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平成13年9月4日

諌早湾閉め切り開放に伴う
潮流の予測・評価に関する自主調査研究
(中間報告:詳細追加分析)

青山 貞一 環境総合研究所所長
池田こみち 同副所長
鷹取 敦 同主任研究員

1.本報告の目的と分析手法

 調査報告書本編(「諌早湾閉め切りの開放に伴う潮流の予測・評価に関する自主調査(中間報告)」、平成13年3月10日、株式会社 環境総合研究所)では、対象水域内の「平均流速」について分析を行った。しかし平均値の比較では、個々の流速が変化した場合でも平均値が変わらない場合には流況の変化が把握できない。

 そこで、本報告ではさらに、対象水域内の流速域の分布に着目して、95%値、90%値、80%値、70%値、60%値、中央値(50%値)、40%値、30%値、20%値、10%値、5%値の変化の分析を行った。ここで例えば「95%値」とは、対象水域内の流速予測結果を流速順に並び替えた場合の低い方から95%目の数値を表す。すなわち速い方から上位5%に位置する流速を表す。

 95%〜5%値の全てが工事前比100(%)すなわち、工事前の水準に近付くほど、流況が回復していることを表す。一方、平均値が工事前比100(%)に近付いた場合でも、95%〜5%値の割合がばらついている場合には、工事前と異なった流況であることを表す。

 対象水域は、報告書本編より次の4水域とした。

調整池内部
調整池堤防から諌早湾口
有明海北部(諌早湾外)
有明海・島原湾・八代海(含諌早湾)

 また、潮位等については、本編と同様に表1−1に示す6ケース × 表1−2に示す5ケース、合計30ケースの条件について分析を行った。

表1−1 評価のケース(潮位等)
満潮時 干潮時
大潮
中潮
小潮
表1−2 評価のケース(境界条件)
(1)ケース1 諌早湾干拓工事前
(2)ケース2 諌早湾潮受け堤防工事後(閉め切り後)
(3)ケース3 諌早湾潮受け堤防水門開放
ケース3−1 @北水門のみ開放
ケース3−2 A北水門及び南水門の両方を開放
ケース3−3 B両方の中間にさらにひとつの水門を開けた場合


2.分析結果および評価

2−1 分析結果

 分析結果より流速および工事前に対する流速の割合を表2−1〜表2−6に、工事前に対する流速の割合を図2−1〜図2−8に示す。

2−2 分析結果の評価

(1)G:調整池内部

 図2−1、図2−2に調整池内部の流速比較結果を示す。図2−1が満潮の場合、図2−2が干潮の場合である。それぞれ大潮、中潮、小潮の結果を並べて示した。

 完全閉め切りの場合には、調整池内部ではいずれの条件でも流速はほとんどゼロなっている。
 それに対し、水門を1つ開けたケース3−1の場合には、

大潮−満潮時には 81%〜185%(幅:104ポイント)、平均値127%
中潮−満潮時には 98%〜209%(幅:111ポイント)、平均値150%
小潮−満潮時には137%〜257%(幅:120ポイント)、平均値202%
大潮−干潮時には 39%〜105%(幅: 66ポイント)、平均値 68%
中潮−干潮時には 46%〜117%(幅: 71ポイント)、平均値 76%
小潮−干潮時には 74%〜164%(幅: 90ポイント)、平均値112%

となっている。
 それに対し、水門を2つ開けたケース3−2の場合には、

大潮−満潮時には 78%〜222%(幅:144ポイント)、平均値146%
中潮−満潮時には 82%〜225%(幅:143ポイント)、平均値154%
小潮−満潮時には103%〜218%(幅:115ポイント)、平均値162%
大潮−干潮時には 47%〜115%(幅: 68ポイント)、平均値 76%
中潮−干潮時には 51%〜120%(幅: 69ポイント)、平均値 83%
小潮−干潮時には 67%〜147%(幅: 80ポイント)、平均値106%

となっている。
 さらに、水門を3つ開けたケース3−3の場合には、

大潮−満潮時には 96%〜193%(幅: 97ポイント)、平均値136%
中潮−満潮時には 96%〜181%(幅: 85ポイント)、平均値133%
小潮−満潮時には 96%〜162%(幅: 66ポイント)、平均値128%
大潮−干潮時には 64%〜 95%(幅: 31ポイント)、平均値 80%
中潮−干潮時には 67%〜 95%(幅: 28ポイント)、平均値 85%
小潮−干潮時には 78%〜112%(幅: 34ポイント)、平均値 99%

