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サブプライム問題と
世界同時株安
〜前編〜

大前研一
今週のニュースの視点

掲載日:2008年2月1日

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■┓サブプライムローン問題
┗┛金融庁 金融機関を対象に証券化商品の調査
   仏ソシエテ・ジェネラル
    不正取引の疑いで元トレーダーを拘束
  ―――――――――――――――――――――――――――

●サブプライムローン問題を解決するのは、日本の役人では力不足

金融庁は国内の金融機関を対象に、証券化商品の保有額や評価損益などの調査に着手しました。

すべての地方銀行・第二地方銀行に今月末までに書面で報告するよう求めたほか、大手行には近く聞き取り調査をする見込み。

3月決算期を前に各行にリスク管理の徹底を促すとともに、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題の影響を把握する狙いとのことです。


基本的な姿勢として、金融庁がサブプライムローンの把握に乗り出したことには反対ではありませんが、私はその実効性には疑問を感じざるを得ません。

今現在、小口債券化した証券化商品が一斉に値がつかなくなるという問題が発生しているわけですが、このリスクを正当に評価することは、日本の役人が今さら勉強したところで非常に難しいのではないかと感じるからです。

何しろサブプライムローン問題のリスク評価は、世界の格付け機関ですら、未だにきちんと実行できていないのですから、一朝一夕に対応できるものではないでしょう。

このような物言いをすると、金融危機に対して、日本の対応力だけが著しく低いという印象を与えてしまうかもしれませんが、今回のサブプライムローン問題について言えば、特に日本だけがこの問題に対する対応力が低いというわけではなく、

世界的に見てもまともにこの問題のリスクを評価して対応できている国は、私が見る限り見当たりません。

先日、米連邦準備理事会(FRB)は、臨時の米連邦公開市場委員会を開き、最重要の政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を緊急に0.75%引き下げ、年3.5%とすることを賛成多数で決めました。

実施は即日という緊急対応の背景には、サブプライムローン問題を発端とする米景気の悪化や世界同時株安に歯止めをかけるためだと言われていました。

ところが、実は、今回の世界同時株安の原因を作っていたのは、サブプライムローン問題ではないのではないかも知れないという可能性が浮上してきました。

これは米国でさえ、サブプライムローン問題のリスク評価を正確にできておらず、正しい対応がとれていないという一例だと言えるでしょう。


●今回の世界同時株安の本当の原因は何だったのか?

では、今回の世界同時株安の原因となる新たな可能性とは何でしょうか?

それは、このニュースです。

仏大手銀行ソシエテ・ジェネラルが49億ユーロ(約7600億円)にのぼる損害を計上した問題で仏警察当局は、同行の元トレーダーであるジェローム・ケルビエル氏を拘束し事情聴取をしました。

同氏は2000年から同行に勤務し、ヨーロッパの株価指数先物などデリバティブ関連の取引に携わっていましたが、去年から今年のはじめにかけて不正取引を行った疑いがもたれています。

実は、今回の世界同時株安は、サブプライムローン問題ではなく、このデリバティブ取引に端を発しているのではないかという可能性が出てきたのです。

偶然、世界中がサブプライムローン問題で神経質になっているというタイミングで、このデリバティブ取引の不正が発覚したために、多くの人がその原因を誤解した可能性もあるのです。

それは、今回の世界同時株安に至った経緯を時系列で追ってみると非常によく分かります。


※「ソシエテジェネラルを巡る動き」チャートを見る
→ http://vil.forcast.jp/c/aijUaao9mpwHrjab

1月18日:ソシエテ・ジェネラル銀行内のリスク管理部門が株価指数先物に関連した不正な取引を発見

1月19日:ジェローム・ケルビエン氏が不正取引を行っていたことを認める。15億ユーロの損失が判明。ソシエテは仏中銀へ事態を報告。

1月21日:ソシエテが株式の持ち高を解消するために株の売却を開始。アジア・欧州株全面安。米は休場。

1月22日:FRB、0.75%の緊急利下げを実施。

1月23日:仏中銀、FRBに事態を報告

1月24日:ソシエテ、49億ユーロの損失計上。
55億ユーロの増資決定

ここでのポイントは、1月22日にFRBが0.75%の緊急利下げを行った時点では、未だ仏中銀からの報告はなく、FRBはこのデリバティブ取引の不正事実を知らなかった
ということです。

そのため、サブプライムローン問題に端を発する世界同時株安という懸念を抱き、緊急利下げへと踏み切ってしまったとの見方が浮上しているのです。

21日に行われたソシエテ・ジェネラル銀行による株式の持ち高解消のための売却は、相当大きな金額だったと思います。

それを受けてのアジア・欧州市場の下落という構図が見えていれば、FRBは今回のような緊急利下げは行わなかったのではないかと私は思います。

FRBによる緊急利下げ後買いが戻ってきている点から考えても、今回の世界同時株安の原因はサブプライムローン問題ではない可能性が高いと言えるでしょう。

なぜなら、サブプライムローン問題を原因とするならば、その解決は未だ目途は立っていませんから、今のタイミングで買いが戻ってくるとは考えづらいためです。


そもそも正しく問題を把握することすらできていないのですから、解決手段を講じることができないのは当たり前です。

また、世界の金余りの状況下では、投資家の目に割安に映るほど株価が下落した市場にお金が流れてくる状況なのだから、株価を維持するために政府が何かをすべきではないとも考えられるのです。

つまり、株価が底値に達したと投資家に認識されれば、株価上昇を期待して、自ずと資金が流入するとの考え方もあるのです。

次回は、あらためてサブプライムローン問題の基本的な構造からその本質を紐解き、問題解決のためにはどのような手段をとるべきか、ということについて

     ◎後編(2月8日号)へ続く・・・