エントランスへはここをクリック   
A Field Survey on
Three Gorges Dam Project
三峡ダム視察A

Teiichi Aoyama 青山貞一

掲載月日:2008年12月2日

■4日目 三峡ダムサイト :2008年11月23日

 三峡ダム事業の展示館で一通り解説を受けた後、私たちはダムが見える小高い丘にバスで向かった。下はグーグルマップでみた三峡ダムサイトとその周辺である。私たちが視察したのはダム本体の北側にある展望台とダムサイト直近の展望台である。


グーグルマップで上空から見た中国、三峡ダム(平面図)
 

 下はグーグルアース(Google Earth)の3次元立体表示でみた三峡ダム事業の全体。事業の巨大さがよく分かる。ダム湖は本体から日、重慶側に600kmも続くという。


グーグルアースで見た三峡ダム(Three Gorges Dam)全景(立体図)


北部山岳地帯から見た三峡ダム(Three Gorges Dam) グーグルアース



 
下は、三峡ダム本体。



 下はダムの湖面である。



 下はダム本体の湖面が見える展望台。当日は残念ながら曇天で対岸など、遠くは見えなかったが、中国各地から多くの人々が来ていた。



 下は大型客船、貨物専用のバイパスである。構造はミニ「パナマ運河」となっている。これだけ巨大なバイパスをつくるならチョウザメのバイパス(遡上河川)もつくるべきであったと思うが、チョウザメについては研究所はつくったもののバイパスはつくっておらず、世界的な批判を浴びている。日本で云えば長良川河口堰におけるサツキマスの遡上問題を思い出す。









 ダム本体が遠望出来る展望台は造園的に綺麗に整備され、その隣には水利模型施設もあったが、これらの施設が立派で有ればあるほど、失ったものの重みをずっしりと感じざるを得ない。

 私の体調はこの当たりで絶不調。やっとのことで展望台に登ったものの、あいにくの天気(曇天)もあり、気分はグルーミーだ。、





 ところで三峡ダムといえば100万人近くの住民が水没することで強制移住させられたことで有名だ。

 私はたまたまカナダ人の Edward Burtynsky, 写真家であり映画監督が撮影した「Manufactured Landscape」という映画の試写会に招待を受け、この春(2008年3月)に東京で見ていた。この映画は巨大開発や膨大な廃棄物処理など人為的行為で作られた新たな景観を世界各国にカメラを持ち込み撮影したものである。その「Manufactured Landscape」のなかでも特に記憶に残ったのが、水没する三峡地域の映像だった。

鷹取敦:「いま ここにある風景」Manufactured Landscapesを見て

 下は「Manufactured Landscape」のPRポスターだ。


Source:Edward Burtynsky 「Manufactured Landscape」

 さらに下の写真はポスターに使われた中国三峡ダム水没予定地である。どこかイラクかアフガンの戦場のような光景でもある。


Source:Edward Burtynsky 「Manufactured Landscape」

 その「Manufactured Landscape」に以下の三峡ダムの水力発電タービンがでてくる。これはまさに三峡ダム視察@で紹介したタービンに他ならない。それにしてもこの映画では、よくぞここまで立ち入って撮影したと思える映像が次から次へと出てくる。

 とくに中国関係の現地撮影では、映画の撮影クルーと中国の官憲が撮影の是非を巡りけんか腰の議論をしている場面が何度か出てくる。面白いのはその場面を別のカメラで一部始終、音声入りで撮影し公開していることだ。このドキュメント撮影魂には脱帽である。ぜひ、一度、「Manufactured Landscape」をごらん頂きたい。

Source:Edward Burtynsky 「Manufactured Landscape」 

 今回、三峡ダム現場視察はダム本体とその周辺施設の地域に限られたが、下の写真はダム建設及び水没するまちのものである。いずれも今となっては見られない貴重な写真だ。

◆ダム本体の建設現場

◆三峡ダム建設により水没するまち1 水没予定地域の取り壊し

◆三峡ダム建設により水没するまち2 みどりがある部分はすべて水没

上記3枚の写真の出典

◆三峡ダム事業図

上記図の出典

 なお、以下はYouTubeに掲載されている三峡ダムの建設工事中の映像である。ただし音声は英語、字幕は中国語。


出典:YouTube


出典:YouTube


出典:YouTube


出典:YouTube


出典:YouTube

 帰国後、とくに住民の強制移住が気になったので、グーグル検索で少し調べてみた。すると三峡ダム開発に伴う住民の移住は今年の夏で完了したという下の記事があった。
 
三峡ダムの最後の住民移住が終る
2008-07-23 09:58:04
 中国湖北省にある三峡ダム地区の最後の住民移住が22日、終わりました。 現在、三峡ダムの水位は156メートルに達しました。しかし、移住が終了したことや、地質災害の防止対策がすすみ、今年、増水期のダムの貯水水位は175メートルになる込みです。(翻訳:董)


