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田中康夫知事の住民登録問題!?
 

青山 貞一


掲載日:2004.3.6


 長野県田中康夫知事の泰阜村(やすおか)への住民登録を巡り、泰阜村と長野市との間で確執が続いている。長野市の言い分は、田中知事の主たる居住地は、長野市内のマンションであるので、長野市に住民登録すべきである、というものである。

 一方、田中知事は、憲法第二十二条の「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」という条項を持ち出し、居住の自由を主張する。ではこの住民登録問題を地方自治法はどう規定しているか。

 下に地方自治法第2章における「住民」の規定を示す。地方自治法は第10条に市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする、とあり、それ以降の条項で権利と義務が規定されているものの、住民そのものについての些細な規定はない。要するに、市町村の区域内に住所を有する者が住民なのである。

第2章 住 民 

第10条 市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。
 住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。
第11条 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の選挙に参与する権利を有する。
第12条 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の条例(地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関するものを除く。)の制定又は改廃を請求する権利を有する。
 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の事務の監査を請求する権利を有する。
第13条 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の解散を請求する権利を有する。
 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の議員、長、副知事若しくは助役、出納長若しくは収入役、選挙管理委員若しくは監査委員又は公安委員会の委員の解職を請求する権利を有する。
 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の教育委員会の委員の解職を請求する権利を有する。
第13条の2 市町村は、別に法律の定めるところにより、その住民につき、住民たる地位に関する正確な記録を常に整備しておかなければならない。

 では、各種の権利義務のもととなる住民は、何によって公証されるのか。それは通常、市区町村への住民登録により生ずる。では住民登録とは何か。住民登録は住民の居住関係を公証するとともに、選挙人名簿の登録や義務教育の就学、国民健康保険、国民年金などに関する事務の基礎となるものです。現在住んでいる場所および世帯状況に変更が生じたときなどは、届出が必要となる、とある。

 以上、長々と述べてきたが、地方自治法上、「住民」は住民登録により生ずるが、住民登録の法的な要件は住民登録を希望する者の意志、判断にまかされており、物理的な居住時間で決まるものでないようだ。

 事実、衆議院議員、参議院議員の多くは東京都千代田区などにある国会議員宿舎を実質的な居住地としている。しかし、住民票はそれぞれの選挙区にあることを指摘する。地方出身の国会議員が東京都千代田区に住民票を移した例など聞いたことはない。もし、自分の住民票を東京都千代田区に移したとすれば、出身地から選挙に出られなくなる。このような事例は他にもある。たとえば著名な作家が一年の多くを別荘がある市町村で過ごしながら住民登録は東京など都市にあることも多い。単身赴任で出張しているサラリーマンも、住民票を出張先に移す例はすくないはずだ。

 いずれにしても、田中康夫知事の泰阜村への住民登録は、憲法に違反することはなく、地方自治法に違反するとも言えず、長野市が目くじらを立て、マスコミが書き立てる必要もないものだ。

 とはいえ、住民登録は市町村が提供するさまざまなサービスと無縁ではあり得ない。したがって、実質的に年間を通じ多く居住する市町村に、住民が登録し納税しないとすれば、当該市町村は提供するサービスと税収との間にアンバランスを生ずることになる。もし、同じ事を普通の人間がしたとしても、騒ぎになることはないし、市町村が特段問題とすることはないはずである。そこは、田中康夫知事ならでは....と考えるのが妥当である。