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長野県議会及びマスメディア
への要望書


弁護士 松葉謙三

 
掲載日2005.10.11


長野県議会議長 萩原清様
マスメディアの皆様


2005年10月11日
                          軽井沢法律事務所所長
                          弁護士 松  葉  謙  三



               
 要  望  書

要望の趣旨


百条委員会に関する「県と弁護士との委託契約」につき

1、偏った総務委員会の審議を改められたい。
2、偏った報道を改められたい。

要望の理由


第1、 百条委員会の審議の問題点


百条委員会の審議は、人権に十分に配慮し、また、民事訴訟法に則って、運営されなければなりません。しかるに、百条委員会には次のような人権上、民事訴訟法上の重要な問題点がありました。

1、呼び出し状について

証人の呼び出し状は、尋問日の前日夕方となることが多く、呼び出し状には、尋問予定時間も具体的な尋問事項も記載されておらず、証人の心構えもできず、仕事の段取りもできず、不当であると考えます。

2、待機時間と尋問時間について

呼び出しを受けて出頭しても、他の証人の尋問が続いているという理由で尋問が開始されず、午前10時に呼び出しを受けて、午後5時まで待機して結局その日は尋問がないことがあり、また、午後4時30分まで待機させ、午後4時30分から午後11時50分まで尋問を続けるという長時間待機、長時間尋問、深夜尋問という異常な状態であり、人権無視の嘗ての日本の尋問と同じ状態で、前近代的であり、証人の人権に配慮しているとは考えられない実情です。

6時間、7時間程度の長時間尋問が常態化しており、午後8時まで、午後9時間での尋問も常態化しており、ひどいのは、一人の証人に対し延11時間に及ぶ尋問や午後11時50分までの深夜尋問もあるなど、極めて異常な尋問といわざるを得ませんでした。

裁判所での民事訴訟においては、当然ながら、尋問時間が予定され、大幅に尋問時間を超えないようにしています。

3、「質問は、できる限り、個別的かつ具体的にしなければならない(規則第115条1項)。」について

証人尋問は、原則として、一問一答でなければなりません。しかるに、委員の質問は、自分の意見を長々と述べ、前提問題に自らの評価を加えたものを長々と述べたりした後、「その辺いかがですか」など、何が質問か分からないあいまいな質問が多い現状です。百条委員会は、事実を解明する場であり、委員の意見を述べる場所ではありません。「地方議会の常任委員会などで理事者とわたりあっているときの質疑や意見を述べている感じで委員会に臨んではいけない」とされているが(??207頁)、本委員会の尋問の仕方は、まさに、常任委員会での質問と同じように、長々と自分の意見を述べて質問しているが、一問一答の個別的かつ具体的な質問に改められなければなりません。

4、「誘導質問」をしてはならない(規則第115条2項2号)」「意見の陳述を求める質問」をしてはならない(規則第115条2項5号)」について

百条委員会は、事実を解明する場であり、委員の意見を述べることや、証人の意見を聞いたりする場所でもありません。

しかるに、委員の質問は長々と自分の意見を述べた後、「その辺のところ、現在どうお感じでしょうか」「どう思われますか」「どのように考えますか」など、証人に意見を求める尋問が極めて多い。また、自分の考えを述べて「そうですね」という質問も多く、誘導的な尋問が多く問題です。

5、「重複尋問」をしてはならない(規則第115条2項3号)」について

「もう一度お聞きします」「再度お聞きします」という質問が極めて多く、これは規則第115条2項3号に違反していると考えます。主たる尋問者や尋問予定時間を決めないまま、会派ごとに順番に尋問しているため、役割分担ができていないことが大きな原因であると考えます。

6、「証人に筆記を求めるのは例外であるべき」について

最近の8回の証人調べ期日の中で、4人に対し、「メモおこし」をさせている。昼食休憩時間中などに「メモおこし」をさせているが、ゆっくり昼食もできず、証人に負担が大きく、人権上も問題である。

証人尋問は、ニュアンスが重要であるが、筆記ではニュアンスは伝わりにくい。だからこそ「口頭で」証人尋問するのです。したがって、「メモおこし」をさせるのは、口頭では説明が難しいなどのごく例外的であるべきです。裁判所でも筆記させるのは極めて例外的であり、そのように運用されているのは問題です。

