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フランスのテレビ番組
「終わらない悪夢」
(テキスト後編)
トランスクリプト 鷹取敦
掲載月日:2011年7月27日
 独立系メディア E−wave


 NHKのBS1が放映したフランスのテレビ局が制作した米国・ロシア・フランスにおける放射性廃棄物問題に関するドキュメント、「終わらない悪夢」のテキスト部分をトランスクリプトした。

   ドキュメントの原題は以下の通りである。
   原題:Waste: The Nuclear Nightmare
   制作:Arte France/Bonne Pioche (フランス 2009年)

後編

●ラ・アーグの使用済み核燃料再処理工場からの汚染

 フランス北西部ラ・アーグにある使用済み核燃料再処理工場は、当初は軍事用プルトニウムを生産していた。


フランス北西部ラ・アーグの位置
Source:Google Map


ラ・アーグがあるフランス北西部のコタンタン半島
Source:Arte France/Bonne Pioche


アレバの核燃料再処理工場があるラ・アーグ
Source:Arte France/Bonne Pioche

 グリーンピース フランス支部のヤニック・ルセレは20年間、この施設が環境に与える影響を研究してきた。


グリーンピース フランス支部のヤニック・ルセレ
Source:Arte France/Bonne Pioche

「これは放射性廃液の排出用パイプ、ラ・アーグの施設から来ている。延べ4.5キロメートルのパイプがラ・アーグ岬から1.7キロの海域で排出している。これがドラム缶に詰めたら相当な数になるがドラム缶を船から投棄することは禁止されている。」


およそ50年の間、各国はドラム缶に詰めて海洋投棄されていた
Source:Arte France/Bonne Pioche

 1993年国際条約で放射性廃棄物の海洋投棄は全面禁止。

 あくまでも船からの投棄は禁止。矛盾しているようだが陸上からの排出は未だに合法。

 ラ・アーグのパイプは毎日400立方メートルの放射性廃液を英仏海峡に投棄。排出されたヨウ素129の一部が北極圏で検出されている。


4.5キロメートルのパイプがラ・アーグ岬から1.7キロの海域で排出している
Source:Arte France/Bonne Pioche


アレバ社の核燃料再処理工場があるコタンタン半島のラ・アーグ
Source: Google Map

 海中のサンプル採取の様子をグリーンピースが撮影。原子力調査機関クリラッドの分析によると海底は放射性廃棄物で汚染されている。このパイプはセシウムやコバルトなどが排出し、海草や甲殻類、貝に吸収され食物連鎖に入り込んでいる。

 「調査しているうちに、ラ・アーグの再処理施設の排気塔から出ているガスも問題であることが分かった。凧を使って排気塔の高さまでホースを引き上げガスを採取し検査したところ排出ガス1立方メートルあたり数万ベクレルと高い数値だった。クリプトンが検出されたので、どう拡散されたか調べた。使用したソフトウェアはラ・アーグを運営している会社が持っているものとおなじ。ヨーロッパに拡散される様子をシミュレーションしたところ風向き次第では2、3日でヨーロッパ全土が影響を受けることが分かった。ベルギーとスイスの大学で採取したサンプルとラ・アーグの稼働日程を照らし合わせると、私たちのシミュレーションが正しいと立証された。つまりラ・アーグの排気のせいで常に原子炉の事故が起きているような状態、日々、放射能漏れが起こっているのと同じ状態といっていい。」


凧を使って排気塔の高さまでホースを引き上げガスを採取
Source:Arte France/Bonne Pioche


凧を使って排気塔の高さまでホースを引き上げガスを採取
Source:Arte France/Bonne Pioche


ヨーロッパに拡散される様子をシミュレーション
Source:Arte France/Bonne Pioche


クリラッド研究者ブルーノ・シャレロン氏
Source:Arte France/Bonne Pioche

 ラ・アーグ周辺で採取したサンプルをクリラッドで分析した。クリラッド研究者ブルーノ・シャレイロン氏。

「グリーンピースの調査では、ラ・アーグ上空で1立方メートルあたり9万ベクレルという非常に高い濃度のクリプトンが検出された。再処理工場で使用済み燃料を溶かすたびに放射性物質が排出されるから。企業側も最近測定しているが周辺の村では年間平均1000ベクレル/立方メートルに達している。ラ・アーグ周辺住民はクリプトンが含まれた放射性の空気を吸っている。ラ・アーグは廃棄物の排出規制措置を大幅に免除されている。数十年間の大気圏核実験500回分よりラ・アーグが1999年1年間に排出したクリプトン85の方が多い。半減期は10年なので大気中に蓄積されていく。1960年代から2000年代まで北半球の放射性クリプトンの濃度が増加している。ラ・アーグなどの再処理施設からの放出が原因。」