 他方、昨年の秋時点でさらに大規模な住民の移住計画があることも分かった。下はそれを伝えるAFPの記事。

中国・三峡ダムで400万人規模の新たな移住計画
【2007年10月12日 AFP】

 中国で前年に稼働開始した三峡ダム(Three Gorges Dam)の周辺地域に住む住民400万人を再移住させる計画が明らかになった。英字紙「チャイナ・デーリー(China Daily)」が12日、地元高官の話として報じた。同ダムに関しては、深刻な環境問題を引き起こす可能性を政府当局が指摘したばかり。

 同紙が地元当局の話として伝えたところによると、総面積600キロの世界最大の同ダム付近に住む400万人に対し、今後10-15年で近くの重慶(Chongqing)郊外への移住勧告が出された。共産党上層部もこの拡大移住計画を前月、 承認しているという。

 重慶市副市長は、すでに人口稠密と工業化で危機にひんするダム周辺地域の貴重な自然を保護するためには、再移住が必要だと説明する。

 同地区では、今回の再移住計画以前にも、ダム建設時にすでに140万人が移住させられ、大きな社会問題を引き起こした。移住させられた住民への補償金数百万ドルを当局職員が着服するなどの事件も起きている。

 ダム反対派は、移住住民の多くが都市生活に不慣れなことから、大都市重慶で新たな生活を始めるにあたっても深刻な問題が発生するとの懸念を示している。

 失業者問題を抱える重慶市にとっても、非熟練移住者の大量流入は社会問題となると指摘する声もある。

(AFP/Verna Yu 2007年10月12日 23:24)


 上記の記事にも出てくる深刻な環境問題について調べたところ、以下の記事が出てきた。

【中国】 三峡ダム完成でさらに水質悪化 長江環境で初の報告書
2007/04/16(月) 20:56:32

 中国・長江(揚子江)の環境に関する初の包括的な報告書が発表され、専門家は長江の10分の1の流域で深刻な環境悪化を指摘すると同時に、世界最大の三峡ダムの完成後、水質汚染がさらに進んでいると警告した。

 「長江の保護と発展2007」と題された報告書は、全270ページ。中国政府の水利部門、世界自然保護基金(WWF)などが合同で作成した。

 報告概要や中国紙によると、長江には工場、住宅などが年間260億トンを排水。アンモニア、リンなどによる水質悪化で1950年代に50万トンだった漁獲量は90年代に10万トンに激減した。

 ヨウスコウカワイルカに加え、長江固有のコイなど10種類の魚が絶滅の危機にひんしている。また、三峡ダムの完成でダム付近は水流が停止、自浄機能が失われ、窒素やリンなどによる汚染が悪化。建設前に専門家らが「川に汚染帯ができる」と警告しており、懸念が現実となった形だ。

http://www.sankei.co.jp/kokusai/china/070416/chn070416000.htm

 これはまさに私が武漢大学での基調講演で話した諫早湾干拓事業による水質悪化と漁獲高の激減問題とほぼ同じ問題だ。私は講演のときに使った110枚のパワーポイント(英文)をすべて大学側に提供したので、じっくり読んでもらえば今後、三峡ダムによってもたらされるであろう水質悪化、水産資源への影響、それへの対応が役に立つはずである。

 王さんの基調講演はまさに、三峡ダム事業の光の面だけが強調されたわけである。もちろん、原発18基分に相当する電力が13億とも14億人とも云われる中国の社会経済に光明を照らすことはあるだろうが、同時に失ったものも多く、その多くは不可逆的なものとなり、次第に光明の影となって行くことも否定出来ないだろう。

 一方、三峡ダム事業の環境アセスメント(環境影響評価)だが、確かこの環境アセスメントには日本の社団法人コンサルティング・エンジニア協会参加の日本のコンサルティングが係わっていたと聞いている。

 某コンサルタントはある国際会議で、「三峡ダム事業は、電力開発、150万ha、1,500万人の流域の洪水調整、水力発電によるクリーン・エネルギー、下流の水質汚濁改善、水運に貢献するプロジェクトである。住民移転が最大の問題であったが、よりよい条件の居住地へ移転することで解決した」などと述べているが、形だけの環境アセスや戦略アセスでは今後、現実化するさまざまな問題に何ら責任をとれないだろう。

 第三者による事後的なモニタリングや調査が待たれる。グーグルで検索していたら以下のような記事も出てきた。

 三峡ダム建設プロジェクトを手がける中国長江三峡総公司は、傘下の発電所3カ所の建設工事を環境保護部門の認可なしで着工していたとして、国家環境保護総局から罰金60万元の支払いを命じられた。罰金はすでに国家関連部門に支払われた。

 三峡地下発電所など発電所3カ所の工事は現在、まだ環境保護総局環評司による着工前の最終審査の段階にある。国家環境保護総局が20日に明らかにした。

 国家環境保護総局の担当責任者によると、罰金60万元は決して高額といえないが、「環境影響評価法(環境アセスメント法)」の規定によれば罰金は5〜20万元であり、今回は最高額が適用されたことになる。

人民網


つづく