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群馬県内古墳群探訪

埴輪1(はにわ)

青山貞一 Teiichi Aoyama   池田こみち Komichi Ikeda
13 Autum, 2019

独立系メディア
E-wave Tokyo

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1日目 はじめに  八幡塚古墳  二子山古墳 薬師塚古墳 大鶴巻古墳  浅間山古墳 観音塚古墳
 上野国一社八幡宮 八幡宮2 八幡宮3 達磨寺1 達磨寺2 達磨寺3 達磨寺4  達磨寺5
2日目 小栗の里 大室公園  前二子古墳  中二子古墳  後二子古墳  小二子古墳  民家園1
 民家園2 民家園3 民家園4 民家園5 民家園6 民家園7 民家園8 埴輪1 埴輪2 
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 愛宕山古墳 遠見山古墳 山王廃寺  まとめ


 ここでは日本の埴輪について概括します。

◆埴輪1(はにわ)


武装男子立像(群馬県太田市出土)
東京国立博物館蔵、国宝

 埴輪(はにわ)とは、日本の古墳時代に特有の素焼の焼き物です。古墳上に並べ立てられました。日本各地の古墳に分布しています。

概要

  埴輪は、3世紀後半から6世紀後半にかけて造られ、前方後円墳とともに消滅しました。基本的に中空です。

 造り方は粘土で紐を作り、それを積み上げていきながら形を整えました。時には、別に焼いたものを組み合わせたりしています。また、いろいろな埴輪の骨格を先に作っておき、それに粘土を貼り付けるなどしました。

 型を用いて作ったものはありません。中心的な埴輪には、表面にベンガラなどの赤色顔料を塗布しました。畿内では赤以外の色はほとんど用いられませんでしたが、関東地方では、形象埴輪にいろいろな彩色が施されています。

 埴輪は、古墳の憤丘や造り出しなどに立て並べられました。

 埴輪は、大きく円筒埴輪と形象埴輪の2種類に区分されます。さらに、形象埴輪を大きく分けると家形埴輪、器財埴輪、動物埴輪、人物埴輪の四種があります。

 形象埴輪からは、古墳時代当時の衣服・髪型・武具・農具・建築様式などの復元が可能です。

起源

 馬形埴輪(東京国立博物館)

 埴輪の起源は、弥生時代後期後葉の吉備地方の首長の墓であると考えられている弥生墳丘墓(例えば、楯築墳丘墓)から出土する特殊器台・特殊壺(特殊器台型土器・特殊壺型土器とも呼称される)であるといわれています。

 3世紀後半になると、前方後円墳(岡山市都月坂1号墳、桜井市箸墓古墳、兵庫県たつの市御津町権現山51号墳)から最古の円筒埴輪である都月型円筒埴輪が出土しています。この埴輪の分布は備中から近江までに及んでいます。

  最古の埴輪である都月形円筒埴輪と最古の前方後円墳の副葬品とされる大陸製の三角縁神獣鏡とが、同じ墓からは出土せず、一方が出るともう一方は出ないことが知られていました。しかし、ただ一例、兵庫県たつの市御津町の前方後円墳権現山51号墳では後方部石槨から三角縁神獣鏡が5面、石槨そばで都月型円筒埴輪が発見されています。

 なお、前方後円墳の出現は、ヤマト王権の成立を表すと考えられており、前方後円墳に宮山型の特殊器台・特殊壺が採用されていることは、吉備地方の首長がヤマト王権の成立に深く参画したことの現れだとされています。吉備勢力の東遷説もあります。

変遷

 古墳時代前期初頭(3世紀中葉〜後葉)には、吉備地方において円筒形または壺形、少し遅れて器台の上の壺を乗せた形の朝顔形埴輪などの円筒埴輪が見られました。これら筒形埴輪は、地面に置くだけではなく、脚部を掘った穴に埋めるものへと変化しました。前方後円墳の広がりとともに全国に広がりました。

 前期前葉(4世紀前葉)には、これらの埴輪とは別の系統に当たる家形埴輪のほか、蓋形(きぬがさがた)埴輪や盾形埴輪をはじめとする器財埴輪、鶏形埴輪などの形象埴輪が現れました。初現期の形象埴輪については、どのような構成でどの場所に建てられたか未だ不明な点が多いといえます。