数十年間の大気圏核実験500回分よりラ・アーグが1999年
1年間に排出したクリプトン85の方が多い
Source:Arte France/Bonne Pioche


Source:Arte France/Bonne Pioche


●垂れ流される放射性廃棄物

 トリチウムやクリプトン85のような一部の放射性物質を外に出さないためには膨大なコストがかかる。ラ・アーグ再処理工場はその殆どを環境中に放出することをフランスの原子力安全機関(アンドレ=クロード・ラコスト委員長)から許可されている。


フランスの原子力安全機関(アンドレ=クロード・ラコスト委員長)
Source:Arte France/Bonne Pioche

ラ・アーグの排出量はどのように決めているのか。

「企業(アレバ社)が排出予定の廃棄物の根拠を記した申請書を提出する。まず協力団体である放射線防護原子力安全研究所に依頼し専門的な調査を行う。要請が技術的に妥当か、申請が妥当な基準に収まっているか確認するため。2番目の調査で申請された排出物が地域の住民に影響を及ぼさない確認する。この2つの調査を考慮に入れて排出される量を出来るだけ少なく設定する。」


ラ・アーグの再処理工場
Source:Arte France/Bonne Pioche


フランス北部、ラ・アーグにあるアレバ社の再処理工場
Source:Arte France/Bonne Pioche


使用済み核燃料を処理する際に排出されるクリプトン85を含むガスは閉じ込められないので稼働時間に比例して排出されるのでは?

「企業側に処理方法の再検討を求め、排出物を外に出さない方法を見つけるよう伝える。期限を定め再検討の結果を提出させる。」

クリプトン85を閉じ込められますか。

「今は出来ません。企業側に減らすよう要請したが簡単ではない。」

ラ・アーグには独自の検査チームがあり空から落ちてくる放射性物質のサンプルを採取している。チームのリーダーに取材できたが施設の広報責任者がつきそってきた。


ラ・アーグには独自の検査チームがあり空から落ちてくる放射性物質のサンプルを採取している
Source:Arte France/Bonne Pioche

施設の排出物が環境を汚染しているか。

「いいえ。汚染というつもりはない。測定では通常自然界で浴びるバックグラウンド放射線を検出している。影響はない、と言っている。」(広報担当者による質問しなおし。)「環境の中にその存在は見つけたが汚染ではない、ということだね。」

アレバ社の社員の困惑が理解できる。再処理工場が放射性物質を排出していることは認めるが、それは汚染ではなく「存在」としか言えないのだ。


再処理工場が放射性物質を排出していることは認めるが、それは汚染ではなく「存在」としか言えないのだ。
Source:Arte France/Bonne Pioche

「アレバ社が、基準を下回っている、という時、問題はその基準が妥当か、ということ。こうした基準は広島・長崎の非常に短時間に外部から強烈な被曝を受けた被曝データを参考にしている。施設のそばの住民は低レベルではあるが日常的に汚染された空気や食物を摂取している。微量であっても継続的に体内から被曝している。チェルノブイリでは広島・長崎のデータをモデルにしてチェルノブイリの周辺で癌発生の増加は無いだろうと科学者が予測した。しかし、5年後、子供の間で甲状腺ガンが急激に上昇した。モデルの選択が間違っていた。ラ・アーグの周辺の環境は汚染されている。健康に影響する可能性は高いだろう。」


核燃料「サイクル」の実態

 ヨーロッパの放射性物質の80%を排出しているのが、使用済み核燃料の再処理工場。再処理の必要性に異議を唱える人もいる。再処理は本当に必要か。アレバ社は核燃料サイクルを「閉じた輪」として表し廃棄物については何も触れていない。


フランス北部、ラ・アーグにあるアレバ社の再処理工場
Source:Arte France/Bonne Pioche



アレバ社は核燃料サイクルを「閉じた輪」として表し廃棄物については何も触れていない
Source:Arte France/Bonne Pioche

 アレバ社は透明性をうたっている。工場長のエリック・ブランにラ・アーグ施設を案内してもらった。使用済み核燃料は外国とフランスの58カ所の発電所から輸送され、完全に密閉された部屋の中で全てロボットによって扱われる。人が触れると致命的な結果を招くからだ。


