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<沖縄県知事選>
全野党共闘の敗因と
問われる今後の行方


青山貞一

2006年11月21日



青山貞一:沖縄知事選、全野党共闘の敗因と問われる今後の行方1
青山貞一:沖縄知事選、全野党共闘の敗因と問われる今後の行方
青山貞一:沖縄知事選、全野党共闘の敗因と問われる今後の行方

  任期満了に伴う沖縄県知事選は2006年11月19日投票が行われ、即日開票の結果、無所属で自民、公明が推薦する前県商工会議所連合会長、仲井真弘多氏(67)が34万7303票を獲得し、無所属・新人で社民、社大、共産、民主、自由連合、新党日本、国民新党が推薦する前参院議員、糸数慶子氏(59)を破り初当選した。両者の票差は3万7318票、当選者の得票数の約1割と大接戦であった。

 仲井真弘略歴は巻末に示した。

 沖縄知事選は、投票率が64.54%と過去最低だった前回の57.22%を7.32ポイント上回ったものの、きわめて低調となった。もともと沖縄社会大衆党の糸数氏は、2004年の参院選では自民候補に実に10万票の大差をつけ圧勝するなど抜群の知名度を誇っていた。今その意味では回は共産党までが相乗りするいわば万全の布陣であったはずだ。

沖縄県知事選挙開票結果

 かかる意味から社民、社大、共産、民主、自由連合、新党日本、国民新党と全野党が一本化して推薦した糸数氏が通産官僚出身で無名に近い仲井真弘多氏に敗れた原因、理由、すなわち敗因が何んであるかは大いに気になるところだ。

 今回の選挙戦では仲井真氏を推す自公側が先行し全力の選挙戦を展開した。その仲井真弘氏を8年ぶりに全野党共闘体制で糸数候補が追いかける構図となった。出遅れた全野党共闘候補の糸数氏だが、最終的な局面に至るまで、まさに緊迫する結果となった。

 先行する仲井真氏は出身母体の経済界を早期に手堅くとりまとめ組織選挙を展開した。県民支持率が高い稲嶺前知事の後継候補を強調、「稲嶺県政の継承・発展」をアピール、「沖縄の真の自立は経済の自立なくして出来ない。人々が幸せに暮らせる基盤をつくるために知事の仕事をさせてほしい」などと雇用対策や経済振興を強く訴えた。

 当選した仲井真氏は大きな争点となった普天間移設の現行案に反対している。だが、基地経済を含め経済振興を掲げ県内移設に柔軟な姿勢を示したことで、普天間移設反対をメインとする糸数候補との違いが明確でなくなったことも全野党共闘候補が敗北した原因の大きな要因であると思える。

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 周知のように、米国では2006年11月7日に実施されたいわゆる中間選挙で民主党が上下両院において12年ぶりに多数派を占めるに至った。

 その結果、共和党ブッシュ政権がこの間、押し進めてきた全世界での米軍再編から、「アジアのことはアジアにまかせる」や「国際協調主義の再登場」を押し進める可能性もある。

 そもそも戦費が国家財政を圧迫させるイラク戦争から米国が撤退する可能性が大であり、他国を「悪の枢軸」よばわりし、新植民地主義的、単独覇権主義的に他国に戦争を仕掛ける米国のありようが大きくかわる可能性がある。いわば日本が外交・軍事で今までにない新たな局面に遭遇する時代の幕開けと言ってもよい。

 となると、今回の知事選は結果次第では沖縄県が米軍基地への依存から本質的に脱皮を果たす千載一遇のチャンスであったはずである。

 だが、沖縄県民の多くは、全国平均の2倍以上の失業率や雇用確保などからか、非政治的な「目先」の選択をした。もちろん、沖縄県の雇用問題など経済問題は単なる「目先」ではなく、重要な課題であることは十二分に分かるし、新知事がアピールした「沖縄の真の自立は経済の自立なくして出来ない」ことも理解できる。

 とはいえ、基本的に基地容認、中央からの経済、産業誘導、そして各種大規模開発計画を追認する新知事の基本姿勢は、新局面を迎える今後の日米そして国際外交との関係にあって大変遺憾なことと言える。

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 ところで、今回の全野党共闘の敗因には、上記以外にもっと具体的な要因もあるようだ。たとえば、夕刊紙、日刊ゲンダイの11月21日号はトップで次のような論説を出している。

日刊ゲンダイ Dailymail Digest 2006年11月21日号
トップ記事

「...劣勢だった仲井真陣営は、基地問題が争点になることを巧みに避け、『経済活性化の仲井真です』『失業率を全国平均以下に』と、争点を経済問題に移していった。

 沖縄経済は疲弊しているだけに、これが有権者に響いた。

 糸数陣営は『沖縄の景気を悪くしたのは自公政権だ』と訴えたが防戦一方。

 しかも仲井真は、沖縄に根強い『反中央感情』に配慮して“自民隠し”を徹底。

 出陣式にも党三役を呼ばず、閣僚にも演説させなかった。沖縄県民は、基地問題より経済振興を選んだのです」(地元関係者)

