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進む自然破壊と事業費の増加
八ツ場ダム(3)

青山貞一


掲載月日:2007年9月1日、9月2日拡充

無断転載禁

◆青山貞一:破壊される自然と歴史的資産:八ッ場ダム3)

 群馬県吾妻郡の長野原町から東吾妻町の吾妻川流域に計画され、中断後、数1000億円規模の公共工事が猛烈な勢いで進む八ツ場ダム(やんばダム)だが、2007年8月28日から31日にかけ、北軽井沢の環境総合研究所の保養所を拠点に、長野県、群馬県の公共事業の現場を視察した。八ツ場ダムの現地を視察したのは今回で4回目である。


図1 北軽井沢()と長野原・川原湯、国道145号線の位置関係
 出典:Livedor地図情報

 今回は2007年8月31日、長野原町で繰り広げられる国道145号線の大規模付け替えのための橋梁工事現場をデジタルハイビジョンカメラで撮影した動画は別途映像をYou Tube経由で提供する予定)。 その一環としてデジカメ撮影も行ったので、ここでは国道145号線の付け替えに伴う橋梁工事の現場を紹介してみたい。

 国土交通省の当初案では、長野原地区のJR長野原草津口近くで北から南の対岸に渡る計画となっていた(図2)。

 図2の青い線が道路の路線選定であり、青○部分が橋梁の位置であった。しかし、国土交通省はその後、図3の案に国道145号線の付け替え路線選定及び橋梁位置を大幅に変更した。

 国土交通省八ツ場ダム事業費変更内容(案)


 図2 国道145号線の当初の付け替え計画案
  出典:国土交通省資料より青山作成


 図3 国道145号線の現在の付け替え計画案  
  出典:国土交通省資料より青山が作成

 以下は、国土交通省が図2の案から図3の案に国道145線形、ルート、橋梁位置を変えた理由である。地元との交渉とともに、国土幹線道路との関連整備区間に指定されたため路線などを変更したとしている。

 国道145号線の新案では総延長が3,010m減っているにもかかわらず、橋梁工事が大型化し、施工単価が増加している。お定まりのように、計画変更、事業変更のたびに予算が増加している。

 実際現地で見ると、当初案より地形的に見て従来案より遙かに困難な土木工事が予想される位置に移っている。その結果、大がかりな巨大な橋梁工事が行われ、自然環境破壊と工事費が一段と増えていることが容易に推認できる。


国土交通省による国道予算増加の理由説明 出典:国土交通省

 今回、現地視察した場所だが、現在の国道145号線の国道を付け替え部分、すなわち図2の青い○部分を撮影の対象とした。

 具体的な撮影場所だが、現145号線を長野原地区から林地区に向かって自動車で走り、青い○と現在の145号線がぶつかる部分である。ここから渓谷そして対岸側の国道145号線の付け替え部分、すなわち○の中を撮影している。


写真1 国道145号線を長野原から川原湯方向に向かう


写真2 現国道145号線を長野原地区から林地区に向かう橋梁工事現場入り口(右側)電力線が工事現場に迎一直線で向かっている。


写真3 橋梁工事現場。巨大な橋梁の橋桁工事が急ピッチで進められている。左側は新145号線が林地区に向かう橋梁の橋桁。
(国道の橋桁と足場が保護色化して見えにくいはず)


写真4 上の写真の右側部分。対岸に伸びるところ。


写真5 写真3の下側、対岸部分及び下側工事部分

 なお、上記はあくまでも国道145線付け替えにともなう大規模橋梁工事だが、その他に、県道付け替えにともない2つの橋梁(湖面1号橋、湖面2号橋)、さらにJR吾妻線の付け替えに伴う橋梁工事がある。とくに一般県道の橋梁の付け替えでは、図4のように、地元の要望を押し切り構造を変更した。このため、橋桁が1本増え地質への影響が増えている。


図4 一般県道の付け替えにおける橋梁構造の変更案 出典:国土交通省


国土交通省による一般県道予算増加の理由説明  出典:国土交通省

 橋梁だけをとっても、巨額な土木工事のやりたい放題である。こうして自然環境は壊され、財政破綻が進むことになる。しかも、メディアは国土交通省の時代錯誤の巨大事業をほとんど報道しない。地元メディアは、国土交通省からの広告費、広報関連の委託事業で、ダム事業には何も批判できない。

◆青山貞一:メディアの本質を考えるJ 巨大公共事業推進の先兵

 お隣の長野県では2006年夏に当選した村井知事が、「脱」ダムの一大拠点、長野市の浅川ダム工事を再開すれば、今後、土建屋が「10年は食える」と会見で述べたことが大きな問題となっている。

 まさにダムそのもの必要性より、日本では、いまだに業者が10年、20年食えることが最大の目的となっている現実と実態が人里離れたこの地で浮き彫りとなっている。いついっても、国道145号線で出会う大型車の多くは工事関係車である。

 日本社会における本当の構造改革は、まさに50万社、600万人規模に膨らんだ日本の土建業者を他業種に振り向けることにあるはずだ。それがなされぬまま、地元有力政治家と中央省庁の官僚の「政」「官」「業」の固い結束によって、物理的な距離で霞ヶ関に近い首都圏で、巨大なダム工事が日夜進む。

 半世紀以上、保守政治のもとで続けられてきた官製談合、現状追認型の土木事業は、小泉、安倍政権の構造改革下でも依然として「健在」である。

 つづく


 写真6  八ツ場ダム、国道145号線の付け替え橋梁工事