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2018年・東日本大震災
復旧実態調査(岩手県編)

釜石湾口防潮堤1

青山貞一・池田こみち 
環境総合研究所顧問
掲載月日:2019年6月20日
 独立系メディア E-wave Tokyo
断転載禁
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釜石小白浜1  釜石小白浜2  釜石小白浜3  釜石小白浜4  釜石1
釜石2  釜石3  釜石湾口防潮堤1 釜石湾口防潮堤2  釜石湾口防潮堤3
釜石両石1 釜石両石2  釜石両石3 釜石鵜住居1 釜石鵜住居2 
釜石鵜住居3  釜石鵜住居4  釜石鵜住居5


◆釜石湾口防潮堤1 


出典:東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に
関する専門調査会配付資料

 次に、東部・平田地区にある釜石湾口防潮堤を対象とする。


 これは釜石湾の入り口、湾口に建設省(その後の国土交通省)がつくった防潮堤である。


 
以下の写真h3.11の津波で粉々に破壊される前の釜石湾港防潮堤の写真である。


破壊されるまえの釜石大堤防
出典:国土交通省、釜石港湾事務所



元出典:釜石市 

 2018年7月1日の現地調査では湾口防潮堤の現場には行かなかったが、私達は唐丹の白子浜の防潮堤とともに、この釜石湾口防潮堤にこだわり、以前破壊された現場にも足を運んだ。

 
ここでは、過去に遡り、この釜石湾口防潮堤に言及してみたい。

 
以下は2011年(平成23年)の国土交通白書における国土交通省自身による「釜石港湾口防波堤の損壊と減災効果」と題する論考である。

コラム 釜石港湾口防波堤の損壊と減災効果

 岩手県の釜石港では、ギネスブックにも登録された世界最大水深(63m)の湾口防波堤が31年の歳月をかけて2009年3月に完成していた。中央の開口部300mを大型船の航路として確保し、その両面に北堤990mと南堤670mの2本の防波堤をハの字型に配置したもので、明治三陸地震津波規模の大津波に対して湾内の防潮堤の天端高(おおむね4m)より低い水位に減水させることで市街地への浸水被害の拡大を防ぐ機能が期待された。

 しかしながら、東日本大震災では、設計外力を超える大津波の威力により、防波堤は大きく損壊し、津波は湾内の防潮堤を越え、ハザードマップで想定していた浸水域を大きく越えて被害が広がった。今後、防波堤の被災要因を詳しく検証し、今後の災害対策に活かしていく必要があるが、その検討過程において、今般の大津波においても、津波防波堤が無かった場合に比べ、一定の減災効果を発揮したことが認められた。

 釜石港の沖合約20kmに設置していたGPS波浪計では最大6.7mの津波の高さが観測された。この観測をもとにした数値計算により、防波堤が無かった場合と有った場合を比較した結果、釜石港内の験潮所での津波の高さは13.7mから8.1mに約4割低減し、釜石港須賀地区の大渡川沿いにおける津波の最大遡上高は20.2mから10.0mに約5割低減している。

 この計算結果は、現地調査における痕跡高や浸水域とおおむね一致している。また、計算結果では、防波堤により、津波が湾内の防潮堤を越え浸水が始まった時間が6分間遅れており、水位上昇を遅延させる効果があったとみられる。




出典:平成23年 国土交通白書 

 以下は日本報道検証機構の記事である。

釜石防波堤「津波被害予測を隠蔽」に岩手県が反論
 2014年1月16日

 震災後の復旧工事が進められている釜石市湾口防波堤があると津波被害が一部で拡大するとの予測結果を岩手県が隠していると朝日新聞が報道。しかし、県は隠したとの指摘は当たらないと反論している。

【朝日】 2013/12/31朝刊1面「防波堤 被害予測伏せる 復旧工事 岩手県 住民の不安放置」、3面「公共事業 住民置き去り 防波堤再建の説明不十分」
《注意報1》2014/1/16 07:00

《注意報1》 2014/1/16 07:00
朝日新聞は昨年12月31日付朝刊で、「防波堤 被害予測伏せる」と見出しをつけ、岩手県が釜石湾口防波堤があることで両石湾の津波被害が拡大するとのシミュレーションを実施していながら隠蔽していたと報じた。これに対し、県側は、シミュレーションは県が実施したものではなく、隠したとの指摘は当たらないと反論している。

岩手県の発表や朝日新聞の報道によると、岩手県は、東日本大震災の後、破壊された釜石湾口防波堤の復旧を前提に、両石湾などの沿岸の津波被害の予測をコンサルタント会社に依頼して実施。それを踏まえ、国土交通省が防波堤の復旧工事を進めている。この防波堤をめぐり、朝日新聞は、大震災の津波で釜石湾に隣接する両石湾の集落が壊滅し、住民が「津波が防波堤で跳ね返って何倍も高くなって来るのでは」と調査を求めていたことを指摘。同紙の取材で「釜石湾口防波堤があることで両石の被害が大きくなるとする岩手県のシミュレーションがあることがわかった」とし、独自に入手した「釜石湾の湾口防波堤有無の検討」と題する資料によれば、防波堤がなければ両石湾岸の集落の被害が減るという結果が出ていたと報じた。

