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GAIAからの新レポート:

アメリカにおける焼却炉の時代は

終わりつつある

翻訳:池田こみち Komichi Ikeda
環境総合研究所顧問
掲載月日:2019年5月23日
独立系メディア E−wave Tokyo
 無断転載禁


はじめに

 311以降、市民の関心はもっぱら放射能汚染に向いていて、身近な焼却炉やごみ問題からは関心が薄れて久しい。しかし昨今は、プラスチック問題で新たにごみ問題が国際的にも注目されつつある。

 そうした中、世界で最もごみの焼却処理が突出している日本(平成29年度のデータで一般廃棄物焼却施設の数は1120施設)においては、こともあろうか、環境省が産廃系プラスチックを自治体の焼却炉で処理して欲しいなどと言い始め、市民や自治体の困惑を招いている。

 日本における焼却炉のリスクは、今から20年ほどまえの所沢ダイオキシン類問題以降、法律が整備され、ダイオキシン対策が施されたことで「終焉」を迎えているが、果たしてそうだろうか。

 以下の報告は、青山・池田もアメリカ、サンフランシスコ支部を訪ねて議論をしたことがあるNPO、GAIA(Global Alliance for Incinerator Alternative)からメールで連絡があった「新しい報告書」の内容である。


カリフォルニア州バークレーにあるガイアの事務所にて
Photo: Komici with GAIA members in Berkeley
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S10 at GAIA office in Berkeley, California


カリフォルニア州バークレーにあるガイアの事務所にて
Photo: Neil Tangri, Leader of GAIA in Berkeley
撮影:青山貞一、Nikon CoolPix S10 at GAIA office in Berkeley, California

 アメリカで、市民は焼却炉とどう闘っているのか、アメリカのごみ処理の現状を伝える貴重なレポートとしてお読みいただきたい。タイトルは「アメリカにおける焼却炉の時代は終わりつつある」と、なかなか衝撃的なものである。

 現在、全米に73の焼却炉がありそのうちの8割がマイノリティー(貧困、カラードのコミュニティ)に設置されていて差別されているという環境正義の視点からの問題点も明らかにされている。日本でもひとたび焼却炉ができるとその周辺に次々迷惑施設が立地されるというケースはよく見かける。
 
 重要なことは日本のように、高度な技術で焼却するのが一番という考えはアメリカ人には毛頭ない、という点である。その背景には焼却炉周辺の人々の被害が顕在化していることと、もうひとつは、日本のように国が補助金を出す仕組みはなく、高額の焼却炉は自治体の財政を圧迫させ納税者の税金を無駄にするという納税者意識が高いことも重要なポイントである。

 GAIAとは、環境正義を主張し、焼却炉をなくして有害な化学物質のより少ない社会を築く運動を世界各地の人々と連携して続けている団体である。

◆GAIA:Who we are(GAIAとは)
GAIA is a worldwide alliance of more than 800 grassroots groups,
non-governmental organizations, and individuals in over 90 countries
whose ultimate vision is a just, toxic-free world without incineration.


◆新しい報告:アメリカにおける焼却炉の時代は終わりつつある
https://www.no-burn.org/failingincineratorsreport/
New Report: The Age of Incinerators in the U.S. is Ending


アメリカの一般廃棄物焼却炉の分布
衰退する産業(焼却炉業界を指す)

 本日、ニューヨークにできた新しい学校、ティシュマン環境デザインセンターは我々が長い間、間違いないと思っていたことを裏付ける発表を行った。それは、米国における廃棄物問題の危機的な状況について、最も責任が少ない、低所得者層コミュニティと有色人種のコミュニティが、自分の財布(懐)と健康の両面で、最も高額の負担を強いられることが余儀なくされることになると言うことである。

 この報告書は、米国に現在残っている73の焼却炉の概ね8割が、環境正義の面から問題となる地域に立地していることが初めて報告されたものである。そうした地域は既に焼却炉以外の他の産業の発生源により多大な影響を受けている地域であり、規制当局が排ガスの規制を設定することに失敗し、(工業系発生源と焼却炉の両方からの)累積的な影響を受けている地域なのだ。

 概ね全米で440万人が焼却炉からの汚染の影響を受けている。

 1980年代のはじめから今日までのアメリカの国内産業についての総合的研究の中で、報告書は焼却炉業界に対しては、老朽化し、コスト高で汚染をもたらす産業であり、経済面ばかりでなく、法的規制圧力や地域社会の(反対/抵抗)運動といった増大する圧力を受けている産業として、その姿を描いてる。彼らのビジネスモデルは、緩い規制と甘い取締り、経済的負担と人間の健康への負担を納税者に押しつけ、再生可能エネルギーに対する補助金への寄生、そして環境人種差別を促進すること当て込んだものと指摘されている。


イースト・ヤード・コミュニティの環境正義活動
写真は、Hannah Benet 氏提供
East Yard Communities for Environmental Justice.
Photo courtesy of Hannah Benet Photography

