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民主主義
成熟度ランキングを
どう見るか


池田こみち

掲載日:2006年11月24日


 このほどエコノミストの付属シンクタンク部門でもあるEconomist Intelligence Unit(EIU)が民主主義成熟度ランキングとでも言うべきDemocracy Index 2007を発表した。

 お隣の韓国は民主主義が不完全な国々に含まれ、31位にランクされたこともあって、中央日報がすぐさま反応した。日本は20位だが、メディアはあまり関心がないようだ。

 この種のランキングは世界のいろいろな機関によってこれまでも行われてきているが、EIUでは、世界各国の民主主義の動向を追跡・分析してきたアメリカのFreedom Houseの方法よりさらに詳細かつ綿密な評価方法を開発しランキングを試みていという。

 5項目の大きな評価項目のもとで60項目もの指標についてチェックしているのである。

 評価項目の大項目は次の5つである。

@Electoral process and plurarism:選挙プロセスと社会的多元主義の実現(ひとつの共同体の中に、民族・文化・宗教の異なる集団が存在している状態)
AGovernment function:政府機能
BPolitical participation:政治的参加
CPolitical Culuture:政治的文化
DCivil liberties:市民の自由

 これらの5項目は相互に密接に関連しており、どれが欠如しても民主主義のレベルは下がることになる。

 ちなみに、一位にランクされたスウェーデンと20位の日本、31位の韓国について、上記の5項目ごとの評点を以下に示してみる。

順位 平均得点 選挙 政府 参加 文化 自由
スウェーデン 9.88 10.0 10.0 10.0 9.38 10.0
日本 20 8.15 9.17 7.86 5.56 8.75 9.41
韓国 31 7.88 9.58 7.14 7.22 7.50 7.94
出典:Laza Kekic, Director, Country forecasting Service,Economist Intelligence Unit,The Economist Intelligence Unit's index of democracy,THE WORLD IN 2007, Democracy Index より抜粋
http://www.economist.com/media/pdf/DEMOCRACY_INDEX_2007_v3.pdf

 スウェーデンはと言えば、フィギュアスケートか体操の得点のように10点満点が並び、政治文化の項目のみが僅かに10点に達していないのに対し、日本は、案の定というべきか、Bの政治的参加が5.56と極めて低いポイントとなっている点が注目される。

 韓国にも大きく劣っているのである。その他の国の評点については、是非出典資料をご覧頂きたい。評価項目の詳細についても同資料に説明されている。

 調査は165の独立国と2つの地域を対象としている。その中で、上位ランク(Full Democarcies)に入れたのは1位のスウェーデンから27位対のウルグアイまでの僅か28の国々である。ほぼ倍にあたる54の国と地域が“Flawed democracies”(不完全な民主主義国)に含まれている。

 残り85のうち、30は“Hybrid Regimes”(ハイブリッド体制)、55は“Authoritarian”(独裁体制)と区分されてた。OECD諸国では、イタリアを除きすべてがFull Democraciesに含まれた。

 ここで、一応、“Full democracies”(民主主義が発達した国)に含まれた我が国の20位をどう見るかである。もっと上位のはず、と不満顔になるのか、それとも、20位は甘すぎると見るのか。

 EIUのLaza Kekic氏は、ランキングの記者発表資料の中で、次のように解説している。80年代末にベルリンの壁が壊れ、ソ連が崩壊して以降、世界の民主主義レベルは急速に拡大していったが、21世紀に入ってから民主主義の拡大にブレーキがかかっていると。

 中東やアフリカ諸国、南米諸国などの政治情勢が不安定な国々だけでなく、民主主義の権化?といわれたアメリカ、イギリスにおいても著しい後退が見られていると指摘している。

 テロとの戦いを標榜してアフガニスタン侵攻、イラク戦争へと突き進んだアメリカも同盟国としてそれに追随したイギリスも現政権は行き詰まりを見せている。アジアではタイで軍部によるクーデターが起き不安定さを増している。

 日本はどうだろう。本独立系メディアのコラムニストが連日指摘しているように、もともと危うい日本の民主主義の行く末はかなり厳しいと言わざるを得ない。

 教育基本法のタウンミーティングに見る政府自らのやらせ体質の露呈、造反議員の復党騒動に見るお手盛り自己都合体質、自治体の長と選挙を応援してくれた地元企業との癒着、官製談合の蔓延、裏金づくりやお手盛り手当など自治体の腐敗、選挙の度に下がる投票率や行政の政策立案過程への市民参加のレベルの低さなどあげつらえばきりがない。連日報道されるこうした問題はまさに民主主義の程度を反映したものであろう。

 折しも、北海道夕張市では、財政破綻した市の財政再生計画について市民説明会が開催され、怒号と涙が渦巻く様子が報道されたが、そこに至る過程でのデモクラシーはどうだったのだろうか、と考えさせられた。厳しいようだが、市長や行政ももちろんその責任を問われるべきだが、その政治家、政策をよしとして選んだ市民がいたことは間違いないのである。

 「ランキングなんてどっちみち大したものではない」などと無視を決め込まず、この際、20位というポジションについてしっかり考えてみることが必要なのではないだろうか。なぜ北欧諸国はいつも上位にいるのか、アメリカ(17位)・イギリス(23位)がなぜランクダウンしているのか、実に深い内容を含んでいる。まさに我が国のデモクラシーの質が問われているのである。

 私たちは民主主義国に暮らしているのかどうか、改めて問い直してみてはどうだろう。特に国や地方自治体の政治家、行政の長には真摯に考えてもらいたい。