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NHK vs 朝日新聞その後の行方
〜改めて日本の巨大メディアを問う

青山貞一
 
掲載日2005.3.21

 あれほど日本中を大騒がせた「NHKvs.朝日新聞」だが、このところホリエモン騒動の陰に隠れた感がある。一体どうなったのだろうか? これでよいのか? 

筆者近影:東京都品川区の環境総合研究所にて。撮影、朝日新聞社

 
「NHKこそ完全民営に」と言うコラムの中で、私はNHKの受信料不払いは2005年3月末までに100万世帯に及ぶ可能性があると書いた。事実、3月17日の国会審議では、受信料不払いが70万世帯に到達しつつあることが明らかになった。今後、財政面からもNHKに深刻な事態になるだろう。

●NHKこそ完全民営に
●いつまで続く言った・言わない論争

●論争が訴訟となった場合〜法的分析〜

 そんななか、常軌を逸した行動で知られるくだんのNHK職員の5回目の逮捕劇が報じられた。不祥事が日常茶飯事のマスメディアとは言え、このこと自体、前代未聞のことである。NHK職員は臨時雇用の女性に入れあげ、受信料と言ういわば公金を一億円以上もあれこれの手段で詐取、横領し、女性に貢いでしまった。

 NHKは昨年秋、週刊誌の記者に「被害額が1億5千万円程度あるのでは」と言う取材し対し、何とあくまでも被害は500万円規模であると答えたそうだ。

 結局、今回明らかになった元NHK職員による詐取、横領額は1億6千万円であったが、その額は、当初週刊誌が報じた上記の額そのものだったことになる。

 この間、NHK内で行われてきたことは、およそ日本を代表する巨大メディアがすることではない。不誠実、不見識きわまりないものだ。NHK幹部らの言動には、誠意が見えないし自浄作用も期待できない。このことは、NHK放送の偏向や政治家からの影響を問題とする以前の話と言えるのではないか。到底、公共放送にあるまじきものである。

●被害額1億6000万円か 元NHK職員5回目逮捕(東京)
 
 一方、自民党の安倍晋三、中川昭一両衆議院議員への取材内容と公表した記事をめぐる騒動で、NHKを提訴すると、こぶしを振り上げた朝日新聞は、いまだに提訴もせず、黙りを決め込んでいるようだ。朝日新聞社はこれでどうにかなると思っているのであろうか?

 NHKは3月17日の国会審議に橋本新会長が出、それを中継はしたものの、肝心な朝日新聞による一連の報道については、会長自らが「事実と異なる」(=実質誤報)と改めて批判した。

 もし、朝日新聞側に確たる証拠があり、著しく名誉を毀損されたのであるのなら、自ら提起した「法廷」の場で決着をつけるべきではなかろうか。NHK幹部に言いたい放題を言わせておいてよいのか?

 何度にも及ぶNHK幹部の朝日新聞「誤報」の言及を朝日新聞は看過すべきでない。当然のこととして朝日新聞は当初提起したように、NHKを断固、民事提訴すべきである。今のままでは、すべてがウヤムヤとなるだけでなく、結局、朝日新聞は自己管理能力がないNHKの軍門に下ることになる。

 いやしくも日本の新聞ジャーナリズムの一つの雄を自他共に認める朝日新聞である。その朝日新聞のこの間の対応、態度は、まったく納得が行かない。金を払っている読者を愚弄するものではなかろうか。

 もし、朝日新聞が訴訟を提起していれば、すなわち裁判となれば、NHKは当然のこととして民訴法にいう文書提出命令を裁判所経由で朝日新聞にかける。確たる証拠を出せと。となれば、朝日新聞社は仮に「取材相手への録音の事前承諾」という取材規定、内規があっても、録音テープなり録音ファイルを裁判所に提出せざるを得ない。いや堂々と提出することができるはずだ。

 おりしもライブドアのニッポン放送、フジテレビM&A問題で、日本のメディア、ジャーナリズム、調査報道のあり方が大きく問われている。ちまたの評論家は堀江氏の言動の目的は金儲けで、メディア、ジャーナリズムはまったくわかっていない、彼にはコンテンツがない、と騒いでいる。ホリエモンは日本の主要メディアであるニッポン放送、フジテレビを金儲けのために乗っ取ろうとしていると。

