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原子力防災計画の位置づけと対象

青山貞一

東京都市大学名誉教授・環境総合研究所顧問
掲載月日:2013年7月13日
独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁


 2013年7月11日、第6回目の原子力防災計画策定委員会が北海道のニセコ町であり出席してきた。昨年10月上旬に第1回委員会が開催され、早10か月が経過しようとしている。

 ところで、 関東地方ではこのところ連日、35℃近くの異常高温となっているが、第六回目の委員会ででかけたニセコ町は、昼でも25℃から27℃、深夜、早朝は20℃前後と涼しく、標高1000m以上にある環境総合研究所の北軽井沢保養所とほぼ同じ気温である。

 しかし、聞けばここ数年は大降雨、暴風来襲など異常気象の連続とのことで、やはり地球規模での温暖化による気候変動が起きている証拠だと思われる。

 今回の委員会は、北海道電力が泊原発の再稼働を原子力規制委員会に申請した直後ということもあり、委員会全体に緊張感が走り、今まで以上にリアリティをもって審議することになった。

 また審議の最後に、事務局から委員全員が男性であることに、女性の町議会議員から男女共同参画の観点からも女性の委員を入れるべきだという申し入れがあり、女性の委員を1,2名加えることの提案があった。もっともなことだ。


原子力防災計画の位置づけについて

 昨年の10月から日本の約135の基礎自治体で進められている原子力防災計画の策定であるが、その根拠法は災害対策基本法である。

 国の防災基本計画は、災害対策基本法の第34・35条に基づき、中央防災会議が作成する防災計画であり、防災分野の最上位に位置する計画である。この国の防災計画では日本全体の基本指針を示すことになっている。


◆原子力防災計画の位置づけ、枠組みについて


 ・国の防災基本計画(原子力防災基本計画)、原子力災害対策指針

 ・道府県の防災計画
  (たとえば、北海道地域防災計画の原子力防災計画編)

 ・基礎自治体の防災計画(PAZ及びUPZ)
  (たとえば、ニセコ町の地域防災計画、原子力防災計画編)


●防災計画の対象となる防災の内容

 次に、防災計画の対象となる災害の内容である。

 国の防災基本計画のもとに、以下の各災害に対し「地域災害計画」の策定が都道府県及び基礎自治体に義務付けられている。

 国の基本計画では「自然災害」だけでなく「事故災害」も防災の対象となっているが、自治体の地域災害でも事故災害の一環として「原子力災害」が地域防災計画の一部として含まれている。そして関連する自治体は、その防災計画にもとづき防災訓練を実施することになる。

◆自然災害
 震災対策
 風水害対策
 火山災害対策
 雪害対策

◆事故災害
 海上災害対策
 航空災害対策
 鉄道災害対策
 道路災害対策
 原子力災害対策
 危険物等災害対策
 大規模な火事災害対策
 林野火災対策
 その他の災害に共通する対策


●原子力防災計画の策定が義務づけられる自治体

 次は、原子力防災計画の策定が義務づけられる自治体である。
 
 自治体が策定する地域防災計画の一部としての原子力災害計画は、「道府県計画」と「基礎自治体計画」の二つに分かれる。

 このうち基礎自治体計画については、3.11以前は、PAZ:Precautionary Action Zone. (予防的防護措置を準備する区域)といって原発から5km程度の範囲の基礎自治体に限って策定が義務付けられていた。

 しかし、3.11以降、30km圏のUPZ :Urgent Protective action Planning Zone. (緊急時防護措置を準備する区域)に対しても策定が義務付けられることになり、昨年の秋以来、全国約135の基礎自治体で策定されている。

 すなわち、3.11以前にも、国の原子力防災計画、北海道の原子力防災計画、そしてPAZ圏の原子力防災計画が存在したが、3.11以降、PAZ以外のUPZ圏の基礎自治体にも原子力防災計画の策定が義務づけられたことになる。

 しかしながら、この原子力防災計画の存在自体が3.11以前は、原発直近の自治体にしか計画が策定されていなかったこと、さらに3.11における福島第一原発事故の直後、SPEEDIが機能せず、またPAZ自治体でも退避の方向が分からず、多くの人々が不要な外部、内部被ばくを受けたが、それでもPAZ、UPZ自治体の防災計画、とりわけ原発事故時における住民の待避、避難の概要すら国民にほとんど知られていない実態がある。

