FAQ よくある質問
 本報告の著作権は、環境総合研究所(東京都品川区)及び松葉ダイオキシン調査実行委員会にあります。複製、転載することを禁じます。


質問1
 松葉中のダイオキシン類濃度が年間平均濃度を反映しているとのことについて大気環境中のダイオキシン類濃度は年間平均値で評価するものとされています。貴社のHPによれば、「大気中のダイオキシン類はクロマツの新葉から急速に蓄積され、約4ヶ月以降で濃度変化が少なくなり定常状態に達することが観察、確認されている。さらに一旦蓄積が安定すると、その後は大気中の平均濃度につれ松葉ダイオキシン類濃度が上下することが確認されている。」とされ、「したがって、4ヶ月以上経過し蓄積量が安定する6ヶ月以降の針葉を試料に用いれば、地域の大気の平均濃度を推定することが可能となるものと考えられる。」とされています。この点に関して、なぜ最短6ヶ月の松葉で年間(12ヶ月)の平均濃度を推定できるのでしょうか。また、松葉には常にその時点の新しい大気が吸収されているものと思われますが、なぜ期間中の大気中ダイオキシン類濃度を平均的に反映できるのでしょうか。

回答1●従来の大気調査の課題と松葉調査の目的

 質問にお答えする前に、松葉調査の目的と、行政によって行われている大気調査の課題についてご説明します。 ダイオキシン類対策特別措置法により、行政は1年間に2〜4回の大気中のダイオキシン類濃度の調査を行っています。

 しかし下のグラフをみてもわかるように、大気中のダイオキシン類濃度は、気象条件、排出条件によって大きく変化しており、年間数日の調査では大気中濃度の年間平均を把握することは出来ません。

図  厚木基地における大気ダイオキシン類連続測定結
出典:厚木基地日米共同モニタリング調査より環境総合研究所作成

 
 そこで、私たちは松葉が呼吸を通じて針葉中にダイオキシン類を少しずつ蓄積・放出することにより、松葉中濃度が、1日ごとに大きく変化する大気中濃度にゆるやかに追従する性質を利用して調査を行いました。この調査により、現在行われている年間数日の大気調査に対して、より正確に大気の長期的な濃度の実態を把握することが可能となります。

●質問に対するお答え(6ヶ月以降の松葉で年平均を把握できるかどうかについて)

 HPにあります新芽から6ヶ月以降...については、厳密には次の前提条件があります。まず研究所のHPにあります2週間に1度のクロマツの針葉の試料採取による分析結果は、摂南大学宮田秀明研究室の調査に基づくものです。

 地域の大気中ダイオキシン類濃度を把握する場合、地域に存在する発生源について、

 @焼却炉がない未汚染地域に年度途中から焼却炉が新設された場合、

 Aそれまで稼動している焼却炉が1つだったのが、年度途中で2つ、3つと稼動する焼却炉が増えた場合、

 B今まで稼働していた炉が年度途中で停止した場合、

 C年度途中からBF(バフルィルター)を入れ排出濃度が(1/10に)下がったような場合、

 D事故などにより焼却炉数の増減やBF設置がなくとも、年度中、数ヶ月だけその焼却炉の排ガスが高濃度となる、などのような発生源の状況の大きな変化がなければ、1年間を通じて長期的な大気中の平均濃度に大きな変化は生じません。したがって新芽から半年以上たった松葉であれば、おおむね年間を通じた平均値を反映することになります。

 もちろん、一般廃棄物、産業廃棄物を問わずバッチ炉、准連続炉などの場合には時間単位には著しい濃度変化がありますが、長期的な平均値に対しては大きな変動要因にはならないことが分っておりますので、上記の前提に影響がありません。

 しかし、松葉を生物指標とし地域の大気中ダイオキシン類の年平均値を正確に計測するためには、新芽から1年以上経過したクロマツの針葉を採取し、含有濃度を分析することが原則です。そのため、環境総合研究所が全国規模で行っています松葉調査では、2年ものの松葉を秋に採取し試料として用いることを原則としております。

