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東京都市大学情報メディア学科
2013年12月24日授業
「情報化と市民参加」

住民参加の

恵比寿ガーデンプレイス

環境アセスメント(1)

青山貞一
東京都市大学名誉教授・環境総合研究所顧問

掲載月日:2013年12月25日
独立系メディア E−wave Tokyo

無断転載禁
住民参加の恵比寿ガーデンプレイス 環境アセスメント 
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 今日(2013年12月24日)はクリスマス・イブですが、朝から昼まで東京都市大学横浜キャンパスで2つの授業を行いました。以前、台風で中止となった授業の補講です。

 1限目(9:00-10:30)の授業、環境情報学部情報メディア学科の「情報化と市民参加」では、東京都渋谷区にあったサッポロビール恵比寿工場跡地に計画、実施された巨大な都市再開発事業に積極果敢に挑戦し、多くの計画変更、設計変更などを勝ち取り、事業者に環境配慮をさせた地域住民、上田明さん(故人)らの奮闘記です。なお、2限目(10:45-12:15)の授業、環境リスクマネジメントでは、大気汚染リスクとアスベストリスクを講義しました。



 2003年、上田明さんは膵臓癌で他界されました。私はその頃、早稲田大学教育学部(+法学部+文学部)で「市民参加の環境評価」を担当していました。 そこで大きな階段教室を使い上田さんの奥様とお嬢様をお呼びし追悼講義を行ったことを覚えています。EFORUMの方々も10人ほど参加してくれました! 

 その上田明さんですが、がんで亡くなられてから、今年で10年になります。歳月が経つのは早いものです。

 この授業もすべてハイビジョンで自動録画していますので、いつものようにチェック後公開したいと思います!

<概要>

 さて今日の授業では青山、池田、鷹取ら環境総合研究所(東京都品川区、当時)が都合8年間びっちりかかわった東京都渋谷区のサッポロビール恵比寿工場跡地の巨大再開発への市民参加の事例です。



 以下は恵比寿ガーデンプレイスの当初計画です。100m〜170m級の超高層ビルが4棟、20〜40mのビルが4棟もあります。


出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)

 下は現在の恵比寿ガーデンプレイス(東京都渋谷区目黒)です。


出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)

 以下は衛星写真で見た恵比寿ガーデンプレイスです。


出典:グーグルアース 

 下は主人公の上田明さん宅の位置です。


出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)

 上田さんは、私が大学教授現役時代、公共政策論、環境法、環境政策などの授業で使った以下のスライドに示す、立法的問題解決、行政的問題解決、司法的問題解決、それにその他の問題解決(住民運動、NPO/NGO活動、マスメディア利用活動)のほぼすべての問題解決手法を実質ひとりで行ったスーパーマン的な方でした。



 下に上田さんが恵比寿ガーデンプレイズの計画、実施段階で行った活動を示します。これでも一部といえます。上田さんらは自分たちの目的、すなわち計画、実施される巨大事業に環境配慮を組み込ませるため、事業者に対してありとあらゆる活動を行っています。

 活動の主たる目的は大気汚染をこれいじょ悪化させないことでした。当時、東京は二酸化窒素大気汚染、浮遊粒子状物質大気汚染がともに環境基準を大幅に超えていたからです。


出典:環境総合研究所(東京都目黒区)


図中緑の円部分が東京都渋谷区恵比寿周辺
出典:環境総合研究所(東京都目黒区)


出典:環境総合研究所(東京都目黒区)


出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)


出典:環境総合研究所(東京都目黒区)


住民委託の環境アセスメント報告書
出典:環境総合研究所(東京都目黒区)

 本授業は、この巨大な都市再開発事業に、恵比寿ガーデンプレイスに果敢に挑戦し、多大な計画、設計変更を勝ち取った上田明さん(故人)とそれを全面的に支援した私たち環境総合研究所(東京都品川区、当時)の奮闘記です。

 今から23年前、私たちの環境総合研究所は、渋谷区恵比寿にお住まいの上田明さんらのものすごい熱意にほだされ、結局、8年間以上にわたり上田さんらの市民活動を全力をあげて支援することになりました。 専門家による住民団体への支援を私はアドボカシー(Advocacy)と呼んでいます。 ガーデンプレイス事業への上田さんらの活動の目的は環境保全、とりわけ大気汚染問題なので、環境アドボカシーといえます。


出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)

 とりわけ、私たちが全力を入れ取り組んだのが住民アセスメントです。事業者側が数億円かけ行った環境アセスの不備ややっていない多くの問題を調査、予測、評価するだけでなく、さまざまな代替案を政策提言しました。

 下のスライドは、恵比寿ガーデンプレイスで事業者が行った環境アセスメント(環境影響評価)の報告書です。おそらく15cmの厚さになるほどです。一般市民、住民にとってこのような分厚い報告書がいきなり示されても、どうしようもないのが実態です。

 しかし、上田さんらはこれをしっかりと読み込み、問題点を的確に看破しました。その上で意見書を書き送り、説明会に参加し質問し、さらに公聴会でも発言されたのです。その上で東京都の見解書、環境影響評価書(最終報告書)を見てびっくり、最終的に上田さんらが指摘した諸点がまったく反映されていなかったのです。