 この報告が非常に明確に指摘していることの1つは、政府の規制や取り締まりは、人々を焼却炉の汚染から守る上で十分機能していないということである。排出限度を設定する際には、汚染の累積的な影響を無視していること加えて、焼却炉から排出される物質の大部分は施設が自らが米国のEPAに報告することとなっているため、焼却炉の運転管理者はしばしば、焼却炉が最も汚染物質を排出するタイミングを避けて、最善の運転条件の時に測定をおこなったりしている。そのため、汚染物質の濃度は非常に低い値が継続的に測定されることになる。

 ごみの焼却は、汚染物質を排出し、それらの汚染物質はかりに非常に低濃度であっても、著しく人間の健康を阻害する。ボルティモアに生まれ育ったデスティニ・ワットフォードは、ボルティモアで地元コミュニティを労働組合と一緒に組織した人物であるが、彼は次のように述べている。

 「BRESCO焼却炉は、ボルチモア市の大気汚染の1/3を排出しており、喘息での入院やその他の健康影響について、5500万ドル分の責任を負っている」「私、私の家族、友人、そしてカーティス・ベイ(Curtis Bay)に住んでいる人はみんな、私たちが住んでいるこの場所のせいで、私たちの人生から10年が削り取られることになる予想している。私は、むしろ、肺がんかそれとも呼吸器系疾患で死ぬことになると思うが、喘息になる可能性も高い。」

 踏んだり蹴ったりだが、行政は法律違反への対応が遅く、歴史的により豊かで白人のコミュニティでの案件と比較して低所得で有色人種のコミュニティにある施設に対してより低い罰金を設定しがちである。 実際、焼却施設から報告された基準超過の多くは、州の規制機関による罰金を科されていない。何故、法律の執行機関/行政は焼却炉に「刑務所から自由に出られる」カードを提供するのか。

 住民の健康への脅威になることに加え、焼却炉は投資先としても好ましくない。アメリカでは、ごみを焼却してエネルギーを得るのは最も高く付くやり方であり、そのコストはしばしば公的資金やごみ処理費として市民の負担となっている。もし、その清掃工場がごみの持ち込み料や売電で十分な収入が得られなかった場合には赤字となり、納税者は窮地に追い込まれるかもしれない。

 焼却炉に投資した自治体(都市)は数百万ドルを失い、場合によっては倒産に追い込まれる。納税者は、自分の町の高くついた失敗のためにさらに負担しなければならなくなる。ペンシルバニア州のボルチモア、メリーランド、ハリスバーグ、ミシガン州のデトロイトのような都市は、みんな借金の支払いに直面し、焼却炉業界から訴訟を受け、町の財政安定性が脅かされることになる。

 業界は何十年にもわたり、地域社会に大きなダメージを引き起こしてきたが、コミュニティの活動家のお陰で、より厳しい規制ができ、市民の焼却炉の危険性に対する意識が高まり、町はごみの減量化に取り組むきっかけとなり、結果として、長い間破綻している業界を支えてきた状況が(今になって)ようやく変化しつつある。稼働中の焼却炉の耐用年数が切れる時期が近づくまでには、自治体との契約期間は満了し、こうした巨大な設備への依存をやめ、より持続可能な未来に向けて移行することになり、ごみを燃やすのではなく、一層ごみの減量化政策に重心を移すことになるだろう。

 「・・・私たちのコミュニティは苦境から立ち直り、そして、ゼロ・ウェイストやゼロ・エミッションといった解決策に継続的に取り組むことになるだろう」、


2017年4月の反焼却炉デモの様子
写真は Breathe Free Detroit(デトロイト呼吸の自由)提供
March against the incinerator, April 2017.
Photo courtesy of Breathe Free Detroit

 アメリカ全国の都市は、2000年以来、焼却炉が進歩の妨げになっていることを認識している。

 過去数年で少なくとも30以上の焼却炉が閉鎖している。ゼロ・ウェイストのためのインフラ整備は、埋め立てや焼却炉の建設と比較して、10倍もの多くの雇用を創出し、地域社会への強固な投資、そして私たちの惑星の未来を生み出す。

 カリフォルニア州ロングビーチの環境正義のためのイースト・ヤード・コミュニティでゼロ・ウェイスト・コミュニティの組織を立ち上げたホイットニー・アマヤは、次のように述べている。「町の役人や政府機関が何を考え、何を言おうと、埋め立てや焼却が廃棄物管理のために利用できる唯一の選択肢ではありません。私たちのコミュニティは、企業や政府機関が何世紀にもわたって踏みにじってきた土地との深いつながりと地域の関係に根ざした長年の伝統と慣行を持っています。(どんなに踏みにじられようと)私たちのコミュニティは回復力があり、ゼロ・ウェイストやゼロ・エミッションなどの解決策を求めて戦い続けます。」