となっている。

 上記より、工事前の流速域の分布に対する変化の幅は、水門を2つ開けた場合に最も大きく、次いで水門を1つ開けた場合となり、最も流速域の変化の幅が小さいのが水門を3つ開けた場合であることが分かる。

 図2−1、図2−2をみると、流速域の変化の大きさは水門を1つ開けた場合が最も大きく、次いで水門を2つ開けた場合となり、最も工事前の流速域に近いのが水門を3つ開けた場合であることが分かる。


(2)H:調整池堤防から諌早湾口

 図2−3、図2−4に調整池堤防から諌早湾口の流速比較結果を示す。図2−3が満潮の場合、図2−4が干潮の場合である。それぞれ大潮、中潮、小潮の結果を並べて示した。

 完全閉め切りの場合ケース2の場合には、

大潮−満潮時には 25%〜 76%(幅: 51ポイント)、平均値 50%
中潮−満潮時には 25%〜 73%(幅: 48ポイント)、平均値 49%
小潮−満潮時には 31%〜 73%(幅: 42ポイント)、平均値 53%
大潮−干潮時には 37%〜 82%(幅: 45ポイント)、平均値 54%
中潮−干潮時には 38%〜 80%(幅: 42ポイント)、平均値 54%
小潮−干潮時には 50%〜 78%(幅: 28ポイント)、平均値 62%

となっている。
 それに対し、水門を1つ開けたケース3−1の場合には、

大潮−満潮時には 47%〜 90%(幅: 43ポイント)、平均値 73%
中潮−満潮時には 58%〜 94%(幅: 36ポイント)、平均値 77%
小潮−満潮時には 49%〜112%(幅: 63ポイント)、平均値 90%
大潮−干潮時には 65%〜 97%(幅: 32ポイント)、平均値 79%
中潮−干潮時には 66%〜 98%(幅: 32ポイント)、平均値 81%
小潮−干潮時には 79%〜118%(幅: 39ポイント)、平均値 92%

となっている。
 それに対し、水門を2つ開けたケース3−2の場合には、

大潮−満潮時には 74%〜 96%(幅: 22ポイント)、平均値 87%
中潮−満潮時には 81%〜 97%(幅: 16ポイント)、平均値 90%
小潮−満潮時には 92%〜102%(幅: 10ポイント)、平均値 97%
大潮−干潮時には 67%〜 96%(幅: 29ポイント)、平均値 81%
中潮−干潮時には 68%〜 96%(幅: 28ポイント)、平均値 82%
小潮−干潮時には 79%〜 97%(幅: 18ポイント)、平均値 91%

となっている。
 さらに、水門を3つ開けたケース3−3の場合には、

大潮−満潮時には 83%〜 98%(幅: 15ポイント)、平均値 93%
中潮−満潮時には 89%〜 96%(幅:  7ポイント)、平均値 92%
小潮−満潮時には 87%〜 96%(幅:  9ポイント)、平均値 93%
大潮−干潮時には 73%〜 95%(幅: 22ポイント)、平均値 83%
中潮−干潮時には 74%〜 96%(幅: 22ポイント)、平均値 84%
小潮−干潮時には 81%〜105%(幅: 24ポイント)、平均値 90%

となっている。

 上記より、工事前の流速域の分布に対する変化の幅は、完全閉め切りの場合が最も大きく、次いで水門を1つ開けた場合、水門を2つ開けた場合となり、最も流速域の変化の幅が小さいのが水門を3つ開けた場合であることが分かる。

 図2−3、図2−4をみると、流速域の変化の大きさも同様に完全閉め切りの場合が最も大きく、次いで水門を1つ開けた場合、水門を2つ開けた場合となり、最も工事前の流速域に近いのが水門を3つ開けた場合であることが分かる。


(3)I:有明海北部(諌早湾外)

 図2−5、図2−6に有明海北部(諌早湾の外側)の流速比較結果を示す。図2−5が満潮の場合、図2−6が干潮の場合である。それぞれ大潮、中潮、小潮の結果を並べて示した。

