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橋梁談合

 その5
抜け落ちた政治責任

横田一
 
初出:日刊ゲンダイ
掲載日2005.8.24
 
 「内田道雄副総裁の逮捕はかなり強引。政治家にはメスが入らないし、今回の橋梁談合事件は官邸主導の国策捜査ではないか」

 うがった見方が記者の間で流れているが、その理由はこうだ――。内田副総裁の逮捕の理由である分割発注は、全国各地で行われている。国や地方自治体は「地元業者の育成」をうたっているが、実態は「自民党に献金する業者の受注機会を増やすため」(公団職員)。分割発注の恩恵を受けている政治家も、逮捕された公団職員と同罪ではないか、というわけだ。

 実際、青木幹雄参院会長の地元島根でも分割発注が横行している。青木氏の出身地・大社町と合併した出雲市では、国交省発注の「出雲バイパス」(事業費820億円)の新神立橋が工事中だが、細かく分割された工区を青木氏や自民党に献金する系列業者が仲良く受注していた。

 また島根県庁に届いた内部告発文にも、大規模な橋梁工事の場合、無料で設計コンサルタントの図面書きをした複数の建設業者が分割発注される工区の本命になる、と書かれていた。要するに、分割発注は日常的に各地で行われている可能性が高いのだ。

 それなのに、なぜ内田副総裁は逮捕されて、献金の形で分割発注の恩恵を受けている青木氏はお咎めなしなのか。郵政民営化法案の成立に説得工作に尽力する青木氏はお目こぼしにするということであれば、官邸主導の国策捜査としか言いようがない。

 公団関係者はこう話す。

 「内田副総裁は言動が軽いことで有名でした。5月の民営化推進委員会の懇談会で『談合組織は新聞で初めて知った』と答えたのものその現れ。談合組織の存在は知っていたはずなのに、軽率に否定してしまった。官邸は『鈴木宗男と同様、内田は悪玉(スケープゴード)に最適』と目をつけたのではないか」。

 たしかに内田副総裁の発言場面はテレビで繰返し放映され、「公団の膿出しをする小泉政権 対 居座る嘘つき幹部」という印象を視聴者に焼き付けた。小泉首相が唱える「入口出口論」の追い風にもなった。「特殊法人に金を貸し出す側の郵政民営化(入口)と、借りる側の道路公団民営化などの特殊法人改革(出口)は表裏一体」という主張を受売りする報道番組も現れたからだ。

 ちなみに民営化推進委員会の懇談会は、設置法に定めた人数を欠く“法令違反の会合”。それでも小泉政権が存続させたのは、広報宣伝の場として有効と考えたために違いない。

 「懇談会は公団の社宅や給与の問題など、赤字路線建設の凍結に比べると桁違いに些細な話を取り上げ、さも公団改革が進んでいるとアピールする場になっていた。今回の橋梁談合でも、最も効果的なコスト削減である建設凍結までは踏み込まない。建設継続という矮小化された土俵で“改革劇”を演じていたわけです」(公団職員)。

 自民党国民政治協会は鋼鉄製橋梁メーカー(49社)から11年間で約16億円の献金を受け取っていた(共産党井上哲士参院議員調べ)。自民党と公団の癒着関係にまでメスが入らない限り、膿出しは終わったことにはならないのだ。数人の現職幹部とOBの逮捕で一件落着にしようとする小泉政権に騙されてはいけない。