エントランスへはここをクリック   


インドネシアからの研修生への
講義と視察アテンド記

池田こみち(環境総合研究所 顧問)

掲載月日:2013年9月27日
 独立系メディア E−wave
無断転載禁


 環境総合研究所(ERI,Tokyo)では、毎年、テンプル大学とインドネシアの国家開発企画庁 (BAPPENAS)で共催するGreen Economyをテーマとする短期研修のお手伝いをしています。

 今年も、9月16日から約2週間、25名の研修生がインドネシア各地から東京のテンプル大学日本キャンパスでの講義と現地見学に参加されました。私は、25日と26日の二日にわたり、講義と現地視察に同行し通訳を行いました。

 私が担当したカリキュラム(講義のテーマと訪問先)は以下の通りです。

◆25日(水)9:00〜12:00 
    Waste Management and Pollution
    Zero Waste Policy in Nova Scotia, Canada
    Citizen Participatory Environmental Monitoring
    13:30〜16:30 港資源化センター 見学(港区環境リサイクル支援部)
       港清掃工場 見学 (東京23区清掃一部事務組合)

◆26日(木)09:30〜11:30
     東京都中央防波堤沖最終埋立処分場 見学
      (財団法人 東京都環境公社)
     13:30〜17:00 Environmental Impact Assessment in
     Japan & Environmental Planning

  研修生はいずれも国や地方自治体の職員、大学や研究機関に所属する講師や研究者の皆さんで年齢の幅は32歳から62歳、25名中7名が女性でした。


講義中の筆者

 いずれも実務経験者だけに、講義も熱心に聞いていただけますし、質問も具体的かつ鋭いものとなっておりやりがいのある仕事です。

 特に、私が担当するテーマは、なかなか国公立研究所や大学の先生方にはお話しいただけない、日本の廃棄物政策の現状と問題点なので、講義の後に都内の先進的な清掃工場の見学を行っていただくと、その実態をよりよく理解していただけます。23区内では、ごみは大幅に減っているにもかかわらず、清掃工場は21、炉は40以上稼働しており、主要な固定発生源となっています。(現在は、練馬工場と杉並工場が更新中のため19工場が稼働中)


 図1 23区内清掃工場位置図

 インドネシアは人口は日本の2倍ほどの2億4千万人で、廃棄物も量も人口の増加に伴ってまだまだ増加傾向にあり、適正な廃棄物処理が大きな課題となっています。現状では、野焼きや直接埋立が主流で各地で大気汚染や衛生面からも問題を抱えています。とはいえ、日本のような1施設数百億円もかかる高度な焼却炉やガス化溶融炉の導入は困難です。ハードに依存する前に何をしなければいけないか、日本の実態から学んでいただくことが大切だと思います。

 二日目には東京都23区の唯一の廃棄物最終処分場である中央防波堤沖最終埋立処分場を見学しました。

 場所は、まさに東京湾臨海部の中央に位置し、2020年の東京オリンピックでは埋立が終了した中央防波堤内側埋立地に馬術と自転車の競技場が整備され、すぐ前の水路ではボート競技が行われる予定となっています。


 図2 処分場の写真と位置

 処分場内部の見学は3.11の東日本大震災以降、災害廃棄物の受入もあったことから閉鎖されていましたが、ようやく再開されることとなり、私たち一行は10月1日からの再開に先駆けて特別に見学することが出来ました。

◆中央防波堤沖最終埋立処分場の概要
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/resource/attachement/24umetate.pdf

 中央防波堤沖最終埋立処分場の維持管理費は年間約50億円となっています。そのうちの約半分24億円が浸出水の処理費で、海面埋立処分場はいかにコストがかかるかがわかります。この処分場は今後50年使用が可能となっていますが、その後は処分場の目処が無く、23区のごみ処理に大きな影を落としています。プラスチック類も混合焼却されるようになり、直接埋立は大きく減少し、専ら焼却残渣(主灰と飛灰)とわずかな不燃ごみが埋め立てられているのですが、埋立処分場の延命化には今後は焼却を止めていく以外になりません。(現在、燃やしているごみの多くが生ごみや選定ごみで、これらは有機物として資源化が可能です。)

 溶融してスラグを作っても値段は高く、民間での利用が限られるため、公共事業の道路整備や歩道整備、公園整備などでわずかに使われるだけで大半は処分場内の一角に設けられたスラグ置き場に積み上げられ、最終的には埋立られているのです。


 写真1  メタンガス回収のためのパイプ  

 処分場内の至る所にメタンガスを抜くためのパイプが立っています。底の方には、焼却されないごみも多く埋め立てられているため今でもガスが出続けているのです。メタンガスは全体の10%程度しか利用されておらず、ほとんどは大気中に放出されており、温暖化を加速させています。

 最終処分場は、最も高いところで海面から30mの高さにまで埋立が行わており、そこに立つと、横浜みなとみらいの高層ビルから東京湾横断道路、千葉方面の工業地帯、レインボーブリッジ、ゲートブリッジなど360度が見渡せるビューポイントとなっています。
 最後はそこで記念撮影を行いました。


 写真3 メタンガス抜きのためのパイプ

 午後の講義はアセスメントと環境計画でしたが、インドネシアのアセスメントは日本より市民参加が充実しているようでした。講義では、これまでにERIが市民から依頼されて行ってきた様々な代替アセスメントについてお話ししました。

 一方、計画はなかなか予算の確保と人材の確保が難しく計画の推進
(Implementation)に課題があるとのことでした。絵に描いた餅となりがちなのが計画の常ではあります。私たちが 30年前から取り組んできた市町村レベルでの環境基本計画や環境管理計画の策定プロセス、調査手法などについてお話ししました。特に、計画立案の前に行う調査、情報収集やデータ解析、総合評価がいかに重要かについて、成田市や浜松市など私が手がけた計画を例にお話しました。計画が説得力のあるものとなるためには、欠かせない部分です。


 写真4 処分場での集合写真

 なお、BAPPENUSはインドネシア政府の国家開発企画庁であり、国レベルから自治体レベルに至る空間開発計画を所管している部署です。開発計画の前に、まずは環境計画がトッププライオリティとして策定されていることが重要であるという認識で一致しましたが、果たして、現実はどうなのでしょうか。機会があったら、是非現場を訪ねてみたいと思います。