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日本変革のブループリント





第三章 グローバルな小日本主義
「ミニマ・ヤポニア」(13)


佐藤清文
Seibun Satow

掲載日:2007年1月元旦


無断転載禁
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すべて執筆者である佐藤清文氏にあります。



全体目次



3節 量から質へ

1 生活の質と人間開発指数

 多くの領域で、人々は物が溢れているよりも、「生活の質(Quality Of Life: QOL)」の向上を求めています。「質の政治」を目指すべきです。

 他方、量の政治から質の政治への転換が必要であるにもかかわらず、依然として、量のドグマから脱却できていない政策を政府は発表しています。いくら質がお役所仕事にはそぐわないとしても、あまりに柔軟性に欠けています。

 発想の転換には、「人間開発」に眼を向ける必要があります。国連は人間開発に関して報告書を毎年発表しています。

 この「
人間開発報告書(Human Development Report: HDR)は、その年毎に、異なるテーマの下、人間開発を問題提起しています。1992年のリオデジャネイロで開催された国連環境会議並びに1994年のカイロでの国際人口開発会議、1995年のコペンハーゲンでの社会開発サミット等を通じて、「人間開発」という概念が国際的に認知され、今日ではほぼ定着したと言えるでしょう。

 この「人間開発」を測定する目安が「人間開発指数(Human Development Index: HDI)」です。それは各国の人々の「生活の質」や発展度合いを示す指標です。

 人間開発指数はパキスタンの経済学者マブーブル・ハクによって1990年に考案され、1993年以来、国連開発計画によって国連年次報告の中で発表されています。

 開発援助の目的は多くの人々が人間の尊厳にふさわしい生活ができるように支援することであり、そのために、国の開発の度合いを測定する尺度としてこの指数が用いられています。

 一人当たりの
GDPや平均寿命、就学率などの変数を組み合わせて独自の数式によって算出されています。

 1972年、ローマ・クラブが『成長の限界』の中で従来の拡大発展の危険性を警告し、それ以後、持続可能な発展が世界的な課題となっています、「生活の質」は現在の生活の度合いだけでなく、そうした未来への持続可能な成長の潜在性を考える際の参考になります。

 この指数は、ある程度、「生活の質」を計測できるので、素朴な経済力によってのみ定義されてきた二〇世紀のハード・パワーに基づく先進国に代わり、二一世紀型のソフト・パワーに立脚した先進国を判定する新たな基準として採用されるのは間違いないでしょう。

 とは言うものの、現段階で、「生活の質」を計測できる絶対的な基準はありません。HDIにしても、GDPを変数として用いていますから、必ずしも、完全ではないのです。GDPQOLに反して増加する場合があります。

 例えば、災害は「生活の質」にとってはマイナス要因ですが、復興事業により
GDPが上昇してしまうことがあるのです。GDPに取って代わるかもしれないとナチュラル・キャピタリストから提起されているのが「純進歩指標(Genuine Progress Indicator: GPI)」です。

 
GDPをさまざまな変数を使って「生活の質」と即して修正して算出します。ただし、これはまだ確立した指標ではありません。参考までに、1950年から2000年の間、合衆国はGDPが右肩上がりにもかかわらず、GPIはほとんど上昇していないという統計も発表されています。

 何しろ、合衆国の乳児死亡率は1000人当たり6.5人で、6.3人のキューバより高い値です。

 しかし、2002年には7.0人でしたから、これでも改善しているのです。2010年までに4.5人以下にするのが現在の目標値です。

 2005年の報告書によるトップ三〇は次の通りです。

1.ノルウェー
2.アイスランド
3.オーストラリア
4.ルクセンブルク
5.カナダ
6.スウェーデン
7.スイス
8.アイルランド
9.ベルギー
10.アメリカ合衆国
11.日本
12.オランダ
13.フィンランド
14.デンマーク
15.イギリス
16.フランス
17.オーストリア
18.イタリア
19.ニュージーランド
20.ドイツ
21.スペイン
22.香港
23.イスラエル
24.ギリシア
25.シンガポール
26.スロベニア
27.ポルトガル
28.韓国
29.キプロス(南キプロス)
30.バルバドス

 下位には、チャドやマリ、ブルキナファソ、シエラレオネ、ニジェールなどサハラ以南のアフリカ諸国が並びます。

 先に挙げた変数の項目を考慮するならば、日本はもう少し上位にあるはずだと思われるかもしれません。

 しかし、日本は、それらの点において、一頭地を抜きん出ているわけではないのです。平均寿命にしても、さほど他国と開きが少ないのです。

 世界保健機構は、2005年4月7日、世界192カ国の平均寿命を発表しています。

 全体の一位は日本の八二歳ですが、男女別になると、女性では日本とモナコの85歳、男性は日本やスイス、スェーデン等が78歳で並んでいます。平均寿命80歳以上は日本を含め13カ国あります。

 2004年の12月、
WHOは「健康寿命」も報告しています。これは日常生活を大きく損ねる病気や怪我の期間を生物学的な寿命から差し引いた年数を指します。

 日本は、健康寿命の点でも、女性が77.7歳、男性が72.3歳と世界最長寿ですけれども、日本の不健康期間は。比率・年月共に、世界一ではありません。

 健康寿命の二位は、女性がサンマリノの75.9歳、男性がアイスランドの72.1歳です。しかも、変数は
9種類あり、それらを組み合わせると、この順位になるのです。

 年金制度を筆頭に、社会保障制度の不十分さは国内外を問わず指摘されていますし、家賃などの生活費は、国際的な比較をすると、明らかに高く、実感の点でも、この統計の順位はまず妥当です。

 国連が発表し始めた1993年からの統計を見ると、トップはカナダとノルウェーにほとんど占められています。カナダは94年と96年から2000年まで、ノルウェーは九五年と2001年から2005年まで連続して首位の座に就いています。

 日本も、実は、93年に一位になったことがあるのですが、以降は、徐々に低下していっています。2004年では、日本は9位です質に対する認識が欠落した政府の発想ではこの順位を上げることは困難です。

つづく