●発生源に大きな変動がある場合の採取時期について

 宮田研究室の学術調査とは別に、環境総合研究所がここ3年、約400サンプルの松葉を分析し得た実測データの解析、評価からは、発生源の変動の影響について次のことが明らかになっています。それは、発生源に大きな変動がある場合(上記@〜Dに該当する場合)には、クロマツの針葉の採取時期が重要なものとなることです。たとえば、

 @一般廃棄物、産業廃棄物を問わず焼却炉の稼働前後の濃度変化を分析したい場合、
 Aすでに稼働中の焼却炉が閉鎖される場合にその前後の濃度変化を解析、評価するような場合

には、クロマツの針葉の採取時期に十分留意する必要があります。
 つまり、変動が生じる前の環境を把握するための調査については(稼動・閉鎖)前に採取し、変動が生じたことによる影響を把握するための調査については(稼動・閉鎖)後、1年以上たってからクロマツを採取する必要があります。


●松葉では地域平均濃度の把握も可能

 大気調査では、仮に年間を通じて採取を行った場合でも、大気採取地点の濃度しかわかりません。したがって大気試料の採取地点が地域を代表しているかどうかが非常に重要になりますが、これを正確に検証するのは困難です。

 一方、松葉では、1箇所の松葉を分析すれば1地点の濃度がわかり、広い地域から沢山の松葉を採取して等量ずつブレンド(混合)して分析すれば地域平均濃度を把握することが可能です。

 また、焼却炉周辺など発生源周辺の松葉調査結果と、地域平均の松葉調査結果を比較することにより、発生源からの影響を把握することも可能です。

 さらに、市内(県内・町内)をいくつかの地域に分けて、地域ごとの松葉濃度を把握し、スプライン補完によって地図を作成することにより、視覚的にダイオキシン類濃度分布を把握することが可能となります。環境総合研究所で作成した松葉ダイオキシン濃度地図はこの方法を用いたものです。環境総合研究所のHPに掲載しておりますのでご覧ください。


質問2

 松葉の濃度から大気中のダイオキシン類濃度を推定する精度について貴社のHPによれば、松葉中のダイオキシン類濃度から、大気中のダイオキシン類濃度の平均濃度がかなりの精度で推定されるとされ、その根拠として松葉濃度と大気濃度の関係を示す散布図が掲載されています。これは数少ない高濃度地点のプロットの影響を強く受けている結果と考えられます。通常の大気中ダイオキシン類濃度の範囲(概ね0〜1pgTEQ/m3)の散布図では相関係数は高くないと思います。一般に相関の程度を評価する場合には、実際に出現が想定されるデータの範囲で相関係数を求めるべきであると考えますが、いかがでしょうか。これらのことから、環境基準レベルの一般大気中のダイオキシン濃度の範囲でも、松葉濃度から特定の地域の大気中濃度が精度よく推定できると考えてよろしいのでしょうか、疑問が残ります。もし、通常の濃度範囲程度の地域で松葉濃度から大気中濃度を推定するとしたら、どの程度の誤差が考えられるのでしょうか。以上、私の勉強不足、誤解もあるとは存じますが、よろしくご教示ねがいます。お忙しい折とは存じますが、よろしくお願いいたします。


回答2

●グラフの散布図から低濃度域で統計的に有意でないように見える理由について

 回答1でもご説明しましたとおり、同一地点における環境大気中ダイオキシン類の年平均濃度は、気象条件、排出条件などの条件からみて原理的に年間2〜4日の調査により把握することは不可能です。

 したがって現在行なわれている国、自治体等、行政による大気調査の濃度(たとえば4日間平均)と、松葉調査(長期平均値)の濃度の相関分析結果は、当然、統計的にみて有意とはなりえません。