 しかし、それ以上に選挙のカギを握ったのは、創価学会・公明党だ。

 無名の自公候補が勝てたのは、一にも二にも創価学会・公明党がフル回転したからである。

 「公明党の力の入れようは異常でした。太田昭宏代表、北側一雄幹事長のトップ2人がそろって現地入り。

 太田代表は2回も入っています。自ら総決起大会を開催し、『我々の軍団が立ち上がって負ける戦いはない』と支持を訴えている。

 恐らく、全国の創価学会員が動いたはずです。実際、出口調査では、仲井真候補は、公明支持層の約9割から得票するなど、確実に票につながっている。

 仲井真と糸数の差は、34万票対30万票と、わずか4万票だった。沖縄には公明票が7万票近くある。創価学会・公明党の動きが勝敗を決したのは確かです」(政治評論家・本澤二郎氏)

 事実、公明党の沖縄知事選への入れ込みようはすさまじいものがあったようだ。

 たとえば、公明党の浜四津公明党代表代行は沖縄県知事選の応援演説で、糸数けいこ知事候補を中傷し、事実に反するデマ宣伝を行ったとして、「キラめく沖縄をつくる会」の喜納昌春事務局長(沖縄社会大衆党委員長)は11月15日、「虚偽事実の公表は、選挙の公正と公平を侵害し、民主主義を否定する極めて重大な犯罪行為」として、「虚偽事実公表罪」で那覇警察署に告発している。

 告発状によれば、浜四津氏は11月12日、那覇市のパレットくもじ前で街頭演説した際、「(糸数氏は)参議院のなかで沖縄の『お』の字もいったことがない。沖縄のために、何一つ相手候補はやっていない。これまでやってこない人が、いくらやるやるといっても、だれが信じるか」などの演説を繰り返し、糸数候補への個人攻撃に終始したとされている。

 これに対し、糸数候補側は、糸数氏は参議院議員時代、財政金融委員会で45回行った質問のうち、34回にわたり沖縄に関する問題を取り上げており、同委員会理事会で「沖縄のことばかりやるな」と2度にわたり自民、公明の妨害を受けてきたという。

 同告発状では、「自ら推薦する仲井真弘多が、沖縄問題に関して解決策を提起できず、糸数けいこの政策に太刀打ちできないとみるや、正当な政策論争を放棄し、糸数けいこの沖縄問題に対する、これまでの取り組みを、虚偽の情報によって否定し、糸数けいこの評価を貶(おとし)めようとしたものであって、極めて卑劣な選挙妨害行為である」と書いている。

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 さらに言えば、直前の福島県知事選挙で「新党日本」がこともあろうか、自民、公明が推薦する森候補に相乗り推薦したり、その「新党日本」の参議院議員である荒井広幸氏が首班指名で安倍氏に一票を入れるなど、きわめて不可解な行動をとり、もともと兄弟政党であった国民新党から三行半を下されたことも、沖縄県民にとって全野党共闘をわかりにくくさせたことは否めない。 

 ※青山貞一:節操なく支離滅裂な「新党日本」、福島県知事選

 また国民新党に属する多くの元自民党の衆参議員が外交安保問題で、糸数候補の理念、政策と一致していたかどうかもきわめて疑わしいものがある。新党日本から国民新党に移り来年参議院選出馬を予定している小林興起氏らはどうみても、「大日本主義」者と見えるからだ。

 もちろん、これは民主党についても妥当するが、少なくとも自ら自民党を出てきた小沢氏らと、そのつもりはないまま郵政民営化に反対し、後ろから金属バットでたたかれるように自民党を追い出された議員らとの違いはあるだろう。

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 ところで、言うまでもなく今回の「自公」vs.「反自公」の一騎打ちになった沖縄知事選は、教育基本法改正、共謀罪立法、憲法改正などを旗幟鮮明とする安倍政権との関連において、いわば日本の政治を180度変える可能性と意味を持っていた。

 その意味で、選挙そのものは、沖縄県で行われたものの、沖縄県の有権者が行った選択は、直前の福島県知事選挙で反自公勢力が勝利し、来年の参議院議員及び統一地方選挙に向けて勢いづけようとした矢先の大きなつまづきとなったと言えよう。、

 国家主義色と米国追随、従属をことさら強める安倍政権に対し、本来、日本が向かうべき方向を見定めるはずの沖縄県知事選挙で、3万7318の票差とはいえ敗北した意味はきわめて重大である。

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 仲井真弘多氏(なかいま・ひろかず)東大工卒。61年旧通産に入り、工業技術院技術審議官などを経て、87年沖縄電力理事。95年社長、03年会長。90年から93年まで沖縄県副知事も務める。67歳。沖縄県出身。当選1回。