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「行政による犬猫の殺処分」
の理由転換


野中龍彦
2010年1月21日




 環境省が平成15年に行った動物愛護に関する世論調査で、都道府県などに引き取られた犬やねこのほとんどは、新たな引取り手が出てこないため安楽死処分されていることについて、どのように考えるか聞いたところ、「多くの犬やねこを生かしておけないなら、処分することは必要である」と答えた者の割合が7.0%、「引取り手がいないのならば、かわいそうだがやむを得ない」と答えた者の割合が62.3%、「生命は尊いので、処分は行うべきではない」と答えた者の割合が24.3%となっている。

 この調査で行政による殺処分は、あたかも引取り手が出てこないために行われているように書かれているが、これは完全なうそである。具体的に宮崎県の事例に基づいて考えてみると、宮崎県は引取った犬猫についてできるだけ殺処分しないようにという意志はなく、新たな引取り手に渡す努力もせず、殺しているのが実態である。この環境省見解が、動物行政の実状と全く異なっていることは、次に紹介する新聞記事からもうかがえる。

 「犬の殺処分『待った』新たな飼い主探し指導 厚労省」
(平成19年5月17日付 宮崎日日新聞)

 「厚生労働省は十六日までに、保健所職員が街頭などで捕まえた野犬や飼主不明の犬の処分について、できるだけ殺さず新たな飼い主を見つけるよう都道府県や政令市など保健所を運営する全国の自治体に文書で指導した。

 人の健康を担当している厚労省が、動物愛護の観点に立って自治体に働き掛けをすることは異例。保健所では、捕まえてから二日たっても飼い主が名乗り出ない犬のほとんどを殺処分している。狂犬病予防法に基づく措置だが、厚労省は「制定された昭和二十年代に比べ、動物愛護の意識は格段に高まっている。

 殺される数を減らすよう保健所職員も努力して欲しい」と生命尊重を呼びかけている。

 二〇〇五年度に捕獲された犬は88,827匹で、うち飼い主が見つかったのはわずか14,410匹。狂犬病予防法は、捕獲した犬の飼い主が名乗り出ない場合は「処分できる」と規定。

 同省は「予防法の『処分』とは殺す事に限定したものではない」(結核感染予防課)としているが、多くの保健所が三日目にガスや薬物注射の方法で殺しているという。動物愛護団体や国会議員らは「たった二日間の猶予でほとんどの犬が殺されてしまうのは残酷」などと厚労省に訴えていた」。

 私達は、環境省が「犬及びねこの引取り並びに負傷動物の収容に関する措置要領」における第3の3項を、平成18年に環境省告示26号で改めて書き換えた目的として、動物管理事業者らが犬猫殺害の口実として使用してきた「引取り手がない」や「所有権の放棄」などの理由の正当性に、インターネットの普及などによって限界が出てきたため、それに代わる理由として「家庭動物としての適正」を新たに持ち出してきたものと判断している。

 動物愛護管理法では、牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと、あひるの11種について「人間社会に高度に順応した動物」という観点から、特にこの法律の対象動物となっている。これは犬及び猫が家庭動物としての飼養に適しているからに他ならない。

 動物管理事業者らは前述した環境省告示26号における「家庭動物としての適正」を、管理動物を譲渡するという責任を逃れるための口実として使い、動物愛護管理法自体を無効にしているといえる。

 しかし、仮に宮崎県が殺した犬たちに「適正」があったとしたらどうしたのだろうか?宮崎県はこれらの犬たちについて、譲渡に繋がるような行為を何も行っていない。

 結局、犬たちは殺されることが決まっていたことになる。この事件後、私達に対応した宮崎県の職員下村氏は当初、「当日は檻が一杯だったので犬を入れる場所がなく殺した」、とうその説明をし、最終的には「子犬は家庭動物として育つかどうか分からないから殺処分にした」と新たな理由を持ち出している。このことからも「家庭動物の適正」の有無という理由は、全くのうそであることが明らかである。

 捜査機関は平成18年に書き換えられた、環境省告示26号の言葉のトリックに惑わされず、動物愛護管理法の基本原則である、「第二条 動物が命あるものであることにかんがみ、何人も動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適性に取り扱うようにしなければならい」に立ち返って、動物管理行政が行っている犯罪を摘発して欲しい。

 私達の最初の争点をもう一度繰り返すと、動物管理事業者らが主張する「1ヶ月だから殺した」という理由そのものに触れず、また、その主張の正当性や不可避性について判断することなしに、どうして「違法ではない」と言えるのかということだ。

 今後、民主党政権には、環境省による告示26号について、どのような経緯で、誰が、何の目的で書き換えたのかについて、徹底した調査をお願いしたい。

 ここで、1つの海外の例を紹介したい。先日シアトル在住の友人から、シアトルの老犬ばかりを扱う収容施設から、1頭の老犬を引取ったという連絡をもらった。

 友人は「老犬は1日中寝てばかりいて、余命もそれほどないが、人間社会に馴れており、優しくとても飼いやすい」と話していた。シアトルでは特定犬種の愛好家を除いては、動物を飼いたい人は動物の収容施設から譲り受けるのが通常となっているという。

 では、宮崎県ではどうだろう。動物管理行政では、動物を処分するさまざまな口実を作り、施設に収容される犬猫に対して、新たな飼養希望者を探すことなく殺している。

 その結果、犬猫の飼養希望者は飼いたい動物を動物販売業者から買うという行為になんの疑問も持たず、購買希望者はいつも業者に流れている。この悪循環こそ是正するべきである。

 そのためにも、現在まで野放しになっている動物管理事業者らの不当で違法な動物殺害行為を摘発することが必要なのだ。

 私は昨年末に宮崎県の動物管理業務を担当する衛生管理課に出向き、担当者である職員下村氏に対して、「宮崎県で行われている犬猫を殺処分する目的は何か?」と尋ねた。

 下村氏は「いろいろと考えてみたが、明確な答えはありません」と回答したので、「宮崎県が動物管理業務を委託する公衆衛生センターの事業実績確保のためだけの目的ではないのか?」重ねて質問すると「それは違うと思う。そういう事は考えたこともない」と答えた。

 同衛生管理課課長の船木氏は宮崎市保健所衛生管理課に課長として勤務(出向)していた際、平成19年に引取った猫を遺棄したことで、書類送検になった人物である。私が課長に面会を求めたところ、面会を拒否し、他の職員が対応している。

 最後に動物愛護管理法の第一条(目的)を引用したい。
「この法律は、動物の虐待の防止、動物の適正な取り扱いその他動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止することを目的とする」