 また現状の大気中のダイオキシン類の測定分析方法、とくに夏場の揮散を「サンプリング・スパイク」で監視しておらず、過小評価となりやすいことがあります。さらに大気濃度が超低濃度となる領域では、ND、すなわち定量下限値以下が切り捨てられ、「検出されず」となることから真値より、測定値が過小となります。

 したがってご指摘のホームページにあります大気の実測値と松葉の実測値の一次回帰解析は、あくまでも上記の課題がある年間数日で年平均値としている行政データを環境大気の年平均値濃度として用いていること、また環境大気濃度の絶対値に著しくばらつきがある点などから、両者の比を統計処理することにはもともと無理があります。

 統計処理技法上の課題(チャンピオンデータで全体の傾きが決まってしまう)もあります。したがってご指摘のHPの回帰分析はあくまでも参考にすぎず、クロマツの針葉が大気中の濃度の年平均値を反映していることの検証を示すものではありません。その点は、ご質問にあるご意見の通りです。

 以上を前提として、以下、環境総合研究所が松葉を用いて大気中のダイオキシン類の年平均値を高精度で計測する試みにつき、その概要を述べます。


●大気の年平均を松葉が反映することを検証するための方法

 クロマツの針葉中のダイオキシン類濃度が環境大気中ダイオキシン類の年平均濃度の真値を反映していることを検証するためには、一方で相対的に環境大気濃度が低濃度領域そして高濃度領域を含む複数の観測地点で環境大気中ダイオキシン類を年間を通じて連続して採取し、その濃度を分析します。

 他方、環境大気の採取地点と同一地点、同一地上高に生息し、かつ2年以上の樹齢をもつクロマツの針葉を採取し、それに含まれるダイオキシン類濃度を分析し、両者のそれぞれ複数地点の濃度(ここでは毒性等量濃度)の相関関係を調べる必要があります。

 1地点だけの調査では、それぞれの絶対値がわかるだけで、松葉濃度が環境大気中ダイオキシンの年平均濃度値を一定の比率で反映しているかどうかは分らないからです。

 すなわち比較的低濃度領域から高濃度領域に至るまで、複数地点で年間を通じた環境大気中のダイオキシンの平均濃度と松葉中ダイオキシン濃度との比がおおむね一致しているかどうかがを検証する必要があります。

 ご承知のように、3年前の時点(1999年)では、環境大気中のダイオキシン類それも技術的に高度な「サンプリング・スパイク」を確実に適用した環境大気中ダイオキシン類の採取と分析には、今でも1サンプル(1地点、1日)最低20万円、当時1サンプル30万円かかっていました。

 したがって、複数地点について環境大気中のダイオキシン類を測定分析するためには、1地点につき365日=365サンプル×20万円=7300億円の分析費用がかかります。これを低濃度から高濃度にわたる複数地点で行うためには、最低でも2億2千万円の分析費用がかかります。途方もない額となります。


厚木基地における日米政府によるダイオキシン連続調査と松葉調査の連携

 市民参加の松葉調査は1999年秋から開始しましたが、それにさきがけ「厚木基地ダイオキシン類調査」を行いました。きっかけは、次の通りです。

 1999年の夏、梶山正三弁護士(理学博士)から環境総合研究所に神奈川県綾瀬市と大和市にまたがる米軍厚木基地のフェンスに隣接するエンバイロテック社(旧神環保)と言う産廃業者の焼却炉排ガスに含まれる高濃度のダイオキシン類に関連し、米海軍や米国首脳が何度も日本政府に汚染防除の対応を迫っていました。その結果、やっと日本政府は閣議了解により省庁あげ対応することになりました。

 その一環として1999年の夏と冬に、日米両政府共同で大気及び土壌についての環境モニタリング調査を行うことになりました。それにさきがけ、米政府は米国の分析業者を日本に呼んで米国環境保護庁(EPA)の試料採取の方法をつかい環境大気中のダイオキシン類濃度を分析しました。