 完全閉め切りの場合ケース2の場合には、

大潮−満潮時には 88%〜 97%(幅:  9ポイント)、平均値 95%
中潮−満潮時には 90%〜 96%(幅:  6ポイント)、平均値 94%
小潮−満潮時には 90%〜 97%(幅:  7ポイント)、平均値 92%
大潮−干潮時には 94%〜103%(幅:  9ポイント)、平均値 97%
中潮−干潮時には 92%〜100%(幅:  8ポイント)、平均値 96%
小潮−干潮時には 88%〜 95%(幅:  7ポイント)、平均値 93%

となっている。
 それに対し、水門を1つ開けたケース3−1の場合には、

大潮−満潮時には 90%〜 96%(幅:  6ポイント)、平均値 95%
中潮−満潮時には 90%〜 96%(幅:  6ポイント)、平均値 95%
小潮−満潮時には 93%〜100%(幅:  7ポイント)、平均値 94%
大潮−干潮時には 96%〜100%(幅:  4ポイント)、平均値 98%
中潮−干潮時には 95%〜 99%(幅:  4ポイント)、平均値 97%
小潮−干潮時には 94%〜 98%(幅:  4ポイント)、平均値 96%

となっている。
 それに対し、水門を2つ開けたケース3−2の場合には、

大潮−満潮時には 90%〜 97%(幅:  7ポイント)、平均値 96%
中潮−満潮時には 90%〜 96%(幅:  6ポイント)、平均値 96%
小潮−満潮時には 95%〜100%(幅:  5ポイント)、平均値 96%
大潮−干潮時には 97%〜101%(幅:  4ポイント)、平均値 99%
中潮−干潮時には 97%〜100%(幅:  3ポイント)、平均値 98%
小潮−干潮時には 96%〜100%(幅:  4ポイント)、平均値 97%

となっている。
 さらに、水門を3つ開けたケース3−3の場合には、

大潮−満潮時には 92%〜 98%(幅:  6ポイント)、平均値 97%
中潮−満潮時には 94%〜 97%(幅:  3ポイント)、平均値 97%
小潮−満潮時には 96%〜100%(幅:  4ポイント)、平均値 97%
大潮−干潮時には 97%〜101%(幅:  4ポイント)、平均値 99%
中潮−干潮時には 97%〜100%(幅:  3ポイント)、平均値 99%
小潮−干潮時には 96%〜 98%(幅:  2ポイント)、平均値 97%

となっている。

 上記より、工事前の流速域の分布に対する変化の幅は、完全閉め切りの場合が最も大きく、次いで水門を1つ開けた場合と水門を2つ開けた場合が同程度となり、最も流速域の変化の幅が小さいのが水門を3つ開けた場合であることが分かる。

 図2−5、図2−6をみると、流速域の変化の大きさも同様に完全閉め切りの場合が最も大きく、次いで水門を1つ開けた場合、水門を2つ開けた場合となり、最も工事前の流速域に近いのが水門を3つ開けた場合であることが分かる。


(4)K:有明海・島原湾・八代海(含諌早湾)

 図2−7、図2−8に有明海・島原湾・八代海(諌早湾を含む全域)の流速比較結果を示す。図2−7が満潮の場合、図2−8が干潮の場合である。それぞれ大潮、中潮、小潮の結果を並べて示した。

 完全閉め切りの場合ケース2の場合には、

大潮−満潮時には 70%〜 98%(幅: 28ポイント)、平均値 95%
中潮−満潮時には 71%〜 97%(幅: 26ポイント)、平均値 95%
小潮−満潮時には 75%〜 95%(幅: 20ポイント)、平均値 93%
大潮−干潮時には 80%〜 98%(幅: 18ポイント)、平均値 96%
中潮−干潮時には 72%〜 97%(幅: 25ポイント)、平均値 95%
小潮−干潮時には 64%〜 95%(幅: 31ポイント)、平均値 92%

となっている。
 それに対し、水門を1つ開けたケース3−1の場合には、

大潮−満潮時には 93%〜 98%(幅:  5ポイント)、平均値 97%
中潮−満潮時には 93%〜100%(幅:  7ポイント)、平均値 97%
小潮−満潮時には 95%〜100%(幅:  5ポイント)、平均値 97%
大潮−干潮時には 94%〜100%(幅:  6ポイント)、平均値 97%
中潮−干潮時には 94%〜 98%(幅:  4ポイント)、平均値 97%
小潮−干潮時には 96%〜100%(幅:  4ポイント)、平均値 97%

