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世田谷清掃工場対策

状況説明会に参加して


池田こみち
環境総合研究所顧問
環境行政改革フォーラム副代表
掲載月日:2015年12月11日
 独立系メディア E−wave Tokyo  無断転載禁



 師走に入って慌ただしい時期ではあるが、2015年12月11日(金)午後2時から開催された標記の説明会に参加した。場所は、東京都立砧公園の隣にある世田谷工場の3F会議室、普段は、工場見学に訪れる区民や子供たちに説明を行う場所である。なお説明会は、同日夜6時半からと12日(土)午後2時からの合計3回行う予定となっていた。

写真:世田谷清掃工場外観

出典:清掃一組 Webサイトより


【世田谷工場で何が起きていたか】

 まず、今回は何のための説明会かについて、説明する必要がある。遡ること1年余り前の平成26年11月、清掃工場の室内環境(焼却炉があるエリア)のダイオキシン類濃度が、異常に高濃度※となっていることが判明し、急遽、清掃工場を停止して点検を行う事になったことに端を発している。

 その後、今日の説明会で配付された資料にあるように、一年間、ほとんどまともに稼動していない状態が続いていたのだ。この間、二十三区清掃一部事務組合(以後、清掃一組と略称する)のホームページでは、以下の様に合計7回、経過報告が発表されたが、今回のように地域住民を対象とした説明会は一切行われてこなかった。

 周辺は都立砧公園、世田谷区美術館などもあり、住宅も密集している地域である。多くの区民、近隣住民がこうした実態を知らないまま一年余りが過ぎたことは看過できない重大な問題と言える。

※作業環境のダイオキシン類が高濃度とは;

 労働安全衛生規則第592条の2に定められており、焼却炉の運転等の作業に従事する労働者のダイオキシン類への曝露を防止するため濃度に応じて使用すべき防護具(マスクや作業服等)を定めることとなっている。今回の世田谷のケースでは、それが最もレベルの高い、防護が必要な「第3管理区域」となったことが発端となっている。

 これまでの経過を報告している二十三区清掃一部事務組合のWebサイトの関連ページ

これまでの経過
平成27年11月4日世田谷清掃工場の試験焼却状況(1号炉)について(PDF:84KB)
平成27年9月18日世田谷清掃工場の現状と今後の対応について(PDF:567KB)
平成27年3月11日世田谷清掃工場の今後の対応について(PDF:195KB)
平成27年2月13日世田谷清掃工場の作業環境測定結果について(PDF:224KB)
平成26年12月25日世田谷清掃工場の再稼働について(PDF:130KB)
平成26年12月11日世田谷清掃工場焼却炉停止に伴う大気環境測定結果について(PDF:73KB)
平成26年11月20日世田谷清掃工場焼却炉の停止について(PDF:168KB)

出典:http://www.union.tokyo23-seisou.lg.jp/shisetsu/oshirase/roteishi.html

【説明会の様子】

 説明会の行われた世田谷清掃工場は、東急田園都市線の用賀駅から徒歩20分以上かかる不便な場所であること、天候が荒れ模様であったこと、ウィークデーの昼間であったことなどが影響し、私が説明会会場に到着した午後1時50分の段階では10人に満たない参加者だったが、その後少しずつ増えて、最終的には20名余りとなっていた。区民以外に、清掃一組や世田谷区の職員らしきスーツ姿の男性が多数、最後部の席に陣取っていた。

 冒頭、念のため、受付職員に、会場の撮影と録音について確認したところ、「撮影も録音もご遠慮頂きたい」とのことだったので、「本来、この説明会を生でストリーミングして流すくらいのサービスを行ってもよい筈であり、説明会に来られる方に見て頂くためにも録音は必須である」と食い下がり、ようやく録音は認められることになった。

 以下の式次第にあるように、この問題についての初めての区民への説明会であるにも拘わらず、最初から質疑応答のための時間は短く、施設見学を含めて全体で僅か1時間45分の予定となっていた。結局、質疑の時間は予定より大幅に長引いて、16:25頃に説明会は終了した。

説明会次第 
1.開会      14:00
2.挨拶 工場長 
3.説明 副工場長 14:10〜14:40
4.質疑      14:40〜15:10
  休憩      15:10〜15:15
5.施設見学   15:15〜15:35
6.質疑      15:35〜15:45

 議事次第と配付資料、配付資料(pdf)


【一組側の出席者】

 会議室の左前面に机を並べ、以下の6名が陣取り説明と質疑応答への対応を行った。
 
 (以下 清掃一組職員、敬称略)
・司会:田中(世田谷清掃工場 技術係長)
 ・大塚(清掃一組 施設管理部 技術部長)・・・質疑への対応
 ・塚越(同     技術課長)・・・質疑への対応
 ・加藤(同     施設課長)・・・質疑への対応
 ・南 (同      延命化担当課長)・・・質疑への対応   
 ・細江(同 工場長)          ・・・開会の挨拶と質疑への対応
 ・石原(世田谷清掃工場 副工場長)   ・・・パワーポイントを使っての説明