朝日新聞2013年12月31日付1面(右)、3面(関連記事・左)
朝日新聞2013年12月31日付1面(右)、3面(関連記事・左)

 この報道について、岩手県は1月10日、ホームページに「見解」を掲載。

 県は、釜石湾港防波堤が存在しない場合のシミュレーションは実施していないが、県が委託した建設コンサルタントが独自に実施していたことを認め、その資料を公表した。ただ、この資料は「県が作成したものではなく、この資料が存在することを理由に県が資料を隠したとの指摘は当たらない」と反論している。

 公表された資料には「『湾口防波堤なし』の方が『湾口防波堤あり』よりも両石湾に入る津波の水量が小さくなる」「両石漁港海岸では浸水面積は若干減少した」と記される一方、「浸水図や浸水面積を見ても有意的な差は見られない」とも書かれていた。

 岩手県の担当者は、日本報道検証機構の取材に対し、「防波堤がない場合」を想定したシミュレーションを県は実施しておらず、コンサルタント会社が独自に実施していたことは朝日の報道後に分かったと説明。この説明どおりだとすれば、岩手県が、防波堤のある場合とない場合の津波シミュレーションを実施し、その結果を「伏せていた」とか「隠蔽した」という事実はなかったことになる。

 岩手県は、今回公表した資料と朝日新聞が報じた資料が同一のものかどうかの確認を同紙に求めたものの、確認が得られなかったため、抗議や訂正要求はしていないという。

 朝日新聞は、当機構の取材に対し、資料の同一性や県の反論など個別の質問には答えず「お尋ねの記事は確かな取材に基づいたもので、訂正の予定は一切ありません」とコメントしている。コンサルタント会社名は判明せず、取材できなかった。

『「防波堤で被害拡大」岩手県、予測伏せる 国は復旧工事』

 岩手県釜石市沖で、国が「釜石湾口防波堤」の復旧工事を進めている。東日本大震災の津波で8割が壊れたが、震災から5カ月で490億円かけた再建を決めた。だが、周辺の住民は「防波堤に跳ね返って高くなった波で、被害が大きくなったのでは」と調査を求めていた。岩手県は、湾口防波堤の影響をひそかに検証したが、周辺の被害が拡大すると出た結果を伏せて、国の事業を静観している。

 …(略)… 両石は両石湾の奥にあり、市役所や製鉄所がある中心部から約5キロ北にある。重要港を守るための釜石湾口防波堤の建設が1978年に始まる頃から、両石の人たちは不安を抱いていた。「中心部は守られるが、両石へは、津波が防波堤で跳ね返って何倍も高くなって来るのでは」

 …(略)… ところが朝日新聞の取材で、釜石湾口防波堤があることで両石の被害が大きくなるとする岩手県のシミュレーションがあることがわかった。県はこの検証結果の存在を否定している。(朝日新聞2013年12月31日付1面)

『公共事業、住民置き去り 防波堤再建の説明不十分 岩手・釜石湾』

 岩手県釜石湾で国が再建を進める「釜石湾口防波堤」。東日本大震災で釜石湾内の津波被害を抑えた可能性は高いものの、跳ね返った波で隣の両石湾の被害を大きくしたのでは――。両石の住民が求めていた検証を、岩手県は実施していたのに隠蔽(いんぺい)していた。国に都合が悪い情報は意図的に「秘密」にされ、住民無視で巨大公共工事が進む。

 国土交通省は釜石湾口防波堤の再建を2011年8月に決めた。「市街地に津波が到達するのを6分遅らせ、浸水域を減らした」と、市役所や製鉄所がある中心部や港を守る機能を回復させることを主眼にしている。

 岩手県も、震災直後から沿岸の防災対策や新たな街づくりの検討を始め、津波の被害予測をコンサルタント会社に依頼した。釜石湾だけでなく、両石湾を含む県内すべての沿岸の被害を想定した。
 11年10月に県が公表したシミュレーションには、両石湾の被害予測もあった。それによれば、県が沿岸に防潮堤を整備すれば、両石漁港海岸の津波の浸水面積は15ヘクタールに減らせるが、整備しなければ16ヘクタールになるという結果だった。

 ただ、これらは釜石湾口防波堤が「ある」のが前提だ。「ない」場合を想定した検証はしていないと説明しているが、その資料を朝日新聞は入手した。

 「釜石湾の湾口防波堤有無の検討」と題する資料では、湾口防波堤がなければ、県の防潮堤だけで、両石漁港海岸の浸水面積は14ヘクタールに減るとなっている。犠牲者が出た近くの2カ所の集落でも、県の防潮堤だけの方が浸水面積は小さくなる。湾口防波堤に当たって跳ね返る「反射波」がなくなる分、両石湾岸の集落の被害は減るという結果だ。

 岩手県沿岸広域振興局土木部の冬川修副部長は「釜石湾口防波堤の影響を調べるのは国の仕事で、県が口をはさむ問題ではない。資料は存在しない」と説明する。市や住民へも「湾口防波堤がない場合の影響は調べていない」と説明している。湾口防波堤の再建を先に決めた国に配慮しているとみられる。…(以下、略)(朝日新聞2013年12月31日付3面)

■平成25年12月31日 朝日新聞「防波堤 被害予測伏せる」の記事についての岩手県の見解 (岩手県 2014/1/10)






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つづく