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正直ものがバカをみるPRTR?

鷹取 敦


 3月29日に平成14年度PRTRデータの集計結果が公表され、個別事業所データの開示請求の手続が始まる。1年間かけて14年度のデータの届け出、集計が行われ、15年度も終わろうとしているこの時期にようやく公表に至った。

 PRTRとは Pollutant Release and Transfer Register(環境汚染物質排出・移動登録) の略称で、日本では「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(いわゆるPRTR法)に基づいた制度である。

 この制度では、工場・事業所などの「点源」、家庭、農地、自動車などの「面源」から排出される有害化学物質の、環境大気・水・土壌中への「排出量」、最終処分場等への「移動量」が把握・推計され、集計データが公表され、事業所毎の個別データ開示される。

 PRTR制度は規制的な性格を持った制度ではなく、市民の知る権利を確保するとともに、事業所毎の排出量を開示することにより、市民の監視のもと企業の自主的な削減努力を促すことを目的としている。
 第一種指定化学物質として354物質、第二種指定化学物質として81物質が対象として指定され、非常に多くの物質を網羅しているのも特徴である。

 ところで、PRTRで開示される事業所毎の排出・移動量データの信憑性はどの程度のものであろうか。

 事業所毎の排出・移動量は、事業所が自ら調査・把握して都道府県に届け出ることになっている。事業所が自ら化学物質の排出・移動量を把握する方法は国によってマニュアルが作成されている。実際に実測を行う方法、原材料の情報等による方法、推計による方法などであるが、それなりに合理性のある方法である。マニュアルには集計のための計算シートなども示されており、途中経過を確認することも可能である。

 しかしながら、最終的に都道府県に届けられ、開示対象となるのは、最終的な集計結果の数値だけである。たとえば、トルエンの大気への排出量●●g/年、土壌への排出量●●g/年、...といった合計値のみが開示の対象となる。

 これでは、開示された数値の検証を行うことは全く不可能である。せいぜい前年度と比較して大きな違いがないかを比べる程度のことしかできず、違いがあった場合にはその原因を確認することはできない。

 したがって、事業所が届け出た数値が、科学的・合理的な方法で集計されたものでなく、前年度の数値や他社の数値を元に「適当に」(適切にではない)記入した値であっても、その痕跡すら残らない。

 PRTR制度に対応するための作業は事業所にとってそれなりの人的・費用的負担を伴うため、「適当に」記入して届け出ることは、現状のPRTR制度のもとでは企業にとって経済的合理性のある方法であるとさえ言える。
 その上、毎年少しずつ排出量を減らして届け出れば、環境のために企業努力を行っている、と評価されることとなる。

 また、事故などによって一時期に大量に排出される有害物質の量が適切に把握され、届けられることも期待することは出来ないであろう。

 このような条件のもとに届けられ、開示される数値にはいったいどのような意味があるのであろうか。極論すれば正直に毎年、費用をかけて把握・集計した事業所が報われない「正直者が馬鹿を見る」制度であると言えるのではないだろうか。

 また、事業所ごとの数値は開示請求しなければ入手することが出来ない、把握されるのは「排出量」、「移動量」だけであり、「使用量」については把握されない、など他にも多くの課題があり、今後の制度の見直しが望まれる。