 すると、非常に高い濃度が検出されました。そのデータを日本政府(旧厚生省、旧環境庁)に提供しましたが、当時の厚生省の局長は、米国の測定方法がおかしいなどと中傷し、取り合わなかったことがあります。

 その後、梶山弁護士は、日米両政府が共同で夏冬それぞれ2ヶ月ずつ1日単位で環境大気中のダイオキシン類を夏3地点、冬3地点で測定することになったと連絡してこられました。

 そこで環境総合研究所は、もし厚木基地そして基地に隣接する地域(基地の外)で、もしクロマツが採取できれば、長期大気モニタリング濃度の分析結果と松葉濃度との対比がある程度可能になると考えました。これを梶山弁護士に提案したところ、すぐに米国側に伝えてくれ、最終的に基地内のクロマツの針葉の採取許可がでました。

 ちなみに1999年春から2000年春までの期間は、厚木基地周辺では発生源数及び稼働状況に著しい変動は確認されていません。エンバイロテック社の炉は1週間稼動して週末に運転を停止する炉であり、日により排ガス濃度が著しく変動していることは煙突風下での大気中ダイオキシン類の連続測定結果から推定できます。


厚木基地内の松葉採取、奥は米軍住宅棟(平成11年12月9日)
左からヴッシャー弁護士(米海軍)、梶山弁護士、池田環境総合研究所副所長


 環境総合研究所は、厚木基地の内外、都合6カ所で日米政府により行われた環境大気中ダイオキシン類の測定分析に対応し、それぞれの大気測定地点のもっとも近くにあるクロマツの針葉を、日米両国の弁護士立ち会いのもとに採取し、ダイオキシン類濃度を分析しました。

 図1は大気と松葉それぞれのサンプリング地点を示しています。また表1、表2に松葉と環境大気それぞれの単純分析結果を示します。図1中、
A(Ambient Air)は大気測定地点、P(Pine Needle)はクロマツの測定地点を示します。

 この日米共同モニタリング調査では、夏期調査は「サンプリング・スパイク」を適用していることを調査業務にあたった業者に確認していますが、冬期は神奈川県が担当しており、業者名及びサンプリングスパイク適用有無について県から明確な回答がありませんでした。

 ちなみに、厚木基地および周辺の大気中ダイオキシン類濃度調査では、1999年度に夏期2ヶ月、冬期2ヶ月それぞれ3カ所で1日単位で連続測定し、さらに2000年度は1年間毎日単位で連続して各地点で測定を行っています。国に参議院議員を通じ費用を情報開示したところ、約3億円に達しています。(回答1に示したグラフはこの1999年度夏期調査の結果です)

図1 厚木基地内外での大気と松葉の調査地点
 (Aが大気測定地点系、Pが松葉測定地点系を示す



出典:国際ダイオキシン会議(学会)発表論文、2002.9

表1 厚木基地における松葉採取地点と
松葉中ダイオキシン類分析濃度

Sampling Point

Distance

Direction

Pine Needle

Site P-a

280m

NW

 4.1

Site P-b

   250

N

53.1

Site P-c

   180

E

11.0

Site P-d

   200

SE

 7.7

Site P-e

   170

S

30.6

Back Ground

 1500

NNE

 2.4

出典:国際ダイオキシン会議(学会)発表論文、2001.9


表2 夏・冬それぞれ2ヶ月間の環境大気中ダイオキシン類濃度の連続測定結果と
その近傍における松葉中ダイオキシン類濃度の測定分析結果

Air

Min.

Max

Ave.

Period

Pine

An. Ave.

Ratio

A-A

0.085

3.3

0.59

Summer

P-a

4.1

 

A-B

0.097

53

7.4

Summer

P-b

53.1

A-C

0.031

1.5

0.28

Summer

P-c

11.0

A-D

0.062

1.3

0.50

Winter

P-d

7.7

A-E

0.11

21

1.4

Winter

P-e

30.6

Ave.