7、「証人を侮辱し、又は困惑させる質問をしてはならない(規則第115条2項1号)」について

委員会の以下の尋問における委員の発言は、人権上問題でありますが、資料2のとおり、極めて多い現状です。
@「『記憶にない』という表現は本人の有利にならない」と発言しているが、ほんとに記憶にないことを記憶にないというのは当然であり、このような発言は、人権上問題です。
A「本人に有利にならない」などという表現は、なんの証拠もなく、「偽証罪となる」というもので、人権上問題です。
B「1回言ったことを変えていくことは偽証罪だと思う」などと言うが、古い話は細かい記憶がないことは当然であり、委員のこのような発言は人権上問題です。
C「どちらかが偽証している」と言うことがあるが、それぞれの答えが違っていたからといってもそれぞれ記憶に基づいて証言すれば偽証罪にならないのであり、このような発言は人権上問題です。
D証言の前に、「偽証罪になることがあります」と委員長が発言することは当然ですが、個々の証言において、「偽証罪になる」などと発言することは、人権上問題です。
E「偽証の問題で弁護士との相談を含めてした経過で尋問させていただく」などの発言は、人権上問題です。

犯罪の成立の確証もないのに、犯罪成立の予告をするのは人権上問題です。
このような尋問での委員の発言は、裁判所での民事訴訟では、ほとんどないことであり、民事訴訟規則に反するばかりでなく、人権に配慮がないのはもちろん、名誉毀損罪や脅迫罪などの犯罪を構成する可能性すらあり、控えるべきです。

8、「委員長の役割を果すべき」について

民事訴訟規則第115条3項は「裁判長は、質問が前項の規定に違反するものでありますと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを制限することができる。」と定めており、裁判長に相当する委員長は、委員が規則115条1項2項に反する尋問をした場合、制限すべきなのに、全く制限しないのは、委員長としての役割を果たしていないと考えます。

9、「イエス、ノー」を求める尋問について

副委員長は、知事に対する質問において、「イエス、ノー」で答えてもらえる尋問ばかりである」との前提で、知事が、質問に対し、「イエス、ノー」でなく、具体的に答えると、「イエス、ノー」で答えるよう要求しました。「イエス、ノー」で答える尋問は、典型的な誘導尋問であり、避けるべき尋問です。「イエス、ノー」でなく、具体的な答えを求めるのがあるべき尋問です。

10、まとめ

@ 以上のとおり、委員会の証人尋問は、長時間尋問、深夜尋問、脅迫的尋問、重複尋問、意見を聞く尋問、誘導尋問など、民事訴訟規則に著しく違反しており、その結果、証人の人権を侵害している。

A 長時間尋問の結果をもたらしている原因は、事実を明らかにするという本来の目的であるはずなのに、自分の意見を長々と述べるという議員活動の悪い癖や会派の成果を示したいというプライドのため、会派ごとの順番のたらいまわし尋問をしていることです。

B 事実を明らかにすることが目的ならば、会派の順番ではなく、予め、委員の中で主たる尋問をする担当者を決め(委員長が望ましい)、その人を中心に、何をどのように尋問するか、を討論し、尋問予定時間を決めるべきです。そして、主たる尋問する委員が尋問をしたことを重複して尋問しないようにして、重複しない補充尋問をすべきです。

第2、 10月7日の総務委員会の偏った審議
以上のとおり、百条委員会の審議は多くの問題点があることを、私は知事に進言し、知事において私の意見を取り入れていただき、議長に対し、百条委員会に意見を述べ、議長もその意見を取り入れられ、百条委員会の審議も改められつつあります。

しかるに、総務委員会においては、

1、 松葉が百条委員会の証人になる可能性があるから、その弁護士と百条委員会についての委託契約をするのは問題である。委託契約を解除すべきである。

2、 松葉は政務調査費につても監査請求をしているが、その費用も払っているのではないか。

3、 百条委が行う委員会運営に県が関与しようとするのは問題だ。百条委員会は、議会がしているのであり、きちんと法律に従ってやっているから、県当局が弁護士を依頼するのはおかしい。

