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旧嘉手納基地返還跡地
のサッカー場から
高濃度のダイオキシン検出


池田こみち(環境総合研究所)
掲載月日:2013年8月2日
 独立系メディア E−wave


 2013年6月、沖縄県沖縄市諸見里のサッカー場整備工事の現場から多数のドラム缶が発見されたことは既報の通りである。

 ◆池田こみち:基地返還跡地で繰り返される化学物質汚染問題
 http://eritokyo.jp/independent/ikeda-col1239...html

 このほど、掘り出されたドラム缶付着物やドラム缶周辺土壌等の分析調査の結果が発表された。調査は7月に入り早々に着手され、ほぼ一ヶ月後7月末に結果がとりまとめられた。沖縄市、沖縄県、沖縄防衛局の三者が次のような役割分担の下で調査を行った。

 まず、沖縄防衛局が問題のドラム缶についてその付着物22検体と周辺にしみ出した水1検体、さらに、埋設土壌、掘り出した土壌(仮置土)各1検体について@ダイオキシン類、A土壌汚染対策法に定める指定項目、B油分・油臭、CPCB、C枯れ葉剤成分である2,4-Dと2,4,5-Tについて調査を行った。

 それに対して、沖縄県は、周辺環境調査として、嘉手納基地内地下水、大道川河口沖底質、サッカー場排水について、調査を行った。

 一方、地元、沖縄市は、早い段階からの市民グループや市議などからの圧力もあり、沖縄防衛局と同じ内容の調査をクロスチェック的に行うこととなった。しかも結果の評価について、第三者機関である愛媛大学の本田克久教授に依頼したのである。

 これは、極めて異例であり、画期的なことと言える。一般的には市・県・国が一丸となって保身的な対応に走るのが常であるが、ここでは、先のブログでも紹介したように、地元のNGO(沖縄・生物多様性市民ネットワーク・ディレクター 河村雅美さん)や市議などが早期の段階から「調査計画段階からの市民参加と第三者の関与」を強く求めたことを受けて市長が英断を下した結果、こうした行政相互のクロスチェックが実現したものと思われる。沖縄市は市民の健康と財産を守る立場から、最も市民の立場に立った、市民に寄り添った行政を進めるべきであり、その点から今回の調査への対応は高く評価出来る。

★地元NGO「沖縄・生物多様性市民ネットワーク」(ディレクター 河村雅美さん)がとりまとめた関連情報サイト
  調査まとめ:http://okinawabd.ti-da.net/e5132833.html
  防衛局調査記事まとめ1:http://okinawabd.ti-da.net/e5132338.html
    同    まとめ2:http://okinawabd.ti-da.net/e5132438.html

 ここでは、まず、防衛省沖縄防衛局と沖縄市が行ったドラム缶付着物の分析結果について示す。


図1 ドラム缶付着物のダイオキシン類濃度比較

 図より明らかなように、ダイオキシン類は全22検体すべてから検出され、沖縄防衛局のサンプルについては、1000pg-TEQ/gを超えるものが2検体あったが、沖縄市のサンプルでは、最高値が8400pg-TEQ/gと土壌の環境基準を8.4倍も上回る高濃度のダイオキシンが検出された。

 日本の土壌ダイオキシン類の環境基準は1000pg-TEQ/gであるが、ドイツ連邦土壌保護法では、子どもの遊び場については、100pg-TEQ/g以下と定められており、それを当てはめた場合、20検体が遊び場としては不適切な高濃度のダイオキシン類に汚染されていることが判明した。

 両者の調査による分析結果の違いは、サンプリングを行った場所(ドラム缶のどの場所から付着物を採取したか)による違いであり、採取場所によって大きな差があることがわかった。すなわち、場所によってはさらに高濃度のダイオキシンが検出される可能性もあるということに他ならない。

 次に、枯葉剤の成分とされる2つの化合物のうち、2,4-Dは全検体で不検出(定量下限値未満)であったが、もうひとつの2,4,5-Tについては、多くの検体で検出されている。両者の結果を比較したのが図2である。


図2 ドラム缶付着物の2,4,5-T分析結果比較

 図1と図2を見比べると、一部の検体では、ダイオキシン類と2,4,5-Tがいずれも高濃度となっているものもあり、両者の相関が見て取れる。

 また、沖縄市の分析結果を評価した愛媛大学の報告を見ると、ダイオキシン類のうち、PCDD(ポリ塩化ジベンゾパラダイオキシン)とPCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)の同族体及び異性体を評価したところ、同族体では、全体として8塩化ダイオキシン(OCDD)の割合が高いが、一方、異性体についてみると、最も毒性が高い2,3,7,8-T4CDDがダイオキシン類の毒性等量濃度の7割を占めるものもあるとの指摘があり、まとめとして、「枯葉剤の種類の特定には至っていないが、2,4,5-Tを含む枯葉剤及びその他の除草剤PCPに由来したダイオキシン類とその他の有害物質(PCBや金属類)による複合汚染であると言える」、としている。

 これに対して、沖縄防衛局は、筆者が問い合わせたところ、報告書の概要版を公表したものの、ダイオキシン類の同族体、異性体の分析に必要な詳細データは閲覧のみで、開示請求が必要であるという。現在のところ、当局の見解は、「高濃度のダイオキシンが検出されているものの、2,4-Dがすべての検体で不検出であることから、農薬類PCP(ペンタクロロフェノールを主成分とする除草剤)によるものと考えられる」とし、「枯葉剤の存在については断定できない」との主張を繰り返している。

 なお、ドラム缶が埋設されていた場所にしみ出していた水試料についても両者ともダイオキシンを分析した。その結果、沖縄防衛局の調査では28pg-TEQ/Lであったが、沖縄市の調査では280pg-TEQ/Lが検出されている。水試料としては、環境基準の280倍の濃度に当たる。

 そのほか、ドラム缶付着物には高濃度の油分(TPH:Total Petroleum Hydrocarbon)が検出されている。TPHについては、環境基準が設定されていないため両者とも評価を避けているが、TPHに関する規制が進んでいるアメリカやカナダなどでは、州によって異なるものの、100mg/kgを超えた場合には、何らかの対策を講じる必要があるなどの基準を定めている。

 以下に、TPHの分析結果を示す。


図3 ドラム缶付着物のTPH分析値の比較(単位:mg/kg)
(注 表中の太字は1000mg/kgを超えたもの)

 その他の分析結果についてのコメントは別の機会に譲るが、これらの調査結果から、沖縄市がサッカー場として整備しようとした土地から高濃度のダイオキシン類やTPH類、PCB、農薬残留物などが検出されたことから、敷地全体の汚染実態を把握するために、より詳細な調査を行う必要があることを示していることは明らかである。

 今回は図らずも同じ試料について、防衛省沖縄防衛局(国)と沖縄市が調査を行うこととなり貴重な予備調査となったわけだが、今後は、表層土壌の汚染状況に加えて、ドラム缶が埋設されていた周辺だけでなく、地中全体への汚染の影響を立体的に把握する必要がある。

 すでに現地では風評被害の影響が心配されているが、そうした被害が生じないようにするためにも、第三者の関与と市民への徹底した情報開示、提供はもとより、市民の参加を得て調査の方法や計画を立案していくことが望ましい。なによりも市民の信頼を得るために市民参加と透明性の高い手続きが不可欠である。