2.0(A)

 

 

21.3(B)

10.7

Source: Japan-US Joint monitoring survey in NAF Atsugi2, survey of ambient air dioxins in Seya3
出典:国際ダイオキシン会議(学会)発表論文、2001.9


International Symposium on
Halogenated Environmental Organic Pollutants and POPs

Date: September 9-14, 2001
Venu: Gyeongiu, Korea

Title: CORRELATION OF DIOXIN ANALOGUES CONCENTRATIONS
BETWEEN AMBIENT AIR AND PINE NEEDLE IN JAPAN 1

Author: Komichi Ikeda, Teiichi Aoyama, Atsushi Takatori,
Hideaki Miyata and Patrick Pond


Title: CORRELATION OF DIOXIN ANALOGUES CONCENTRATIONS
BETWEEN AMBIENT AIR AND PINE NEEDLE IN JAPAN 2
- CASE STUDY IN GREATER TOKYO AREA -

Author: Komichi Ikeda, Teiichi Aoyama, Atsushi Takatori,
Hideaki Miyata and Patrick Pond Branko Brzic, Carola Serwotka


Title: CORRELATION OF DIOXIN ANALOGUES CONCENTRATIONS
BETWEEN AMBIENT AIR AND PINE NEEDLE IN JAPAN 3
- TREND AND ITS ESTIMATED SOURCE -

Author: Komichi Ikeda, Teiichi Aoyama, Atsushi Takatori,
Hironobu Kusaba, Hideaki Miyata and Patrick Pond


Title: CORRELATION OF DIOXIN ANALOGUES CONCENTRATIONS
BETWEEN AMBIENT AIR AND PINE NEEDLE IN JAPAN 4
- CATEGORIZATION OF CONGENER PATTERN -
Author: Komichi Ikeda, Teiichi Aoyama,
Atsushi Takatori, Hideaki Miyata



●相関係数精度を高めるための詳細シミュレーション調査について

 上記の厚木基地調査をもとに環境大気濃度と松葉濃度の間での年平均値を評価するには、次の2つの課題があります。

@当初(1999年度)の大気測定値はあくまでも夏2ヶ月、冬2ヶ月であり通年の測定分析結果ではないこと。
A大気中のダイオキシン類の測定地点とクロマツが生息している地点は、近いとは言え地点よっては数十mも離れていること。

 そこで、上記@、Aの課題を同時に解決するため、地域の地形、建築物、構造物を配慮可能な3次元流体モデルと米軍、自衛隊が測定している気象データ及び日米共同モニタリング調査の環境大気濃度データを使い、対象地域の任意の地点(x、y、z)における任意の期間の大気濃度濃度を求めることとしました。

 この調査は、たまたま米国司法省から環境総合研究所に委託された調査のなかでおこなうことができました。その委託調査は、米国政府が産廃業者を民事訴訟(仮処分提訴)したことに関連し、米国側の証拠として提出する調査です。

 すなわち、日米両政府が共同モニタリング調査により測定した環境大気濃度データから問題となっている産廃焼却炉排ガス中の各種濃度を推定、評価し、それを裁判資料として用いることを梶山正三弁護士を通じ依頼されました。

 厚木基地調査で用いた3次元流体モデルは、つくばにある環境省の国立環境研究所の風洞実験施設で検証したものです。非定常モデルではなく定常モデルですので過渡現象など時間的にきわめて少短期的な過渡現象には適用できません。

 1時間以上の平均濃度に対応しています。その意味では1日平均から年平均濃度を問題とする場合、もってこいのモデルと言えます。

 3次元流体シミュレーション解析により、厚木基地及びその周辺地域の任意の地点(格子は5m単位)における夏場2ヶ月、冬場2ヶ月の平均値および年間平均値が得られました。任意の地点の濃度が得られたということは、採取した松葉の位置・高さの年平均大気濃度が得られたことになります。表及び図は、国際ダイオキシン会議(学会、2001.9)に提出したものです。