4、 「資料は不存在」とか、証人が「記憶がない」としているのは、」弁護士と相談している、のではないか。

5、 真実の解明を阻止するために、弁護士を雇っているのではないか。

6、 委託契約を締結しなくても、その都度、契約弁護士に相談すればよい。などの議論がなされている。

7、 百条委員会は、ほとんどの弁護士にとって経験がないことであり、専門書籍を読んだり、委員会や提出記録を読んだり、自分で考えたりする必要があり、どの弁護士にとっても相当の勉強を要します。したがって、相談時間以外に多くの時間を要し、個々の相談で応じることが出来る仕事ではありません。相談時間や傍聴時間以外の多くの時間を使わざるを得ません。

8、 私は、忙しい時間の中で、出来る限り百条委員会を傍聴し、記録を閲覧し、この百条委員会が、人権を配慮しているか、地方自治法や民事訴訟法に従っているか、などを検討し、県当局に意見を述べてきました。

9、 証人になり可能性があってもなんら、不都合な点はないと考えます、証人になる可能性があると、県当局に、意見を言うのにどのような問題があるのでしょうか。私が、第1項で述べた意見にどんな偏ったものがあったでしょうか。議員の意見は抽象論に終始し、なんら具体的なものではありません。

10、私は、百条委員会の審議の仕方についての法的アドバイスを求められているものであり、個々の証人にアドバイスをしたことは、一切ありません。もちろん、政務調査費の調査のために、県から報酬をいただいたことはありません。

以上のとおり、総務委員会の議論は、事実に反し、偏ったものといわざるを得ません。


第3、 偏ったマスコミ報道及びマスコミの見識を疑う

1、 総務委員会があった後、2つの新聞社の記者から、聴き取りがありました。質問は、「総務委員会で、百条委員会についての委託契約が問題となったが、どう考えるか」「委託契約に基づきどんなことをしたか」などでした。

2、 私は、「百条委員会の審議の仕方につき、人権に配慮しているか、民事訴訟に従っているか、などをアドバイスしている」

3、 「百条委員会の審議には多くの問題があり、例えば、会派ごとに順番に少しづつ質問したりしているため、同じ質問が多く、尋問時間も長時間になり、深夜まで及び、人権上問題である。」「自分の意見を長々と述べた後、その辺どうですか」などあいまいな質問が多いため、回答者も長々と答えざるを得なくなっており、長時間な尋問の原因となっている。」

4、 「イエス、ノーを求める尋問もだめな質問である」「証人になる可能性があることと百条委員会の法的アドバイスすることは無関係で、何の不都合もない。どんな不都合があるか、議員さんに聞きたいですね」などと答えました。

5、 このように、記者の方々にキチンと疑問に答えているのに、その報道は、総務委員会の議論を詳しく述べる一方で、朝日新聞は「百条委での尋問の受け方などについて、弁護士としてアドバイスしているだけで、問題があると考えていない」と記載し、信濃毎日新聞は「県に偏ったアドバイスをするわけではない」などと、私の意見はごくわずかで、説得力のない、しかも間違った発言(個々の証人に「尋問の受け方」などをアドバイスしたことはなく、記者にそのように答えたことはない)を記載しています。

6、 マスメディアの皆様は、いったい、百条委員会の運営につき、前記のような人権上大きな問題があり、そのような運営が長々と続けられてきたことをどのように考えておられるのでしょうか。10月7日の総務委員会の議論が正しいと考えられているのでしょうか。

7、 私は、百条委員会のひどい実情につき、県民の人権を守る責務がある県当局が、改善を求めることは当然のことであると考えます。

8、 しかるに、マスメディアの皆様は、私、松葉の言い分をほとんど書かず、批判する記事を書き、総務委員会の一方的な意見を無批判どころか、支持する報道しか出来ないのは、偏った報道といわざるを得ません。マスメディアの皆様のご意見をお聞かせください。

第4、 結語

長野県議会議長萩原清様はじめ県議会議員諸氏の皆様も、マスメディアの皆様も、事実を見極め、公正な議論と報道をされることを強く要望する次第です。