となっている。
 それに対し、水門を2つ開けたケース3−2の場合には、

大潮−満潮時には 95%〜 99%(幅:  4ポイント)、平均値 98%
中潮−満潮時には 97%〜100%(幅:  3ポイント)、平均値 98%
小潮−満潮時には 97%〜108%(幅: 11ポイント)、平均値 98%
大潮−干潮時には 96%〜100%(幅:  4ポイント)、平均値 99%
中潮−干潮時には 95%〜 99%(幅:  4ポイント)、平均値 98%
小潮−干潮時には 97%〜100%(幅:  3ポイント)、平均値 98%

となっている。
 さらに、水門を3つ開けたケース3−3の場合には、

大潮−満潮時には 97%〜100%(幅:  3ポイント)、平均値 99%
中潮−満潮時には 97%〜100%(幅:  3ポイント)、平均値 98%
小潮−満潮時には 98%〜100%(幅:  2ポイント)、平均値 98%
大潮−干潮時には 97%〜100%(幅:  3ポイント)、平均値 99%
中潮−干潮時には 95%〜 99%(幅:  4ポイント)、平均値 99%
小潮−干潮時には 97%〜100%(幅:  3ポイント)、平均値 98%

となっている。

 上記より、工事前の流速域の分布に対する変化の幅は、完全閉め切りの場合が最も大きく、次いで水門を1つ開けた場合、水門を2つ開けた場合となり、最も流速域の変化の幅が小さいのが水門を3つ開けた場合であることが分かる。(注:水門2つ開けた場合の小潮−満潮時の108%は1.2cm/sと1.3cm/sの比であり、小数点第2位以下を四捨五入したため数値上大きな違いとなっている。)

 図2−7、図2−8をみると、流速域の変化の大きさも同様に完全閉め切りの場合が最も大きく、次いで水門を1つ開けた場合、水門を2つ開けた場合となり、最も工事前の流速域に近いのが水門を3つ開けた場合であることが分かる。


2−3 総合評価

 調査報告書本編(「諌早湾閉め切りの開放に伴う潮流の予測・評価に関する自主調査(中間報告)」、平成13年3月10日、株式会社 環境総合研究所)では、対象水域内の「平均流速」について分析を行い、水門を3つあけた場合(ケース3−3)に最も流況が回復し、工事前に近付くことが分かった。

 本報告でさらに詳細に流況の変化をみたところ、「G調整池内部」、「H調整池堤防から諌早湾口」、「I有明海北部(諌早湾外)」、「K有明海・島原湾・八代湾(含諌早湾)」といずれの範囲をとった場合でも、水門を3つ開放した場合(ケース3−3)にもっとも流速域全体が回復し、工事前に近付くことが分かった。

 特に「G調整池内部」、「H調整池堤防から諌早湾口」ではいずれの条件下においても、完全閉め切り(ケース2)と比較して、水門を3つ開放した場合(ケース3−3)の回復が著しいことが分った。


表2−1 流速および流速変化の割合(大潮−満潮)  流速単位:cm/s
(略)

表2−2 流速および流速変化の割合(大潮−干潮)  流速単位:cm/s
(略)

表2−3 流速および流速変化の割合(中潮−満潮)  流速単位:cm/s
(略)

表2−4 流速および流速変化の割合(中潮−干潮)  流速単位:cm/s
(略)

表2−5 流速および流速変化の割合(小潮−満潮)  流速単位:cm/s
(略)

表2−6 流速および流速変化の割合(小潮−干潮)  流速単位:cm/s
(略)


図2−1 工事前に対する流速変化の割合(G調整池内部 −満潮−)


図2−2 工事前に対する流速変化の割合(G調整池内部 −干潮−)


図2−3 工事前に対する流速変化の割合(H調整池堤防から諌早湾口 −満潮−)


図2−4 工事前に対する流速変化の割合(H調整池堤防から諌早湾口 −干潮−)


図2−5 工事前に対する流速変化の割合(I有明海北部(諌早湾外) −満潮−)


図2−6 工事前に対する流速変化の割合(I有明海北部(諌早湾外) −干潮−)


図2−7 工事前に対する流速変化の割合(K有明海・島原湾・八代海(含諌早湾) −満潮−)


図2−8 工事前に対する流速変化の割合(K有明海・島原湾・八代海(含諌早湾) −干潮−)

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