 確かに、ホリエモンの考えには稚拙、拙速な面が多々あるかも知れない。彼にはITをテコとした金儲け志向があることも否めない。だが、それとは別に、これからのメディア、ジャーナリズムが果たす役割、機能について大いに問題を提起していると思える。放送と通信、新聞、雑誌と通信、さらに音楽と通信の新たな有機的連携についてである。

 私は大学時代、通信工学を専攻し、その後、一転してシンクタンク一筋、テレビ局、新聞社と多くの調査報道に主体的、積極的に関与してきた。その意味からも、ホリエモンが惹起した問題提起を自分なりに考え反芻する良い機会であると思っている。

 だが、対する大手メディア側は、いかにもしたり顔で偉そうである。

 新聞やテレビなどは、メディア、ジャーナリズムについてこう述べる。「新聞やテレビの場合、素人じゃないプロの訓練を受けた記者が現場で取材し、情報の裏を取る。それをデスクがチェックし、整理部を経由し紙面化する」していると。

 もし、それが本当なら大手メディアはまずもって、偉そうに説教している「取材、編集の原点」につき、果たして本当に自社の記者等が日々実践しているか、検証すべきである。そもそも田中康夫氏が常々指摘しているように、日本の大手メディアは、先進諸国にあまり類例のない「記者クラブ」のぬるま湯にひたり、国、自治体のプレスリリースを読者に垂れ流しているではないか。果たしてどれだけ役人、役所が毎日出すプレスリリースの内容を検証、チェックしているのか、大いに???である。

 「記者クラブ」について、田中康夫信州・長野県知事は以下のように述べている。

 
政治や経済や社会を批判しながら、自身への批評は受け入れようとしなかったマスメディアは、護送船団「記者クラブ」なる保護貿易主義の鎖国状態下で「カルテル」を組んできた集団と言えます。記者クラブ所属の新聞、TVに携わる者のみがジャーナリストに非ず、市民誰もが表現者、との哲学に基づいて「『脱・記者クラブ』宣言」を4年前に発した僕と同じ”トロツキスト”な体制内変革をホリエモンは今回、敢行しているのです。

 翻って、朝日新聞とNHKは、事件となった自民党幹部への現場取材、電話取材、その裏とり、もちかえったメモやテープ、ファイルからの一次トランススクリプト、テープ起こし内容から記事化する上での編集など、取材、編集、報道の全過程を徹底した証拠調べをもとに実証しなければならない。

 なぜなら、NHKvs朝日新聞の事件は、まさしくジャーナリスト、ジャーナリズムの最も基本、原点の現場において起きたからだ。

 日本を代表する大手メディアは、ホリエモンに偉そうな説教をする前に、ぜひとも基本、原点に立ち戻り、それを再確認しなければならないだろう。

 そしてNHKは受信料を支払っている数千万世帯の視聴者に、朝日新聞社は、読者、株主、社会に対し、真実をつまびらかにする義務があるのではないか。

 自分たちが取材、編集する。そして報道する現場で起きた事件に、NHK、朝日新聞ともに、それぞれに自分たちに都合が悪く、不利益なことがあるからと言って、これ以上ウヤムヤにすることは断じてあってはならない。

 先に述べたように、NHKの橋本新会長は、2005年3月17日の国会審議で改めて朝日新聞の報道を事実誤認と批判した。朝日新聞はNHKを提訴もせず、ただNHKの言いたい放題を看過していてよいのか。このまま朝日新聞が放置し、かつ読者にもまっとうな説明をしないとすれば、それはジャーナリズムとしての自殺行為に他ならない。

 私は第三者として、NHKはもとより朝日新聞のこのような態度を許容することはできない。


 朝日新聞社(箱島信一社長)は時間の経過でことをウヤムヤとすることなく、NHKを断固提訴し、公衆の面前で日本新聞協会が示す「新聞倫理」を自ら実践して欲しい!


つづく