工場長のエリック・ブランにラ・アーグ
Source:Arte France/Bonne Pioche


アレバ社の再処理工場内部。ここに使用済み燃料は5年貯蔵される
Source:Arte France/Bonne Pioche

 
 使用済み核燃料は水中に入れられ冷却され再処理を待つ。中間貯蔵用プールは4つ、水深9メートル、燃料の上を4メートルの水が覆う。水は放射性物質で汚染されるため常に濾過される。平均5年ここに貯蔵される。フランスは外国からの使用済み核燃料も処理してきたが、現在は主にフランスのものを毎年400トン処理している。


Source:Arte France/Bonne Pioche

 使用済み核燃料がプールから取り出されると切断され、硝酸で溶かされ、リサイクルできるものとそうでないものを分離。最後に残るのはウラン95%、プルトニウム1%、ガラス固化体が4%。「再処理」とは放射能を消滅させるものではなく、廃液をガラスと混ぜて溶かして固め最終廃棄物にすること。極めて危険で核分裂で産まれた物質の99%が含まれている。ガラスと混ぜて容器に入れられ固化された廃棄物は風通しのいい縦穴に貯蔵される。


最後に残るのはウラン95%、プルトニウム1%、ガラス固化体が4%
Source:Arte France/Bonne Pioche


プールから取り出されると切断される
Source:Arte France/Bonne Pioche


プールから取り出されると切断される
Source:Arte France/Bonne Pioche


その後、硝酸で溶かされ、リサイクルできるものとそうでないものを分離する
Source:Arte France/Bonne Pioche


廃液をガラスと混ぜて溶かして固め最終廃棄物にすることである。
Source:Arte France/Bonne Pioche



最後に残るのはウラン95%、プルトニウム1%、ガラス固化体が4%
Source:Arte France/Bonne Pioche

「たとえば1000メガワットの原発を稼働させると20トンの使用済み核燃料が出る。それから20本ほどのガラス固化体が出来る。フランスの80%が原発によるものだが、高レベル廃棄物に関して言えば毎年この幅の分しか出ていない。」

 しかしこの高レベル放射性廃棄物の中には数十万年後にもまだ危険性を帯びているものが含まれている。


Source:Arte France/Bonne Pioche

 ガラス固化された廃棄物は再利用できないがプルトニウムは利用できる。これをウランとまぜてMOX燃料になる。フランスのおよそ20カ所の発電所で燃料の一部として使われている。しかし再処理で取り出される物質の95%はウラン。

 ウランが貯蔵されているフランス南部の施設を見学する予定だったがアレバ社が前日にキャンセルしてきた。私たちが聞きたかったのは再処理で回収されたウランがどこでどのようにして再利用されるか。施設の見学は出来なかったがアレバ社の広報担当者のジャック=エマニュエル・ソルリエが取材に応じた。


アレバ社の広報担当者のジャック=エマニュエル・ソルリエが取材に応じた
Source:Arte France/Bonne Pioche

「再処理で回収されたフランス電力公社のウランは、フランス南部ピエールラットの施設で保管され顧客はいつでも再利用できる。エネルギー原料の備蓄のようなもの。原子力の特徴はリサイクルできること。顧客から要請があればオランダやロシアの別の施設へ送る。そこで新しい方法で濃縮されるだろう。アレバグループは現在そうした技術は持っていないので、ヨーロッパやロシアの施設に送られて核燃料サイクルに戻される。どこかに送って再濃縮される利点は顧客に聞いて欲しい。顧客の所有物だから。」

 その顧客とはフランス電力公社のこと。フランスのウランはロシアに運ばれている。それ以上のことは聞き出せなかった。


シベリアに放置される核廃棄物

 再処理で回収されたウランの行方をたどるためロシアに戻ることにした。モスクワでグリーンピース ロシア支部のウラジーミル・チュプロフに会った。ロシア-ヨーロッパ間のウランの取引を調べている。


ここでもグリーンピースが取材班の水先案内人となる
Source:Arte France/Bonne Pioche


さらにサンクトペテルブルグからトムスクへ
Source:Arte France/Bonne Pioche


 フランスのウランはシベリアの中央部トムスクへ向かう。再処理で回収されたウランはまずフランス南部のピエールラットを出てル・アーヴルに向かう。船で3500キロ離れたサンクトペテルブルクへ、さらに3200キロ列車でシベリアの奥深くへ向かいようやくトウムスクに到着。この危険な物質は8000キロを旅した。