 その後、墳頂中央で家型埴輪の周りに盾形・蓋形などの器財埴輪で取り巻き、さらに円筒埴輪で取り巻くという豪華な配置の定式化が4世紀後半の早い段階で成立します。そこに用いられた円筒埴輪は胴部の左右に鰭を貼り付けた鰭付き円筒埴輪です。

 さらに、古墳時代中期中葉(5世紀中ごろ)からは、巫女などの人物埴輪や家畜である馬や犬などの動物埴輪が登場しました。埴輪馬は裸馬のものと装飾馬があり、装飾馬は馬具を装着した姿で表現されます。群馬県高崎市の保渡田八幡塚古墳は保渡田古墳群に含まれ、5世紀前半代の前方後円墳で、馬や鶏、猪など多くの動物埴輪が出土しています。

 保渡田八幡塚古墳から出土した鵜形埴輪は首を高く上げ口に魚を加えた鵜(う)の姿を形象しており、首には鈴のついた首紐が付けられ、背中で結ばれる表現も残っています。鵜形埴輪の存在から、古墳時代には祭礼や行事としての鵜飼が行われていた可能性が考えられています。

 またこの頃から、埴輪の配列の仕方に変化が現れました。それは、器財埴輪や家形埴輪が外側で方形を形作るように配列されるようになったことです。あるいは、方形列を省略することも行われています。さらに、靭形埴輪の鰭過度に飾り立てるようになったり、家型埴輪の屋根部分が不釣り合いに大型化したりするようになります。

 畿内では古墳時代後期(6世紀中ごろ)、次第に埴輪は生産されなくなって行きます。しかし、関東地方においては、なおも埴輪の生産が続けられました。なかでも、埼玉県鴻巣市の生出塚遺跡は当該期の東日本最大級の埴輪生産遺跡として知られています。

意義

 元々、吉備地方に発生した特殊器台形土器・特殊壺形土器は、墳墓上で行われた葬送儀礼に用いられたものでしたが、古墳に継承された円筒埴輪は、墳丘や重要な区画を囲い込むというその樹立方法からして、聖域を区画するという役割を有していたと考えられます。

 家形埴輪については、死者の霊が生活するための依代(よりしろ)という説と死者が生前に居住していた居館を表したものという説があります。古墳の埋葬施設の真上やその周辺の墳丘上に置かれる例が多いと言えます。

 器財埴輪では、蓋が高貴な身分を表象するものであることから、蓋形埴輪も同様な役割と考えられているほか、盾や甲冑などの武具や武器形のものは、その防御や攻撃といった役割から、悪霊や災いの侵入を防ぐ役割を持っていると考えられています。

 人物埴輪や動物埴輪などは、行列や群像で並べられており、葬送儀礼を表現したとする説、生前の祭政の様子を再現したとする説などが唱えられています。このような埴輪の変遷は、古墳時代の祭祀観・死生観を反映しているとする見方もあります。