 ちなみに、以下に日本各地にある原発から30km圏内の基礎自治体の名称を示す。北海道のニセコ町は、私が計画策定委員として参加している自治体である。

 なお、北海道電力関連について、PAZ及びUPZに含まれる基礎自治体の位置を示す地図を示した。


出典:北海道新聞


◆計画策定がぎむづけられる
 原発から30キロ圏内の自治体(PAZ+UPZ)


◇北海道電力泊原発(北海道泊村)
泊村、岩内町、共和町(〜5キロ)、神恵内村(〜10キロ)、倶知安町、古平
町、仁木町、積丹町、余市町、蘭越町、寿都町、ニセコ町、赤井川村


出典:日本経済新聞

◇東北電力東通原発(青森県東通村)
東通村、むつ市(〜5キロ)、横浜町、六ケ所村(〜10キロ)、野辺地町

◇東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)
女川町、石巻市(〜5キロ)、南三陸町、登米市、涌谷町、美里町、東松島市

◇東京電力福島第1原発(福島県双葉町、大熊町)
○大熊町、○双葉町、○浪江町(〜5キロ)、○富岡町(〜10キロ)、○南相馬市、○葛尾村、○田村市、○川内村、○楢葉町、○いわき市、○広野町、飯
舘村

◇東京電力福島第2原発(福島県富岡町、楢葉町)
○富岡町、○楢葉町(〜5キロ)、○大熊町、○広野町(〜10キロ)、○いわき市、○川内村、○田村市、○浪江町、○双葉町、○南相馬市、○葛尾村、小
野町

◇日本原子力発電東海第2原発(茨城県東海村)
東海村、那珂市、日立市、ひたちなか市(〜5キロ)、常陸太田市(〜10キロ)、常陸大宮市、城里町、水戸市、大洗町、茨城町、高萩市、笠間市、鉾田市、大子


◇東京電力柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)
柏崎市、刈羽村(〜5キロ)、出雲崎町、長岡市、小千谷市、上越市、見附市、燕市、十日町市

◇中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)
御前崎市、牧之原市(〜5キロ)、菊川市、掛川市(〜10キロ)、吉田町、島田市、袋井市、磐田市、森町、藤枝市、焼津市

◇北陸電力志賀原発(石川県志賀町)
志賀町(〜5キロ)、七尾市(〜10キロ)、輪島市、穴水町、中能登町、羽咋市、かほく市、宝達志水町、富山県氷見市

◇日本原子力発電敦賀原発(福井県敦賀市)
○敦賀市、○美浜町(〜5キロ)、○南越前町(〜10キロ)、○越前市、○越前町、福井市、○小浜市、○若狭町、鯖江市、池田町、○岐阜県揖斐川町、○滋賀県長浜市、○高島市

◇関西電力美浜原発(福井県美浜町)
○美浜町、○敦賀市(〜5キロ)、○小浜市、○若狭町、○南越前町、○越前市、○越前町、○岐阜県揖斐川町、○滋賀県長浜市、○高島市

◇関西電力大飯原発(福井県おおい町)
○おおい町、○小浜市(〜5キロ)、○高浜町(〜10キロ)、○美浜町、○若狭町、○滋賀県高島市、○京都府舞鶴市、○綾部市、○南丹市、○京丹波町、京都市

◇関西電力高浜原発(福井県高浜町)
○高浜町、○京都府舞鶴市、○綾部市(〜5キロ)、○福井県おおい町(〜10キロ)、○小浜市、○若狭町、○滋賀県高島市、○京都府南丹市、○京丹波町、福知山市、宮津市、伊根町

◇中国電力島根原発(松江市)
松江市(〜5キロ)、島根県出雲市、雲南市、安来市、鳥取県境港市、米子市

◇四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)
伊方町(〜5キロ)、八幡浜市(〜10キロ)、大洲市、西予市、内子町、伊予市、宇和島市、山口県上関町

◇九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)

玄海町、唐津市(〜5キロ)、長崎県松浦市(〜10キロ)、佐賀県伊万里市、長崎県平戸市、壱岐市、佐世保市、福岡県糸島市

◇九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)
薩摩川内市(〜5キロ)、いちき串木野市(〜10キロ)、阿久根市、出水市、さつま町、鹿児島市、日置市、姶良市、長島町

注)○は他原発の30キロ圏内にも入っている基礎自治体

つづく