「トムスクについたウランや放射性物質はセベルスクと呼ばれる場所に運ばれている。」

 ウランの終点はトムスクではな。市内を横切り数キロ走り核施設トムスク7に到着。他の核施設と同様、外国人は立ち入り禁止。


トムスクからトムスク7から地図に載っていない秘密都市セヴェルスクへ
Source:Arte France/Bonne Pioche


「あれが秘密都市。トウムスク7ともセベルスクとも呼ばれている。人口約12万5千人。核施設も従業員の住宅エリアも有刺鉄線で囲まれ警備厳重。」

 ロシアは1990年代にウランを濃縮して発電所用に新たに燃料を作る仕事を引き受け始めた。当時ロシアは核施設の維持費用に不足し給与も払えなかったので諸外国に受け入れを申し入れたが、猛烈な反発を招いた。


アレクサンドル・デエフはトムスクの地方議会議員。
Source:Arte France/Bonne Pioche

廃棄物受け入れに関する議会の権限は?

「議論は出来るが決定権はない。私は政府の一員だが私たちにさえ全てが秘密にされている。知りうるのは当局から報道関係者に発表される情報だけ。まともな状況ではない。これが住民に恐怖を与え政府への不信感を招いている。住民はロシアとフランスが協力することに反対している。多くの住民はフランスが全ての放射性廃棄物をロシアに送りつけ埋めさせようとしていると確信し当然快く思っていない。政府と原子力業界には放射性廃棄物の受け入れで巨額の金が支払われているに違いない。大きな過ち。ロシアはこんな契約を結ぶべきでなかった。」

 1990年以降、フランスで再処理された回収ウランが毎年およし120トンここを通って運ばれている。

「これが列車。これが軍事施設。冷却塔がある。これが探していたもの。シベリアに運ばれたウランの貯蔵コンテナ。この1つの点が巨大なコンテナだ。10メートルも長さがあるから宇宙から見える。」


グーグルマップで見る
Source:Arte France/Bonne Pioche


駅近くの引き込み線に膨大な数の放射性廃棄物のコンテナが置き去りになっていた
Source:Arte France/Bonne Pioche

 コンテナだらけのこの場所は衝撃的。無防備に屋外に置かれている。これは本当にウランなのか。この施設の詳しい業務内容を知りたいと考えた。

 アレクセイが責任者に連絡してくれた。トムスク州の放射線安全管理部部長のユーリ・ズブコフ氏が質問に答えてくれた。


トムスク州の放射線安全管理部部長のユーリ・ズブコフ氏
Source:Arte France/Bonne Pioche

「これはセベルスク。ここに映っているのは貯蔵区画。間違いなくウランの貯蔵区画。危険ではない。屋根が必要ならつけていたはず。コンテナは密閉され中身が漏れたりしないので、環境、健康への影響はない。唯一のリスクは飛行機の衝突。その場合には放射性物質を含む雲が発生するだろう。しかし居住区はずっと遠くにある。フランスのウランを輸送用のコンテナから施設のコンテナに移す。気体にして燃料として使うのに適したウラン235を増やすために遠心分離器で濃縮する作業を繰り返す。最後に濃縮ウランをフランスに送り返す。送り返すのは全部ではない。ウラン235の割合が減少した劣化ウランの殆ど全てはここに残されたまま。」

 フランスは劣化ウランをシベリアの奥深くに捨てているのだ。放射能は低レベルだが安全な状態で監視し、貯蔵しなければならない。

 フランスに帰国しもう一度フランス電力公社に問い合わせると、私たちがロシアで得た情報を認め、残りカスのウランはシベリアに残されロシアの所有物になる、それはフランスの再処理で回収されたウランの90%を占めていると回答した。つまり原子力発電所が出した放射線廃棄物のわずか10%しか再利用されない。アレバ社は96%を再利用できると主張しているがそれを遙かに下回る。アレバ社はそれでも原子力は再生可能なエネルギーと主張している。


