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被災地域からのペットの救出
その実態 

池田こみち
環境総合研究所副所長
19
April 2011
独立系メディア E-wave

 
 未曾有の大災害に原発事故も加わり、東日本一帯が受けた被害は、まさに国の存亡の危機と言っても過言ではない。しかも、既に1ヶ月余りが経過しているにもかかわらず、原発事故は収束の兆しもなく、瓦礫はまちやふるさとの山河を埋め尽くしている。

 現地では、依然として行方不明者の捜索も進まず、各地で避難されている人々への十分な対応すらできていない中、避難に際して取り残されたペットや家畜の救出までは到底手が回っていないのが実態である。

 そうした状況を見かねて、この間、いくつかの動物愛護ボランティア団体や個人が連携し、放置されたペットたちの救出活動を進めている。

 今回は、一泊二日で福島県の南相馬市に入ってペットの救出活動を行ったボランティアの一人にその実態をインタビューし、活動の一端を紹介したい。

 南相馬市といえば、福島第一原発の立地する大熊町、その北側に隣接する浪江町を経て、第一原発から10数キロ離れた位置にあり、太平洋に面した人口73000人余の浜通り北部の町である。相馬野馬追で有名な歴史文化の豊かな町である。

 ここは、既に報道されているように、福島第一原発から20km〜30kmのエリアに該当するため、「計画的避難区域」や「緊急時避難準備区域」などの指定が行われ、住民の間に混乱と不安が渦巻いている。

 原発事故発生直後から、屋内待避、自主避難などさまざまな国からの指示に翻弄され家族やコミュニティがばらばらになるばかりでなく、放射能汚染を危惧して外からの物資も入らないなど、まさに兵糧攻めの苦しみを味わってきた町でもある。

 今回、放置されたペットを救出するために南相馬市に入ったボランティアは東京や茨城などから参加していた。まず、東北自動車道で福島まで北上し、そこから、南東の川俣町の山中を経て南相馬市内に入ったという。このルートは道も狭く、地震による落石などもあって、かなり危険な状況だったようだ。地元では、落石でイノシシが3匹も潰されていたというほど険しいルートとされている。

 彼らが最初に直面したのは、原発から20km圏内の立ち入り禁止区域にどのルートから入るかという問題だった。県道などの幹線道路では検問があり、原則的に自衛隊や消防などの救援活動を行う関係者やエリア内に自宅があるなどの地元住民以外入ることができないことになっていた。しかし、「20km圏内に入るルートは脇道や裏道など複数のルートがあって、そうしたところは検問もなく比較的簡単に入ることができた。」と参加者の一人は話す。

 そうしたルートから、ボランティアグループは、問題なく20キロ圏内に入り、南相馬市小高区の小高駅周辺、浪江町との市境周辺で猫9匹、チャボなどのトリ数羽を捕獲した。小高駅のあたりは、泥の海になっており、人は誰もおらず、静まりかえった音のない世界だった、と被災地の様子を語っている。

 「まだまだ津波の痕跡がその生々しく、沢山のひっくり返った車が泥に突き刺さっており、つぶれた家が累々と連なり、その中にはまだ行方不明の方が残されているのではと思うと胸が痛んだ」と語る。

 猫や犬などのペットたちは一ヶ月余り取り残されて、やせ細り恐怖に怯えていて簡単に捕まえることはできなかった。まず、猫たちは、ペットフードなどを入れた捕獲器を各所に設置し、じっと入るのを待って捕まえるという方法を用いた。

 一方、犬たちの中には、久しぶりに見る人の姿に、助けを求めるように自ら近寄ってくるものもいたようだが、恐怖のために逃げ惑うものも多く、捕まえるのは大変な作業だった。

 こうして、今回の動物保護活動では、複数のボランティア団体・個人の努力によって全部で、猫29匹、犬6匹、チャボ6羽を救出することができたという。

 20km圏内に入るときは裏道を抜けたボランティアたちも、救出後には主要道路を通り検問所で「ご苦労様!」と声をかけてもらって、簡単に出られたようだ。検問所では全国から派遣された警察官が任務に当たってるようだった、と救出に参加したボランティアの一人は話していた。

 20キロ圏内から出た後は、人も猫も犬も、保健所(原町駅の海側すぐ)で、放射線のスクリーニングを受け、救出作戦が終了となる。

 今回救出された動物たちは、ボランティア団体が預かりを分担し、医療を受けて大切にされている。しかし、牛などの家畜は餓死寸前であっても、救出できないので、それが心に重くのしかかっていると話していた。

 まだまだ人間の救済もままならない中、「犬や猫どころではない」、との非難や暴言を浴びせられることもあるとのことで、活動をされたボランティアの方々は、こころを痛めている。こうした活動によって、動物たちの命が救われるだけでなく、心を残しながらも置いて逃げざるを得なかった飼い主の気持ちも救われることになるのであり、彼らへの誹謗中傷は決して許されない。
 
  それどころか、行政がまったく手つかずのこうした活動を身を挺して実行しているボランティアのみなさんの勇気と努力には頭が下がる思いである。せめて、そうした活動に参加できない私たちは、資金面や物資の援助をするなどペットを愛する人たちの善意を結集したいものである。

<関連サイトの紹介> 東北地震犬猫レスキュー.com  東北・関東大震災によって被災した方の犬・猫の救援情報特設掲示板です。  
http://tohoku-dogcat-rescue.com/