所沢周辺産廃焼却場近傍の土壌中重金属データ
の評価

青山貞一
本報告は、環境総合研究所の青山貞一が所沢ダイオキシン汚染裁判及び
所沢ダイオキシン公害調停の証人として地裁及び公害調停委員会に
提出した陳述書の一部をもとに執筆したものである。
筆者に無断で複製、転載することを禁じます。

1.産廃焼却炉の隣接地域における重金属含有濃度について

 所沢周辺地区でダイオキシン汚染の公害調停を進めている「さいたま西部ダイオキシン公害調整をすすめる会」が三芳町の産廃焼却場近くで採取した土壌に含まれる重金属の濃度分析結果を表1に示す。土壌の採取は平成12年6月12日に行われた。また土壌中の重金属類の含有濃度分析は東京農工大学久野研究室が行った。表1には所沢市並木の航空公園で採取した土壌中の重金属分析データも示してある。

 表1 産業廃棄物焼却施設(三芳町)周辺土壌中の重金属含有濃度結果  単位:mg/kg(=ppm

出典:土壌中ダイオキシン類及び重金属類自主測定結果報告、2000年10月28日、さいたま西部ダイオキシン公害調停をすすめる会
土壌の採取場所 (Pb) 亜鉛(Zn) 銅(Cu) クロム(Cr) ニッケル(Ni) マンガン(Mn) カドミウム(Cd)
三芳町産業廃棄物施設隣地 2,588 21,208 591 1,574 946 1,037 161
所沢市航空公園 33 157 101 26 70 1,000 0.5


2.重金属類の含有濃度指針について

 表1の分析値は、いずれも含有濃度分析により得られたものである。日本以外の先進諸国には、土壌中の重金属類の含有濃度を評価するための基準、指針があるが、日本には現在のところない。そこで、ここではドイツの土壌保護令にある基準値をもとに表1の分析結果を評価することとした。表2及び表3はドイツの土壌保護令における土壌中の重金属類の含有濃度に関する基準(試験値、予防値)である。ドイツではダイオキシン類同様、土地利用に対応した重金属類含有濃度に関する基準が設定されている。

2 ドイツの土壌保護令に定める試験値(曝露経路:土壌→人体)  単位: 単位:mg/kg(=ppm 乾量含有濃度

(出所)Bodenschutz-und Altlastenverordnung Anhang 2, 引用文献:ドイツにおける土壌保護政策の進展、調査、1999年10月号、日本開発銀行(現、日本政策投資銀行)
子供の遊び場 住宅地 公園・余暇施設 産業用地
ヒ素 25 50 125 140
200 400 1,000 2,000
カドミウム 10 20 50 60
シアン化合物 50 50 50 100
クロム 200 400 1,000 1,000
ニッケル 70 140 350 900
水銀 10 20 50 80


表3 ドイツの土壌保護令に定める重金属類の予防値  単
位:単位:mg/kg(=ppm(乾量、細砂、王水溶解) 含有濃度

(出所)Bodenschutz-und Altlastenverordnung Anhang 2, 引用文献:ドイツにおける土壌保護政策の進展、調査、1999年10月号、日本開発銀行(現、日本政策投資銀行)
カドミウム クロム 水銀 ニッケル 亜鉛
土質 白土 1.5 100 100 60 1 70 200
土質 粘土 1 70 60 40 0.5 50 150
質 砂 0.4 40 30 20 0.1 15 60


3.重金属類濃度の評価について

 表1の含有濃度分析による実測値を、上記表2,表3のドイツの基準値と対比した。三芳町産廃焼却場近傍と所沢市航空公園の土壌中の重金属類の含有濃度を評価した結果を表4〜表6に示す。表からわかるように、産廃焼却施設の近傍では、ドイツの予防値を重金属の種類と土質により異なるが、砂を例にとると30〜403倍も超過している。また所沢市中心市街地近くにある航空公園でも予防値を5倍超過している項目があることも分った。


 表4 予防値(砂)による所沢周辺地域の土壌中の重金属類の評価  単位:基準超倍率

亜鉛 クロム ニッケル カドミウム
三芳町産廃焼却場隣地 65 353 30 52 63  403
航空公園 0.8 2.6 5.1 0.9 4.7 1.3


 表5 予防値(粘土)による所沢周辺地域の土壌中の重金属類の評価  単位:基準超倍率

亜鉛 クロム ニッケル カドミウム
三芳町産廃焼却場隣地 37 141 15 26 19 161 
航空公園 0.5 1.0 2.5 0.4 1.4 0.5


表6 予防値(白土)による所沢周辺地域の土壌中の重金属類の評価  単位:基準超倍率

亜鉛 クロム ニッケル カドミウム
三芳町産廃焼却場隣地 26 106 10 16 14 107
航空公園 0.3 0.8 1.7 0.3 1.0 0.3


4.考察

 すでに指摘したように、わが国には先進諸外国にある土壌中の重金属類に関する含有濃度評価基準が存在していない。あるのは、土壌通に水を入れ溶出液中の重金属類を原子吸光法などにより濃度分析する溶出分析に対応した基準だけである。しかも、わが国の環境庁告示に基づく溶出分析では、土壌に入れる水のpHが真水に近いことから、先進諸外国の場合のように酸性領域にある水による溶出濃度分析と異なり、高濃度の重金属がほとんど検出されないと言う決定的な課題がある。表7は、先進諸外国とわが国の溶出分析の方法の違いを示したものである。表より明らかなように、環境庁告示方式では、溶出液のpHが6前後と中性に近く、土壌から重金属は非常に溶出しにくいことが指摘されている。 
 このように、従来のわが国の土壌中重金属の濃度分析結果は国際標準の分析方法からかけ離れており、信頼性に乏しいものと言える。
 本報告では、溶出分析ではなく、含有濃度分析により土壌中の重金属類の濃度を分析し、同じく含有濃度に対応したドイツの基準により評価を試みた。その結果、焼却炉近傍の土壌には高濃度の重金属が含まれている実態が分った。

表7 先進各国の含有濃度分析の方法と日本の環境庁告示方式の違い

固液比 液pH pH調整 ろ過
環境庁告示第13号 10 5.8〜6.3 1μm
環境庁告示第46号 10 5.8〜6.3 0.45
TCLP(アメリカ) 20 4 酢酸 0.45
Total Availabitity(オランダ) 50 4及び7 硝酸 0.45
スイス 10 4.0〜4.5 炭酸ガス 0.45
ドイツ 8 4 硫酸 遠心分離