それはフランスの再処理で回収されたウランの90%を占めていると回答した
Source:Arte France/Bonne Pioche


●使用済み核燃料の貯蔵の問題

 危険な輸送、環境汚染、再利用率の低さは再処理の必要性に疑問を投げかけている。現在商用で再処理しているのは、フランス、イギリス、日本の三カ国。他の国の最も一般的な解決策は最終的な解決策が見つかるまで大きなプールに入れておくこと。


Source:Arte France/Bonne Pioche


Source:Arte France/Bonne Pioche

 ロバート・アルバレス(クリントン政権エネルギー政策顧問)は、使用済み核燃料をプールに貯蔵することの危険性を調査した。

「2003年に報告書を提出。使用済み核燃料の安全性について過去25年間の記録を調べた。テロのシナリオまで想定した。問題はプールに貯蔵されている点。プールが干上がったら使用済み燃料の温度が上昇して水素爆発を起こしかねない。飛行機の衝突やテロのリスクも想定するとプールでの貯蔵は認められないとドイツやスイスでは考えている。特にドイツは水を使わない方法を使っている。コンクリートの貯蔵コンテナに入れ山の斜面に埋め込むようにおいている。山で守れない場合は非常に分厚いコンクリートの建物で囲んでいる。米政府は主にコスト面からこうしたやり方を拒否している。フランスのラ・アーグには地対空ミサイルがあり攻撃されたら打ち落とすつもり。アメリカにはそうした備えはない。」


問題はプールに貯蔵されている点
Source:Arte France/Bonne Pioche

 使用済み核燃料の貯蔵プールは世界中に450カ所近くある。あらゆる原発と再処理工場に最低1つはある。注意を払うべき場所があまりに多すぎる。放射性廃棄物の危険性はますます増大しているように見える。


フランスの民主主義と原発


Source:Arte France/Bonne Pioche

 コリーヌ=ルパージュはフランス環境相をつとめ原子力エネルギーに対する正しい理解を深めた。

「私たち(フランス)は1970年代に廃棄物の処理法が開発されるだろうと考え原子力発電に賭けたが40年間処理方法は見つかっていない。放射性廃棄物の大部分を再利用できる方法も廃棄物を一気に処分する方法も存在しない。行き詰まっている。今日言われている意味としては原子力は持続可能なエネルギーではない。フランスでは原子力エネルギーはほとんど宗教のようなもの。右翼から左翼まであらゆる政党に支持されている。地球温暖化問題がさらに追い風になっている。原子力エネルギーが私たちを救うと考えられている。私は原子力技術に反対はしないが、多くの問題を生み出している。経済的に見合うかどうかは私には分からないがフランス社会の諸悪の根源になっていると確信している。不透明な秘密主義の下で行われており、真実を覆い隠すという風潮は他の分野にも広がっている。現在の財政難の一因にもなっている。原子力エネルギーの推進に全力を注いでしまったため再生可能なエネルギーや効率的なエネルギーを開発する機会を失った。フランスの産業は遅れてしまった。」

 フランス国民は議論のテーマにはなっても決定に関与していない。最初から押しつけられてきた。何十年も強いてきたのは誰か。


Source:Arte France/Bonne Pioche

マイケル・シュナイダーはエネルギー原子力問題の国際的なアナリスト。


フランス・サルコジ大統領
Source:Arte France/Bonne Pioche

「フランスのエネルギー政策は政治家ではなく、理工系の高等教育機関を卒業したエリート技術官僚が考え、進めたもの。政治家はこの部門には何も関与していない。エリート技術官僚の独壇場。だから政治家の知識は全く目も当てられない。セゴレーヌ=ロワイヤルとサルコジの大統領候補討論会がこのことを驚くほどはっきり示した。大統領に立候補した二人が原子力について討論したが何一つ分かっていなかった。政治いかにエネルギー部門全体をエリート技術官僚にまかせきりだったかを示した。これは民主主義ではない。」

ロワイヤル「我が国の発電量に占める割合は?」
サルコジ「発電量の半分は原子力によるものです」→間違い
ロワイヤル「あなたは間違っています。たった17%だけですよ」→間違い
サルコジ「欧州加圧水型炉(EPR)を停止しますか?」
ロワイヤル「EPRは発電所ではありませんよ。それに試作品です。」→間違い
ロワイヤル「EPRは何世代?」
サルコジ「第4世代です。」→間違い
サルコジ「フィンランドに輸出しました」→正解


