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 NHK番組:
ペットは泣いている
〜激安競争の裏側で〜


池田こみち
 環境行政改革フォーラム副代表
2009年8月7日 無断転載禁



 2009年8月5日(水)19:30〜からNHKの「クローズアップ現代」で「ペットは泣いている〜激安競争の裏側で〜」が放映された。

 日本の動物愛護の今後を考える上で、非常に貴重な内容だったので以下その概要について紹介したい。

概  要:

 右肩上がりの成長を続けてきたペット産業。そこに今、価格破壊の波が押し寄せている。不況の影響で消費が冷え込む一方、インターネットを通じてペットを販売する業者の新規参入が相次ぐなど、販売業者は増え続けている。このため、価格競争がエスカレートし、そのしわ寄せはペットを直撃している。コストを削減するために、繁殖犬に十分なエサも与えず、年に何回も子犬を産ませる"パピーミル(子犬工場)"と呼ばれる悪質な業者も登場。一方で、飼い主の中にも、安易な理由でペットを手放してしまう人たちがあとを絶たず、毎年、10万頭あまりの犬が行政によって処分されている。人間の都合に翻弄されるペットをどのように守っていけばよいのかについて考える。(NO.2778)(NHK 番組Web Site より)

 スタジオゲスト : 野上 ふさ子さん (動物保護団体「地球生物会議」代表)

 番組冒頭で、脱サラして子犬をネットオークションで販売する事業を始めた男性が紹介された。ネットに掲載するために子犬の撮影をしている。トイプードルが通常15〜20万円のところ、最近価格が大幅に下がっていて、今回は4万円しか値が付かなかったとのこと。入札回数が減り、中には1円で売り出されている子犬も多数あるという。景気低迷による売れ残りの見切り販売とも言われている。

 日本では、子犬の価値は60日を過ぎると大幅に下落する。販売されている子犬の90%以上が二ヶ月までの子犬とのこと。日本人は圧倒的に生後二ヶ月以内の子犬を好む傾向にある。

 そのため、二ヶ月を過ぎた子犬は、安値となるか、処分されることも多いという。繁殖業者の中には経営が悪化し、病気の犬の治療や管理がずさな悪徳な業者も増えている。流行を追って売れる犬種を増やそうと、無理な繁殖を繰り返し、管理も不行き届きで病気になるケースも多いという。そうした繁殖業者のを“パピー・ミル”(子犬工場)と呼んでいる。

 そうした業者の元従業員の話「帝王切開を獣医に頼まず、業者が店でやることもある。犬はまるで機械と同じ、生まなくなったり売れなければ処分、山林に捨てることもある。そうなった犬は食べさせるのにもお金がかかり、お荷物となる。」とその実態を語る。

 こうした自体に業界も対策を講じてはいるが、なかなか追いつかないのが実態。全国ペット小売業協会には3500社が加盟しているが、加盟していない業者の数が多く、指導も徹底していない状況である。

 その背景には法律による規制が不十分であることも忘れてはならない。現行法(動物愛護法)では、ペット販売業者は自治体への登録制で責任者と若干の設備を整えて書類を提出しさえすれば誰でもできる。取り締まりの基準も曖昧なもので、行政の指導や立ち入りに際して具体的に適用できないのが実態である。

 環境省の担当室長は法律による業者の取り締まり強化は難しいと話している。実際、多くの場合、業者への立ち入りは予告して行われるため、立ち入り当日は普段とは異なり問題が発覚しずらいのが現状である。取り締まりの強化のためには具体的な数値も必要。

 動物愛護の先進国であるイギリスと制度を比較してみよう。日本の法律がいかに「曖昧」な規制となっているかがわかる。動物愛護団体NPOの代表 野上ふさ子氏が登場し、イギリスとの比較を説明。

