エントランスへはここをクリック   

  
豊洲移転はもはや絶望的

Toyosu relocation is no longer hopeless

池田こみち
Komichi Ikeda
掲載月日:2017年1月14日
 独立系メディア E−wave Tokyo  
無断転載禁



空撮でみた豊洲市場 出典:朝日新聞社

 今日2017年1月14日、土曜日にも拘わらず、築地市場の豊洲への移転を最終的に判断する材料としていた、第9回の地下水のモニタリング結果が公表され、東京都の専門家会議(座長=平田健正・放送大和歌山学習センター所長)の場に提出された。

 東京都の発表によると、市場の敷地内201カ所で地下水1リットルあたりの濃度を観測した結果、ベンゼン(環境基準は0.01ミリグラム)は35カ所で最大0.79ミリグラム、ヒ素(同)は20カ所で同0・038ミリグラム、シアン(環境基準は不検出)は39カ所で同1.2ミリグラムをそれぞれ検出したという。

 中でも、日本の水質環境基準に照らせば、ベンゼンで79倍と大幅に超過した点が見逃せない。ベンゼンの水質基準について国際的に比較してみると、以下の通りである。国際的に見ても甘い日本の基準値の79倍ということなので、さらに厳しい米国環境保護庁やEU指令を当てはめれば、それぞれ158倍、790倍ということになる。

ベンゼンの水質基準の国際比較

 WHO(世界保健機構)ガイドライン     0.01mg/L
 USEPA(米国環境保護庁)飲料水基準  0.005mg/L
 EU指令                      0.001mg/L
 日本の水質基準(地下水環境基準)     0.01mg/L

 出典:水質基準の国際比較(その3:化学物質、その他) 厚生労働省資料
     http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/11/s1108-5g.html

 なお、WHOの現在の事務局長は中国(香港)の陳馮富珍(マーガレット・チャン)である。

 猛毒のシアンについては、日本の環境基準では「不検出」すなわち、検出されてはいけないこととなっているが、今回最大1.2mg/Lが検出されていることも無視できない。ヒ素については、環境基準が0.01mg/Lのところ、最大0.038mg/Lが検出されており、3.8倍となっている。

 専門家会議の結論はまだ明らかにされていないが、小池都知事は、同日開催中の自らの主宰する政治塾の挨拶で、次のように述べている。「数値は、かなり疑義があると承知している。もう一度、調査をしようということになるかもしれず、専門家会議に任せたいと思う」と。

 この問題を当初から見てきた第三者として第9回のモニタリング調査で「分析結果はいずれも低く、豊洲移転問題なし」というような結果が出るとは到底思えなかったが案の定の結果となり、最後とされていたモニタリング結果が一層この問題の深刻さを改めて浮き彫りにした感は否めない。多くの第三者的な専門家や研究者は、むしろ、基準を超過する高い濃度が出て当然という予想をしていたのではないだろうか。

 それにもかかわらず、小池都知事は「結果に疑義」を表明しているが、これは大きな問題である。何を根拠に「疑義」というのか、分析機関や発注した東京都全体の信用に関わる大問題であり、軽々しく発言すべき言葉ではない。

 今回の数値が示していることは、委員の一部が指摘しているように、基準は超過していても「環境基準というものは、1日2リットルの地下水を70年飲み続けても健康に有害な影響がない濃度として設定されている」のだから、問題ないといった見解を示すとしたら大問題である。

 よりによって都内で最もベンゼンやその他の有害物質濃度が高いところで、生鮮食品の市場を新たに開業することが都民や消費者、ひいては今や国際的に有名となっている築地の今後を考えれば、海外に至るまでの一般の人々が受け入れるかどうかという問題である。

 環境基準という絶対評価だけをもってもしそのような判断がなされるのであれば、なんら調査の必要もなく委員会の必要もないことになると思うのは私だけではない筈だ。

 当初、市場建屋内の空気中のベンゼン濃度が発表された時点ですでに今回の事態が起こるであろうことは懸念されていたと思う。こうなった以上、何回調査を繰り返しても結果は同じである。たまたま基準値以下の低い値がでることもあれば、もっと高濃度の値がでることもある、というのが東京ガスの汚染跡地である。為政者の思い描く結論を裏付ける結果が出るまで調査をやるというのだろうか。それこそ税金の無駄で有り、都民の信頼を裏切る行為である。

 当初から東ガス跡地に存在した膨大な土壌汚染は、1000億円近い税金をつぎ込んで最新の技術を持ってしても食品市場を新設するに適した土地にすることは出来ないレベルだったことを思い知るべきである。この間投じられた税金と時間、人々の期待への裏切りについての責任をどうとるのか、当初から係わった知事、東京都職員らは、改めてその責任の大きさを思い知る必要がある。

 どれだけの人々の気持ちを傷つけ都民の貴重な税金を無駄にし、歴史と伝統ある築地の名誉を毀損したことか、都民はこの怒りはどこにぶつけたら良いのか、呆れるばかりである。