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日本人の不幸の根源は超長時間労働

EUの有給取得日数は日本の3〜4倍

青山貞一
独立系メディア E-wave Tokyo 共同代表
掲載月日:2016年1月12日
 独立系メディア E−wave Tokyo




◆一人当たりGDP日本並みイタリア、でもよほど「幸福」!?


南イタリア・アマルフィ海岸にあるフローレ(自治体)のB&Bの女主人と一緒に
撮影:青山貞一 Digital Camera Coolpix S8 2013-6-8

 下図は、2014年(平成26年)と2015年(平成27年)の一人当たり名目GDPをアジア諸国の上位国で比べてみたものです。ここでは中東の産油国は入れていません。

 図から一目して分かるように、2014年、日本はシンガポール、ブルネイ、香港に次いで第4位です。2015年でも日本は、シンガポール、香港に次いで第三位です。ブルネイは原油輸出価格が大幅に落ちたことから第四位となっています。


出典:スプートニク  原典:IMF

 問題は図の右下にある2015年の予測値です。

 G7(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、日本)で最も日本の近くにいるイタリアは 一人当たりGDPの予測値が29,847ドル、お隣の韓国が27,513ドルとなっています。とかくヘイトスピーチの対象となっている韓国は日本とそれほど違わないことが分かります。

 韓国問題はさておき、実はここで注目して欲しいのは、一人当たりGDP(名目値)で日本のひとつ下、G7、7カ国中で7位にいるイタリアです。

 イタリアの一人当たりGDPは、G7でもOECD加盟国でも日本同様に低いのです。しかも、日本のように米国に次ぎ第二位にいたなんてことはなく、いつも6位か7位なのです。

 イタリアの一人当たりGDPが低い理由はいろいろありますが、そのひとつに、極端なイタリア国内の南北問題にあります。経済的に非常に貧しい南イタリアと豊かな北イタリアに顕著に分かれている現実があるからです。もし、全体が北イタリア並みだったらおそらくG7でもイタリアは上位に行くでしょう。

 しかし、永年、イタリアの南北問題は続いています(笑い)。

 私達は過去、何回もイタリアにでかけ、とりわけ南イタリアに現地調査ででかけています。

 そこで見ている限り、南イタリアは北イタリアに比べ貧しいことは間違いないのですが、そこに暮らす人々は、大変明るく楽しそう。北イタリアさらには一人当たりGDPで類似した日本よりはるかに「幸福」に見えます。


 このことをラテン系という民族性や国民性によるものと片付けることは簡単ですが、南イタリアにおける「幸福感」や「持続可能性」は、けっして今に始まったものではなく、おそらく9世紀の昔にさかのぼるような気がします。ちなみに、アマルフィ海岸に都市国家、アマルフィ公国ができたのは、11世紀以降ですが、似たようなことは、同じイタリアのシチリア(シシリー島)にもあるようです。

 南イタリアについて実感されたい方は、以下の論考や写真ギャラリーをご覧ください。

◆青山貞一・池田こみち:春まだ浅いアマルフィ海岸を行く 写真ギャラリー

◆青山貞一・池田こみち:2013年 初夏のアマルフィ海岸を行く 125本



◆OECDの幸福度調査に見る幸福度を下げている日本の課題

 ところで、私のフェイスブックや独立系メディア E-wave では、幾度となくお伝えしていますが、世界の幸福度調査のなかに、OECDが加盟国を対象として実施している「幸福度」調査とランキングがあります。

 OECDの「幸福度」調査では、日本はたとえば36カ国中21位など、いつも低い位置にいます。実はここでもイタリアも日本とほぼ同じ位置、すなわち21〜23位にいるのです。

 ここではまず、日本の「幸福度」の悪さの根源がどこにあるのかについてOECD調査から探ってみたいと思います。

 以下はOECDが「幸福度」を評価する際の個別指標(評価項目)です。これらの個別指標による得点をもとにOECDは総合得点を集計し加盟国内でのランキングを出しているのです。

●OECD幸福度調査の個別社会経済指標
 @「住宅」、 
 A「収入」、 
 B「雇用」、 
 C「コミュニティ」、
 D「教育」、 
 E「環境」、 
 F「ガバナンス」、
 G「健康」、 
 H「生活満足度」、 
 I「安全」、
 J「ワークライフバランス」

 の11 分野の指標 
 
 一方、下図はOECDの調査における「幸福度」で採用されている個別指標の実例として使われている円形チャートです。

 個別指標の実例で対象国となっている国々は、OECD36カ国のうち、デンマーク、日本、韓国、米国の四カ国です。ご承知のように、デンマークは、世界中で数ある「幸福度」調査でたえず世界で最上位の常連国です。
 

出典:OECD

 上の円形チャートを見て、デンマークと日本が著しく異なるのは、「生活と仕事」、「生活満足度」でしょう。

 一方、「収入」を例に取れば、日本の一人当たりGDPが36カ国中21位などであることからランクが低いのは分かりますが、世界の「幸福度」調査でいつもダントツにいるデンマークは「収入」では日本よりも低くなっています。

