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危機感無きマスメディアの病巣進行
田中康夫
初出:日刊ゲンダイ連載【奇っ怪ニッポン】2005年2月3日 掲載

 掲載日:2005.2.10

 以下の内容が新聞各紙では、然(しか)して大きな扱いとならなかった一点を取ってみても、危機感無きマスメディアの病巣進行度は深刻です。

 「構造改革と経済財政の中期展望」と題して経済財政諮問会議が1月末に纏(まと)めた報告は、相も変わらず歳出抑制が進まず、財政赤字が1000兆円近くに膨れ上がったニッポンの財政状況への不信感から今後、金利が大幅に上昇し、国と地方を合わせた公債発行残高は、国内総生産(名目GDP)の1.9倍へと増加する、と悲観的警告を発するに至りました。

 「改革と展望」なる略称で毎年、発表してきた内容は従来、例えば公共事業費が毎年3%削減されるという前提に立っていました。が、楽観的ではあるまいかとの指摘を受けて、今回から「基本(改革進展)ケース」と「非改革・停滞ケース」の2パターンを試算するようにしたのです。

 が、それでも依然として、今日食べるモノも明日着るモノにも事欠かぬ、食うや食わずとは対極のニッポンに、危機感は窺(うかが)えません。

 4年前に僕が県知事に就任した際、長野県財政は瀕死の重傷でした。起債制限比率も公債費負担比率も全国ワースト2。手を拱(こまね)いていては平成16年度にも財政再建団体へ転落してしまう状況だったのです。何せ、冬季五輪開催という“大儀”を得た90年以降、公共事業費がバブル期の2倍に、県単独事業費に至っては3倍へと増大していたのですから。

 2年間で公共事業費をバブル期の最後に戻す、という当たり前の目標を掲げ、土木費の割合を22.6%から14.9%へと減少させました。一方で、人が人の世話をして初めて成り立つ21世紀型の新しい労働集約的産業である福祉・医療、教育、環境の分野へと傾注投資する予算構造の現れとして、教育費は19.0%から22.4%へと増加しています。

 こうした中、長野県は全国の都道府県で唯一、平成14年度から15年度に掛けて、財政赤字を減少させました。金額にして178億2千8百万円。因(ちな)みに、就任した翌年に当たる平成13年度から14年度に掛けても2億1千4百万円、減少させています。

 年末の知事会見で僕は、この事実に言及しました。すると、新聞記者の一人が以下の「質問」をしたのです。会見で胸を張る程の偉業なのですか、と。思わず、耳を疑いました。偉業ではないかも知れませんが、少なくとも快挙ではありますまいか。全国で唯一の事例なのですから。

 いやはや、赤信号、みんなで渡れば怖くない、と考えているのでしょうか。財政赤字を減少させて、逆にマスメディアから“説教”を頂戴してしまう。矢張り、ニッポンは奇っ怪ですなぁ。