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  日本国民は

  なぜ不幸か(4)
            青山貞一
             政策学校一新塾代表理事
            掲載月日:2012年3月21日
                  独立系メディア E−wave Tokyo

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 以下は、2012年3月20日、東京都港区にある政策学校一新塾で代表理事、青山貞一が行った基調講演の一部である。今後、何回かに分けて基調講演の内容をお伝えしてゆきたい!




ミニ講義をする青山貞一、東京港区に政策学校一新塾にて
2012.3.20

・個人の価値観の多様性に組織が対応できない現実

 以上、日本の幸福度そして逆に高い貧困率についてデータ面から詳細を見てきた。日本は世界そして先進諸国にあって低位にとどまっているだけでなく、どんどん幸福度が下がり、貧困率が上がっている現実がある。

 上記はミシガン大学幸福度調査の個別指標にある社会経済指標のうち、個人所得、失業率など経済指標に関わる者が多かったが、ミシガン大学の幸福度調査の指標には、個人の自由、個人の価値観など、価値観に関わるものがある。

 次にそれらについて見てみたい。これらは定量化が困難な指標であるが、日本の場合、とくに若者世代にとって幸福度に密接に関わる重要な指標であるように思える。


 価値観の多様性と分布、変化 [編集]

 人々が抱くあるいはもっている価値観は多様であることは言うまでもない。価値観の形成は親から教えられることもあれば、書物を読むこと教えられることもある。海外旅行をするなど個人的な体験をきっかけに独自に新たな価値観が構築されることもある。古くは1970年代のように学生運動、政治運動のなかで当時の学生、若者の価値観が形成されたこともある。

 さらに組織や共同体に属することによって継承されることもある。同じ価値観を抱く人同士では、そうでない人同士に比べて、互いの行動が理解しやすかったり共同作業がしやすく、接近する傾向があると言える。

 たとえば環境問題、食の安全などへの認識から有機農業を志し、同じ価値観を共有する人々によって新たな農業共同体が形成されることもあるだろう。
 
 一方、企業組織では価値観は企業風土や社風、従業員の行動などから形成され、結果として企業の存続/消滅 にも影響することがある。その企業に適していて社会的にも適切な価値観を構築し、それを従業員に提示し共有してもらうということは経営者・リーダーの重要な仕事である、とされることも多い。

 逆に、組織の価値観がそのに働くひとびとにとって、自由な発想、感え、行動を束縛することで、結果的に個人の多様な価値観や自由が拘束されることになり、人間の幸福度の大きな影響をもたらすこともある。これは何も営利企業だけでなく、行政組織にも当てはまることである。

 下図は、さまざまな組織の価値観と個人の価値観との相互関係を図式化したものだが、価値観の多様化は、組織内で働く個人の価値観と共鳴せず、個人の価値観、自由を圧迫することもあり得る。

 欧米諸国では多くの労働者は、企業など組織は、あくまで生活の糧(給与)を得る場と割り切り、個人の多様な価値観、自由は、企業組織外の市民社会やNPO・NGO活動の中で発露、体現すると思われる。


出典:青山貞一、東京都市大学、公共政策論授業パワーポイント

 とくに欧米には、営利組織(企業社員、PO)、行政組織(公務員、GO)以外に営利組織でもなく、行政組織でもないNPO(非営利組織)、NGO(非政府組織)が多数存在し、企業組織や行政組織の価値観と自分の価値観が相容れないと考える人々は、それらNPO,NGOの組織で働く機会がある。もちろん、報酬はPOより少ないことが多いが、それでも価値観と共有する人々と協業し、社会に貢献することを目的に活動している。
 
 しかし、日本では、NPO,NGOが欧米に比べて圧倒的に組織数が少なく、それらの組織の財政を法制度に支援する制度が無いに等しい。その結果、日本NPO,NGOは経営的に脆弱であり、給与所得も日本人の平均所得より遙かに低いものが多く、自分の価値観を体現するためにNPO、NGOを働きの場と選ぶことに大きな壁があることも事実である。


出典:青山貞一、東京都市大学、公共政策論授業パワーポイント

 個人の価値観、自由との関係では、夫婦そして家族において価値観がうまく共有されているかどうかも重要である。現代社会では、結婚前に相互の価値観を確認しあうということが自然な形で行われていることが一般的であるが、その齟齬も個人の価値観から見た幸福度を下げる大きな要因となっている。

 下のグラフは日本の離婚率の年次推移をみたものだが、離婚件数及び離婚率は、昭和30年代は7万組前後、0.7〜0.8で推移し、増加してきた。昭和58年に18万組、1.51まで増加した。その後減少、昭和63年から再び増加していた。


戦後の離婚率の年次推移
出典:厚生労働省
 
 近年、離婚率は減少し平成18年は26万組、2.03となっているが、日本社会ではいわゆる婚姻率が1970年代はじめから一気に落ち込み、その後も単調減少しているという事実がある(以下の戦後の婚姻率・離婚率グラフを参照)。


出典:Garbagennews.com

 以上、ミシガン大学の幸福度調査に関連し、日本の社会経済指標を俯瞰、鳥観してきた。周知のように、日本社会は、戦前戦後を通じ、明治維新以降、富国強兵、戦後復興、高度経済成長などを通じGDP至上主義、経済成長一辺倒できたが、絶えず置き去りにされてきたのが国民の「幸福度」に関わることであると言える。

 それにより肥え太った産業、企業も、この20年、凋落の一途とたどり、ここ10年は、政府が加工貿易、輸出振興に血道を上げてきたにもかかわらず、日本の製造業はアジア諸国に追いあげられ、追い越されてきた。

 世界をリードしてきた家電のパナソニックも2011年度決算で歴史的大赤字を計上した。天下のトヨタ自動車は、リーマンショック時、税引き後利益16兆の内部留保をもちながら、多くの非正規従業員、季節労働者を解雇している。これらは政治は三流だが経済は一流と言われてきた日本の末路を示している。

 他方、格差社会という言葉に象徴されるように、日本社会は格差社会化が進んでいる。しかも超高齢化、少子化、核家族化も進んでいる。地域社会、コミュニティの凝集性も著しく壊れ、私人の利害のぶつかり合いの場となっている。

 さらに言えば、日本は先進諸国のなかでも独自の社会を形成してきた。情報公開が著しく遅れ官僚による独裁国家化(田中宇氏の言葉)が顕著で、社会のそして経済の民主化は立ち後れている。女性の社会経済政治参加もスカンジナビア諸国の半分も進んでいない。

 右肩上がりの時代は、それらの社会的矛盾がすべて経済により隠蔽されてきた。

 しかし、その経済が劣化したなかでの官僚独裁国家日本には、国民の幸福度を総じて上昇させる要因は見あたらないのである。

 事実、ある友人は、調べれば調べるほど日本はあらゆる指標で貧困や不幸から抜け出る兆候はないと言っていた。まさにその通りである。

 政権交代に際し、「生活者が幸福を実感できる社会の実現!」を旗印に、まさに日本の幸福度を上げるための政策、施策をマニフェスト化した民主党であったが、自民党とマスコミの総攻撃を受け、あえなく沈没し、こともあろうかマニフェストにない増税路線をひた走っている。しかも、官僚独裁国家が抱える構造的問題、土建国家の利権構造をそのままにあである。

 先進諸国のなかで、日本ほど正直者がバカを見る不幸な国はないのである!

 ここまで政府の能力が劣化している日本を再興するためには、自立した個人、すなわち主体的市民の連携こそが再興、復興の要となる。






つづく