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講演会速報
所沢市でも廃プラ焼却の動き


池田こみち
2008年6月3日


 今年は、東京23区のごみ処理が大きく変わる「転換の年」。これまで不燃ゴミだった廃プラが可燃ゴミとなる。すでに一部の区では4月から全面的に廃プラ焼却処理が始まっており、10月には全区が完全実施に踏み切ることとなる。

 建前では容器包装リサイクル法(容リ法)に基づいて「プラ」マークのある容器包装プラは資源として回収し、さらに残った廃プラを焼却するということになっている。

 しかし実際には、容リプラ(容器包装リサイクル法によりリサイク対象とされるプラスチック)を資源として分別回収をするかどうかは各区の自主的な判断に任されている。そのため、コスト高になること等を理由に資源として回収しない区もあり、同じ23区内でも焼却炉のある区とない区では廃棄物政策の成熟度や区民感情にも大きな差が生じている。

 しかし廃プラ焼却(およびそれに伴う発電であるいわゆる「サーマルリサイクル」)の推進は事実上の国の方針であり、東京23区に限った話ではない。

 市民による議論、合意形成も不十分なまま、政策相互の整合性についての十分な説明もなされないまま、容リ法なんのそのと、さっさと廃プラを焼却を進めている自治体も多い。そして10年前ダイオキシン問題で揺れたあの所沢市もご多分にもれず、廃プラ焼却に踏み出そうとしているようだ。

 6月7日の土曜日、市民グループの主催により「廃プラ焼却を検証する」と題する講演を頼まれ、10年ぶりに所沢市内でこの問題についてお話しする機会を頂いた。当日は梅雨の貴重な晴れ間だったにもかかわらず、会場が満席となるほどの多くの市民の参加があり、熱心な議論が行われた。

 所沢市は人口34万人、武蔵野の台地に広がる住宅地・首都圏のベッドタウンである。1990年代後半には産廃焼却炉、ごみ焼却炉によるダイオキシン汚染問題で全国に名を馳せ、問題を提起した環境総合研究所ともども辛酸を嘗めた街である。

 所沢市には市直轄の一般廃棄物焼却施設が東西二カ所にある。当時は、西部クリーンセンター(所沢市の西端、入間市との市境に位置する)が、市内外に50以上もあった産廃焼却炉以上に高濃度のダイオキシンを排出していたことが市議会でも大きな問題となり、情報隠蔽も含めて市長の責任が問われた。

 その後、西部クリーンセンターは、およそ50億円以上もかけて施設の改修、排ガス対策を行い、現在も稼働している。一方、老朽化していた東部クリーンセンターは、130億円超の巨費を投じて電気アーク式灰溶融炉60t/日を供えた最新鋭の設備に生まれ変わり、平成15年4月に本格稼働している。まさに、所沢市のごみ焼却施設は「万全の備え」となったのである。

東部クリーンセンター 施設概要:
 (JFEエンジニアリング製 ストーカー式全連続焼却炉+灰溶融施設)
  焼却能力:230t/日(115t/日× 2 炉)(2003年4月稼働)
西部クリーンセンター(荏原製作所製 准連続式焼却炉) 施設概要:
  焼却能力:49t/16 時間× 2 炉(1989年4月稼働)
       50t/16 時間× 1 炉(1987年2月稼働)

 しかし、皮肉なことにダイオキシン問題をきっかけに全国でもトップクラスの設備を整えることとなった東部クリーンセンターで、今度は廃プラ焼却を始めるという市の方針が出され、市民の間に不安が広がっている。優れた設備、処理能力にも余裕のある施設だから、廃プラを焼却しても問題ない、埋立処分よりも燃やしてしまった方がコストも安い、というのが市側の本音だろう。お金を掛けて整備した施設の有効活用とでも言いたいのだろうか。

 建て替え後の東部クリーンセンターが本格稼働した直後から、市は周辺住民に廃プラ焼却を打診してきたという。しかし市民の反対が根強く、これまで先延ばしにされてきた。ダイオキシン問題を経験した市民としては当然の反応である。

 しかし、平成20年3月に市の廃棄物減量等推進審議会の答申を受け、当麻よし子市長(元民主党埼玉県議)は、廃プラ焼却を決定し、地元説明会や廃プラ焼却実証試験を進めようとしている。県議時代の「焼却反対」という主張を180度転換した格好だ。

 その最大の目的は、やはりコスト削減にあるようだ。平成17年に市内の最終処分場が満杯になったため、現在は山形県米沢市などに廃プラを埋め立て処分している。これらは主に容器包装リサイクルで資源化できないものや金属と木材などが混合しているプラスチック製品で、その量は18年度には7,500トンにものぼり、埋め立てコストが嵩んでいるという。

 そこで、容リプラ以外の廃プラを市内の東部クリーンセンターで焼却処理してしまえば、埋め立て処分費を削減でき、さらに焼却時の発電などにより約3億2000万円を節約できると試算しているのである。(毎日新聞2008年2月20日)しかも、西部クリーンセンターの1炉を廃炉にする予定だったにもかかわらず、一転して、これまでどおり3炉体制のまま継続する方向で議論が進んでいるというから驚きである。

 果たして、埋め立てコストの削減という理由だけで、市民の理解と納得が得られるだろうか。廃プラ焼却に踏み切る前に、行政はその必要性、環境面、財政面、社会面からの妥当性を市民に説明し、しっかりとした合意形成の手続きを踏まなければならないだろう。

 ダイオキシン問題を経験した所沢市こそ、市民が納得できる廃棄物政策のビジョンが必要だ。それは焼却・溶融処理技術に依存して廃プラを焼却し、埋め立てコストを削減することではないはずである。

 今こそ、焼却炉に依存しない廃棄物政策、ゼロ・ウェイストの実現にむけた市民参加の取り組みが求められているのではないだろうか。まさに、市議会、市民ひとりひとりが所沢市のごみ政策を考えるチャンスである。

 「燃やせるごみ/燃やせないごみ」という分別は既に陳腐化している。資源化できるか、できないか、出来ないごみの処理は、誰がどう責任をもち費用を負担すべきなのか、所沢市民の議論を全国に発信してもらいたい。

 市民が主体となったルール作り、もっとクリーンな所沢市になるための世界に誇れる「所沢方式」が生まれることに期待したい。最新鋭のクリーンセンターもいずれは老朽化し、また新たな巨額の投資が必要となるのは必定である。次世代の環境と財政にツケを残してしまう焼却炉を引き継がない方式こそ今求められているのではないだろうか。