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ジブリ高畑勲監督が「オオタカが舞う」
多摩丘陵最大級の里山「破壊」を痛烈批判!
 
映画『平成狸合戦ぽんぽこ』の舞台
“消滅”の愚行

横田 一
 
初出:09年6月5日号(5月22日発売)「フライデー」


12 September 2009
独立系メディア「今日のコラム」
無断転載禁

 
 ジブリ高畑勲監督が「オオタカが舞う」多摩丘陵
 最大級の里山「破壊」を痛烈批判!
 東京 映画『平成狸合戦ぽんぽこ』の舞台“消滅”の愚行 

 <2009年6月5日号(5月22日発売)の「フライデー」>

 「近くに里山があるのは宝物を持っているのと同じです。なぜ人口減少時代に南山を潰して宅地開発をするのですか!」

 こう怒るのは、宮崎駿監督の盟友であるスタジオジブリの高畑勲監督だ。5月17日に東京都稲城市で、「平成狸合戦ぽんぽこ」(宮崎駿企画、高畑勲原作・脚本・監督)の上映会が開かれ、約400名が参加。続くシンポジウムにも招かれた高畑監督は「自分の映画だけれども感激した。

 ここ南山で見て身近に感じたためだろう」と切り出し、市内に広がる里山「南山」を破壊する開発計画を批判したのだ。南山とは多摩丘陵最大級の里山で、高低差は約80m。ほぼ手つかずの自然が約100haにわたり広がっている。

 上映会とシンポが合体したのは他でもない。映画の展開と現実の動きが重なり合うためだ。映画では、狸たちが住み処の多摩丘陵を守ろうと結集、変化術を駆使して宅地開発を阻止しようとする。現実にも、東京近郊最大の里山・南山を切崩す工事が開始、住民有志が中止を求めて立ち上ったのだ。

 高畑監督は3ヶ月前にも現地を訪ねた。すぐに南山に魅せられ、「穏やかな気持ちを作るところは残していかないといけない」と声を上げ、色紙には「南山は都民のオアシス ぜひ残して!!」と書き記した。これを知った住民有志は高畑監督に支援を要請、集会開催につながった。

 監督に続いて、南山の土地所有者の内田竹彦氏(「元気塾」代表)が「都心から20`圏と近いのが南山の魅力です」と訴えた。たしかに新宿から京王線に乗って30分ほどで最寄りの稲城駅に到着し、そこから10分ほど歩けば、「南山」の入口に着く。そこから先は木漏れ日の雑木林。都会の喧騒とは無縁の緑豊かな別世界だ。

 「この一帯だけが地権者の反対などで開発が遅れた結果、奇跡的に広大な里山が残った。周辺の子供や老人やサラリーマンが気軽に来れる里山にする。この前も自閉症の子供さんが来て、元気になりました」(内田氏)。

 種々の動植物が息づいている。オオタカをはじめトウキョウサンショオウオや多年草タマノカンアオイなど絶滅危惧種の希少生物の宝庫である。

 しかし11日、この南山を約87f(東京ドーム19個分)も切り崩し、宅地を造成する「南山東部土地区画整理事業」の工事が本格的に始まった。事業主体は、約260人の地権者らが作った「区画整理組合」。

 総事業費402億円のうち、税金が68億円(市税20億円、都税48億円)、残りの334億円は造成地を売った利益でまかなう計画だ。個人や企業が所有する山林をニュータウンとして開発、インフラ整備費を市と都が出す「官民共同事業」なのだ。根底には税金対策がある。

 「一帯は70年代に市街地として開発する『市街化区域』に指定され、固定資産税や相続税が高騰。莫大な税金を支払うために地主は、宅地の売却益を当てようとしているのです。

 しかし専門家は『南山の地層(稲城砂層)を一度崩したら流動化する。造成地が地震で液状化して住宅が倒壊する恐れがある』と指摘しています。倒壊リスクのある宅地に買い手がつくのかは疑問で、貴重な里山破壊に血税を投入した挙句、不良資産と借金だけが残る可能性もあります」。

 この南山開発に対して、稲城市内外から「里山を残して欲しい」という声が一斉に上がった。「全市民的論議を求める署名」は短期間で2万人分も集まった。そのうち稲城市民は約1万1千人で、全市民の6人に1人が署名したことになる。

 地主の救済と里山保全を両立する代替案の模索も始まった。「稲城の里山と史蹟を守る会」の市村護郎代表は、行政が南山を買収か借用をすることを提案。「東京都の緑地保全指定」を活用するもので、開発見直しは都が鍵を握っているのだ。

 南山保全のキーマンとなった石原慎太郎都知事は自らのポスターに「環境第一」と明記。オリンピック招致で環境重視を訴え、「CO2排出量の25%削減」の目標も掲げている。しかし8万本の木を伐採する南山開発への都税投入は、この方針と矛盾する。CO2吸収源の森林減少を招くからだ。高畑監督も呆れていた。

 「招致のために森林を作る計画を立てる一方で、長い年月がかけて出来た里山破壊に加担している。カネが動けばいいとしか思っていないのではないか。(知事は)南山のことが全く分かっていない」。

 さらに国際問題にも発展する可能性も出てきた。各国で植林活動を続ける国連平
和大使のポール・コールマン氏は2日、120名の住民と共に南山で植樹。そして「オリンピック招致委員会に手紙を書く。ダメなら国際オリンピック委員会(IOC)に手紙を書いて、南山開発の非を訴える」と約束したのだ。

 見直し派の稲城市議も招致委員会に「住民がIOCに直訴しかねない」と警告。

 五輪の自転車ロードレースのルートが市内を通る可能性もあり、「選手に里山破壊の工事現場を見せるつもりか」と指摘した。

 しかし石原知事は、南山の現地視察や代替案検討の意向は示していない。オリンピック招致に血税を使い、招致にマイナスな環境破壊にも税金を投入するのは、ブレーキとアクセルを同時に踏む愚行である。


 以下は、この間の経緯

<経過>

5月2日、ポールコールマン氏国連平和大使)が南山で植樹イベント
    (約120名参加)。
    その時、石原知事に手紙を書き、開発見直しをしない場合には
    IOCにも”直訴”することを予告。

5月17日、高畑監督を招いた映画上映イベントを稲城市で開催。
5月22日、フライデー6月6日号に「ジブリ高畑勲監督が多摩丘陵最大級
     の里山「破壊」を痛烈批判! 
     映画『平成狸合戦ぽんぽこ』の舞台“消滅”
     の愚行」(横田一)が掲載される。この中で、ポールコールマン氏
     のことを紹介。

5月27日、ポールコールマン氏が石原知事に出した手紙を入手。

5月29日、定例記者会見で手紙について質問。

6月6日、都内でポールコールマン氏を囲んで、作戦会議。
      参加者は横田と稲城市民有志。ここでポール氏が29日の
      定例記者会見に英語の字幕をつけたミニ番組をパソコン上
      で紹介。6月中旬の石原知事のスイスでのプレゼンに合わせ
      て、この動画やフライデーの記事や稲城市民の訴えを持
      っていくといいとの提案が出る。
     (以下はポール氏の「大宇宙と小宇宙」に詳細な経過があります)