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廃プラ焼却に異議あり
〜今、なぜ廃プラ焼却なのか〜


池田こみち

2008年2月18日


 東京23区では、平成20年度から本格的に廃プラ焼却がスタートしようとしている。

 この一年、都内各地(練馬、世田谷、文京、江東、小平など)で廃プラ焼却の問題点について講演する機会を頂いて大勢の市民運動や消費者運動グループのメンバーとも議論してきたが、焼却炉をかかえる区民は本当に怒っている。

 今まで廃プラは焼却不適物として23区では分別され、不燃物として処理されてきた。それによって埋立処分場(東京湾中央防波堤沖)が逼迫しているということだが、それがいきなり焼却「不適」が「適」となるのは納得できない。

 どんな政策であれ、その必要性、妥当性、正当性が問われなければならないが、廃プラ焼却には、必要性も環境面、経済面、社会面からの妥当性も、意志決定の正当性も見いだせない。

・東京湾の埋め立て地に埋められるものの7割近くは土砂である。廃プラばかりをターゲットにして焼却に転換するのは疑問。延命化されても50年後の展望はない。

・二酸化炭素の排出は増加するが発電しているので、東京電力の発電分を相殺すればきわめて少ない増加で済む。というがその計算根拠は明らかにされていない。

・廃プラを焼却することにより高カロリーごみとなり効率が高まると言うが、一方で排ガス中の有害物質には無頓着。プラスチックには1000種類にも及ぶ多種多様な添加剤が使われていて破砕・圧縮の段階だけでなく、焼却処理によって未規制の有害物質が大量に排出される危険性が高い。

・各区で実施している廃プラ焼却の「実証確認試験」なるものの安全性の検証はまったく第三者性に乏しく、自作自演、自画自賛。

・区民は発電のため、廃プラをごみ焼却施設に供給する役割を担わされることになる。

・52億円の節約につながると言うが、本格稼働して廃プラ混入率が20%近くになった場合、新たな設備投資が必要になるのではないか。また、維持管理費の増加につながらないのか。

・プラスチック処理促進協会などが23区清掃一部事務組合のデータをつかって廃プラのサーマルリサイクルのLCA分析を行っているが、分析インベントリーは二酸化炭素排出量、埋め立て量、エネルギー効率(資源効率)の3点のみであり、いわゆる環境影響はまったく見込んでいないのはLCAとして不十分。

・なによりも、上位の政策である「循環型社会の構築」というビジョンに逆行する。

 23区の廃棄物政策は処理プロセスごとに責任主体が異なっていて、筋の通った廃棄物政策はないに等しい。

 収集運搬は区、焼却などの中間処理は23区清掃一部事務組合、埋め立て処分は東京都となっている。そのために、それぞれの主体が自分たちの守備範囲のことにしか責任をもたないため、廃棄物政策としての目指すべき目標(ビジョン)、方針、政策の立案がまったく区民不在で進められているのである。

 区民にとって廃棄物政策が目指すべき方向は、決して処分場のわずかばかりの延命やごみ発電でエネルギーを得ることではない。

 23区内には現在21工場45炉の焼却炉と8カ所の灰溶融施設に合計17炉もの施設がある。それらを一つずつ減らすためにはどうすればいいか、また、多くの海の恵みを未だに供給してくれる東京湾へのごみや有害物の埋め立てをどうすれば少しでも減らせるのか、次世代のためにも、今すぐ取り組みを始めなければ、私たちは未来永劫、焼却炉や溶融炉に依存し続けなければならず、まさに麻薬中毒のように、「焼却中毒」から抜け出すことはできない。

 そのためにも、処理の難しいプラスチック製品の排出抑制をどうするのか、可燃ごみの35%以上を占める水分の多い生ごみを高温焼却せずに資源として有効利用する方法はないのか、焼却ごみの20%以上を占める紙ごみをもっと資源化する方法はないのか、増え続ける事業系一般廃棄物を抑制する方策はないのか、などまだまだ優先すべき政策があるはずだ。

 区民の出すごみは着実に減ってきているにもかかわらず、中間処理施設は増強され、ありあまる処理能力をもっている。処理能力が過剰だからと言って、廃プラを焼却するのは安易な選択としか言いようがない。

 アメリカでは早くから原発や焼却炉などの施設をいかに安全に閉鎖していくかその役割を終えさせるか「 DECONTAMINATION AND DECOMMISSIONING」についての技術開発や研究が進められその手続きについての議論も行われている。ごみが減ったら焼却炉はひとつずつ閉鎖する方向で検討すべきである。

 それこそが区民にとって明るいビジョンであり、ごみ減量化に向けての努力もできようというものだ。

 処理の困難なプラスチック製品を作る側、安易に買う側、使う側に応分の負担を求めることも必要だろう。今のように、すべての付けを末端の消費者に押しつけ自治体の過剰な処理施設に処理を依存するやり方では、問題の解決はできない。

 製造者、生産者の責任を厳しく問う法制度の整備、廃棄のことを考えて商品を購入するような消費活動につながる政策こそ必要ではないだろうか。

 文京区は焼却炉を持たない区である。隣の豊島区には大きな焼却施設があるが、豊島区民と豊島清掃工場との協定などもあり、隣だからと言ってそこに持ち込むことはできず、文京区から江東区や足立区の清掃工場に搬入している。

 廃プラの分別は一切行われず、区のデータをみてもごみが減量している様子は見られない。

 本来、焼却炉を持たない区ほど、発生抑制やごみ減量に努めるべきであるが、区役所は容器包装リサイクル法の実施にはお金がかかるといってまったくなんの対策も講じていない。区民もごみ問題には無頓着が多いようだ。一方、大規模焼却炉や灰溶融施設を抱える江東区では、松葉の調査などから大気中ダイオキシン濃度も他区に比べて高いことが明らかとなったこともあり、区民の不安が募っている。

 世田谷区では、現在、老朽化した世田谷清掃工場を取り壊し、ガス化溶融炉を建設中であが、メーカーも初めての経験というほど大規模なガス化溶融炉であり、年度末の引き渡し前に試験運転を行っている段階で早くもトラブルが発生し大幅な改修をする羽目となっている。

 世田谷には二つの焼却施設がある。ガス化溶融炉を選択する前に、焼却炉への依存を減らす政策についての議論をしなかったのか、今更ながら悔やまれる。世田谷では容リ法のその他プラの分別は行われない。まさに、各区がばらばらなごみ政策をそれぞれの都合で進めているといった状況だ。

 焼却を強化する一方で、排ガスの監視や大気の監視は手薄になる一方であり、規制強化の動きも見られない。温暖化防止が叫ばれる中、廃プラ焼却で二酸化炭素の排出量が増加することは間違いない。

 筆者らは、マツの針葉を生物指標とした金属元素濃度調査を全国各地で実施している。それによれば、廃プラ焼却を開始した焼却炉の周辺やサーマルリサイクル施設の稼働後には、松葉中の金属元素濃度が増加することが明らかとなっている。

 区民はこの際、真剣にこの問題を考えるべきである。区民の立場、区民の健康や環境を守るという視点からの廃棄物政策はどうあるべきか、東京都議会、各区議会はもう一度考え直す必要がある。