【世田谷工場長 挨拶】 録音あり

 細江工場長からは、この間、この問題について、十分な情報提供が行われなかったことについてお詫びの言葉があった。

【世田谷清掃工場対策状況の説明:パワーポイント】PDF、録音あり30分

 明らかになったことは以下の点である。

@室内環境が第3管理区域であることが判明した平成26年11月以降、対策工事と試験運転が繰り返し行われており、この間の通常稼動期間は、一号炉が僅か10日ほど、2号炉は1ヶ月少々となっていた。

Aその間、本来、世田谷工場に搬入される筈の世田谷区内の可燃ごみは、同じ世田谷区内の千歳工場と、目黒区内の目黒清掃工場、大田区内の多摩川清掃工場、港区内の港清掃工場に運ばれていた。

B平成20年に本格稼働したばかりの23区内では新しい清掃工場であるにもかかわらず、開設以来の作業環境測定結果一覧を見ると、平成21年度の時点から第2管理区域となっており、平成23年度には2箇所の測定エリアで第3管理区域が出ていた。

C周辺環境大気については、平成26年11月の測定や、過去の値と比較して問題が無い(影響がない)と考えている。

D流動床式ガス化溶融炉は、他の清掃工場が採用しているストーカー炉と異なり、プラントの構造が複雑で温度管理も難しく、ダイオキシンが発生しやすい炉である。

Eダイオキシンの漏洩箇所はこの間の調査で6箇所判明し、溶接や囲い込みなどの対策工事が行われていた。

F現在、対策工事と試験焼却が終了し、1号炉は通常稼動となっている。また、2号炉については、引き続き試験稼動を行っている状態であるが、清掃一組としては早急に対策工事を完了し、2号炉も通常稼動を再開したい意向を持っている。

 30分間の説明が終わった後、質疑応答が行われた。次々と質問の手が上がり、予定された30分の質問時間では到底足りず、施設見学後にも行われたが、16:20で質問が打ち切られ終了となった。

 以下、筆者が行った質問への回答を中心に質疑の模様をとりまとめた。

1.作業員の健康影響チェックについて

 平成26年10月10日にサンプリング、11月19日報告のダイオキシン類濃度が室内2箇所で6.5pg-TEQ/m3と5.8pg-TEQ/m3、と極めて高くて停止している。作業環境の測定頻度は年に2回とのことだが、測定されていない期間がどうなっているのか不明である。また、その後修理して再稼働しても再び上昇している事から見て、以前にも高かった可能性がある。この事件後に作業員の健康チェックや血中ダイオキシン濃度の測定は行っているのか。

回答:平成27年2月始めに職員56名の血中ダイオキシン類濃度の測定を行っている。測定会社はイデア(株)である。その結果、今回の室内環境濃度の上昇に伴う影響がないことが判明した。国が測定した平成14年度〜22年度の一般人(日本人)の年齢別血中ダイオキシン類濃度をグラフにプロットしたもの(縦軸に血中濃度、横軸に年齢)と比較しても低い濃度となっていた。全体で2264名の測定結果と比較しても職員の測定結果は低いところに分布している。

池田:過去の日本人の血中ダイオキシン類濃度と比較しても意味がなく、職員の血中濃度について、この事件の前の値との比較などを行ってみなければ影響があったかなかったかの判断は出来ないのではないか。


2.周辺大気中ダイオキシン類濃度についてのコメント

 室内環境が悪化したことに関連し、清掃工場の周辺の大気中への影響について説明があったが、これについて質問したい。資料によると、平成26年10月にサンプリングを行って室内環境のダイオキシン類濃度が高濃度だったことは、11月に結果が報告されて明らかになっている。それに対して、周辺大気については、その後11月20日から1週間サンプリングし、工場棟屋上で大気中ダイオキシン類の測定を1回だけ行い、0.042pg-TEQ/m3だったので問題ないとしている。

 また、過去3年の周辺大気の測定結果を示して比較し、低かったので問題ないと結論づけているが、そもそも、室内大気の測定のためのサンプリングが行われたのは10月10日なのに、一ヶ月後に周辺大気を採取して測定しても意味が無い。また、周辺大気のダイオキシン類濃度は気象条件等によって大きく異なるため、年一回程度の測定結果と比較して周辺には影響がないと言い切れるのか。安易に断定すべきではない。


3.一連の問題についての情報発信(リリース)、報告や説明はどのように行われたのか。

 工場長が冒頭の挨拶で反省の言を述べられたが、今回の一連のことについての情報提供や報告、説明などは非常にお粗末なものとなっている。世田谷区では2億円の補正予算を組むことになっているが、一組議会や各区議会等への説明はどのように行われたのか。

回答:一組議会は各区議会の議長が議員として参加して頂いており、説明を行ったところ、世田谷区議会議長や周辺区の議長からも厳しくおしかりを受けている。


4.原因究明の体制について

 今後設置する検討委員会の構成メンバーは、清掃一組職員と区の部長クラスで合計9名とのことだが、それでは、内輪ばかりでしっかりとした原因究明や対策の検討ができるかどうか疑問である。原因究明や今後の対策の検討に際して、第三者の専門家が関与するという考えはないのか。