埴輪の例

国宝・重要文化財
 ※(*)印は国宝、他は重要文化財。
 ※古墳出土品などの一括遺物に含まれる埴輪は割愛しました。

 なお、以下で黄色部分は群馬県の埴輪であり、全体の半分以上を占めています。

 埴輪甲・家残闕・円筒 宮城県名取市下増田経ノ塚古墳出土(東北大学総合学術博物館)
 埴輪男子胡坐像(天冠埴輪) 福島県いわき市平神谷作腰巻出土(福島県立磐城高等学校)
 埴輪男子跪坐像 茨城県桜川市(旧・岩瀬町)出土(個人蔵)
 埴輪猿 伝茨城県行方市沖洲大日塚出土(東京国立博物館)
 埴輪男子跪坐像 茨城県鉾田市青柳字不二内出土(東京大学総合研究博物館)
 埴輪男子立像 茨城県結城郡八千代町出土(大和文華館)
 埴輪女子像 栃木県宇都宮市雀の宮菖蒲塚出土(東京大学総合研究博物館)
 上野塚廻り古墳群出土埴輪 群馬県太田市竜舞出土(文化庁蔵、群馬県立歴史博物館保管)
 埴輪男子倚像(琴を弾く男) 群馬県前橋市朝倉町(旧・勢多郡上川淵村)出土(相川考古館)
 埴輪男子胡坐像 群馬県高崎市八幡原出土(天理大学附属天理参考館)
 埴輪男子立像 群馬県伊勢崎市豊城町(旧・同市八寸字権現山)出土(相川考古館)
 埴輪女子立像 群馬県伊勢崎市豊城町横塚(旧・同市八寸字横見)出土(東京国立博物館)
 埴輪男子立像 群馬県伊勢崎市波志江町出土(箱根美術館)
 埴輪武装男子半身像 群馬県伊勢崎市(旧・赤堀町)出土(東北歴史博物館)

 埴輪鶏 群馬県伊勢崎市境上武士(さかいかみたけし)天神山出土(群馬県立歴史博物館)
 埴輪猪 群馬県伊勢崎市境上武士天神山出土(東京国立博物館)
 埴輪犬 群馬県伊勢崎市境上武士天神山出土(個人蔵)
 埴輪男子立像 群馬県伊勢崎市境上武士天神山出土(個人蔵)
 埴輪鷹狩男子像 群馬県伊勢崎市(旧・境町)出土(大和文華館)
 埴輪男子立像 群馬県藤岡市本郷出土(個人蔵)
 埴輪男子立像 群馬県邑楽郡大泉町出土(相川考古館)
 埴輪女子倚像(腰かける巫女) 群馬県邑楽郡大泉町古海(こかい)出土(東京国立博物館)

 埴輪馬 群馬県邑楽郡大泉町(旧・大川村)出土(個人蔵)
 (*)埴輪武装男子立像 群馬県太田市飯塚町出土(東京国立博物館)

 埴輪武装男子立像 群馬県太田市(旧新田郡強戸村成塚)出土(相川考古館)
 埴輪武装男子立像 群馬県太田市世良田町(旧・尾島町)出土(天理参考館)
 埼玉県酒巻14号墳出土埴輪 力士、飾馬など95点 埼玉県行田市酒巻出土(行田市郷土博物館)
 埼玉県生出塚埴輪窯跡出土品 埴輪41点含む 埼玉県鴻巣市出土(鴻巣市)
 埴輪女子像 埼玉県本庄市(旧・児玉町)出土(早稲田大学會津八一記念博物館)
 埴輪馬 埼玉県熊谷市上中条(かみちゅうじょう)出土(東京国立博物館)
 埴輪武装男子像(短甲の武人) 埼玉県熊谷市上中条出土(東京国立博物館)
 石川県矢田野エジリ古墳出土埴輪 30点 石川県小松市出土(小松市立博物館)
 三重県宝塚1号墳出土品 埴輪120点含む 三重県松阪市出土(松阪市文化財センター)
 家形埴輪2点、壺形埴輪3点 大阪府八尾市美園町美園古墳出土(文化庁蔵、大阪府立近つ飛鳥博物館保管)
埴輪水鳥 3点 大阪府藤井寺市城山古墳出土(藤井寺市・アイセルシュラホール)
 大阪府長原高廻り古墳群出土埴輪 家、船、盾、短甲など30点 大阪市平野区出土(文化庁蔵、大阪歴史博物館保管)
 埴輪牛 奈良県磯城郡田原本町出土(唐古・鍵考古学ミュージアム)
 埴輪家 奈良県桜井市外山(とび)出土(東京国立博物館)
 伯耆長瀬高浜遺跡出土埴輪 鳥取県湯梨浜町はわい長瀬出土(湯梨浜町羽合歴史民俗資料館)
 平所遺跡埴輪窯跡出土品 馬、鹿、家など埴輪10点含む 島根県松江市出土(島根県立八雲立つ風土記の丘資料館)
 埴輪家(子持家) 宮崎県西都市西都原出土(東京国立博物館)
 埴輪船 宮崎県西都市西都原出土(東京国立博物館)


埴輪2つづく