Source:Arte France/Bonne Pioche

数十万年にわたる使用済み核燃料管理は可能か

 国民が意図的に偽りの情報を与えられてきたのは歴史的に明らか。原発を持つ国では核をとりまく秘密主義が不安をかきたててきた。反対運動に参加する人々が求めるのは民主主義。世界中で何十年にわたり抗議活動が行われ、その結果、ドイツ、ベルギーでは大規模な議論が行われ、原発の全廃が決定された。

 2000年6月14日、ドイツ・シュレーダー首相は、ドイツは段階的に原発を停止するという歴史的な演説をした。「原発業界と合意した。原発の稼働期間は32年。政府が当初考えていた期間より長くなったが業界の希望より短い。非
常に適切な妥協と考える。」

 原発の撤廃を決めても、既に生み出された廃棄物の問題は解決しない。膨大な量の使用済み核燃料をフランスに送って再処理し、高レベル廃棄物を送り返してもらう。毎年廃棄物の輸送列車がフランスを出た列車がドイツのゴアレーベンに向かう。受け入れ反対する人々は激しく抵抗。核に対する人々の不安の表れ。

 現在考え得る最善の解決策は廃棄物を埋めること。ムーズ県のビュールには世界でただ一つの研究所がある。廃棄物を地下深くに埋められるかどうか科学者が確かめている。


科学部門の責任者ジャック・ドレイ、広報の責任者マルク=アントワヌ・マルタンが案内。
Source:Arte France/Bonne Pioche

「粘土層まで490m降りる。422〜522mの間にその地層がある。地下では35人ほどが作業。」


粘土層まで490m降りる。422〜522mの間にその地層がある。
Source:Arte France/Bonne Pioche

 このビュールは実験用の施設でここには放射性廃棄物は埋められない。調査が終了すれば最終処分場が近くに作られる予定。厚い粘土層の中にある。

「この地層に高レベル・中レベル放射性廃棄物を埋める。岩に閉じ込める力があるかどうか研究している。数十万年放射能が漏れないようにしなければならない。数千年の間に放射線が減衰していくが、岩で確実に封じ込めなければならない。」

廃棄物を封じ込めるために使うコンクリートや鋼鉄、ガラスはやがて劣化する。放射性物質はゆっくり粘土層を通って地上に到達するだろう。廃棄物は20万年の間危険。その前に環境へ漏れ出さない対策を講じなければ。100〜200年後地下トンネルは完全に埋め戻されそれ以降は引き返すことはできない。

「処分場が2025〜30年の間に建設されれば100年間は作業でき200年監視される。可能ならその後も監視されるが、記録が失われ忘れられるかもしれないから安全性が重要。そうなっても安全にしなければ。」

いつか考古学者が発掘したりしないか。

「ある人は上にピラミッドのような巨大な芸術作品を置いて目印にして保存され記憶される、別の人は何も置かないでおくべきと。目印を残すと好奇心で発掘しようとするかもしれない。SFのような話。どちらが正しいかは10万年後にならないと分からない。地上の出来事が影響しない地層に埋める必要がある。」

 20万年後、ここにはどんな景色が広がっているか。私たちは自分たちが出した廃棄物から6千世代もの人の命を守らなければならない。技術者たちは自信を持っているがその責任は重大。


フランス原子力庁長官、政府の科学技術顧問ベルナール・ビゴ。
Source:Arte France/Bonne Pioche

「私たちが今眺めている大聖堂を作った人は最初の石を置いたときは、自分たちの建築技術は時の試練に耐えると信頼していたはず。放射性廃棄物も同じ。長期間にわたり完全に封じ込める能力を私たちは持っている。放射性廃棄物を処分する時に必要な言葉がある。それは「信頼」。政治指導者、科学者、経営者の責任感、物理の法則、そうしたものをあなたが信頼しなければどうしようもない。信頼しなければ何も始まらない。未来を描くためには信頼が必要」

取材の締めくくりに高名な天体物理学者ユベール・リーブスに会った。

「原子力エネルギーが問題なのは未来を抵当に入れていること。原子炉の運転開始から解体まで一世紀以上にわたるかもしれない。同じ政治体制が一世紀以上つづくことはごくまれ。裕福だったアルゼンチンは貧しくソビエトは崩壊した。千年という単位で政治的安定を語ることは出来ない。エジプト人が廃棄物を埋めていたらとしたらどうだろうと考えてみて欲しい。人類の歴史は実に多くの大変動がある。考えてそんな途方もない未来を管理できると考えるのはおこがましいこと。」

終わり  前編に戻る