回答:今回の件はかなり専門性が高いのと、対策の検討は急いでいるため、今回は清掃一組と区の部長クラスの9名としたが、今後検討が進んで必要があれば外部の専門家の参加をお願いする可能性はある。


5.今後について

 23区のごみは減少し続けている。このような不安定で弥縫策での対応を続けるより、こうした炉は廃炉にするという選択はないのか。

回答:今後も清掃一組では現状の20工場を維持していくことが安定的なごみ処理にとって必要と考えている。もちろん、ごみ減量が進み、全体の見直しが行われれば規模の縮小や閉鎖もあり得るが。


6.その他 海外視察の受入について

 事故前ではあるが、2014年7月にマレーシアからの視察を受け入れている。このような事故の多発している工場について、何を視察して頂いているのか。

回答:焼却炉などのハードを売り込むということではなく、あくまでも区民の分別についての取り組みや合意形成について清掃一組の取り組みを紹介している。

池田:この問題でもすでに清掃一組の情報提供や説明、報告のあり方について参加している区民から多数批判や怒りの声がでているのに、清掃一組が途上国にそのようなことを説明したり情報提供する資格があるのか。

回答:ご指摘の点は反省している。


●その他の参加者からの質問の主なもの

7.一連の対応に際しての費用負担について

 設備の問題が原因とされた部分については、川崎重工が負担していると聞いているが、
今回の件で、かなりのコストがかかったとのことだが全部でいくらかかっているのか。
また収集運搬費は世田谷区のごみを他の清掃工場に運搬するためのコストが総額で2億円近くかかったとのことだが、中間処理は23区共同で行うのに対して、今回のようなトラブルで停止した際の収集運搬費の負担がすべて世田谷区というのは問題ではないか。

回答:それについては、現状、収集運搬は区の仕事となっているので世田谷区の負担となったが、清掃工場がトラブルで停止期間中の負担についてはシステムが決まっていないので今後の課題である。

 今回のトラブルに関する工場の修理補修などについては、平成23年度のときから川崎重工が費用負担している。それ以外のオーバーホールなど定期点検、補修費用としては、平成26年度までに総額で19億円がかかっている。その他の工場でも毎回の補修に平均で2〜5億円がかかっている。


8.責任について

 ガス化溶融炉は他の工場のストーカー炉と比べて構造が複雑で温度管理も難しく壊れやすい様に思う。なぜこのような炉を選んだのか。その責任にもあるのではないか。世田谷工場の建設の際に、ガス化用溶融炉にすればダイオキシンは出ないと説明されたが、こんなに問題がおきているのはどういうことなのか。

回答:通常のストーカー炉は永年の実績がありコントロールしやすいが、ガス化溶融炉は歴史も短くトラブルが起きやすい。全国の他地域のガス化溶融炉についても調査したが同様のトラブルを経験し既に克服しているということなので、今後は対策を行って行けば問題ないと考えている。

9.ごみの減量化や分別の徹底について

 横浜市ではごみ量を大幅に削減し清掃工場を2箇所も閉鎖している。

 清掃一組は正客を適切に行うためにはごみの減量化や分別をしっかり行うということをまず重視してやるべきではないのか。

回答:水銀対策のためにも分別の徹底をお願いし、改善してきているので今後もそのようなお願いはしていきたい。

 その他にもいろいろな質問が出たが、今回の説明会では、清掃一組側が情報提供等についてその不十分さを認めたものの、本質的な問題について、参加者や区民が納得のいく説明が行われたとは到底思えないものだった。

 23区民の清掃工場に対する関心が低いことが大きな課題だが、なんといっても他の自治体にはない、23区独特の仕組み(収集運搬は区、中間処理は清掃一組、最終処分は東京都)を抜本的に見直さない限り、区民の貴重な税金は今後も焼却炉の建設と維持管理にばかり費やされ、組織温存のための弥縫策が繰り返されることになることを強く感じた。

 最新鋭をうたい文句に建設した清掃工場が一年余りも稼動を停止し、そのために数億円の費用負担が発生しているにも拘わらず、だれもまともに責任を取らない体制、組織のあり方こそ、見直すべきである。


 以下、施設見学中の写真 撮影:池田こみち 

@ごみピットをのぞき込む参加者たち


撮影:池田こみち Nikon Coolpix S6400


Aごみピット 上部の排気管を補修したとのこと。


撮影:池田こみち Nikon Coolpix S6400


B排ガスの漏れていた部分を囲い込みしている現場


撮影:池田こみち Nikon Coolpix S6400


C中央制御室を視察する参加者、生活者ネットの世田谷区議も


撮影:池田こみち Nikon Coolpix S6400


 以下質疑応答の概要です。

◆池田こみち:世田谷清掃工場説明会における質疑応答概要