 図2及び図3は3次元流体モデルを用いた厚木基地産廃焼却施設周辺の環境大気濃度シミュレーション結果です。図2は3次元、図3は南北断面の濃度をともに年平均で示しています。

図2  厚木基地3次元流体シミュレーションによる産廃焼却炉周辺の年平均ダイオキシン濃度の推定(3次元)
出典:青山貞一、鷹取敦、梶山正三、環境濃度から排ガス濃度を高精度で推定する手法について
〜厚木米軍基地ダイオキシン汚染を事例として〜環境アセスメント学会発表論文、2002.9

図3  厚木基地3次元流体シミュレーションによる産廃焼却炉周辺の年平均ダイオキシン濃度の推定(南北断面)
出典:青山貞一、鷹取敦、梶山正三、環境濃度から排ガス濃度を高精度で推定する手法について
〜厚木米軍基地ダイオキシン汚染を事例として〜環境アセスメント学会発表論文、2002.9


 表3は3次元流体シミュレーションを用い時間的、空間的に補間した松葉採取地点の環境大気の年平均濃度を示しています。環境大気と松葉の濃度比は、低濃度域でも高濃度域でも7〜13の範囲にあり、平均で約11であることが分ります。

 回答1のグラフおよび表2をみてもわかるように環境大気中ダイオキシン類濃度の日変動は非常に大きいため、年間2〜4日した測定されていない通常の環境大気中ダイオキシン類測定値の変動は数倍から数十倍に及ぶことがわかります。これは大気調査の課題として回答1で述べた通りです。

 これに対して、表3の地点別の若干のばらつきは松葉/大気比:7〜13倍(毒性等量)であり、大気の変動と比べると、きわめて精度が高いことがわかります。

表3  3次元流体モデルシミュレーションによる
松葉採取地点における年平均環境大気濃度

 

Ambient Air
pg-TEQ/m3

Pine Needle
pg-TEQ/g

Pine / Air

Site P-a

0.60

 4.1

 6.8

Site P-b

4.75

53.1

11.2

Site P-c

1.19

11.0

 9.2

Site P-d

0.80

 7.7

 9.6

Site P-e

2.40

30.6

12.8

Ave.

1.95

21.3

10.9

出典:国際ダイオキシン会議(学会)発表論文、2001.9

 注) 3次元流体モデルを使った環境大気濃度シミュレーションの技術面の概要は以下にあります。「環境大気濃度から排ガス濃度を推定する手法の研究〜厚木米海軍基地に隣接する産廃焼却炉を事例として〜」を参照下さい。

●今後の検討課題

 今後の検討課題として、表3の年平均大気濃度と松葉濃度の比の地点別の若干のばらつきの原因について想定される理由を列記しました。

@流体モデルの地点濃度再現性の課題、
A採取した松葉の生物組織上の課題、
B濃度レベルと蓄積、濃縮プロセスの課題、
C表3濃度は毒性等量ですが、若干のばらつきの原因は地点別の異性体実測値濃度が異なるためかどうかの判断、
Dシミュレーションデータとなった環境大気測定データの誤差、たとえば、冬期調査がサンプリングスパイクを使用していない可能性、
E低濃度領域での環境大気測定時のND(定量下限値以下)の扱い、
などが技術的課題として想定できます。 


通年環境大気濃度実測測定値と松葉濃度実測値の相関について
 
 その後、日本政府が厚木基地において通年に近い期間において環境大気濃度調査を実施しました。それらの濃度データと当該調査期間の松葉の分析濃度との対比を行なった結果、松葉/大気比は3地点で9〜11倍(毒性等量)となることが分りました。これについても論文を作成し公表する予定です。