@業者の認可

 日本:登録制。自治体に登録するので、その地域で問題を起こしても別の都道府県では業者の登録が可能である。

 英国:許可制。個人のライセンスとしての許可制であるため、違法が摘発された場合などは、何年間かライセンスが停止される厳しい制度となっている。

A繁殖の制限

 日本:適切な回数、となっているため、ブリーダーは流行に合わせていろいろな犬種を次々に繁殖させ、年に2回、繁殖年齢のうちには可能な限り子供を産ませて使い捨てるようなこともする。そのため、ぼろぼろになって保健所で処分してしまうこともある。

 英国:年1回、一生に6回までと決められている。また、親犬は、繁殖が終わっても終生飼育することがブリーダーには義務づけられている。

※そもそもイギリスでは「ブリーダー」という仕事はプライドを持って行われている。ブリーダーが特定の犬種を維持してきたという自負があり、多くの場合、一種類のみを繁殖しているケースが多い。それに対して日本では、完全に商売化していて、流行を追いかけて売れる犬種を大量に「生産」して高く売る、というブリーダーが多いのが問題。

B幼齢動物の販売規制

 日本:適切な期間、との法律の記載となっており、60日未満の子犬を販売するケースが多い。

 英国:8週までは母犬と離してはいけないという規制があり、子犬、母犬、両方の健康を考えた制度となっている。これは科学的に裏付けられた規制である。

 一方、ペットを買う側の意識やモラルの低下も著しい。ある自治体のペット回収車の取材映像が流れる。自治体からの委託を受けた業者が市民が連れてくる犬や猫を回収している様子が映っている。持ち込む市民の声「子供も育てなければならないし。どっちが大事なの」「仕事がなくて就職も出来ず生活が大変」といった声。全国では毎年10万匹の犬が殺処分されている。

 次に、自治体の取り組み事例として熊本市が紹介される。7年間に渡り買い主の意識改革に取り組んで、保健所(動物保護センター)に持ち込む人にガス室処分の現場を見せたり、説得したりして努力してきた話を紹介。その結果、殺処分数が1/10まで減少したとのこと。

 ・ねばり強く説得する(飼い続けることが大切)
 ・処分を前提にしか引き取らない。
 ・ガス処分に立ち会わせ、モラルにうったえる。
 ・新しい飼い主をネットなどを通じて探す。
 ・新しい飼い主にもガス室処分のビデオなどを見せて飼い続けること
  を指導。
 ・動物はしなものとは違って返品は効かないことをうったえる。など

 最後に大阪府能勢町のNPO、アニマルシェルター(代表 エリザベス・オリバーさん)を紹介。引き取り手のいない犬(飼育放棄された犬)を保護し、里親に出す活動を続けている。老犬は子犬と違いおとなしく、飼いやすいため初めての人には子犬よりもよいとのこと。そこから10歳の老犬をもらい受けた市民が老犬との暮らしている様子を紹介。「おだやかで老犬はとても飼いやすく、双方にとってメリットがある」とのこと。

エピローグ

 熊本市のような取り組み、飼い主、市民へのPRは重要。またNPOの取り組みは犬は子犬だけでなく、またペットショップから購入するのではなく、保護された老犬を飼うということもひとつの選択肢として提示しているのが重要と指摘。

 何と言っても動物を飼う側のモラル・意識の向上が不可欠。だが、それを支える仕組み、制度が重要である。動物愛護法の改正の際にはNPOが指摘した項目が十分に反映されず、具体的な規制が盛り込まれなかった。今後の改正により、取り締まりが可能な具体的な規制の内容が盛り込まれる必要がある。また、業者は情報公開、透明化に務めていく必要があり、NPO団体は多くがボランティアに支えられているので、これを支援する仕組みも不可欠。

 行政・業者・飼い主・NPOの四者がうまく連携していけるような仕組み作りが必要だろう。それによって日本にもよりよい動物愛護の習慣、文化を根付かせていく必要がある。

以上 (文責:池田)