的な指針しか存在しない中での再稼働申請は、どうみても福島原発事故の教訓を生かしているとは言えず、人命軽視のそしりを免れないと思われいます。
 
 そんななかでの4電力会社の再稼働申請です。この国は、一体どこまで経済優先、しかもコスト、コストと言いながら、原発ではひとたび事故が起きた場合のコスト、廃棄物処理を含めたコストは、まったく管理されていないと言えます。

 こんなことでは日本の将来は、ますます危うくなるばかりです。