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東日本大震災後の
廃棄物処理の課題

池田こみち
環境総合研究所副所長
16
April 2011
独立系メディア E-wave


 大震災から既に一ヶ月以上が経過したが、被災地は未だに膨大な瓦礫の山に覆い尽くされている。日本は世界の経済をリードしてきた先進国であるはずだったが、その光景はまるで途上国の様ですらある。

 大地震・大津波・原発事故のそれぞれが未曾有のスケールで「想定外」であったからといって、その後始末にこれほど手間取っていることが、復興への道のりをさらに遠いものにしている。

 そればかりか、一向に片付かないガレキを目にするたびに、被災された地域の人々の気持ちは、さらに打ちのめされて行くに違いない。

 この間、福島第一原発からの放射性物質のモニタリングに関してはまったく存在感のなかった環境省が、一ヶ月経ってようやく今回の災害に伴う廃棄物の量を試算し、アスベストの飛散について調査を開始したというニュースが報じられた。

 本来、環境中の放射性物質については、原発を所管する経済産業省や旧科学技術庁の業務を包括した文部科学省がモニタリングするのではなく、環境の状況を普段から把握している環境省が第三者的な立場でしっかりとモニタリングし、国内外に適切な情報発信を行っていくべきではないかとの声が高まるのは当然のことである。

 さて、ここでは、震災後の廃棄物の処理について、その課題を整理してみたい。

 2011年4月14日の神奈川新聞に、川崎市長が被災地域の自治体と協議し、被災地の廃棄物を川崎市内で焼却処理することを約束して帰ったところ、放射能汚染の可能性もある廃棄物を市内の焼却炉で燃やせば、周辺に放射能を拡散することになるのではないかとの危惧から、5日間に2000件以上の問い合わせや苦情、心配の電話が川崎市役所に寄せられたというニュースが掲載された。

被災地の災害廃棄物受け入れで、苦情など殺到2000件超/川崎市
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1104140016/
 
 一般廃棄物の処理は専ら自治体が責任を持って行うべき業務であるとして、これまでも自治体間の連携、協力により災害ごみの処理は広域的に行われてきた。

 例えば、阪神淡路大震災や新潟地震の時にも、関東エリアの大規模焼却炉に持ち込まれ焼却処理された実績がある。これまでなら、焼却を引き受ける地域の住民も「お互い様」という気持ちもあってことさら苦情や心配を声高に言うこともなかったが、今回ばかりは少し事情が違っている。

●その量

 環境省によれば、衛星画像や地図をもとに試算したがれきの総量は宮城、岩手、福島の3県だけでも約2,490万トン(内訳は宮城1600万トン、岩手600万トン、福島290万トン)にものぼるという。阪神大震災は約1450万トンだった。

 推計は倒壊した家屋やビルなどの量で、自動車や船舶、ヘドロなどは含まないため、実際の廃棄物の量はさらに増える。※これは、平成21年度の国全体の一般ごみの年間排出量4,625万トンの1/2を超える量である。しかも、被災地は東北3県だけでなく、茨城県、千葉県にも及んでいることから、その量はさらにふくらむことは間違いない。

 ちなみに、平成21年度のごみ処理経費は約15,000億円と報告されているので、その半分以上であれば、単年度でも7000億円ということになる。

 東北3県のうち、最も多い宮城県の場合、その量は、県内の一般ごみの23年分に相当するとも言われている。県内の焼却施設や処分場も被害を受けていることから、単独での処理は到底困難なことは目に見えている。

 もっとも今回の「廃棄物」の内容は一般廃棄物というより産業廃棄物に近い。しかし、事業活動に伴って排出された特定の品目ではないことから法律上は一般廃棄物に分類されることになる。 

 ※ 日経新聞、毎日新聞他 2011年4月5日の記事より 


図 ごみ総排出量の推移 
出典 一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成21年度)について
環境省大臣官房 廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課  平成23年3月4日

●その質

 大震災だけでなく、大津波、原発からの放射性物質の流出というトリプル災害によってもたらされた廃棄物は、その質の面でも今までとは異なる有害性をもっていると言わざるを得ない。

 福島第一原発からの放射能の影響は気象条件によって被影響エリアが変化するため一概に全体の廃棄物の内どのくらいの量が放射能に汚染されているかを推定することは難しい。しかし、原発事故の処理が長引けば長引くほど、低レベル〜高レベルまでの放射性廃棄物の量は増大し、これをどう処理するか改めて検討する必要がある。

 また、大津波によって沿岸部の市街地は根こそぎ流出してしまったため、工場・事業所、商店、民家(農家)などに保管・貯蔵されていた有害性の高い「もの」もすべて飛散、流出、浸出、揮発していると考えるのが妥当である。

 例えば、石油製品、農薬類、アスベストなどがまず筆頭にあげられる。また、ガレキなど建設廃棄物だけでなく、津波が運んできた泥や砂にも大量の有害物質が含まれている可能性がある。市街地、農用地、海浜地域ごとにランダムサンプリングによる汚泥の分析を行い、汚染の状況を確認する必要があるだろう。放置すれば、飛散による健康影響、地下浸透による土壌汚染、地下水等の水源や表流水への影響なども危惧される。

●廃棄物処理が進まない理由(被災地で)

 被災地域で一ヶ月以上経ってもガレキの山が処理できない理由の一つはなんといってもその圧倒的な量である。船舶から家屋、自動車(一部報道では40万台にものぼると推計されている)、あらゆるものがガレキとなっている。

 また、それらが流されているため、所有者の判定・確認が難しいことも処理を遅くしているという。例え押しつぶされていても車の処理は所有者の承諾が必要となるなど、法的な手続きも廃棄物処理行政の行く手を阻む。重機の不足もある。さらには、港湾地域は水産庁、市街地は自治体といったように、地域や場所によって廃棄物処理の所管が異なることも阻害要因となっているという。

 それに、膨大なガレキや廃棄物を集めても保管する場所すらない。高台の平地は仮設住宅の建設が優先されるためである。

●非被災地での焼却・埋立に伴う課題

 自治体間の連携協力により遠隔地に運んで中間処理、最終処分することが今後も検討されることになるが、先に示した川崎市の様に、今回の場合はごみの汚染が複雑であるため、今まで以上に慎重な対応が求められることになる。

 ガレキの輸送も長距離となる事もあり得るため、しっかりとした分別や輸送時の飛散防止が必要である。また、焼却処理を行う場合には、焼却炉周辺住民や環境への影響が生じることのないように配慮が必要である。具体的には、次のような点が指摘できる。

・放射性物質を含む廃棄物はどう扱うのか。
・塩分を含んでいるごみは燃焼管理がわるいとダイオキシンを発生させる可能性がある。
・有害物が多量にしみこんでいると、焼却処理により未規制物質が発生する可能性がある。
・受け入れ自治体では住民合意をどうするのか(説明責任が問われる)。
・受け入れ期間中の排ガスや周辺環境のモニタリングをどのように行うのか。
・中間処理すべき廃棄物と直接最終処分すべき廃棄物をどのように仕分けるのか。

 環境省は埋立処分場の延命化のために中間処理(焼却、溶融)を一層強化する方策をとっているが、今回の大震災のごみ処理に関して、どのような体制でどのような処理を行うことがもっとも適しているのか、早急に基本的な考え方を示すべきである。

 大震災で環境省が本来の役割を果たせるかどうか、は一に廃棄物処理への適切な対応に懸かっている。しかし、そのスタートはすでに出遅れた感は否めない。