  私たちの研究所(当初、東京都品川区北品川、御殿山研究室)に上田さんらが最初にいらしたのは、その直後のことです。何でも渋谷区役所に行ってどうしたらよいかと相談したら、この手の問題で話に乗ってくれるのはおそらく環境総合研究所の青山所長くらいしかないと、言われたそうです。 そしてある日突然、研究所に恵比寿三丁目環境対策協議会と名乗る上田さんらが相談にこられました。

 上田さんは私たちに蕩々とこれまでの経緯を話され、かくなる上は住民側でも環境アセスメントを行ってみたいと話されました。 私は環境アセスメントを行う前に、何度も上田さんらに宿題を出しました。 実際、設立してまもない研究所にとって、住民団体からの依頼の調査をするのは、さまざまな意味でリスキーだったのです。

 しかし、上田さんらは、毎回出す宿題をすぐに行われました。 かなり難しい質問、たとえば、上田さんが事業者のアセス書にある風洞実験結果について疑問を持たれていたので、日本で有名な風洞実験を専門に行う研究所の名を伝え、まずはそこに行って相談してください、などです。

 次々に宿題をこなされる上田さんは慶応大学を卒業後、日本を代表する上場大企業で調査畑を歩まれた方でした。

 そんなことで、最終的に住民依頼の環境アセスメント調査をやらざるをえなくなりました(笑い)。最後に上田さんに言ったのは、事業者側が行っている環境アセスメントは数千万円、いや数億かけているはずです。 

 住民団体だからといってボランティアで行うわけには行きません。 お金がかかりますよ、と伝えました。 すると上田さんはやおら100万円の現金を出され、これを手付金とさせていただきます、と言われました。 当然、100万円でこの種の難しい調査ができるわけはありませんが、私たちは上田さんらの熱意にほだされ、環境アセスメントに着手することになったのです。
 
 上田さんら、私たちが数ヶ月かけ調査し作成したの報告書をもとに、事業者であるサッポロビール本社、渋谷区(行政、議会)、東京都(都市計画局、環境保全局、議会)、環境庁などに問題個所とその解決のための政策提言を行い続けました。

 推定で3000億円になんなんとする東京都渋谷区のJR山手線内側の巨大都市再開発事業、それに真っ向から挑んだ上田さんですが、その上田さんは、毎日新聞社のインタビューに応え次のように話しています。

 「環境アセスは、事業者が入学試験の問題を自分でつくり、回答、採点、成績発表までする、これ以上の自作自演はない、これで落第するはずがない」と。至言です。


出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)

 以下は上田さんの恵比寿三丁目協議会と私たちの環境総合研究所(東京都品川区、当時)が行ってきた主に環境調査、環境アセスメント、環境事後調査の途中までの経緯です。


出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)

 ところで、ご存じ、この分野「一匹狼」のシンクタンク、環境総合研究所は、ドクターXならぬリサーチャーXとして、権威を嫌い、群れを嫌い、組織を嫌い、叩き上げのスキルと正義感で上田明さんたちの活動を徹底的に支援したのです。青山のモットーは、環境分野で社会正義を実現すること。国際的視野をもちながら、同時に第三者的立場の研究者として環境問題の現場に積極的に関わることであります。

 下は当時の研究スタッフです。 1990年当時の環境総合研究所スタッフです。右側の2人はその後、加わった鷹取さんと斉藤さんです。鷹取さんは現在、環境総合研究所代表取締役です。



1990年当時の環境総合研究所スタッフ 
右側の2人はその後、加わった鷹取さんと斉藤さん
鷹取敦さんは現在、環境総合研究所代表取締役です。
出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)

 住民依頼の環境アセスメントでは、通常の交通量、気象、大気汚染、騒音、振動などの調査に加え、予測でも画期的なシミュレーションを次々に敢行しました。

 私たちは、今から23年前、当時研究開発したばかりパソコンで動かす3次元流体シミュレーションモデルをつくばの研究所の風洞実験で検証し、100mのビルが4本も林立する恵比寿ガーデンプレイスに、土地利用、根幹的施設配置、交通流、発生集通交通量推定を検討した後、建築物、構造物を全面的かつ詳細に考慮し風の流れ、大気汚染、景観のシミュレーションに挑戦、大きな成果をあげたのです。
 


 事業者側は、3000万円以上かかる建築風洞実験を使って調査していましたが、私たちは風洞実験施設で検証した高速パソコンの3次元シミュレーションを駆使し、100mを超すビルが林立する恵比寿ガーデンプレイスの風況予測、大気汚染予測を敢行したのです。20年以上前のことです。



 さらに、当時、ある大手民間企業の研究部門から頼まれつくった、3次元の景観分析シミュレーションソフトも恵比寿ガーデンプレイスのアセスメントで援用しました。

 
出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)


出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)


開発前 24時間交通量
工場跡地都市再開発 恵比寿ガーデンプレイスの事例
出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)


開発前 大型車混入率
工場跡地都市再開発 恵比寿ガーデンプレイスの事例
出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)


開発前 NOx濃度(自動車寄与)カラーメッシュ
工場跡地都市再開発 恵比寿ガーデンプレイスの事例
出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)


開発前 NOx濃度(自動車寄与)カラーコンター
工場跡地都市再開発 恵比寿ガーデンプレイスの事例
出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)


恵比寿ガーデンプレイス都市再開発事業における住民支援環境アセスシステム
出典:青山貞一 環境総合研究所(東京都目黒区)


つづく