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地方分権改革に適した
地方制度改革案@


川村 和之


掲載月日:2007年6月18日

無断転載禁



 ※本稿は、「独立系メディア」に投稿された政策提言です。
   編集委員が査読した結果、最初に投稿された全文を
   掲載した後、編集委員から随時疑問や課題を提起する
   ゼミナール形式とすることとしました。以下は、川村氏
   の第一回の政策提言全文です。


 5月30日、地方分権改革推進委員会は「地方分権改革推進にあたっての基本的な考え方」をとりまとめた。

 これにおいて、地方分権改革の目指すべき方向性を「分権型社会への転換」・「地方の活力を高め、強い地方を創出」・「地方の税財政基盤の確立」・「簡素で効率的な筋肉質の行財政システム」・「自己決定・自己責任・受益と負担の明確化により地方を主役に」の5項目に定義し、また、地方分権改革推進のための基本原則として、「基礎的自治体優先」・「明快、簡素・効率」・「自由と責任、自立と連帯」・「受益と負担の明確化」・「透明性の向上と住民本位」の5項目を明示した。

 それを効果的にできる方策として昨今よく挙げられるのが、「市町村合併」の推進と「道州制」の導入である。私は新しく地方制度を変えることに関しては賛成ではあるが、その制度案として「道州制」を導入することについては反対である。さらにいえば、「市町村合併」についても反対であるのだが。第一回は、その理由を説明し、改革案について簡単にまとめたものを紹介したい。

 まず反対する理由について個人的にいえば、平成の大合併における市町村合併の推進という施策は、その目的を充分に果たしていないと考えている。この市町村合併に関する目的として、地方分権の推進・高齢化社会への対応・多様化する住民ニーズへの対応・生活圏の広域化の対応・自治体経営での効率性の向上などが挙げられている。その中でも、地方分権の推進・生活圏の広域化の対応・自治体経営の効率化という意味では評価はできる。

 しかし、高齢化社会への対応や多様化する住民ニーズへの対応という意味ではかなり悪化したと思えてならず、過疎地域や小集落とかに住む人の行政に対する意見の確保や生活を守っているかという意味ではマイナスに働いている点が多い。

 6月5日に行われた地方分権改革推進委員会の席でも「面積と人口規模を大きくしたところで、基礎自治体としての体制強化になったとは言えるものではなく、また投票率の低下など市民の自治意識の低下にもなった」という旨の指摘が出ている通り、これは、市制や町村制が敷かれた明治期から、市町村合併が行われる度に役所・役場が置かれた地域(中心部)とそれ以外の地域と比べて地域の質の格差が生じ、市町村行政と地域住民との距離の拡大や行政サービスの低下などにより、地域が衰退したという事例が常に起きている。

 そうなると、地域の伝統文化の衰退をはじめ文化学的な研究に支障が生じることになるほか、税収入の減少、山林による自然科学的な機能低下、それによってもたらされる自然災害の発生、交通事故などによる現場状況の把握や応急処置に対する対応などから、地方自治体の運営や財政基盤などに悪影響をもたらすことになる。

 今回の平成の大合併では被合併市町村に「地域自治区」を任意で設立できるように対策を講じたものの、過疎地域や小集落とかに住む人の行政に対する意見の確保や生活を守ることができるような制度というわけでもなく、作るように強制する制度でないためこの事例が加速的に生じている。

 同様に今回の市町村合併によって、さまざまな弊害も見えてきた。例えば、住民が市町村合併を望んでも議会や首長が拒絶をするケース、または逆に住民が市町村合併を望んでいないにもかかわらず議会の議決で合併が決まるというケース、合併後の市町村の名称が歴史的な地名を軽視したものになるケース、県の面積に匹敵する巨大な市が誕生しているケース、合併対象の市町村の財政状況をみてその肩代わりを嫌い協議が頓挫するケースなどが代表的な例としてあげられる。

 そういう現象を踏まえた上で、市町村合併を進める政策、さらには基礎自治体としての市町村の役割は充分に果たした、これ以上は限界ではないかと考える。

 そして道州制の論議について、基本的に自治体の財政的な面や地域経済の活性化を主眼にした議論にしかなってない上に、都道府県合併という市町村合併を発展させた方向性でやろうとしている。これでは、上記の弊害や問題点が大きな形で出てくるだけであるし、「地方分権改革推進にあたっての基本的な考え方」にあるその理念にそぐわないことになる。

 また、ここで沖縄は一つの道州とすべきという議論がなされている。しかし、ただでさえ財政的に苦しい状況の沖縄県の現状や税源の委譲が行われるという確約があるとはいえ、現在の沖縄県の納税額の総計だけで「自立した行財政運営が行える」「地方自治が充実する」との目的が達成できるかと言えば、そうは思えない(財政難と言われる北海道についても同様)。

 また、導入した結果として行財政運営が沖縄県時代よりもよくなったと仮定した場合、他の46都道府県で道州と同じ財政権限や事務権限、特例などを持った場合でも好転することができると捉えることができ、道州制にする意味もないと言えるではないかと思う。

 しかしながら、地方自治体の財政状況や制度構造、これから予想される自治体の財政破綻の続出をどうにかして防いでいくことから考えて、新しく地方制度を変えていかなければならない状況にはあると思う。

 そこで、上記の市町村合併や道州制の導入に反対理由も踏まえ、そういうことを起こさない地域住民の生活の視点から立った新しい地方自治制度案を策定し提案していかなければならないわけである。

 そこで私は、地方に取り巻く背景を踏まえ、「地方分権改革推進にあたっての基本的な考え方」に基づいて、勝手ながら地域自治に重点をおき、地域格差を少しでも小さくすることができるような新しい地方自治制度案を考えてみた。

 その結果、道州制を導入するよりもスムーズに社会構造を変革できることや、基本的な考え方や方向性に則した効果が得られる事がわかった。本日はその基本的な部分を紹介して、結びとさせていただきたい。

・都道府県と市区町村を合併させ、普通地方公共団体を一本化する。
                      ↓


・自治会や町内会等に対して「地域自治区」を設けることができるようにし施設管理や行政相談など簡単な行政事務を行わせるようにする。

・地域自治区同士で広域的な政策が必要な場合に一部事務組合や広域連合を作ることができるようにし、都市型の行政にも集落ごとの行政にも実情によって柔軟に対応させていく。また、普通地方公共団体から権限を委譲させて事務をあたらせることもできるようにする。

・広域的な行政・政策を行う場合は、広域連合や一部事務組合を組織してそこに委任させる。また、国も広域連合に参画することができるようにする。

・地方公務員を減らし、減らした公務員を「地域自治区」の活動を補助する「行政アドバイザー」や、NPO・委託業務の会社の社員に移行させる。

・上記のことに際し、一般強制競争入札制度を導入し、警察・消防など指定したもの以外の行政事務であれば全ての業務に対して入札を義務付け、民間であれ自治体直営であれ広域連合等でやるものであれ、最も安いコストで入札したものがそのサービスを実施するようにさせる。

・もちろん、国・自治体・地域自治区・広域連合などはそれぞれに行政と税財政の基盤を確立し、それぞれに依存せず、相互の連携・連帯によって支えあうものとする。

つづく