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どうする、広域ごみ処理
−広域ごみ処理と環境汚染−

池田こみち 環境総合研究所
 2010年1月30日
初出;独立系メディア
 
無断転載禁

 一般廃棄物の処理業務は、市町村の自治事務として久しい。しかし今やそれは、市町村の自立した主体性ある仕事ではなく、国の下請けであったり、あるいはコンサルタントやプラントメーカー言いなりの住民不在の施設造りと化していると言っても過言ではない。

 2009年4月、長野県の諏訪広域の湖周地域(下諏訪町・諏訪市・岡谷市)で問題となっている広域ごみ処理計画について、本コラムで紹介(以下)したが、一年後、問題は解決されるどころか、さらに行き詰まりを見せていた。

◆池田こみち:長野県に見る広域ごみ処理計画の行き詰まり
http://eritokyo.jp/independent/ikeda-col01002.htm
 3 April 2009 独立系メディア「今日のコラム」


岡谷で講演する池田こみち

 筆者らは、この数年、東京23区のごみ処理のあり方について、「廃プラ混合焼却」の是非をめぐって多くの市民グループとともに多面的な議論を行い問題提起を行ってきた。

 問題の根底には、東京23区のごみ処理が、収集運搬は23区、中間処理(主として焼却処理)は東京23区清掃一部事務組合、埋立は東京都という3層構造に分断され、総合的に責任を持つ主体がないという、組織体制上の問題があると主張してきた。

 どの段階の事業も税金を使って行われる公共事業であるにも拘わらず、コスト意識の低下や環境保全意識の低下、さらには住民不在の組織保身的な業務の推進ばかりが目立ちはじめているからである。

 本来、基礎自治体の自治事務であれば、各市町村や区の首長のもと、廃棄物の減量化、資源化の目標設定・方針・施策・事業に一貫性があり、市民参加の下で進められるのが当然の姿だが、東京23区にはそれがない。

 一方、地方においては、本来、市町村長のリーダーシップのもと、それぞれがが独自に行うべきごみ処理行政も焼却炉の広域大型化の流れのなかで国の補助金や交付金の交付条件などの制約もあり、次第に広域連合や一部事務組合などの特別地方公共団体が事業主体となって行われるケースが多くなっている。

 確かに、規模のメリットという観点から言えば、施設整備の事業の場合には、単独の市町村で行うよりも、広域・大型がメリットがある場合もある。しかし、とかく、行政の都合や仕事の進めやすさ、意向の反映しやすさなどから、広域連合や一部事務組合といった特別地方公共団体がごみ処理施設の広域化、高度化などを推進することはそろそろ見直す時期に来ている。

 隣接する複数の自治体が共同で事務等を処理することによるメリットがあるとは言え、民主的な意思決定手続きがないため、情報公開や市民参加もないまま巨額の施設整備計画や予算案を十数分で可決したり、コンサルタントまかせの施設整備計画をごり押しするケースが多く見られ、市民が置き去りになるばかりか、地域で混乱や紛争、分断などが起きやすいのも事実である。

 既に報告したように、湖周地域の2市1町においても、各自治体にある既存炉が老朽化していること、主として焼却灰を埋め立てている処分場の残余年数が少なくなってきたといった理由から新たな施設の検討が進められてきたが、2市1町の合意が得られず、何も決まらないまま時間が過ぎ、市民の間では、広域でのごみ処理が果たしてどれほど市民にとってメリットがありまた正しい選択なのかという疑問が改めて巻き起こっているという。

 住民からの質問に対して岡谷市長は、単独でやると広域で一部事務組合を設立して行う場合と比べて6〜7億円割高になる、と回答したようだが、ガス化溶融炉や焼却炉の建設コストや維持管理コストのことしか念頭にないようだ。ごみの中間処理の方式や技術の検討以前に、市民に示す廃棄物政策の将来ビジョンがないのだろうか。

 結果、人口の減少傾向に加えてごみの減量化、資源化も進み、当初案の規模の施設は見直しを余儀なくされ、国からの交付金をもらうために、「ごみ処理基本計画」を見直して、再度新ごみ処理施設の設置に向けた協議を始めているがまだ2市1町の合意は得られていない。



 循環型社会形成のための施設として、ごみ処理施設の処理方式(ガス化溶融か、灰溶融付きか、次世代型ストーカ炉か、炭化炉)の比較検討がメインの議論となっている今の状況は明らかに循環型社会形成にはほど遠いように思えてならない。

 どうやら、「循環型社会形成推進交付金」に問題があるのは間違いないところのようだ。予算規模では500億円にも迫る大きな額であり、総額2000億円ほどの環境省の予算の1/4を占めるほどであるという。国は地方自治、自立、などと言いながら、補助金に変わってあいかわらず施設整備に国の税金を「交付」し続け、自治体はそれに依存し続けているのである。

「循環型社会形成推進交付金」と言いながら、申請の多くはあいかわらず、清掃工場の新設、更新が多数を占めている。補助金から交付金に変わっても施設整備という箱物に巨額を投じて、結局、本来進めるべき「循環型社会形成」のための仕組み作りやルールづくりは進んでいない。補助対象には「計画立案」もあるにもかかわらず、本来の市民参加の計画立案はあまりないようだ。そうした国と自治体のもたれ合いの中で、メリットがあるのはプラントメーカーだけかもしれない。

 広域連合や一部事務組合で隣同士が巨大な清掃工場を競い合う時代はそろそろ終わりにするべきだ。前横浜市長の中田さんは、任期中に全量焼却から分別の徹底減量化に方向転換し、短期間にごみを40%削減することに成功し、住宅地に隣接する巨大清掃工場を二カ所も稼働停止を実現した。これはまさに首長のリーダーシップとそのもとでの職員の努力、市民の参加があったからに他ならない。

 自治体の首長と議会は改めて、本来の自治体の自治事務がどのような物であるべきなのか、広域連合や一部事務組合に逃げないで、市民とともに真剣に政策づくりに取り組んでもらいたい。

 湘南の葉山町町長はごみ処理の広域から抜けて、独自にゼロウエイスト路線を選び、動き出し、時間をかけて町民との合意形成、コミュニケーションを進めている。今後を注目していきたい。いつまでも巨大清掃工場や「次世代型」「先端型」の溶融炉や焼却炉に依存し続けるのは時代遅
れそのものだ。

葉山町のゼロ・ウェイストの取り組みについては、以下のURLをご覧下さい。
http://www.town.hayama.lg.jp/topics2/topics01.html

<講演関連記事>

出典:長野日報、2010年3月16日


出典:岡谷市民新聞、2010年3月16日