 欧米からウサギ小屋と揶揄され続けている日本の「住宅」は、米国やデンマークに比べるとかなり劣っていますが、「生活と仕事」、「生活満足度」の酷さには及びません(笑い)。

 繰り返しますが、デンマークと比べてとりわけ日本の得点が低いのは、「生活と仕事」、「生活満足度」ですが、生活と仕事は「ワークバランス」と言い換えることができます。実際、OECDも「ワークバランス」という用語を使っています。

 これを要約的に言えば、日本は長時間労働、年間を通じての労働時間がとてつもなく長く、家庭で家族と過ごす、また地域社会で地域住民としてすごく時間がほとんどないということを意味します。

 もっぱら、長時間労働にもかかわらず「収入」が少ないのは、もとより給与ベースが低いことに加え、非正規雇用が増え、また上場大企業が利益を上げながら内部留保をため込み労働者に還元していないことなどがあります。さらに言えば、フランス人が揶揄して言うように、日本人の労働生産性は著しく低いこともあるかも知れません。

 一方、デンマークは、「ワークバランス」と「生活満足度」はダントツです。

 これらの意味するところは大だと思えます。仮に「収入」が米国のように多くなくても、「ワークバランス」と「生活満足度」がよければ、また「地域社会」が充実していれば「幸福度」は高いことを意味しているからです。

 残念ながら日本は「ワークバランス」と「生活満足度」に加え、「地域社会」でも韓国同様非常にポイントが低いことが分かります。


◆イタリアやEUの「ワークバランス」

 実は「ワークバランス」と「生活満足度」は「地域社会」に密接に関係しています。長時間労働、企業隷属労働は、間違いなく「ワークバランス」が悪いだけでなく、「生活満足度」が得られず、まして「地域社会」における人との交流やボランティアなどの社会貢献の機会を減らします。
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 上記に関連し、イタリアなど欧州と日本との大きな違いは有給休暇日数と実際に休暇を取っているかどうかにあります。すなわちイタリアなど欧州では有給休暇数を憲法や法律で厳しく決めており、労働者がそれを十分消化することを義務づけているのです。

 イタリアのそれに比べると、日本では労働者の40%が非正規雇用などに象徴されるように、まともな家は持てず、教育・育児が厳しく高額で子供も生めないなど、不幸な貧しさが蔓延しています。

 イタリアはじめEUの大部分の国では、4週間以上の有給休暇を従業員に取ることを法律で義務づけており、物価が安いこと、所得は低くても家などの資産がもちやすいこと、義務教育費が無償なことなどから、今の日本よりはるかに生活しやすいのです。これは南イタリアでも同じです。

 以下は今から10年以上前にイタリアで決められた強制的に有給休暇を取らせる法律の制定経緯と概要です。

◆憲法、法律で補償されているイタリアの年次有給休暇制度

 イタリアでは年次有給休暇の権利は憲法上保障され、また民法典に若干の関連規定があったものの、その取得要件や日数に関する法律上の一般的な規則がありませんでした(全国労働協約が定めていた)。

 このため、昨年(2002年)、労働者が4週間以上の年次有給休暇に対する権利を有すること、そして、この最低期間は、取得されなかった年休に関する手当で代替させられないことを定める法律(2003年8月4日委任立法66号10条)が成立しました。

 今回閣議により承認された委任立法案では、さらに、この規制に従わない企業や組織に対する罰則が定められています。また、1年以内に少なくともこの4週間の休暇の一部を取得し、残りをその後数ヶ月内に取得するという規定も置かれています。


  以下の表はEU、米国、カナダ、日本など先進国の有給休暇の平均給付日数、さらに平均取得日数の順位です。日本は最下位、それもダントツの最下位にいます(笑い)。

 もっぱら、イタリアのすごいところは企業、組織に罰則まで設けていることです。これはまさに正規社員がどんどん減っていく日本では、空しく聞こえる内容と言えます。

国名 順位(平均取得
日数順)
平均有給日数 平均取得日数
フランス 1 37.4 34.7
スペイン 2 31.9 28.6
デンマーク 3 29.2 26.9
イタリア 4 32.3 26.5
ノルウェー 5 27.7 25.6
イギリス 6 27.9 25.5
ドイツ 7 27.6 25.5
スウェーデン 8 27.4 24.2
カナダ 9 19.7 17.5
オーストラリア 10 20 16.5
アメリカ 11 16.9 14
日本 12 16.6 9.3
出典:Wikipedia

 イタリアなどヨーロッパ諸国に比べると、日本は有給休暇の平均給付日数、平均取得日数ともに著しく低いことが分かります。

 ちなみに日本はフランスの半分以下、イタリアの約半分です。またここで重要なことは有給休暇日数の多さだけでなく、実際に有給休暇日数を取得できているかどうかです。

 実際の有給休暇の平均取得日数では、日本はフランスの約1/4、イタリアの約1/3です。

 日本は、非正規雇用が著しく増え、ブラック企業も増えています。さらに一人当たりの所得もかなり減り、その上で有給休暇の日数、さらにその取得日数が著しく低いのでは、「幸福度」が上がるわけがありません。